ジェミーナ・ドゥーラブ(Gemina Doolub)(英)

ワンポイント:同僚を無断で共著者にし、データねつ造論文を発表

【概略】
1079-Renewed-Speakers-1ジェミーナ・ドゥーラブ(Gemina Doolub、写真出典)は、アフリカのモーリシャス共和国生まれで、英国のニューカッスル大学で医師免許を取得した。英国・オックスフォード大学(Oxford University)の教育病院(Oxford University Hospitals NHS Foundation Trust)であるジョン・ラドクリフ病院(John Radcliffe Hospital)の医師でパイロットでダンサーである。専門は心臓病だった。

2013年2月(28歳)、後で問題となる不正論文を投稿した。

2013年12月頃(28歳)、上記論文の共著者が無断であることとデータのねつ造が発覚した。

2016年2月11日(31歳)、マンチェスター医事裁判委員会が、ドゥーラブ医師の論文にねつ造があったと公表した。処分として、ドゥーラブ医師の医師免許を12か月間停止した。

_85851053_84282785オックスフォード大学病院(Oxford University Hospitals)。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:アフリカのモーリシャス共和国生まれ。大学は英国
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日とする。
  • 現在の年齢:39 歳?
  • 分野:心臓病
  • 最初の不正論文発表:2013年(28歳)
  • 発覚年:2013年(28歳)
  • 発覚時地位:オックスフォード大学のジョン・ラドクリフ病院・研究員、医師
  • 発覚:?
  • 調査:①マンチェスター医事裁判委員会(Medical Practitioners Tribunal Service in Manchester)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報。1報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:移籍。医師免許の12か月間停止

jemina-inter写真出典

【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日とする。モーリシャス共和国(Republic of Mauritius)生まれで、母は歯科医、父は心臓専門医
  • 2004年8月 – 2009年7月(19 – 24歳):英国のニューカッスル大学(Newcastle University)を卒業。学士号。医師免許(MBBS
  • 2009年(24歳):パイロット訓練所でパイロットの資格取得
  • 2010年10月 – 2012年9月(25-27歳):英国・オックスフォード大学(University of Oxford)・修士号
  • 2010年1月(25歳):オックスフォード大学のジョン・ラドクリフ病院(John Radcliffe Hospital)・研究員、医師
  • 2013年2月(28歳):後で問題となる不正論文を投稿した
  • 2013年12月頃(28歳):不正が発覚
  • 2014年(29歳)頃:英国・グロスター(Gloucester)のセヴァーン・デナリ―病院(Severn Deanery)に移籍
  • 2016年2月11日(31歳):マンチェスター医事裁判委員会が裁判報告書を公表し、ねつ造があったと結論した。医師免許の12か月間停止処分が科された

【不正発覚の経緯と内容】

不正発覚の経緯はよくわからないが、不正の内容は以下のようである。

erica2-2_fit_204x204-12013年2月(28歳)、オックスフォード大学のジョン・ラドクリフ病院(John Radcliffe Hospital)の講師で医師のエリカ・ダルアルメリーナ(Erica Dall’Armellina、写真出典)を共著者として、ジェミーナ・ドゥーラブ(Gemina Doolub)は、「ISRN Cardiology」誌に論文を投稿した。

論文は2013年3月に公表された(以下)。

ところが、ダルアルメリーナに共著者にする了解を取っていなかった。了解をとるのを、うっかり忘れたのではない。バレないように、ダルアルメリーナの電子メール・アドレスをねつ造していた。つまり、意図的である。

さらに、論文中のデータもねつ造していた。

colin-forfar2013年3月(28歳)、さらに、別の同僚で心臓病コンサルタントのコリン・フォーファー(Colin Forfar、写真出典)を共著者にして、「Journal of the American College of Cardiology」誌に研究アブストラクトを投稿した。

研究アブストラクトのタイトルは、「Does Intracoronary Adenosine Injection during Primary PCI Reduce Microvascular Obstruction in Patients Admitted with STEMI?」である。

こちらも、共著者にすることをフォーファーに無断で行なった。

また、研究アブストラクトに、二重盲検で実施したと記載したが、実際は二重盲検で実施していなかった。さらに、偽装データも記載していた。

2013年12月頃(28歳)、上記の不正が発覚した。白楽は、不正発覚の経緯を把握できていない。

不正に対する裁定は、ウィリアム・コッポラ(William Coppola)を委員長とするマンチェスター医事裁判委員会(Medical Practitioners Tribunal Service in Manchester)が行なった。

2016年2月11日、発覚から2年2か月後、マンチェスター医事裁判委員会は、ドゥーラブ医師の論文にねつ造があったと公表した。処分として、ドゥーラブ医師の医師免許を、この日から12か月間停止した。(MPTS | Gemina Deepa Doolub

【論文数と撤回論文】

2016年4月10日現在、パブメド(PubMed)で、ジェミーナ・ドゥーラブ(Gemina Doolub)の論文を「Gemina Doolub [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2010~2015年の6年間の5論文がヒットした。

別途、2012年の著書(博士論文?)『Cardiology Essentials for Finals – An Aid to Passing the OSCE 』もある。

2016年4月10日現在、本記事で問題にした1論文「2013年のISRN Cardiol」論文が、2013年12月に撤回されている。

【白楽の感想】

《1》研究規範を未習得者

photoジェミーナ・ドゥーラブ事件は、「研究のあり方」を学ばない臨床医が、自己流で研究を行なった典型例に思える。

パイロットの免許を取得してもいい、趣味でダンスをしてもいい。しかし、研究をするなら「研究のあり方」を学ぶべきだ。研究博士号(PhD)を取得すべきだ。

ドゥーラブは、多分、かなり優秀なのだろう。だから、最初の論文は2010年発表で単名である。師匠なしで、自力で研究論文を書けてしまった。しかし、本記事の該当論文はドゥーラブの3報目の論文である。論文は“テキトー”に書けばよいと思い込んだのだろうか。研究ネカトを甘くみたのだろう。

白楽には、不正をするまでのドゥーラブの人生は順風満帆に思えた。なんで不正をしたのだろうか?

Gemina_Doolub2-1マンチェスター医事裁判委員会は、動機を、「評判、キャリアー、昇進を高めようとした(enhance your reputation, your career, and potential job opportunities)」と述べている。向上心はいいことだが、手段を間違えたんですね。

研究倫理の専門家かとして本当に知りたいのは、不正をしてまで「評判、キャリアー、昇進を高めようとした」状況ですが・・・。

少なくとも、ドゥーラブは、不正が見つからないと思ったんでしょうね。

しかし、同僚のダルアルメリーナを著者にして論文を発表すれば、ダルアルメリーナが気が付かないわけがない。これは、ほぼ100%断言できる。

【主要情報源】
① 2016年2月11日の「Medical Practitioners Tribunal Service in Manchester」記録:http://www.mpts-uk.org/static/documents/content/Gemina_Deepa_DOOLUB_11_February_2016.pdf
② 2013年11月6日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Two detailed retraction notices correct the cardiology record – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2016年2月23日のクレア・ダイアー(Clare Dyer)の「BMJ」論文、登録すれば2週間無料試読:Junior doctor is suspended for citing colleagues on falsified research without their knowledge | The BMJ
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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