盗博:映画学:カンワルジット・シン(Kanwaljit Singh)(インド)

2017年11月29日掲載。

ワンポイント:シン(男性)はパンジャブ大学・高等メディア研究センター・プロデューサーで、2017年(41歳?)に博士論文を提出した。発覚の経緯は不明だが、この博士論文が盗用だと指摘された。指導者のガーミート・マーン教授が盗用検出ソフトでチェックすると盗用文字率は21%だった。しかし、「人文系での盗用文字率の許容上限は30%」と、そのまま、博士論文審査委員会の審査に任せた。審査結果は不明だが、インドのこの盗用基準に唖然とする。損害額の総額(推定)は4千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

カンワルジット・シン(Kanwaljit Singh、Kanwaljeet Singh、写真出典、(保存版))は、インドのパンジャブ大学(Panjab University)・高等メディア研究センター(CAMS:Centre for Advanced Media Studies)・プロデューサーで、専門は映画学だった。

2017年(41歳?)、カンワルジット・シンはパンジャブ大学に博士論文を提出した。

2017年5月(41歳?)、発覚の経緯は不明だが、この博士論文が盗用だとパンジャブ大学に告発された。

カンワルジット・シンの指導教授であるガーミート・マーン(Gurmeet Singh Maan)は、盗用検出ソフトでシンの博士論文を分析すると盗用文字率は21%だった。しかし、「人文系での盗用文字率の許容上限は30%」で、30%以下だから許容範囲内だとし、シンの博士論文をそのまま博士論文審査委員会にゆだねた。

2017年11月28日(41歳?)現在、博士論文審査委員会がどのような結論を下したのか、白楽は把握できていない。ただ、シンの所属する高等メディア研究センター(CAMS:Centre for Advanced Media Studies)のサイトでは、シンの称号は「Dr」ではなく「Mr」である。

なお、パンジャブ大学(Panjab University)は、「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第28位の名門大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。

パンジャブ大学(Panjab University)・高等メディア研究センター(CAMS:Centre for Advanced Media Studies)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:まだ
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1976年1月1日とする。1994年の大学入学時を18歳とした。インドで生まれる
  • 現在の年齢:48 歳?
  • 分野:映画学
  • 博士論文タイトル:Changing Trends in Contemporary Hindi Cinema
    (日本語訳):現代ヒンディー映画の動向を変える
  • 博士論文指導教授: ガーミート・マーン教授(Gurmeet Singh Maan)
  • 博士論文提出:2017年(41歳)
  • 盗博発覚年月日:2017年(41歳)
  • 盗用ページ率:?%
  • 盗用文字率:21%
  • 研究博士号(PhD)はく奪状況:まだ、博士号が授与されていない。博士論文審査中
  • 発覚時地位:パンジャブ大学・プロデューサー
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はパンジャブ大学・学長と博士論文審査委員会に通報した。また「Tribune」新聞社にも通報した(推定)
  • ステップ2(メディア):「Tribune」新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①パンジャブ大学・博士論文審査委員会。パンジャブ大学はネカト調査委員会を設置していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は4千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が6年間=1億2千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生はいないので損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(大学)が5千万円だが、調査していないので損害額はゼロ円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。出版・撤回していないので損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:辞職なし。無処分?

●2.【経歴と経過】

主な出典:カンワルジット・シンの履歴書(Download CV

  • 生年月日:不明。仮に1976年1月1日とする。1994年の大学入学時を18歳とした。インドで生まれる
  • 1994-97年(18-21歳?):インドのパンジャブ大学(Panjab University)を卒業。学士号:芸術
  • 1998-1999年(22-23歳?):グル・ナナク・デブ大学(Guru Nanak Dev University)で学士号。ジャーナリズム学/マスコミ学
  • 2008年(32歳?):同大学で修士号。ジャーナリズム学/マスコミ学
  • 2009年(33歳?):パンジャブ大学(Panjab University)で研究博士号(PhD)コース入学
  • 2011年3月(35歳?):パンジャブ大学(Panjab University)・高等メディア研究センター(CAMS:Centre for Advanced Media Studies)・プロデューサー
  • 2017年(41歳?):パンジャブ大学(Panjab University)に博士論文提出
  • 2017年(41歳?):博士論文の盗用が発覚

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2017年(41歳?)、カンワルジット・シン(Kanwaljit Singh)はパンジャブ大学(Panjab University)に博士論文を提出した。博士論文のタイトルは「Changing Trends in Contemporary Hindi Cinema」(邦訳:現代ヒンディー映画の動向を変える)である。

ところが、誰がいつどういう経緯で不正を見つけたのかわからないが、この博士論文の大半の文章は、ウィキペディアを含めたいろいろな出典から盗用したものだという申し立てがパンジャブ大学・学長と博士論文審査委員会に寄せられた。

指導教授のガーミート・マーン教授(Gurmeet Singh Maan、写真出典)は、はインドの大学助成委員会(UGC:University Grants Commission)の推奨する盗用検出ソフトでこの博士論文の盗用をチェックし、盗用なしと判定した。

しかし、パンジャブ大学の規則には、「盗用検出ソフトの結果を鵜飲みにできない。盗用かどうかは人間の判断が必要だ」とある。

また、パンジャブ大学の規則では、「用語をいくつか変え、文章の順序を変えるなどして他人の文章を言い換え(パラフレーズし)ても、原典を引用しなければ盗用である」としている。

告発者が不明だが、論文のすべての問題点をシステマティックに示した告発書が、パンジャブ大学・学長と博士論文審査委員会に送付られた。

カンワルジット・シンの博士論文は、実際、複数のさまざまな文書を盗用していた。

例えば、序論は、オンライン上の他人の文章「Emerging trends in Contemporary Indian (Bollywood) Cinema」の用語を少し変えただけで、ほぼ丸写しだった。

パンジャブ大学の博士論文の規定に、参考文献欄を除いた文章の盗用文字率が5%以下なら許容されるというルールがある。

一方、指導教授のガーミート・マーン教授(Gurmeet Singh Maan)は、盗用検出ソフトの分析結果とともに、この盗用問題についての報告書を当局に提出した。

その報告書によれば、カンワルジット・シンの博士論文を盗用検出ソフトで分析した結果、盗用文字率が21%だった。そして、人文系での盗用文字率の許容上限は30%なので、この21%は許容範囲内だとした。

ガーミート・マーン教授は、「カンワルジット・シンの博士論文は実際に研究を行なった成果であり、盗用検出ソフトの分析結果も許容範囲内です。ただ、盗用検出ソフトに何らかの不具合があれば、私はその責任を負えません」と述べている。

研究学部長のラケシュ・シャーマ(Rakesh Mohan Sharma)は、「大学と大学助成委員会(UGC)の規則に従って、論文をチェックするのは指導教員の責任である。その作業として、マーン教授は報告書を提出した。今度は博士論文審査委員会が審査するが、博士論文審査委員会がカンワルジット・シンの博士論文を却下する可能性はある」と語った。

2017年11月28日現在、博士論文審査委員会がどのような結論を下したのか、白楽は把握できていない。ただ、シンの所属する高等メディア研究センター(CAMS:Centre for Advanced Media Studies)のサイトでは、シンの称号は「Dr」ではなく「Mr」である。

●6.【論文数と撤回論文】

論文データベースにあたっていないが、カンワルジット・シンの履歴書(Download CV)に以下の出版論文リストがある。

Papers Presented/Published

  • Mediascape flux in India: The road ahead, published by Department of Journalism and Mass communication, Punjabi University Patiala. 2009
  • Presented a paper on Emergence of Female Bollywood Directors with compelling Narrative Telling Capabilities; Zoya Akhtar, a case study. International Conference organized by Women’s study Centre, Punjabi University Patiala. 2011
  • Published a paper; A reckoning of path breaking digital filmmaking techniques pioneered by James Cameron for the film,” Avatar” and its impact on the future of motion picture technology, in an International conference organized by Patel College, Rajpura. 2012
  • Presented a paper; Print Media coverage of crime against women: need for a positive approach. International Conference organized by Women’s study Centre, Punjabi University Patiala. 2012
  • Published a paper; Stereoscopic 3D Cinema: The Contemporary Developments. International Conference organized by Centre for Advanced Media Studies, Punjabi University Patiala. 2012
  • Presented a paper; Being part of the Mob? Lack of sensitivity in handling crime against women stories by Indian News Media. International Conference organized by Women’s study Centre, Punjabi University Patiala. 2012

2017年11月28日現在、撤回論文はない(推定)。

●7.【白楽の感想】

《1》詳細不明

カンワルジット・シン事件の詳細は不明である。

誰がいつどういう経緯で不正を見つけたのかわからない。

盗用部分と被盗用部分を示す盗用解析図が見つからないので、白楽も読者も、自分で盗用かどうかの判定はできない。

博士論文が盗用なら、他の論文も盗用していたと白楽は思うが、他の論文の盗用についての言及はない。

動機は「ズルして得する」だろうが、盗用した状況がよくわからない。

カンワルジット・シン事件からネカトの病理や対策が学べない。

注:写真はカンワルジット・シン事件と関係ありません。ニューデリーの町。2008年。白楽撮影

《2》インドの不思議

インドのネカト事件を調べていると、白楽にとって「なんじゃコリャ?」と驚く場面に遭遇する。

カンワルジット・シン事件では、博士論文の盗用の告発だが、博士論文審査前の博士論文である。この論文を入手できるのは通常、本人と指導教授しかいない。それを、誰がどう入手したのか? そして、盗用だとなぜ疑ったのか? 最初から、不思議である。

そして、「パンジャブ大学の博士論文の規定に、参考文献欄を除いた文章の盗用文字率が5%以下なら許容されるというルール」、と聞いて、アングリ。

老爺心で言っとくが、「5%以下ならOK」というルールは欧米日にはありません。完全にアウトです。

「人文系での盗用文字率の許容上限は30%」、と聞いて、さらにビックリ。こんな基準でインド人が欧米日に留学したら、まず盗用で捕まるでしょう。

盗用論文は審査前の博士論文である。この時点で盗用が指摘されているなら、審査にかけないで、博士論文を書き直すべきだと思うが、そのまま審査にかける。この状況にも、「なんじゃコリャ?」。

注:写真はカンワルジット・シン事件と関係ありません。インド人、モチつかない。https://blogs.yahoo.co.jp/kazuhiro12342001/13969704.html

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●8.【主要情報源】

① 2017年5月10日。ハリンダー・カイラ(Harinder Singh Khaira)記者の「Tribune」記事:Plagiarism complaint in PhD thesis lands researcher, supervisor in soup、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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