化学:デニス・ゲラ(Denis L. Guerra)(ブラジル)

ワンポイント:ブラジルの著名化学者のデータねつ造・改ざんは院生の仕業だった

【概略】
Lost_or_Unknown_svgデニス・ゲラ(Denis L. Guerra)(ブラジル、顔写真未発見、出典)は、核磁気共鳴化学のブラジル最高の研究者であるカンピーナス州立大学(State University of Campinas)のクラウディオ・アイロルディ(Claudio Airoldi)教授の研究室で大学院を過ごした。その後、マットグロッソ大学(Universidade Federal de Mato Grosso)・医学部の教授(助教授?)になった。専門は化学(核磁気共鳴)である。

2011年3月28日(30歳?)、撤回監視(Retraction Watch)が、アイロルディ教授の11論文が撤回されたと報じた。

2011年3月31日(30歳?)、ブラジルの新聞が、アイロルディ教授(68歳)の撤回論文はデータねつ造・改ざんだったと、報じた。

2014年2月13日(33歳?)、事件発覚から3年後、実際にねつ造・改ざんをしたのは、アイロルディ研究室の元院生で共著者のデニス・ゲラであるとの結論に至った。マットグロッソ大学はデニス・ゲラを解雇した。カンピーナス州立大学は、アイロルディに停職45日の処分を科した。

foto256_1_UFMSブラジルのマットグロッソ大学・医学部(Universidade Federal de Mato Grosso do Sul (UFMS) Faculdade de Medicina)。写真出典()、(

  • 国:ブラジル
  • 成長国:?
  • 研究博士号(PhD)取得:カンピーナス州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1981年1月1日生まれとする。2008年に最初の論文を発表している。その時、27歳と想定した
  • 現在の年齢:43 歳?
  • 分野:化学(核磁気共鳴)
  • 最初の不正論文発表:1998年(40歳)
  • 発覚年:2010年(36歳)
  • 発覚時地位:マットグロッソ大学・教授(助教授?)
  • 発覚:?
  • 調査:①カンピーナス州立大学・調査委員会
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:多い。11報が論文撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:解雇

【経歴と経過】

不明点多い。

デニス・ゲラ(Denis L. Guerra)はクラウディオ・アイロルディ(Claudio Airoldi)の弟子。

  • 生年月日:不明。仮に、1981年1月1日生まれとする。2008年に最初の論文を発表している。その時、27歳と想定した
  • xxxx年(xx歳):ブラジルのカンピーナス州立大学(State University of Campinas)・院生。アイロルディ研究室
  • 20xx年(xx歳):マットグロッソ大学(Universidade Federal de Mato Grosso)・医学部の教授(助教授?)
  • 2011年3月28日(30歳?):アイロルディ教授の論文が11報撤回され、データねつ造・改ざんと指摘された
  • 2014年2月13日(33歳?):マットグロッソ大学から解雇された

【不正の内容】

データねつ造と指摘された論文は多い。11報が論文撤回されている。以下に、サンプルを2つ示す。

★「2010年のJournal of Solid State Chemistry」論文

パブピアで「2010年のJournal of Solid State Chemistry」論文がやり玉にあがった(PubPeer – Application of Brazilian kaolinite clay as adsorbent to removal of U(VI) from aqueous solution: Kinetic and thermodynamic of cation?basic interactions)。

2種類の異なる物質なのに、核磁気共鳴スペクトルが同じ(つまり流用、ということは「ねつ造」)である。Sylvain Bernès ( February 2nd, 2015 9:27pm UTC )が同サイトで指摘している。以下に示す。
HEnwzeq

★「2014年のThermochimica Acta」論文

パブピアで「2014年のThermochimica Acta」論文がやり玉にあがった(PubPeer – Thermodynamics of the nickel, cobalt and zinc removal from ethanolic solution by p-aminobenzoic acid intercalated on layered calcium phosphate)。

2011年に11報の論文撤回をしているのに、上記の論文は2014年出版である。その後も、懲りない面々ということか。

同じくSylvain Bernès (November 27th, 2014 10:26pm UTC )が同サイトで、2012年論文の走査型電子顕微鏡像が2009年の像を流用していると指摘している。以下に示す。
UDNQ2xn

【不正発覚の経緯】

2011年3月28日(30歳?)、撤回監視(Retraction Watch)が、アイロルディ教授の論文が11報撤回されたと報じた。

db71b76fc3ブラジルのカンピーナス州立大学(State University of Campinas)。写真出典

Capa_Rubro Crepúsculo.inddクラウディオ・アイロルディ(Claudio Airoldi)(ブラジル、写真出典)は、ブラジルのカンピーナス州立大学(State University of Campinas)・教授で、専門は化学(核磁気共鳴)である。カンピーナス州立大学に40年間も務め、この分野のブラジル最高の研究者で、336報の学術論文を出版している。

airoldi2 g1写真出典

2011年3月31日(30歳?)、ブラジルの新聞が、アイロルディ教授(68歳)の研究室から発表した論文中の核磁気共鳴スペクトルのデータがねつ造・改ざんだったと、報じた。

この記事の中で、新聞記者が、デニス・ゲラに電話で問い合わせると、デニス・ゲラは、「データねつ造をしていない」と断言した。「カンピーナス州立大学がデータねつ造を調査する必要は全くありません。告発はばかげている」と、述べている。

当時、ブラジルには米国・研究公正局のような研究ネカトを調査する国家機関はなかった。カンピーナス州立大学が調査し、対処した。

2014年2月13日(33歳?)、事件発覚から3年後、実際にねつ造・改ざんをしたのは、共著者でアイロルディ研究室の元院生・デニス・ゲラであるとカンピーナス州立大学は結論した。

マットグロッソ大学はデニス・ゲラを解雇した。

カンピーナス州立大学は、アイロルディに停職45日の処分を科した。アイロルディは、「実際は、ゲラとの共著論文をちゃんと読んだことはない」、と弁解した。

【論文数と撤回論文】

2016年4月8日現在、パブメド(PubMed)で、デニス・ゲラ(Denis L. Guerra)の論文を「Denis Guerra [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008-2011年の4年間の14論文がヒットした。

パブメドは、核磁気共鳴化学の論文を全部はカバーしていないと思われる。他の論文がある可能性は高いが、以下は上記検索論文についてである。

全部、クラウディオ・アイロルディ(Claudio Airoldi)と共著だ。

2016年4月8日現在、以下の5論文(2009年、2010年)が2011年5月‐10月に撤回されている。5論文ともゲラが第1著者である。

  1. Modification of hectorite by organofunctionalization for use in removing U(VI) from aqueous media: thermodynamic approach.
    Guerra DL, Airoldi C, Viana RR.
    J Environ Radioact. 2010 Feb;101(2):122-33. doi: 10.1016/j.jenvrad.2009.09.005. Epub 2009 Oct 13.
    Retraction in: J Environ Radioact. 2011 Jun;102(6):648.
  2. Application of natural and modified hectorite clays as adsorbents to removal of Cr(VI) from aqueous solution–thermodynamic and equilibrium study.
    Guerra DL, Viana RR, Airoldi C.
    J Hazard Mater. 2009 Dec 15;172(1):507-14. doi: 10.1016/j.jhazmat.2009.07.016. Epub 2009 Jul 29.
    Retraction in: J Hazard Mater. 2011 Oct 30;194:446.
  3. Immobilization of 5-amino-1,3,4-thiadiazole-thiol onto kanemite for thorium(IV) removal: thermodynamics and equilibrium study.
    Guerra DL, Carvalho MA, Leidens VL, Pinto AA, Viana RR, Airoldi C.
    J Colloid Interface Sci. 2009 Oct 1;338(1):30-9. doi: 10.1016/j.jcis.2009.06.004. Epub 2009 Jun 7.
    Retraction in: J Colloid Interface Sci. 2011 May 15;357(2):558.
  4. Layer silicates modified with 1,4-bis(3-aminopropyl)piperazine for the removal of Th(IV), U(VI) and Eu(III) from aqueous media.
    Guerra DL, Pinto AA, Viana RR, Airoldi C.
    J Hazard Mater. 2009 Nov 15;171(1-3):514-23. doi: 10.1016/j.jhazmat.2009.06.032. Epub 2009 Jun 17.
    Retraction in: J Hazard Mater. 2011 Oct 30;194:445.
  5. Designed pendant chain covalently bonded to analogue of heulandite for removal of divalent toxic metals from aqueous solution: thermodynamic and equilibrium study.
    Guerra DL, Viana RR, Airoldi C.
    J Colloid Interface Sci. 2009 Sep 1;337(1):122-30. doi: 10.1016/j.jcis.2009.05.013. Epub 2009 May 13.
    Retraction in: J Colloid Interface Sci. 2011 May 15;357(2):559.

★撤回監視の記事の撤回論文

smallpreview2011年3月28日の撤回監視(Retraction Watch)記事では、上記リストを含めた以下の11論文が撤回されている。(Hazardous materials: Elsevier retracts 11 chemistry papers from Brazilian group, citing fraud – Retraction Watch at Retraction Watch

– Journal of Colloid and Interface Science 337 (2009) 122–130
– Inorganic Chemistry Communications 12 (2009) 1145–1149
– Journal of Environmental Radioactivity 101 (2010) 122–133
– Process Safety and Environmental Protection 88 (2010) 53–61
– Journal of Physics and Chemistry of Solids 70 (2009) 1413–1421
– Applied Surface Science 256 (2009) 702–709
– Inorganic Chemistry Communications 11 (2008) 20–23
– Inorganic Chemistry Communications 12 (2009) 1107–1111
– Journal of Hazardous Materials 172 (2009) 507–514
– Journal of Hazardous Materials 171 (2009) 514–523
– Journal of Colloid and Interface Science 338 (2009) 30–39

【事件の影響】

2012年3月27日、ブラジル政府(Brazilian National Council of Scientific and Technological Development)は、この事件が切っ掛けとなり、研究ネカトに対処する国家機関「Commission for Integrity in Scientific Activity」を作った。(【主要情報源】②、2011 年4月14日記事:News in brief | Times Higher Education (THE)保存版))

【白楽の感想】

《1》詳細は不明

ブラジルの事件の情報は基本的にポルトガル語で記述されている。そのためもあるだろうが、白楽には、事件の詳細がつかみにくかった。特に、デニス・ゲラ(Denis L. Guerra)の人物情報はほとんど得られなかった。

以下、「カーク・スパーバー(Kirk Sperber)(米)」の記事に書いたことと同じです。

どうしてねつ造をしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

【主要情報源】
① 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Claudio Airoldi – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2015年の論文。Sonia Vieira:「Not to be Mentioned but Impossible to Keep Quiet About」、Journal of Scientific Research & Reports, 8(3): 1-5, 2015。
③ 2014年2月13日の「Olhar Direto」記事:Autor da maior fraude científica do Brasil é exonerado da UFMT :: Notícias de MT | Olhar Direto保存版
④ 2014年2月13日の記事:Em nota, UFMT comenta exoneração de professor e lamenta fraude保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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