7-56 中国はネカトを厳罰化

2020年6月19日掲載 

白楽の意図:中国は2020年に実装予定の社会信用システム(社会信用体系)にネカト行為を登録すると発表した。そうなると、ネカト者は、研究助成金や受賞の取り消し処分に加え、銀行ローンを借りたり、会社を経営したり、公務員の求人に応募できなくなる。つまり、ネカト者に研究キャリアの停止をはるかに超える重大で広範な刑罰が科される。このことを解説したデイヴィッド・シラノスキー(David Cyranoski)の「2018年12月のNature」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

本論文は学術論文ではなくニュース記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:China introduces ‘social’ punishments for scientific misconduct
    日本語訳:中国はネカトに「社会的」罰を導入
  • 著者:David Cyranoski
  • 掲載誌・巻・ページ:Nature 564, 312 (2018)
  • 発行年月日:2018年12月14日
  • 引用方法:
  • DOI: 10.1038/d41586-018-07740-z
  • ウェブ:https://www.nature.com/articles/d41586-018-07740-z
  • PDF:https://media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-018-07740-z/d41586-018-07740-z.pdf

★著者

  • 単著者:デイヴィッド・シラノスキー(David Cyranoski)
  • 紹介: About the Editors | Nature
  • 写真:https://twitter.com/cyranoski
  • ORCID iD:
  • 履歴:David Cyranoski | LinkedIn
  • 国:中国
  • 生年月日:米国。現在の年齢:56歳?
  • 学歴:米国のミシガン大学(University of Michigan)で学士号(歴史学)1990年、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)で修士号(科学技術の歴史・哲学)1996年
  • 分野:科学ジャーナリズム
  • 論文出版時の所属・地位:ネイチャー社のアジア太平洋特派員(Asia-Pacific correspondent, Nature Publishing Group)

●3.【日本語の予備解説】

社会信用システム – Wikipedia社会信用体系 – 维基百科,自由的百科全书

社会信用システム(しゃかいしんようシステム)とは、中華人民共和国政府が構想する全国的な評価システム開発のイニシアティブ。所得やキャリアなど社会的ステータスに関する政府のデータに基づいて全国民をランキング化し、インターネットや現実での行動に対して「ソーシャルクレジット」という偏差値でスコアリング(採点)することだと報じられている。それは管理社会・監視社会のツールとして機能し、人工知能(AI)によるビッグデータの分析を使用する。

★2019年4月5日の「片山 ゆき」記者の記事:あなたの‘信用’、何点ですか?―中国12都市をモデルに進む「社会信用システム」とは? 基礎研REPORT(冊子版)4月号|ニッセイ基礎研究所

もし、社会で生きていく上で、自分に点数やランクがつけられているとしたら、どうだろう。中国政府は2020年までに、国民の社会秩序の向上を目指す「社会信用システム」の構築を目指している。アリババのゴマスコアなど商用の信用スコアとは別の、国による国民への信用格付けだ。信用ポイントが高い人はより便利な生活サービスを利用でき、ルールを守らない人には行動の制限を加えるという、国による信賞必罰の評価システムである。

★2019年11月18日:ルイーズ・マトサキス(Louise Matsakis)、日本語訳Yui Nakamura:中国の「社会信用システム」をディストピアだと語るのは誤りだ:“SF的神話”はこうして欧米に拡まった

出典 → ココ、(保存版) 

2018年10月、ワシントンD.C.に本拠を置く保守系シンクタンクであるハドソン研究所をマイク・ペンス米副大統領が訪れ、米中関係を包括的に扱う演説を行なった。

「中国の支配者層は、2020年までには社会信用スコアを基に国民の生活の事実上すべての側面をコントロールするという、まるでオーウェルの作品を思わせるシステムを実行に移そうとしています」と、ペンスは語った。「公式な青写真の表現を借りると、このプログラムが実行された暁には『信用に足る人はどこでも自由に動き回れるようになり、信用できない人は足を一歩踏み出すことさえ難しくなる』と言います」

★2019年8月5日:山谷 剛史(やまや たけし):中国が推し進める社会信用システムとは

出典 → ココ、(保存版) 

中国で話題になる「信用」には、「信用スコア」と、「社会信用体系」(社会信用システム)がある。この2つは異なるものだ。

中国の「信用スコア」とは、各人の信用付けを、各人の個人情報や光熱費や商品の支払いなどから信用を点数化して、点数の高い信用できる人に特別なサービスを与えるクレジットカードのようなものだ。その代表がアントフィナンシャルのアリペイ(支付宝)にある「芝麻信用」である。信用スコアが上がれば上がるほど、シェアサイクルや商品のレンタルや中古買取や借金などで様々な優遇が得られるが、これはクレジットカードにおいても一般カードよりゴールドカード、ゴールドカードよりプラチナカードやブラックカードが様々な優遇を受けられるのと同じことだ。信用スコアにおいて借りたものを返さないとスコアが大幅に下がるが、これもまたクレジットカード支払いができないとクレジットカードが発行されなくなるのと同じ道理である。信用スコアに関しては、芝麻信用などにおいて、芝麻信用内にとどまらず、データを中央銀行である中国人民銀行の信用システムに受け渡すとされている。

一方社会信用体系は、中国政府発展改革委員会による、各地方政府が収集した、行政処罰、司法判決、社会保険料納入情報、交通違反情報などが集まった「全国信用信息共享平台」(中国全国信用情報シェアプラットフォーム)を活用したものだ。借金踏み倒しなどの悪事をすると信用スコアでなく社会信用体系に登録されて、「悪いことをして乗り物に乗れなくなった」「借金を踏み倒したら町中にさらされた」といったニュースが出てくる。つまりは社会信用体系が稼働し、情報は収集されているが、一方で各地方各省庁が連携して漏れなくデータを集め、中央に情報を提供し活用していかねばならず、社会信用システムは完成されていない。ただ徐々に情報収集できるようにシステムが構築されていることから、社会信用システムが収集した「信用失墜情報」については指数関数的に増えている。

2019年7月には国務院が社会信用体系について意見をまとめた「関于加快推進社会信用体系建設構建以信用為基礎的新型監管机制的指導意見」を発表した。

信用の失墜というと、借金の踏み倒しなどの例があがるが、この「意見」においては、食品や医薬品、バイオ、安全生産、老人・幼児向け施設といった、人々の生命や財産に直接影響与える産業で信用を失墜した行為に対して厳しく対処するとしている。懲罰は、状況により、一定期間あるいは永久にその業界への参入ができなくなるという措置が与えられる。

●4.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくニュース記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

《1》社会信用システムでネカト犯を処罰 

中国政府は、社会信用システム(社会信用体系)にネカト行為を登録すると発表した。つまり、ネカトを犯した中国の研究者は、銀行ローンを借りたり、会社を経営したり、公務員の求人に応募したりできなくなる。つまり、ネカト者に研究キャリアの停止をはるかに超える重大で広範な刑罰が科される。

従来は科学省や大学が扱っていたネカト者の処分を、新しい制度下では、数十の政府機関が扱い、ネカト者に罰則を科す。助成金や受賞の取り消しなどの従来の処分に加え、ネカト者が学術界以外の仕事に就く場合の制限を設けなど研究とは関係がない処罰も科される。

南京理工大学(Nanjing University of Science and Technology)で科学評価システムを研究しているビクン・チェン教授(Bikun Chen、似顔絵画出典)は「ネカト者のほぼすべての日常生活が影響を受けます」と説明した。

2018年11月に発表されたこの新制度は、論争の的となっている「社会信用システム – Wikipedia(social credit system)」の延長であり、1つの政府機関の規則に違反した場合、他の政府機関による制限や罰則に直面するというものだ。

中国政府はネカト行為を取り締まる新しい対策としてネカト罰則を社会信用システム(社会信用体系)に組み込むように改訂した。しかし、多くの研究者はこの改訂の性質と範囲にとても驚いている。「研究ネカトへのこのような包括的な罰則は世界のどこにもありません」と、台湾の国立交通大学(Chiao Tung University)の科学公正研究者のチェン・シュウ教授(周倩、Chien Chou、写真出典)は指摘している。

「ネカト行為の罰則は、改訂前は、研究費の停止や昇進禁止などだったが、個人の善悪情報を1つに統合すると、かなり強力に処罰になる」、と元・中国国立科学財団長(former head of the National Science Foundation of China)のウェイ・ヤン(楊衛、Wei Yang、Yang Wei (engineer) – Wikipedia、 写真出典)は述べている。

「ネカト行為を抑制するには個人の道徳や学術界の処罰では防げないことを明確に示しています。ネカト行為を法的に処罰することに舵を切ったのです」、と上海の復旦大学で科学政策を研究するタン・リー教授(唐莉、Tang Li、写真出典)は指摘した。

一部の研究者は、このシステムがネカト行為を減らすかどうかは、制度がどのように施行されるかに依存すると見ている。一方、ビクン・チェン教授は「間違いなく、効果的です」と述べ、チェン教授を含む多くの研究者は、このシステムがネカト防止に有効だと確信している。

《2》独裁的権力を持つ人・組織・国家:Big brother  

2014年に導入された社会信用システム(社会信用体系)は、中国人の生活に大きな影響を与えた。 債務や罰金を払わない人は、システムのウェブサイトに登録され、クレジットカードや保険の申請が制限され、列車の乗車券の購入でも制限される。

2018年4月時点で、このシステムの結果、航空券購入を拒否された回数は1,100万回に達し、列車の乗車券の購入拒否は420万回に達した。 これらの購入拒否をされた200万人以上が借金や罰金を支払った。

習近平。The Prime Minister, Shri Narendra Modi in a bilateral meeting with the President of the People’s Republic of China, Mr. Xi Jinping, in Tashkent, Uzbekistan on June 23, 2016.

習近平国家主席(President Xi Jinping)は、2016年の中国共産党会議でこのシステムを「1つの信用喪失ですべてを制限」と説明している。

ネカト行為も、社会信用システムでの「信用喪失」項目になったのである。従って、ネカト者は、社会信用システムのウェブサイトで名前が公開され、恥をかかされ、社会生活が制限される。

《3》対象とする不正行為 

中国の指導者たちは、研究データのねつ造・改ざん、論文盗用、履歴書のねつ造・改ざん、査読偽装などの研究上の不正行為に焦点を合わせてきた。そして、2018年5月、中国政府は研究公正を向上させる抜本的な改革を発表した。 → 2018年6月8日の「デイヴィッド・シラノスキー(David Cyranoski)」記者の「Nature」記事:China introduces sweeping reforms to crack down on academic misconduct

改革の1つは、ネカト事例の全国データベースの作成だった。ネカト者と認定され、このネカトリストにリストされると、将来の研究費受給、もっと悪い場合は、研究職を失職になり、学術界以外の仕事に就くのが難しくなる。

「中国政府は研究公正を非常に真剣に受け止めている。今回のネカト者の刑罰制度で、中国の研究公正を高めるという目標が達成されるように思える」、と科学政策について中国政府に以前助言した化学エンジニアで英国のサリー大学(University of Surrey)のマックス・ルー学長(Max Lu、逯高清、Max Lu – Wikipedia、写真出典)は指摘した。

マックス・ルー学長は、「システムの成功はそれがどのように実施されるかにかかっています。多数の過酷な規則を実施するには、十分な資金と能力のある管理者が必要だが、それらが不足するリスクは常にあります」と、事態が容易ではないということを、緊張感をもって、指摘した。

タン・リー教授は、「政府は、ネカト再犯者、社会的騒動を引き起こしたネカト、重大な結果をもたらしたネカトなど、悪質度の高いネカト事件を最初に集中して処罰するでしょう。しかし、これらは容易な作業ではありません」と述べた。

チェン・シュウ教授は、「どのようなネカト行為は悪質度が高いのか、そして、どのように罰則を適用するのかを、政府は定義し説明する必要がある。それは研究者にとってとても重要だ」と指摘した。

タン・リー教授は、「中国のネカト行為への対処には、今回のように強い罰則を設けることも重要だが、それと並行して、研究公正教育を施すことが必要です。特に研究キャリアの初期の研究者を教育することは、研究公正システムの育成にとても役立ちます。院生への研究公正授業を必須にするのは一般的になりつつありますが、若い研究者、さらには教授・準教授など中高年の世代の研究公正教育も非常に重要です」、と教育面の重要性を指摘した。

英国サリー大学のマックス・ルー学長は、「これは中国の科学そのものを強化する政策、そして研究システム全体を間違いなく強化する政策で、タイムリーで断固としたものです。研究公正を徹底する方策として、他国が中国の罰則システムを注目するでしょう」、と自慢げに述べた。

●5.【関連情報】

省略

●6.【白楽の感想】

《1》効果的だが腐敗をどうする 

この記事を書いていて、中国の社会信用システムの独裁制に背筋が凍る思いがした。恐怖国家・恐怖政治である。

しかし、一方で、ネカト犯の撲滅に素晴らしい効果があるとも確信した。

社会信用システム制度は、ある意味、理想的な社会体制に思える。中国は富める強い国になるだろう。

理論は素晴らしい。しかし、問題は、運用である。運用するのは人間である。素晴らしい人もいるが、欲得に弱い、いい加減な人も多い。そして、権力を持てばほぼ全員と言ってもいいほど、人間は腐敗する。この腐敗を防ぐのがほぼ不可能である。

例えば、A氏はネカトを判定できる立場にいたとする。A氏はB教授をおとしめたいと考えたとき、B教授の論文にネカトがあったとし、社会信用システムにB教授をネカト者として登録する。すると、B教授は研究費から地位から、社会生活まで制限がかかり、悲惨な目にあう。

となると、ネカト判定の権限を持つA氏はいわば独裁的な権力を掌握する。

これを防ぐにはどのようなシステムが必要か? 最低限、①事態の進行が誰にでもわかるような透明性である。また、②問題指摘者への制裁や弾圧をしない(できない)状況とその保証だ。

2019年4月5日の「片山ゆき」記者の記事:あなたの‘信用’、何点ですか?―中国12都市をモデルに進む「社会信用システム」とは? 基礎研REPORT(冊子版)4月号|ニッセイ基礎研究所

米日の洗脳宣伝かもしれないが、現在の中国は腐敗だらけだと聞いている。中国には、この2点が、まったく欠けている。欠けている。

中国はと書いたが、実は、日本でも、「①「透明性」は欠けている。C教授がネカトを犯しても、大学は教授名を公表しない。調査結果を公表しない。大学は文部科学省にC教授名を記して調査結果を報告するが、今度は文部科学省が実名を秘匿して記者会見する。

なぜそうするか? 大学が教授名を公表しなくても、大学上層部(とネカト判定者と関係事務職員)はC教授の実名を知っている。つまり、大学上層部はC教授の弱みを握っている。大学上層部に反発したら、実名をバラスぞと暗黙に脅迫する。ことで、大学上層部は権力を拡張できる。そういう構図なのだ。文部科学省も同じである。

「②問題指摘者への制裁や弾圧」も、日本では常態化している。例えば、コクハラ(告発した人へのハラスメント)事件が時々ニュースになっているほど常態化している。

日本でも、「①「透明性」と「② 問題指摘者への制裁や弾圧」が問題視されるが、中国は、この2点は、もっとヒドイと思われる。

その状況下で、社会信用システムを導入して、本来の機能が発揮できるのか不安に思う。

白楽は、ネカトは詐欺行為なので、日本でも警察が捜査すべきだと主張している。ただ、さらに一歩進め、中国の社会信用システムのような一括した管理体制にする方がいいと思う。ただし、「①「透明性」と「②問題指摘者への制裁や弾圧」を格段と改善しないと、かえって危険に思える。
 → 1‐3‐2.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 白楽の研究者倫理

ただ、ネカト防止のために中国の社会信用システムを日本に導入というのは本末転倒で、社会信用システムの導入する中で、その1つの不正行為としてネカトを入れるのが筋である。だから、日本に社会信用システムを導入する是非をまず考えなくてはならない。

《2》お手並み拝見 

中国は社会信用システムを2014年から構想し、2020年に実装する計画である。
 → China Copyright and MediaPlanning Outline for the Construction of a Social Credit System (2014-2020)  

そして、現在、2020年である。ただ、今のところまだ、ネカト者を社会信用システムに登録したというニュースが流れてこない。

2019年11月13日(55歳)、中国のトップ科学者の1人でシエタオ・チャオ、曹雪涛(Xuetao Cao)のデータねつ造が発覚した。
 → シエタオ・チャオ、曹雪涛(Xuetao Cao)(中国) | 白楽の研究者倫理

この人をどう処罰するのだろう?

今まで、中国は何度もルールを守っていない。

結局、今度も中国は上級国民のネカトを処罰しない(できない)のだろうか?

《3》日本にないスタイルの記事 

本記事は数人の大学教授の意見を紹介しながら1つの主張をする。英語記事では当たり前のように目にする記事だが、日本にはこのスタイルの記事がほとんどない。

どうしてなんだろうか?

日本のジャーナリズムには問題が多い。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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