1‐3‐4.ドイツの研究ネカト問題

2017年3月13日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。ドイツには、日米と同じような質量のネカト事件が発生している。米国・研究公正局のような国家機関はなく、助成機関のオンブズマン(研究倫理委員)と各大学のオンブズマン(研究倫理官、約500人)が対応している。研究上の不正行為はねつ造・改ざん・盗用に限らず著者在順、研究妨害、監督責任、審査盗用も入れ、優れている。教授資格(Habilitation)もあり、博士号のあり方が日本や米国とは異なる。盗博者が多く、盗博者を摘発する民間組織が発達している点も優れている。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.多角的視点
3.日本語記事
4.英語記事
5.白楽の感想
6.主要情報源
7.コメント
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●1.【概略】

歴史的事件の主役:フリードヘルム・ヘルマン(Friedhelm Herrmann): http://www.nature.com/nature/journal/v395/n6702/images/395532aa.eps.0.gif

ドイツの研究ネカト問題の特徴を3点あげる。

  • 第1点:博士号の社会的役割や取得状況が、日本や米国と異なる。例えば、政治家に博士号取得者が多い。
  • 第2点:博士号の上に、日本や米国にない教格(教授資格(Habilitation))がある。
  • 第3点:博士論文の盗用を指摘する組織・ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が2011年3月に発足している。同様な組織はロシアにもあるが、日本や米国にはない。2011年3月以降、2017年3月12日現在まで、盗博者が181人も摘発されている。

第1点:ドイツの博士号

盗博VP1:ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)(ドイツ) | 研究倫理(ネカト)」で書いたことと同じ文章を、以下、再掲する。

2016年11月18日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」記事によると、ドイツでの博士号への感覚が日本とは大きく異なる(博士尊ぶドイツ、「偽物」は許さない – グノシー)。

ドイツでは博士の称号が重視されている。アンゲラ・メルケル首相も博士号を取得しているし、国会議員の約5人に1人、それに企業幹部の半数近くが博士号を持っている。ドイツの大手食品会社は「ドクター・エトカー」の名前を冠している。フランクフルトには「ドクター・ミューラー」というポルノショップもある。

称号へのこだわりは奇妙な規則や慣習を生み出した。例えばドイツでは、学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある。さらには、学歴詐称や学術論文での剽窃行為など学問の世界の不届き者を探し回る匿名の自警団も誕生した。

・・・中略・・・

職場で博士号の称号をどう扱うかについては厳しい規則がある。ドイツの連邦労働裁判所は1984年、従業員の学術称号を間違えたり、正式な肩書を使用しなかった場合、従業員の人格権の侵害に当たるとの判断を下した。

「The Impostor」(詐欺師)の芸名で活動するフランクフルトのマジシャン、シュテファン・スプレンジャーさんは2012年、グルーポンで売られている肩書で「一番ばかばかしい」と思った「不死に関する名誉博士」という学位を購入した。「誰も本気にはしないだろう」と思ったそうだ。

しかし2人の警察官が捜索令状を持ってやってきた。捜査関係者は既に、スプレンジャーさんがマジシャンとしての自己紹介にこの肩書を掲載したソーシャルネットワークサイトを徹底的に調べていたという。

スプレンジャーさんは「名誉博士号」の証明書を引き渡し、結局、約1000ユーロを支払って和解した。検察官のユラ・ヒンスト氏によると、警察の捜査を受けた人のうち、スプレンジャーさんの他におよそ70人が和解金を支払って法的手続きを終わらせた。

ドイツでは、博士号という称号が大事にされ、違反者を厳格に取り締まっている。だから、逆に、ズルしてでも博士号を得ようとする。

第2点:教授資格

学術界では、博士号の上に、教格(教授資格、ハビリテーション、Habilitation)がある。

教格は日本や米国にはない称号・資格である。学術界では、博士号よりも上位で、ずっと難しい称号・資格である。

教授資格論文は、大学で教授できる資格を取得するための論文である(①KAKEN – ドイツ大学の大学教授資格試験(Habilitation)に関する歴史的研究(61510130)保存版)、②ヴァイス ゲオグ (G.S. Weiss) 「ドイツの大学―改革の研究職と研究費」(保存版))。

第3点:盗博

盗博は、2017年3月12日現在、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が181人の盗博者を摘発している。

ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen、写真出典)はそのうちの1人で、ドイツの現職の国防相である。

フォンデアライエンは、1991年(32歳)にハノーファー医科大学で取得した医学の博士論文が、2015年(56歳)に盗作と指摘された。しかし、ハノーファー医科大学「盗博の過失があったが、意図的な不正ではない」と、博士号をはく奪しなかった。国防相も辞任していない。
→ 盗博VP152:ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen)(ドイツ) | 研究倫理(ネカト)

一方、同じ閣僚のアンネッテ・シャーヴァン(Annette Schavan)は、1980年の博士論文が盗作とされ、博士号がはく奪され、2013年に教育大臣を辞任した。
→ 盗博VP:アンネッテ・シャーヴァン(Annette Schavan)(ドイツ) | 研究倫理(ネカト)

このような盗博事件は日本や米国では少数である。

日本はドイツから何を学べるか? ドイツの研究ネカト問題をしっかり理解しよう。

【全体像と契機】

★全体像

  • 国:ドイツ
  • 日本を標準として、研究倫理を比べると:①とても良い、②良い、③日本と同等、④悪い、⑤とても悪い。
  • 国家の専門管理組織:なし
  • 論文数:72,849報で世界第4位(2008年)(日本は第5位)(論文成果に見る我が国の状況:文部科学省
  • 研究開発費:2013年の統計値。研究開発費は1009億USドル(約10兆円)で世界第4位。日本は1602億USドル(約16兆円)で米中に次いで世界第3位。大学などの高等教育機関は1009億USドル(約10兆円)の約18%を使用している。
    GDPに占める研究開発費は2.85%(日本は3.47%)。(Report – S&E Indicators 2016 | NSF – National Science Foundation
  • 研究博士号(PhD)取得者数:毎年約25,000人(DAAD Tokyo)(米国は64,887人)。人口100万人当たり313人(ドイツ)、220人(米国)、131人(日本)・・2010年データ
  • 教授資格取得者数:?
  • 研究者数:約35万人(Facts & Figures – Research in Germany
  • 研究ネカト数:毎年約10人(あてずっぽうの推定)
  • 研究ネカト対処公的機関:大学・研究所。DFG-ドイツ研究振興協会(研究助成機関)
  • 研究ネカト対処私的機関:ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 研究倫理

★有名な事件と改革の契機

●2013年12月4日の「Nature News & Comment」記事:「警察を呼べ!(Call the cops)」
→ Call the cops : Nature News & Comment

ドイツは、約20年前まで、研究ネカトのない国と思われていた。ところが、1997年にドイツの著名な2人の生物医学者、フリードヘルム・ヘルマン(Friedhelm Herrmann)、マリオン・ブラッハ(Marion Brach)の94論文にねつ造・改ざんデータが見つかった。

この事件が、それまで満足しきって安心してたドイツを粉砕した。ドイツは、そんなネカト大事件が起こることを想定していなかったので、対処の仕組みを考えてもいなかった。

事件を契機に対応策が練られ、「研究善行(good scientific practice)」と「ネカト告発への対処法」の明確なガイドラインを大学に整備させ、オンブズマン制度を設け、見事な自己調整システムを確立した。

●2.【多角的視点】

★政府の研究倫理確立の努力

★研究助成機関の研究倫理ガバナンス

  • 組織:DFG-ドイツ研究振興協会
  • 政策と予算等:
  • 法律・ガイドライン:1997年12月、ドイツ研究振興会(DFG)がガイドライン「 Vorschläge zur Sicherung guter wissenschaftlicher Praxis(研究善行基準の提言:Proposals for Safeguarding. Good Scientific Practice)」を発表し、2013年 9月に改訂した。59頁以降は英語
  • 研究ネカト調査委員:「Committee of Inquiry on Allegations of Scientific Misconduct 」の委員は4人で、氏名は公表されている
  • 公益通報窓口:Ombudsman für die Wissenschaft
  • 研究上の不正行為の範囲:
    ドイツ研究振興会(DFG)は以下を不正行為としている。(英語出典:2015年、クリスティーネ・スピッツァ:PDF
    ① ねつ造・改ざん:misrepresentation (fabrication and falsification of data and research findings)
    ② 盗用:infringing upon others’ intellectual property
    (plagiarism and exploitation of ideas of others)
    ③ 著者在順:claiming (co-)authorship of others’ work without their consent
    ④ 研究妨害: sabotaging research activities
    ⑤ 監督責任:co-responsibility for the misconduct of others (e.g.  gross neglect of supervisory responsibility)
    ⑥ 審査盗用:misconduct on the part of reviewers (unauthorized use of reviewed theories for own research)
  • 研究ネカト調査の透明性:②良い
  • 研究ネカト調査報告書のウェブ公開・保存:③日本と同等。ただし、調査報告書では結果だけが発表され、調査の過程や詳細は公表されない。
  • 研究ネカト者の実名報告:③日本と同等。ただし、実名もあるが、匿名もかなりある。実名率不明。非ネカト者なのに実名報告されているケースもある( Axel Haverich
  • 研究ネカト者の処分:③日本と同等。ただし学術界から排除しない。処分は研究費申請不可を数年とし、日本と同様である
  • 研究倫理への研究助成:DFG-ドイツ研究振興協会が、研究倫理研究を支援しているかどうか不明
  • 直面している問題、改善しようとしている点:
  • 政策、システムの特徴:オンブズマン制度が特徴と称している。白楽は、名前は特徴的だと思うが、構造と機能は特徴的とは思えない。
  • 研究ネカト・サイト:ドイツ研究振興会(DFG)の英語サイトを「misconduc」で検索すると92件ヒットした。内、数件がネカト報告だった: DFG, German Research Foundation – Suche

★大学・研究機関の研究倫理ガバナンス(除・教育)

ドイツ研究振興会(DFG)が主体的に調査し処分する。大学・研究機関は、調査に協力し、ネカト者の解雇など大学としての処分も行う。

ドイツの大学の典型的な研究倫理ガバナンスかどうかわからないが、ハイデルベルク大学のガバナンス
→ Rules and Guidelines at Heidelberg University – Heidelberg University

  • 組織:
  • 政策と予算等:
  • 法律・ガイドライン:
  • 研究倫理官(オンブズマン):オンブズマンという名称の人を選任する。規定により、学長代理、学部長、管理職は選任されない。
    ドイツの大学・研究機関におけるオンブズマンの一覧(Liste der Ombudspersonen an deutschen Hochschulen und Forschungseinrichtungen・・開いたページの最下段)には492人の名前、電話番号、電子メールなどがリストされている
  • 研究ネカト調査の透明性:
  • 研究ネカト調査報告書のウェブ公開・保存:
  • 研究ネカト者の実名報告:匿名もかなりある。実名率不明
  • 研究ネカト者の処分:学術界から排除しない。処分は日本と同等
  • 直面している問題、改善しようとしている点:
  • 政策、システムの特徴:

★学術誌の研究倫理ガバナンス

不明

★学会の研究倫理ガバナンス

不明

★研究ネカトの研究者・専門家・ハンター・ブロガー

★研究ネカトのニュース・メディア

★研究倫理教育

  • 組織:
  • 必修:?
  • 政策と予算等:
  • 直面している問題、改善しようとしている点:
  • 政策、システムの特徴:

●3.【日本語記事】

選択修正引用です。

★2006年8月8日:文部科学省・研究活動の不正行為に関する特別委員会「参考6 主要各国における研究活動の不正行為への対応について」

出典 → ココ

国名
独国

制度の概要
○自由と独立心の強い精神的土壌に根ざしたドイツの研究システムにおいては、科学界独自で不正行為への対応を模索。
○ドイツ研究振興会(DFG)は、科学における研究者の自己規制に関する委員会を設置。委員会は科学倫理の扱いと不正行為の申し立ての方法についての提言を発表。
○ドイツ学長会議(HRK)は、DFGの提言に基づき、不正行為の申し立てを処理するためのモデルガイドラインを制定。

ガイドライン等例
(ドイツ研究振興会)
○ドイツ研究振興会が科学倫理の扱いと不正行為の申し立ての方法を次のように提言。(Recommendations of the Commission on Professional Self Regulation in Science)
1)健全な科学活動の基準を明確にし、周知すること
2)若い研究者の教育に関心を払うこと
3)ミスコンダクトの疑いがある場合などには、独立した仲介者を指名すること
4)ミスコンダクトの申し立ての手続きを策定し、当該機関で承認を受けること
○科学倫理に関して研究者・技術者からの疑問に答えるとともに、その支援を行うオンブズマンの配置も考慮。オンブズマンは3名の委員から構成され、年1回報告書を発行。

(ドイツ学長会議)
○ドイツ学長会議は、ドイツ研究振興会の提言に基づき、メンバーの大学に対して不正行為の取り扱いに関してのモデルガイドラインを提示。当該ガイドラインに基づき、各大学が早急に取り組みを進めるか、又はその取り組みを強化することを提言。
1)オンブズマンは1名以上のベテランの科学者を指名すること
2)大学の教授が主体となった調査委員会を設置すること
3)手続きの順番は、予備調査、正式調査、措置
4)若い研究者に対して科学倫理の教育を行うこと
○2000年半ばまでに13の大学で倫理規定および申し立て処理の規定が作られ、その他の17の大学でも進行中。

★2014年1月(推定):千葉大学・専門法務研究科・名誉教授・手塚和彰〔Tezuka Kazuaki〕:「ドイツ・ケルンから考えた日本――ケルン文化会館長異聞。第1回 日独の大学の在り方と博士号の価値」

出典 → ココ

ドイツにおいては、博士号の上に教授資格論文(Habilitation:ハビリタション)がある。ハビリタションを教授就任にあたって要するか否かは、大学により異なるが、伝統的な大学のほとんどは、これを要する。しかし、学部卒業資格(学士:Diplomという。しかし、現在ではこのタイトルは無くなり、日本と同様に大学卒はBachelor:バチェラーとなっている。)を得るのに、最低4年、その上博士論文までに2年ほど(白楽注:日米では5年)、さらに、ハビリタションまで数年を要する結果、最短でも、34、5歳になってしまうことが、ドイツの学問の停滞の原因だとも言われてきた。

ドイツの博士号はいささか趣を異にしている。ドイツの実業界をみると、大企業の中のドイツ株価指数に指定されているコンツェルン30社のうちトップが博士号を有するのは、18社であるという(2013年2月)。

このように、ドイツでは博士号のあるなしで、かなり、社会的評価が異なってくる。

事実、ドイツでは日常でも名刺はもとより電話帳や家の表札まで、博士号が付けられ、手紙のあて先にも、さらには、対話の中でも、相手が博士であることを、示さないといけないともいうべき慣習が長く続いている。

実際、コンサルタント会社のマッケンジーやボストン・コンサルタントは、こうした経営学博士等の資格のための就職後の修学を認め、8割はこの資格を取得している。

技術系でも、化学工業のBASFなどの会社は、博士号取得者は直ちに研究主任となり、自ら選んだテーマや、大学との共同研究の主任になるし、給与も資格のないものと比べて25%以上多いという。

その結果、最近のドイツでは、博士論文に対するコンサルティングやゴーストライター、代筆により博士号取得すらなされているとの指摘もある。こうした中で、昨今、剽窃・盗用が問題になったのは、主に、これが文科系の博士論文であるからだ。ドイツにおける2010年から2011年にかけての冬学期終了時の全卒業生に対する博士号取得者は、全体の33%であり、そのうち、文科系が圧倒的に多い。すなわち、全博士号取得者数のうち、言語・文化系が40%、法律・社会科学系が38%、数理系が12%、技術系が12%である。

表1 各国における博士号取得者の大学卒業生に占める割合
ドイツ・・ 4.54%
 米国 ・・    2.32%
 日本・・     1.64%

【白楽の感想】
博士号の社会的役割が、日本や米国と異なる。研究者の資格というより、社会的ステータスである。教格(教授資格(Habilitation))が研究者の資格という印象だ。

博士号取得者は「文科系が圧倒的に多い」というのも、日本や米国と異なる。

「給与も資格(博士号)のないものと比べて25%以上多い」となると、何とかして、博士号を取得しようと思うでしょうねえ。

★2011年4月21日: David Cyranoski, Natasha Gilbert, Heidi Ledford, Anjali Nayar & Mohammed Yahia著(翻訳:菊川 要):「PhD大量生産時代」: Nature 2011年4月21日号 | doi:10.1038/472276a

出典 → ココ (保存版

ドイツは、年間の博士号取得者数がヨーロッパで最も多く、2005年には科学分野の博士号取得者が約7000人となった。また、過去20年間にわたる博士教育課程の大改革により、供給過剰問題の解決も順調に進んでいる。

ただ、ドイツの大学でもほかのヨーロッパ諸国と同様に、研究職の募集数は減少ないしは横ばい状態にある。その結果、トップクラスの学生が追い求める大学の研究職だけでは就職先が足りず、高度な訓練を受けた人材として、大学は博士号取得者を幅広い分野に売り込んでいる。

これまでドイツでは、指導教官が博士課程の学生を非公式に集めて、自らの研究方針に合わせて教育するのが通例で、大学や研究機関からほとんど監督を受けてこなかった。しかし今では、大学が、学生の招致や養成に正式に関わるようになっており、多くの学生が、実験室での研究以外に、プレゼンテーション、報告書の作成やそのほかのスキルを教える講義を受けている。

理系博士課程修了者の中で最終的に大学での常勤職に就く者は6%に満たず、産業界で研究職に就く者が大部分だ、とドイツ学術審議会(ケルン)で博士教育を研究する Thorsten Wilhelmy は説明する。「ドイツでは教授に就任するまでの道のりが長く、また大学教員の収入は比較的少ないため、博士号を取得して大学を離れることが賢明な選択肢の1つになっているのです」。

ブリュッセルに本部を置く欧州大学協会で、博士教育の支援・開発プログラムを主導する Thomas Jørgensen は、ドイツの大学が改革を進め過ぎて、学生が講義に費やす時間が長くなり、博士論文のための研究や批判的に物事を考える能力習得のための時間が不足することを懸念している。中国、インドやその他経済力をつけている国々で博士号授与数が増えている今、ここ20年間、ドイツでの博士号授与数が伸び悩んでいることについても、Jørgensen は心配している。

【白楽の感想】

理系博士課程修了者の6%未満しか大学の常勤職に就けない。さらに、「大学教員の収入は比較的少ない」となると、大学院は魅力がない。将来は暗い。

★2016年07月30日(土):ベッガのブログ 「学歴偏重社会の茶番」

出典 → ココ (保存版

日本などとはもう比較にならないほど学歴が偏重されている国がある。ドイツである。

私を苛立たせるのは、インテリ人種の「博士号」への妄執である。

博士号は勲章みたいなもので、是非とも他人に見てもらわねばならない。だから名刺にドクターとあるのは言うまでもなく、手紙などの宛名にもドクターと書かねばならない。それもミスターにあたるヘール、ミセスに当たるフラウの後に、ドクター○○と書く。

フラウ・ドクター・アネッテ・シュミット、という具合。英語よりも面倒くさい。それに英語圏ならドクターをつけずミセスだけでも無礼ではないが、ドイツで博士の肩書を持つ人に「ドクター」を忘れたら、かなりの侮辱とされる。

実際、学位が博士か修士か「ただの学士」かの違いをめぐって、しかるべき敬意が払われなかったというので親戚が喧嘩したこともあり、幼稚なことといったら。

しかし他人さまから「ドクター」と呼ばれたくて頑張ったのだから、これを無視されては刻苦精励の甲斐がないのである。

かくて企業家や政治家などは博士号の取得に血眼となり、論文を書く時間のない金持ち連中はそのために人を雇ったりする。

雇われた側が完全手抜きで他人の論文を盗用しまくり、のちにそれがばれて偽ドクターの防衛大臣が辞職するというスキャンダルまで起きた。5年前のことだが、今も政治家の博士論文の盗用疑惑があとを絶たない。

あ、教育相もそれで辞職した。騙したのは「教育」大臣ですぞ。もう笑うしかない、ハハ。

そうまでして「博士」になりたいのがドイツ人のインテリなのだ。知性も泣く。

さらに。「博士」の肩書は墓石にまで刻まれる。墓石の自分の名前の前にドクターと書いてほしくて博士号を取る人が多い、と言ったら、日本人はウッソー!と叫ぶだろう。

この種の虚栄心は万事に派手なオーストリア人に特に顕著で、私もオーストリアの墓地でドクターその他の肩書をずらり並べた墓石をいくつか見た。スイスですらそういう傾向があるそうで、どうもドイツ語圏の特徴とみえる。

★2015年9月30日(水):「日独国際シンポジウム。研究公正を高める取組について ~日独の取組の実践例~」

出典 → ココ (保存版
キルステン・ヒュッテマンの発表スライド →PDF
クリスティーネ・スピッツァの発表スライド →PDF

写真は、DFGの人事・法務部研究公正課課長・キルステン・ヒュッテマンDr. Kirsten Hüttemann)、 © JST。出典は同じ。

DFGの人事・法務部研究公正課課長キルステン・ヒュッテマン(Dr. Kirsten Hüttemann)は、1998年に公開され、2013年に改訂されたDFGの「公正な研究活動の実践」に対する提言を紹介しました。

この17項目の推奨は研究界のセルフコントロールの「行動指針の基準」となっており、助成の申請者にはその遵守が義務付けられています。

また、DFGの人事・法務部の研究公正課主査クリスティーネ・スピッツァ(Dr. Christine Spitzer)により、DFGがどのように不正行為に対応しているか、どのような制裁的措置を適用できるかが、具体例によって提示されました。

シンポジウムで日本の参加者が最も注目したのは、大学や研究機関に置かれるオンプズマンだけでなく、ドイツ全国に対する「研究界のオンブズマン」委員会を持つドイツのオンブズマン制度でした。

オンブズマンを務めるのは自立した第三者専門員で、疑惑の段階で告発を受け付けるため、公正な研究活動の実践における問題の仲裁のサポートにあたれます。研究の不正行為の疑惑が裏付けられた場合は、オンブズマンがその経緯を大学もしくは研究機関の委員会に提出します。

日本にはドイツのオンブズマン制度に相当するものはありません。科学研究の行動規範に係る不正行為に関する国レベルの窓口の設置や全国統一規範の運用の目処は立っていません。

【白楽の感想】

白楽も日独国際シンポジウムに出席したが、印象が薄い。有益だったという印象はない。

なお、ドイツの研究倫理は、オンブズマン、オンブズマンとオンブズマンという言葉が頻繁にでてくる。日本や米国ではめったに聞かない言葉である。ネカトではなじみがない言葉なので、少し理解しておこう。

オンブズマン(スウェーデン語: ombudsman)とは、行政機関を外部から監視し、行政機関による国民の権利・利益の侵害に対する調査及び救済の勧告を図る公職。行政機関を監視する公的オンブズマンを指す。(オンブズマン – Wikipedia

★2006年1月:徳本広孝「研究者の不正行為とオンブズマン制度 : ドイツの取り組み」、明治学院大学法科大学院ローレビュー、2(3): 61-73

出典 → PDF

ネカトに関するドイツのオンブズマン制度を正面から解説した論文である。引用すると、全面的に引用したくなるが、数行だけ示す(右)。

読者には、原典を読むことをおススメする。

★2014年3月:藤井基貴、山本 隆太「ドイツにおける研究倫理への取り組み(1) : 「DFG 提言」(1998)および「補遺」(2013)の検討を中心に」、静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇. 64, p. 113-130、URL http://doi.org/10.14945/00007855
出典 → PDF
・同じ文章 → 「ドイツにおける研究公正システムの構築―ドイツ研究振興協会(DFG)と研究不正行為―」、『研究倫理の確立を目指して―国際動向と日本の課題―』東北大学出版、2015年3月、95-119頁。

次項も原典を読むことをおススメするので、ここは、長いけど、修正引用をしよう。

ドイツの研究者への研究支援の方式は日本の運営費交付金に相当する政府からの直接的な交付と、科研費に相当する優れた研究プロジェクトへの交付とがある。後者の研究支援を担っているのがDFGであり、DFGは国の予算によって運営されるドイツおよびヨーロッパ最大の公的な研究助成機関である。

DFGは、2011年度実績においては、連邦政府から16.2億ユーロ、各州から7.9億ユーロ、EUからの予算配分と個人寄付からの700万ユーロの合計24.1億ユーロを運用している。

ドイツにおける研究支援組織としては、他にもマックスプランク協会、フラウンホーファー協会、ヘルムホルツ協会、ライプニッツ協会等がある。これらの研究支援組織はそれぞれ自前の研究所を有しており、ドイツ研究機関連盟にも名を連ねているが、予算規模においてDFGは突出した存在である。

DFG提言には三つの基本原則がある。それは研究不正行為に対する対策を定めること、研究結果を正確に記録し、かつその省察を欠かさないこと、研究同僚や競争相手あるいは先行する研究成果に対する誠実さを失わないことであり、DFGはこうした行動指針を全ての学術研究活動の基本原則として位置づけている。

さらに善き学術実践へといたる過程には、研究グループ内での協力姿勢の確立とそれを統括するリーダーシップの責任の明確化、若手研究者に対する指導と支援の確保、研究によって生成された一次データの保護および保管の徹底、学術刊行物に対する責任が含まれる。

DFG合同委員会がまとめた「手続きのルール」(2001年作成、2011年改訂)によれば、不正行為として含まれるものは「虚偽記載」、「知的財産権の侵害」、「同意を得ていないオーサーシップ」、「研究活動の妨害(実験データの破棄等を含む)」、「他者の研究不正行為への加担」、「レビュワーとしての研究不正行為」であるとされる。

経済開発協力機構(OECD)はより広義の研究不正行為として、研究計画上の不備、ずさんなデータ管理、ハラスメント行為、不当なオーサーシップの要求、研究資金の誤った運用等を挙げている。DFGの研究不正行為のとらえ方もこれに倣ったものであるといえよう。

研究不正行為が明らかになった場合、合同委員会による処罰は文書での懲戒、研究助成への応募資格の停止、助成の撤回、出版物の訂正(erratum)もしくは撤回、DFG委員会メンバーからの除籍、投票権の 停止である。

第三者機関としてオンブズマン制度を導入している。任期は3年間となっている。

各大学および研究機関におかれるオンブズマンは独立性を保ち、DFGからの研究助成の授受に関わらず、すべての研究者・学術関係者に対して助言および支援を行っている。秘匿性、平等性、透明性の理念に基づいて独自の手続きガイドラインを持っており、DFGに対しては年間報告書を提出する。

なお、「DFGは自分たちが助成した研究プロジェクトに関する統計データしか持っておらず、ドイツ全体における研究不正行為について正確な数字はわからない」。

DFGの特色は、 「DFGの取り組みの優れている点は他国の取り組みと比べて、研究不正行為に対する手続きを細かく規定している点にあり、また透明性・公開性を担保しながら、研究不正行為を防止しようとしている点にあると考える。

【白楽の感想】

最後の「手続きを細かく規定している点」は米国の研究公正局でも同じである。

DFGは「透明性・公開性を担保」を特色と述べているが、実際の事件を調べている白楽としては、透明性・公開性が高いとは思えない。ネカト者を匿名で発表しているケースがかなりある。

ドイツ研究振興会(DFG)は、ネカトだけでなくクログレイも研究上の不正行為としている。つまり「同意を得ていないオーサーシップ」、「研究活動の妨害(実験データの破棄等を含む)」、「他者の研究不正行為への加担」、「レビュワーとしての研究不正行為」も不正行為としている。この定義は、米国や日本の定義より研究現場の実態に沿っていて、優れていると感じる。

オンブズマン制度を自慢げに言うが、特筆するほど、この制度が有効とは思えない。白楽は、米国の研究公正局の方が優れていると思う。

ドイツでは、民間組織のヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が優秀で、公的組織のDFGは、かなり負けている印象がある。

★2016年3月25日:藤井基貴、田中奈津子「ドイツの研究倫理:抄訳『DFG提言』(2013) : 一部改定と「内部告発」項目の追加」、静岡大学教育研究. 12, p. 11-23
URL http://doi.org/10.14945/00009467
出典 → PDF

ドイツ研究振興会(DFG)がガイドライン「 Vorschläge zur Sicherung guter wissenschaftlicher Praxis(研究善行基準の提言:Proposals for Safeguarding. Good Scientific Practice)」を発表し、2013年 9月に改訂した。その、「研究善行基準」の2013年改訂版の日本語訳である。

提言1~提言17と17条の基準が示されている。

読者には、原典を読むことをおススメする。

●4.【英語記事】

【デボラ・ウェーバー=ウルフの見解】

デボラ・ウェーバー=ウルフの著作から探る

★著者

★2016年2月11日:アリソン・マクック(Alison McCook)がデボラ・ウェーバー=ウルフにインタビューした「撤回監視(Retraction Watch)」記事:「ドイツの盗博問題」

出典 → Why plagiarism is such a problem for German PhDs: Q&A with Debora Weber-Wulff – Retraction Watch at Retraction Watch

【問】あなたは、他国に比べ、ドイツの医学博士論文は「まとも」と見なされていないと述べています。なぜですか?
【答】
医学博士論文のページ数がとても少なく、しばしば、データを統計的に計算しただけとか、または非常に浅くしか研究していません。何年も実験室で研究した理系研究者や多くの時間を図書館で博士論文の執筆に費やした人文科学者は、ドイツの医学博士論文は「本当の」研究ではない、と医学博士号を軽蔑する傾向があります。

たぶん、ドイツの多くの医学博士論文は、研究が完成してから書くのではなく、研究途中の中間報告だと理解すればわかりやすいでしょう。

院生は勉強に忙しく研究に捧げる時間はほとんどありません。それで、できる限り時間を節約しようとします。また、指導教授は、患者の世話に忙しく、指導といっても、「私が出版した論文を読みなさい。また、指示した博士論文をよく読みなさい」と言うだけです。

すると、院生は、厚かましい誤解をします。「指示された博士論文をテンプレートにして、数値だけを自分のデータと置き換える」ことで、自分の博士論文を作ってしまうのです。

どのように研究を進めるか、どのように統計を取るか、どのように引用するかを十分学ばないのは論文では致命的だと思うのですが。

【問】ヴロニプラーク・ウィキのメンバーとして盗用を調べる時、Turnitinなどの盗用検出ソフトで検出できるほど簡単ではないと思います。あなたの盗用検出方法を簡単に教えてくださいませんか?
【答】
一般的には、誰かがすでに、博士論文が以前に出版された論文の文章と類似しているのを見つけています。それで、他の部分も盗用ではないかと考えて調べるのです。2つの論文を並べて同じ単語群を着色するという単純な比較です。もし文章がデジタルで入手できなければ、紙媒体の文章をスキャンしてデジタル化し、比較します。

別の方法としては、参考文献一覧を見ることから始める場合もあります。着眼点は、「参考文献は一貫しているか?」です。異様な文献を見つけたら、該当するページを読む。その周辺の文章のトーンに変化はないか? 1つのパラグラフが完璧な文法なのに、次のページの綴りに間違いが多いことはないか?

Google書籍も良い情報源です。抜粋部分を読むことで、盗用の可能性が出てくれば、該当書籍を図書館から借りるか、購入の注文を依頼します。または、博士論文の参考文献一覧にある全文献を入手し、デジタル化し、博士論文と比較します。意外なことに、盗用者の多くは文献を参考文献一覧にリストするけれど、全く同じ文章を引用符を使わず広範に逐語盗用することが多いのです。

【問】ヴロニプラーク・ウィキの結果の現状は?
【答】
盗博の頻度はわかりません。個々の盗博例は、どれも盗博の代表というわけではありません。私たちが出来ることは、盗用があったことを、その証拠とともに提示するだけです。そして、非常に多くの盗用が見つかりました。医歯学分野では盗博が88件見つかっています。化学や神学分野にも盗博が多い。

ページ計算で盗用率100%の盗博が3件ありました。よく見ると、データねつ造もあります。また、基本的な医学知識をWikipediaや他のオンライン文章から、引用なしで逐語訳しているケースも多数みられます。

【問】ヴロニプラーク・ウィキのメンバーが、ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen)など、とても有名な人の盗博を見つけています。有名人の盗博は他の人と違いがありますか?
【答】
新聞やテレビが有名人だけをニュースにするのが、唯一の違いです。私がもっと悩む盗博は、学術界で現在教授または研究者として働いている人の盗博です。彼らは明らかに、自分の論文では「まとも」なことをしていないのに、どうして、学生たちに「まとも」なことを教えることができるのでしょう?

【問】欧州研究会議(European Research Council)は、ドイツの「医学博士(Dr. med.)」を研究博士号(PhD)と認めないとしています。それで、ドイツの医科大学卒業生は他国で研究職につけない。この問題をどうしますか?
【答】
ドイツ学術審議会(German Council of Science and Humanities)(Wissenschaftsrat、WR)は繰り返し問題を指摘してきました。ドイツの院生は、研究職やグラントを得るには、研究経験をさらに積むか、大学教授資格(habilitation)を取得するなどして、研究を遂行できる能力があることを証明する必要があります。

【白楽の感想】

いろいろ驚いた。ドイツの医学博士論文は、程度が低く、他分野からバカにされているとは知らなかった。確かに、他分野の博士論文が200頁くらいあるのに、医学だと60頁だったりする。

欧州研究会議(European Research Council)は、ドイツの「医学博士(Dr. med.)」を研究博士号(PhD)と認めない、というのも知らなかった。

ヴロニプラーク・ウィキが盗用を調べる時、盗用検出ソフトを使っていると思っていた。しかし、実際は、使っていないで、人間が文章を並べて類似性の高い単語群を着色している。となると、膨大な人力が投入されていることになる。驚きました。

盗博者が大学教授で学問を教えていることに、デボラ・ウェーバー=ウルフは異常だと言っている。白楽もこの点は同感だ。盗博の大学教授は、学生・院生に指導して、精神が病んでこないのだろうか? 指導を受ける学生・院生は、教授に不信感を抱かないのだろうか? 「教授になる為にはズルすればいい。処分されないから」と身をもって教えてて、いいのだろうか?

★2015年11月1日:デボラ・ウェーバー=ウルフ(D Weber-Wulff):「Case Study: Plagiarism in Medical Dissertations in Germany」

出典 → ココ

11頁の英文。内容は上記(2016年2月11日)とダブルので、解読は省略する。

【その他の見解】

★2013年4月17日:ブリジッテ・ヨクシュ(Brigitte M. Jockusch)「ネカト申し立ての対処・ドイツのオンブズマン制度に学ぶ(Handling Allegations of Research Misconduct:Lessons from the German Ombudsman)」

出典 → ココ

ブリジッテ・ヨクシュ(Brigitte M. Jockusch)は細胞生物学者で、ブラウンシュヴァイク工科大学(Technische Universität Braunschweig)・教授。 2011年からドイツ研究振興会(DFG)のオンブズマンである「Ombudsman für die Wissenschaft」。

白楽は昔から細胞生物学の論文で、ブリジッテ・ヨクシュの名前を知っていた(ヨーキッシュと呼んでいた)。

以下内容の概略である。

1997年、フリードヘルム・ヘルマン(Friedhelm Herrmann)、マリオン・ブラッハ(Marion Brach)(独)の事件が起こり、この事件が契機となって、、研究倫理に関する大学の対処法や国の法令制定等が動き出した。

1997年12月、ドイツ研究振興会(DFG)がガイドライン「 Vorschläge zur Sicherung guter wissenschaftlicher Praxis(研究善行基準の提言:Proposals for Safeguarding. Good Scientific Practice)」を発表し、2013年 9月に改訂した。59頁以降は英語。

「研究善行基準(Safeguarding Good Scientific Practice)」では以下を要求している。なお、文部科学省は「Safeguarding Good Scientific Practice」を「不正行為防止の原則」と訳しているが、チョット違和感があるので「研究善行基準」とした。

【個々の研究者】

  •  絶対的な正直さ
  • すべてのオリジナルのデータと文書の最低10年の保存(2013年改訂:物質、調査、細胞を含む)
  • すべてのアイテムは作成した研究機関の規則に同意し、研究機関の所有物とする(2013年改訂:そのアイテムへのアクセスは双方の合意の上、元のメンバーに許可する)。

【研究機関】

  • 研究善行措置を行なうこと
  • 研究者のトレーニング、メンタリング、監督を最重要項目とする
  • ネカト疑惑の委員会を設置する
  • ネカト疑惑の窓口となる担当者を選出する(各組織のオンブズマン)

出典:Brigitte M. Jockusch:Handling Allegations of Research Misconduct:Lessons from the German Ombudsman

上図から数値を読み取ると、事件の内容と件数は、著者在順41%、ねつ造・改ざん(impediment of research)31%、盗用12%、評価問題2%。

被告発写の60%はグループリーダー、告発者の27%は女性。

●5.【白楽の感想】

《1》全体

ドイツの研究ネカト・盗博問題は、それなりに調べたものの、ピンとこない。

ドイツの大学で1年ほど研究生活を送らないと肌にしみこんで来ないかもしれない。あるいは、ドイツ語の資料をもっとたくさん読み解かないと、腑に落ちてこないのかもしれない。

ピンとこない点がたくさんあるが、例を1つ挙げよう。

オンブズマン制度をたたえる言葉が目に付く。実は、米国の研究公正局と同等のシステムを作ることができない。しかし、「できない」と言いたくないので、オンブズマン制度の方が優れていると言い張っている気がする。オンブズマン制度がそんなにいいなら、日本を含め、他国がどうして取り入れないのだろう?

ヴロニプラーク・ウィキで盗博とされたのに、ドイツの大学が博士号をはく奪しないケースがたくさんある。例えば、ウルズラ・フォンデアライエンである。ドイツはネカトに対して厳正に対処すると言葉では言うが、いい加減な国だと、強く感じてしまう。厳正に対処しない日本のオマエに非難する資格があるかと問われると、スミマセンとしか言いようがないんですが。
→ 盗博VP152:ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula G. von der Leyen)(ドイツ) | 研究倫理(ネカト)

《2》日本はドイツから何を学べるか? ①不正の範囲

ドイツ研究振興会(DFG)は、ネカトだけでなくクログレイも研究上の不正行為としている。

この定義は、日本の定義より、研究現場の実態に沿っていると感じる。つまり、日本より優れている。

ドイツ研究振興会(DFG)は、具体的には以下の行為と定義している。(英語出典:2015年、クリスティーネ・スピッツァ:PDF

① ねつ造・改ざん:misrepresentation (fabrication and falsification of data and research findings)
② 盗用:infringing upon others’ intellectual property
(plagiarism and exploitation of ideas of others)
③ 著者在順:claiming (co-)authorship of others’ work without their consent
④ 研究妨害: sabotaging research activities
⑤ 監督責任:co-responsibility for the misconduct of others (e.g.  gross neglect of supervisory responsibility)
⑥ 審査盗用:misconduct on the part of reviewers (unauthorized use of reviewed theories for own research)

日本では、ねつ造・改ざん・盗用だけである。

研究活動における不正行為 を次のように書いている(下線は白楽)。→ 文部科学省の2014年8月26日「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」p4  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/08/26/1351568_02_1.pdf

具体的には、得られたデータや結果の捏造(ね つ ぞ う)、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用が、不正行為に該当する。
このほか、他の学術誌等に既発表又は投稿中の論文と本質的に同じ論文を投稿する二重投稿、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップなどが不正行為として認識されるようになってきている。こうした行為は、研究の立案・計画・実施・成果の取りまとめの各過程においてなされる可能性がある。

つまり、ねつ造・改ざん・盗用だけであるが、二重投稿やオーサーシップも、研究上の不正行為の類ですと述べている。しかし、記述があいまいである。ドイツ研究振興会(DFG)のように、研究上の不正行為であると、はっきり定義すべきだろう。

《3》日本はドイツから何を学べるか? ②研究倫理官

文部科学省の2014年ガイドラインの11ページに「研究倫理教育責任者」を設置するよう述べている。

研究機関においては、不正行為に対応するための体制整備の一環として、一 定の権限を有する「研究倫理教育責任者」を部局単位で設置し、組織を挙げて、広く研究活動に関わる者を対象として研究倫理教育を定期的に行うことが求められる。

各大学は、「研究倫理教育責任者」に誰を任命しているか? 全大学のリストはあるか?

リストはない。各大学を適当に調べよう。

総合研究大学院大学(総研大)では、各部局の長とある。
秋田大学も各部局長である。

「研究倫理教育責任者」は米国の各大学で選任されている「研究倫理官」のような名称だが、各部局長が任命されていては、実質的機能はないに等しい。

ドイツでは、「研究倫理官」に相当するのがオンブズマンで、学長代理、学部長、管理職からは選任されない。

そして、ドイツの大学・研究機関におけるオンブズマンが492人いて、一覧が公表されている(Liste der Ombudspersonen an deutschen Hochschulen und Forschungseinrichtungen・・開いたページの最下段)。

こうすれば、オンブズマンは大学・研究機関の研究倫理向上に機能するでしょう。

日本は、各大学・研究機関にドイツと同等のオンブズマン(=米国の「研究倫理官」)を教授から選任すべきでしょう。名称は、研究倫理官がいいと思う。強い権限も与えましょう。
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●6.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Scientific plagiarism in Germany – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2016年2月11日のアリソン・マクック(Alison McCook)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Why plagiarism is such a problem for German PhDs: Q&A with Debora Weber-Wulff – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2011年5月17日のニルス・ナウマン(Nils Naumann)の「Deutsche Welle」記事:Online plagiarism hunters track doctoral frauds | Germany | DW.COM | 17.05.2011
④ 2016年3月25日:藤井基貴、田中奈津子「ドイツの研究倫理:抄訳『DFG提言』(2013) : 一部改定と「内部告発」項目の追加」、静岡大学教育研究. 12, p. 11-23、URL http://doi.org/10.14945/00009467、PDF
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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