ヒョンチョル・イ、이현철、李眩*、(Hyun Chul Lee)(韓国)

2016年9月30日掲載。

ワンポイント:2008年に調査が始まり、データねつ造で論文撤回なのに、大学は2か月の停職処分で、処分期間後、定年まで大学教授として教壇に立った。納得しがたい事件。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

images2ヒョンチョル・イ、이현철、(Hyun Chul Lee、写真出典)は、韓国の 延世(ヨンセ)大学(Yonsei University)・医学部・教授で、医師である。専門は内科(糖尿病)である。

ヒョンチョル・イの漢字名は「李眩*」(*は、金へんに彦)だが、ブログのソフトが「金へんに彦」の漢字をサポートしていない。スミマセン。

2000年11月、イ教授(Lee HC)は後に問題視される「2000年のNature」論文を発表した。

2008年3月(58歳?)、研究室のハン研究員が「2000年のNature」論文の結果を再現できないことから解雇されたが、データねつ造・改ざんと延世(ヨンセ)大学に公益通報した。通報を受け、延世(ヨンセ)大学は研究倫理真実性委員会を設置し調査した。

2008年8月21日(58歳?)、延世(ヨンセ)大学・研究倫理真実性委員会は、中間報告で、「写真のねつ造あり、論文の資格なし」とし、翌年2月、停職2か月の懲戒処分を科した。停職が終わると約7年間、2015年2月(65歳)の定年退職まで、イ教授(Lee HC)は延世(ヨンセ)大学・医学部教授として教壇に立っていた。

この事件の日本語解説はたくさん(3つ以上)あった。「東亜日報」の記事が詳しい。「東亜日報」「中央日報」の文章を本文に引用した。

なお、延世(ヨンセ)大学は、「Times Higher Education」の大学ランキングで韓国第7位、アジア第37位の大学である(Asia University Rankings 2016 – Times Higher Education)。

1280px-underwood_hall韓国の 延世(ヨンセ)大学(Yonsei University)。写真出典

  • 国:韓国
  • 成長国:韓国?
  • 医師免許(MD)取得: xx大学
  • 研究博士号(PhD)取得:xx大学
  • 115118_34496_58男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。2015年2月の定年退職時に65歳と仮定した。韓国の大学教授の定年は一般には65歳です
  • 分野:糖尿病
  • 最初の不正論文発表:2000年(50歳?)
  • 発覚年:2008年3月(58歳?)
  • 発覚時地位:延世(ヨンセ)大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はイ教授チームの研究員で、論文結果を再現できないと訴え、解雇されたハン研究員である。ハン研究員が論文ねつ造疑惑を提起し、延世(ヨンセ)大学に公益通報した
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①延世(ヨンセ)大学・研究倫理真実性委員会
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:パブメドの論文リストでは2報撤回
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:辞職せず

●2.【経歴と経過】

83452_14626_2557主な出典:

  • 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。2015年2月の定年退職時に65歳と仮定した。韓国の大学教授の定年は一般には65歳です
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業。医師免許。
  • 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
  • 19xx年(xx歳):延世(ヨンセ)大学・医学部・教授
  • 2000年(50歳?):後に問題視される「2000年のNature」を発表した
  • 2008年3月(58歳?):元・研究員ハンの告発を受け、延世(ヨンセ)大学・研究倫理真実性委員会が調査開始
  • 2008 年8月21日(58歳?):延世(ヨンセ)大学・研究倫理真実性委員会は暫定報告書を発表し、「論文の資格なし、写真のねつ造あり」とした。
  • 2009年2月(59歳?):延世(ヨンセ)大学はイ教授を停職2か月の懲戒処分。イ教授は辞職せず、2か月後、教授を継続
  • 2015年2月 (65歳?):延世(ヨンセ)大学を定年退職
  • 2015年10月? (65歳?):ソウルの麻浦区(マポく)に病院開設

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●4.【日本語の解説】

★2008 年8月21日:東亜日報「「ネイチャー」掲載の韓国研究陣の論文、「再現失敗」で初の撤回要請」

出典 → 「ネイチャー」掲載の韓国研究陣の論文、「再現失敗」で初の撤回要請 : 東亜日報、(保存版

画期的な遺伝子治療法を開発し、世界的な科学雑誌「ネイチャー」に研究論文を掲載した韓国内有名大学の研究チームが、論文内容が再現できず、論文の撤回を要請する事態が起こった。

研究再現の失敗で、有名科学雑誌に掲載された論文を撤回したのは初めてであり、韓国科学界の国際信頼の失墜など、影響が予想される。

延世(ヨンセ)大学医学部の李眩(イ・ヒョンチョル)教授(内科)、金燮(キム・ギョンソプ)教授(生化学教室)と研究員2人、計4人の共同研究著者は19日、00年11月にネイチャーに掲載された「新しい遺伝子療法を利用した糖尿病治療」という研究論文の撤回をネイチャーに要請した。

研究責任者の李教授は、電子メールの公文書を通じて、「研究チームはこの8年間、実験の再現のために努力してきたが、再現に失敗した」と明らかにしたが、失敗の原因については説明しなかった。

▲論文の内容

第1型糖尿病治療において、インスリンと類似物質を生産する遺伝子、体内の血糖を感知する遺伝子をつくり、血糖を調節するのに成功したというのが、論文の主な内容だ。

第1型糖尿病は、すい臓がほぼ破壊され、毎日インスリンを投与しなければならない疾患であり、李教授は論文を通じて、すい臓の機能の代わりをする画期的な遺伝子治療法を発見したと発表した。

当時、米国の主要な放送局や新聞が大きく報じ、韓国内メディアにも詳細に紹介された。

同研究は当時、教育科学技術部のブレーン・コリア(BK)21事業から研究費の一部助成を受け、研究チームは、遺伝子治療法を国際特許として登録した。

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李教授は同論文で、ファイザー医学賞、今月の科学技術者賞、科学技術優秀論文賞、仁村(インチョン)賞(科学部門)などを受賞し、07年には延世大学から年間3000万ウォンの助成を受け、碩座教授(大学が基金を財源に教授として迎え入れた、学問的業績に優れた人物)級の「アンダーウッド教授」に任命された。

▲再現性の論議

同論文で博士学位を取得したK研究員が、01年カナダの研究院に移った後、問題が起きた。

K研究員に代わって研究室に採用されたP研究員は、論文再現の実験を続けたが相次いで失敗し、研究能力に対する責任を問われ、06年2月に解雇された。

P研究員は、論文の内容どおりに遺伝子をつくることに成功したが、論文内容のように遺伝子を実際に動物に注入した時、血糖を減らす結果を導き出せなかった。

しかしP研究員は、「論文の再現の失敗は研究能力が原因ではなく、論文に問題があったためだ」と主張し、李教授と葛藤したという。

李教授は、「P研究員が論文を口実に別の『要求』をし、聞き入れなければ、論文の問題を外部に流すと圧力をかけた」と話している。

李教授は、「論文内容が再現されなかったため、撤回を要請したのであって、論文が捏造されたのではない。研究を実質的に進めたK研究員は、『再現の失敗の理由がまったくわからない』と話している」と伝えている。

▲延世大学、調査に着手

延世大学の研究倫理真実性委員会は3月から、研究に関係した研究員に対して、論文が捏造されたかどうかの調査を実施してきた。

委員会は4日、暫定報告書を通じて、「7年以上、研究実験の再現が成功しなかったことを確認した。科学的論文の最も重要な要素である再現性が欠如したという事実は、論文としての資格に達していないということだ。一部の実験写真が捏造された事実も発見された」と明らかにした。

★2012年6月18日:中央日報「温情主義が育てた“論文盗用コリア”」

出典 → 温情主義が育てた“論文盗用コリア” | Joongang Ilbo | 中央日報 (保存版) https://archive.is/qoOcf

延世大医大のイ・ヒョンチョル教授チームは00年11月、「天然インスリンと似た機能をする類似インスリンを開発した」として世界的な科学専門誌「ネイチャー」に論文を掲載した。しかし08年4月、イ教授チームに解雇されたハン研究員が論文ねつ造疑惑を提起し、真偽調査が始まった。

延世大側は当時、「研究倫理真実性委員会の調査が終れば、イ教授に責任を問う」と明らかにした。イ教授は同年8月、「ネイチャー」に論文の撤回を要請した。続いて疑惑提起から10カ月が過ぎた09年2月、委員会はイ教授に対して停職2カ月の懲戒処分を下し、同年4月に論文も撤回された。すべての事態はこれで終わった。イ教授は現在も教壇に立って後輩の学者を教えている。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

「2000年のNature」論文の問題点とネカト発覚に至る経緯は【4.日本語の解説】に記述されているので、繰り返さない。

【4.日本語の解説】で引用した「東亜日報」の記事が詳しい。「東亜日報」を参照してください。

以下は、論文の書誌情報です。

問題視されたイ教授(Lee HC)の「2000年のNature」論文は以下の通り。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年9月29日現在、パブメド(PubMed)で、ヒョンチョル・イ、이현철、李眩、(Hyun Chul Lee)の論文を「Hyun Chul Lee [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の256論文がヒットした。

2016年9月29日現在、撤回論文は2報あった。本記事で問題にされた「2000年のNature」論文は、2009年4月号で撤回されていた。他にもう1つ、「2004年のDiabetes Res Clin Pract.」論文も、2005年に撤回されている。

●7.【白楽の感想】

《1》処分が甘い

6-5イ教授(Lee HC)はクロなのだから、停職2か月の懲戒処分では甘すぎる。というか、こういう処分をするから研究ネカトを根絶する文化が育たない。

「2000年のNature」論文のお陰で、李教授は、ファイザー医学賞、今月の科学技術者賞、科学技術優秀論文賞、仁村(インチョン)賞(科学部門)などを受賞し、2007年には延世大学から年間3000万ウォンの助成を受け、碩座教授(大学が基金を財源に教授として迎え入れた、学問的業績に優れた人物)級の「アンダーウッド教授」に任命された。(【4.日本語の解説】で引用した「東亜日報」の記事)

処罰として、受賞した賞金、獲得した研究費の数倍のお金を罰金として返納させる。名誉や昇進や碩座教授も金額に換算し、数倍にして返納させる。

そうしなければ、これでは、どう見ても、ネカト得です。

と、韓国の処分の甘さを指摘したが、日本も同様かそれ以上に甘い。大阪大学の事件では教授の処分は、わずか停職14日である。

《2》正直者がバカをみる

%e3%83%92%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%81%e3%83%a7%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%82%a42イ教授チームのハン研究員が「2000年のNature」論文の結果を再現できないことから、イ教授に問題点を指摘した。結果として、ハン研究員は解雇された。

その後、ハン研究員がデータねつ造・改ざんと延世(ヨンセ)大学に公益通報したことで、延世(ヨンセ)大学は研究倫理真実性委員会を設置し調査した。

第一追及者のハン研究員はその後、どんな人生を送っているのかわからない。

しかし、公益通報という正しいことをしたのに、ハン研究員は報われなかった。一方、不正をしたイ教授は定年まで大学教授にとどまり、その後、病院を開設している。世の中のあり方として、ひどく、おかしくないか?

「正直者がバカをみる」。ここを、是非、変えていただきたい。

●8.【主要情報源】

① 2008 年8月21日、「東亜日報」記事:「ネイチャー」掲載の韓国研究陣の論文、「再現失敗」で初の撤回要請 : 東亜日報★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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