2020年6月17日改訂
ワンポイント:2012年10月に開始したフランスの組織だが、法的にはパブピア基金(PubPeer Foundation)として米国・カリフォルニア州に登録した非営利組織。全世界の全分野の学術論文を議論するウェブサイト。活動資金は寄付で成り立っている。研究者しかコメントできないが、匿名でコメントできることから、ネカトを指摘するサイトとして発達し、世界最強のネカトハンター組織になった。活動は世界のネカト発覚・追及に革命的な変化をもたらした。STAP細胞論文のネカトを最初に指摘したサイトである。出版後査読(post-publication peer-review)の1つ。
【訂正】
・2021年5月1日:読者より、「登録の際、所属機関や第一著者の論文は必要なく、単に匿名でアカウントを作成し、論文へコメント投稿が可能」だそうです。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.パブピア(PubPeer)の要点
2.日本語の解説
3.運営者
4.活動内容と利用法
5.活動成果
6.インタビューに答えて
7.白楽の感想
8.情報
8.コメント
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●1.【パブピア(PubPeer)の要点】
学術誌に掲載された全世界の全分野の学術論文の内容を匿名可で議論するソーシャルメディア。結果として、世界最強のネカトハンター組織になった。米国の非営利組織。
- サイト名:パブピア(PubPeer)
- サイト:https://pubpeer.com/ 閲覧は無料。ロゴ出典
- 現在の活動:とても活発
- 分類:ネカトハンター、出版後査読(post-publication peer-review)
- 対象:世界。全分野
- 活動:学術誌に掲載された論文の内容を匿名可で議論するソーシャルメディア。結果として、世界最強のネカトハンター組織
- 言語:英語
- コメント者:研究者
- 言語:英語
- 成果:コメント数は35,000回以上(2015年8月31日)、4,254学術誌の31,848論文 (2020年6月14日:PubPeer Journal Dashboard)
- 学術誌ダッシュボード(PubPeer Journal Dashboard、計器盤)導入(2017年12月11日):2017年12月11日の撤回監視記事:New feature aims to draw journals into post-publication comments on PubPeer – Retraction Watch at Retraction Watch
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- 運営者:フランスや米国(推定)の科学者
●代表者:ブランドン・ステル(Brandon Stell 、写真出典)(フランス国立科学研究センターの神経科学者) - 連絡先:contact@pubpeer.com、
- 組織:パブピア基金(PubPeer Foundation)という米国・カリフォルニア州に登録した非営利団体が母体
- 郵便:236 W PORTAL BOX 223, SAN FRANCISCO, California, United States
- スタッフ総数:5人
- 経費:10万~15万ドル(約1,000万~1,500万円)/年:Pubpeer Foundation – Nonprofit Explorer – ProPublica
- 収入:寄付。寄付するなら → Billing Information – PayPal
または毎月定額 → PubPeer is creating PubPeer.com | Patreon - フェイスブック:https://www.facebook.com/PubPeer ページへの合計いいね!504 人(2016年7月7日)、957 人(2020年6月14日現在)。フォローは997人(2020年6月14日現在)
- ツイッター:https://twitter.com/PubPeer フォローは6,843人(2016年7月7日)、2.1万人(2020年6月13日現在)
- 活動期間:2012年10月に開始し、約12 年2 か月 11 日経過(日数は不正確)
●2.【日本語の解説】
★ウィキペディア日本語版:白楽が執筆 したので本記事には再掲しない。→ パブピア – Wikipedia
★2016年1月5日のスネハ・クルカルニ(Sneha Kulkarni)の「エディテージ・インサイト(Editage Insights)」記事 :「PubPeer開設者が氏名を公表し、新たな非営利団体として再組織 | Editage Insights」
物議をかもしていた話題の掲載後査読ウェブサイト、PubPeer(パブピア)の開設者の姿がようやく明らかになりました。開設者らは、8月31日に掲載された記事の中でその正体を明らかにし、PubPeerを非営利のPubPeer Foundation(パブピア基金)として再組織することを発表しました。
開設から3年を経たこのウェブサイトは、フランス国立科学研究センター(CNRS)の神経科学者ブランドン・ステル(Brandon Stell)氏、リチャード・スミス(Richard Smith)氏、ジョージ・スミス(George Smith)氏(ともに所属先非公開)によって開設されました。基金の理事会メンバーには、会計のボリス・バーバー(Boris Barbour)氏と秘書のガボー・ブラスジョ(Gabor Brasnjo)氏も名を連ねています。
ブログ記事によると、「The PubPeer Foundation」は2014年12月、「コミュニティの交流に役立つ画期的な方法を生み出し、科学研究の質を向上させる」ことを目的として、カリフォルニアで非営利団体として登録されました。
ステル氏は2012年に匿名でウェブサイトを立ち上げましたが、その理由について「うまくいかなかった場合を考え、自分の名前とウェブサイトをつなげたくなかった。うまくいったとしても、自分の論文に対するコメントを不快に思った人から、そのようなコメントを削除するような圧力を受けることになるかもしれないと考えた」と述べています。
創設者たちが匿名をやめようと考えたのは、「ウェブサイトを改善・拡張するために資金援助を求めたかった」ためです。また、全員が本名を隠したまま非営利団体として登録することが難しかったためだと思われます。
インタビューでステル氏は、コロラド大学ボールダー校の学部生だった時にジャーナル・クラブに参加し、出版された論文について議論したり意見を戦わせたりしたことを回想しています。これらの議論から、出版された研究について討議することができるフォーラムを立ち上げることを思いつき、やがてPubPeerの開設に至ったということです。
PubPeerは、広く学術界からの注目を集めました。開設以来、同ウェブサイトが受け取ったコメント数は35,000件以上に上ります。ユーザーは匿名でコメントすることができるようになっています。
無記名でコメントできるという選択肢は論争の的となり、自分の研究論文に対する侮辱的なコメントのせいで職を失ったとして、ある研究者による名誉棄損訴訟にまで発展したこともありました。しかしながら、ステル氏はそのような出来事にも平静を保っています。彼は、「常に訴訟の危険はありますが、批判への対応には訴訟ではなく、生データをもって応じる人が増えることを期待します」と述べています。
ステル氏は、PubPeer Foundationの設立によって「出版後査読のコミュニティが成長し、科学の質が更に高まっていくだろう」と考えています。
★《まんが1》
「毎日まんがニュース」がパブピア(PubPeer)を取り上げ、STAP論文の不正を最初に指摘したと述べている。
作画:サトミ☆ン
出典 → 2014年4月14日の「論文の査読って?の巻|毎日まんがニュース」の4頁目、(保存版)(保存版②)。
●3.【運営者】
★代表者(実名):ブランドン・ステル(Brandon Stell)(フランス国立科学研究センターの神経科学者、写真出典)
●スタッフ:(仮名)ジョージ・スミス(George Smith、所属先非公開)
●スタッフ:(仮名)リチャード・スミス(Richard Smith、所属先非公開)
●会計:ボリス・バーバー(Boris Barbour)(フランスの高等師範大学生物学研究所 l’Institut de Biologie de l’École normale supérieure の神経科学者、写真出典)
●秘書:ガボー・ブラスジョ(Gabor Brasnjo)
★《動画1》
2015年9月30日、ストックホルムのスウェーデン王立科学アカデミーの「Publish and perish 」講演会でパブピア(PubPeer)代表者のブランドン・ステル(Brandon Stell)が講演(保存版)。「Publish and perish 7(8) Brandon Stell – YouTube」(英語)、29分24秒
Sveriges unga akademiさんが2015/10/05 に公開
★《動画2》
パブピア(PubPeer)代表者のブランドン・ステル(Brandon Stell)が講演。「Post-publication review and curation with PubPeer and Peeriodicals – Brandon Stell at NOW2019 – YouTube」(英語)、19分42秒
Institut du Cerveauさんが2019/02/12に公開
●4.【活動内容と利用法】
主な出典:PubPeer – Search publications and join the conversation.
★概要
「パブピア(PubPeer)」の意味:「Pub=出版された論文(意訳)」+「Peer=研究者仲間の審査・査読(意訳)」なので、「出版後の論文を研究者仲間で審査する」サイトとなる。
つまり、出版された学術論文について、研究者の間で有益な議論をするためのオンライン・コミュニティーである。
対象とする学術論文は、ドイ(DOI)、PMID、アーカイヴ(arXiv)IDなど個々の論文が特定できる論文。分野は、全分野の論文が対象である。
―――脚注 はじめ―――
*DOI論文のDOIは、デジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier)で、論文の背番号(ID)である。アルファベット・数字・記号の組み合わせからなる。まともな学術論文のすべてにDOI番号がついていて、DOI番号で論文を特定できる。2009年12月1日、ロンドンで創設の国際組織・DataCite がDOI番号を付与している。
**アーカイヴ(arXiv)論文のarXiv(アーカイヴ、archiveと同じ発音)は、主に物理学、他に数学、計算機科学、量的生物学などの、プレプリントを含む様々な論文が保存・公開されているウェブサイト。(出典:arXiv – Wikipedia)
―――脚注 おわり―――
★閲覧する
閲覧は、無料・無登録で誰でもできる。
以下にトップページを示す。
① 検索語(専門用語、または著者名)
上図のトップページに適当な検索語(専門用語、または著者名)を入れ、右の緑色の検索記号をクリックすると、下段に、論文(タイトル、学術誌、出版年、著者)のリストが開く。論文を選んで閲覧する。
② 特定の論文
最初から特定の論文を選択する場合、論文タイトル、DOI、PubMed ID、arXiv ID のいずれかを検索欄に入れ、右の緑色の検索記号をクリックすると、下段に、特定の論文が表示される。
③論文のリンク
パブメドの論文リストやウェブ上の論文に付帯したパブピア(PubPeer)のリンクを読む(2014年4月5日:PubPeer comments now on journal websites! | PubPeer、2014年5月13日:[UPDATED] PubPeer comments now on journal websites! | PubPeer)。ただし、ブラウザーが、Chrome、Firefox、 Safari の必要がある。
以下はパブメドの論文リスト例。オレンジ色が付帯したパブピア(PubPeer)のリンク(出典:パブピア)
以下はネイチャー論文サイト例。オレンジ色が付帯したパブピア(PubPeer)のリンク(出典:パブピア)
★コメントする
コメントするには、登録が必要である(無料)。
登録できる人は、学術論文を出版したことがある人で、その第一著者または連絡著者だけである。コメントを送付できる電子メールアドレスは、大学・研究機関だけである。従って、実質上、コメントできる人は大学・研究機関の研究者だけになる。
2021年5月1日:読者より、「登録の際、所属機関や第一著者の論文は必要なく、単に匿名でアカウントを作成し、論文へコメント投稿が可能」だそうです。
以下の出典:パブピア。
- すべてのコメントは中央管理され、検索可能なオンライン・データベース化している。
- コメントは、コメントされた論文の第一著者と連絡著者、論文を討論している小グループ、に通知される。
- コメントの質によっては精査が必要なので、ウェブに載るのに1週間ほどかかる。論文データに関係する以外の個人攻撃、噂、不平・不満は採択されない。
★ コメントした人の匿名性の保持:裁判
2014年8月、「パブピア(PubPeer)」で研究ネカトと指摘された米国の研究者・フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)は、他大学への移籍が取り消された。そのことによる損害について、「パブピア(PubPeer)」の匿名者を法的に訴えると、パブピア運営者を脅迫した。
2014年10月、サルカールは、「パブピア(PubPeer)」に匿名で指摘した人の身元を開示するようにと、実際に、裁判に訴えた。
2015年3月5日、裁判所は、結局、匿名を維持することを認めた(Judge rules most of PubPeer’s commenters can remain anonymous – Retraction Watch at Retraction Watch)。
★研究ネカトを指摘する際の注意点
パブピア(PubPeer)は、研究ネカトの指摘に特化しているサイトではないが、研究ネカトの議論も歓迎している。しかし、発言には次のような注意が必要である(パブピアのサイト:Suspected research misconduct and poor research practices)(保存版)。
- 第1.著者を非難しない。
- 第2.事実を記載する。その事実も、他の読者がアクセスできる情報(つまり、出版物)だけにする。
- 第3.事実の記述例。
〇「四角で囲ったバンド Xの背景は、他のバンドの背景と異なるように見える( “band X appears to be surrounded by a rectangle with different background to the rest of the gel”)」
✖「著者は別のバンドを意図的に張り付けた( “The authors have deliberately pasted in a different band”)」 - 第4.画像の異常・正常の基準は以下を参照。
① 「ネイチャー」誌の画像公正基準(英語)(保存版)② 2011年のキールマー(V. Kiermer )の発表、保存版(英語) - 第5.記述は、法的に訴えられない配慮をする。法的に強制されれば、コメントした人の個人情報を開示しなければならない。
もし「X 氏は意図的にデータを改ざんした( “X deliberately falsified the data”)」と書いたとする。 例え、あなたが、 X 氏の生データを持っていても、あなたが、裁判で、改ざんを証明するのは、ほぼ不可能である。つまり、「意図的」をどう証明するのか? - 第6.次の言葉とその類義語を使わない(白楽が加筆)。
「意図的、故意、知りながら(deliberately)」、「ねつ造(fabrication)」、「改ざん(falsification)」、「盗用(plagiarism)」、「ネカト(research misconduct)」、「不正、だます、虚偽、偽造」、「ずさん(sloppy)」など
●5.【活動成果】
●【脚光を浴びた論文事件】
★2013年5月、ミタリポフ事件
2012年10月にパブピアが活動を開始し、その7か月後の 2013 年5月、米国・オレゴン健康科学大学の シュークラト・ミタリポフ(Shoukhrat Mitalipov、写真出典)の幹細胞論文に疑惑を呈するコメントがされた。
この疑念で、パブピアは、一躍、有名になった。
→ 2013 年5月23日のデイヴィット・シラノスキー(David Cyranoski)とエリカ・ヘイデン(Erika Check Hayden)のネイチャー記事:Stem-cell cloner acknowledges errors in groundbreaking paper : Nature News & Comment(保存版)。
ミタリポフ事件は、 → 「間違い」:シュークラト・ミタリポフ(Shoukhrat Mitalipov)(米) | 白楽の研究者倫理。
★2014年1月:STAP細胞(小保方)事件
2014年1月29日、パブピア(PubPeer)が理化学研究所の小保方晴子のSTAP論文の不正を最初に指摘した。日本で、そして世界で大騒動になったネカト事件である。
●【議論(コメント)が多い学術誌一覧】
★統計値:2014年6月21日、2016年7月4日、2020年6月14日
2020年6月14日時点で、4,254学術誌の31,848論文にコメントされた (2020年6月14日:PubPeer Journal Dashboard)
過去は、2014年6月21日に1,088種の学術誌がリストされていた。20回以上議論(コメント)されていた学術誌を以下にリストした。2016年7月4日に100回以上議論(コメント)されていた学術誌を追加した。2016年7月4日での学術誌総数は数えていない。サイト → PubPeer – Journals which have activity
学術誌(赤字)をクリックすると、パブピアの該当学術誌のページに飛ぶ(2020年6月14日時点、この機能はなくなった)。数値は、議論(コメント)数。学術誌のABC順
変化:①2016年7月4日から見た。最近の2年間で、コメント数は大きく増えた。「Cell」で40倍、「J. Biol. Chem.」で9.0倍、「Nature」で23倍、「Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.」で9.8倍である。
② 2016年7月4日 の2年前にリストにあがらなかった学術誌のコメント数も増えた。例えば、「Plant Physiol.」は一気に428回と増えた。
③ 2020年6月14日時点では、コメント数ではなく論文数になっていた
●6.【インタビューに答えて】
★ 2013年5月24日:ドイツの新聞・ディー・ツァイト (Die Zeit)の「パブピア(PubPeer)」インタビュー記事:Klonstudien-Panne: “Wer Forscher offen kritisiert, riskiert seine Karriere” 。英語訳(出典:PubPeer – About Usの2014年1月7日保存版)。
運営者は、この時(2013年5月24日)、匿名だった。ブランドン・ステル(Brandon Stell)だと名乗り出たのは、2015年8月31日である。
● サイト管理者はどんな人ですか?
若手研究者です。研究キャリアを積むうえで、出版後の論文に実名でコメントするのは危険だと思っています。他人の研究に疑惑を表明するのは若手研究者のキャリアにマイナスだから、匿名で活動しています。
● 論文には容赦できるエラーと容赦できないエラーがありますか?
もちろんあります。例えば、ねつ造は容赦できない。図の表示を間違えるとか複雑な解釈の中の小さな論理的間違いは、明らかに一般的な間違いで容赦できます。
● 論文にコメントする人は匿名だけど、どんな人ですか?
誰でも、論文について質問や意見を述べることができます。コメントはデフォルトで匿名です。アカウントを得るには、過去に出版した論文があることと、大学や研究所のメール・アドレスが必要です。なお、匿名性をより強く望む人、あるいは大学や研究所のメール・アドレスを望まない人は、モデレーターを通して、コメントできます。
● コメントする人を特定できますか?
アカウントを得る時に使用した大学や研究所のメール・アドレスは保存されています。そのメール・アドレスから探ることはできますが、していません。ただ、裁判所に命令されれば開示しないわけにはいきません。サーバーが攻撃されて情報が漏洩することもありえます。しかし、可能な限り、ユーザの身元を保護するつもりです。情報を売りませんし、暴露することはありません。
● 誰が議論しているか記者にも明かさないで、サイトの信頼性に問題はないのですか?
信頼性は、結局、コメントの質の問題で、コメントする人(多くは科学者です)に依存します。コメントのいくつかは、不明瞭だった研究内容に関するもので、それに対し、著者が説明するというとても有益な議論になっています。
● コメントしている人の科学的バックグランドの確実さは?
コメントの質は読者自身が自分で判断すると想定しています。しかし、科学者は、一旦、自分が興味をもっている事項が指摘されると、その事項に焦点を絞ります。コメントが有益な場合、誰がコメントしたかとか、コメントした人のバックグランドがどんなかは重要でなくなります。ただ、アカウント名(「Unregistered submission」ではなく「Peer 1」「Peer 2」「通常の姓名」など)は、論文の著者か、大学・研究所のメール・アドレスをもっている人です。ハンドルネームをアカウント名に認めていません。
● プラットフォームに投稿された情報の信頼度をどのようにコントロールしていますか? 同じ分野の研究者が、競争相手の研究者を非難し、信用を傷つけることがあるでしょう。
同じ分野の「競争者」は、専門知識があり否定的なコメントをするでしょう。しかし、議論には説得力が必要です。さらに、著者(また他の研究者)は、否定的なコメントを自由に防御できます。私たちの目標は、これらの議論を一か所に集めて、誰もがアクセスできるようにすることです。
● 科学研究は論文が出版されてからも審査する必要があるのですか?
出版されたからといっても、完璧な論文はほんの少ししかありません。完璧でない点は、単純な誤解(含・コメントする人)もあるでしょうが、統計誤差や論理的矛盾から完全な不正まで幅広くあります。しかし、これらの問題を伝える従来の方法は、学会での非公式の議論やローカルなジャーナル・クラブですが、非常に非能率的です。しかも、より広いコミュニティーあるいは専門外の人々は、この情報にアクセスできません。
また、論文に否定的なコメントをするのは危険です。ほとんどの研究者は危険を冒してまで同じ分野の研究者に否定的な意見を述べたくないし、実際には、そのような意見を述べるチャンネルはほとんどありません。さらに、ほとんどの研究者は、公表された結果と直接矛盾する論文を発表する時間、費用はありませんし、発表して生じるトラブルは避けたい。少数の学術誌には「読者からのコメント欄」がありますが、あまり機能していません。
● 従来の査読では不十分ということ?
従来の査読も論文の質を改善しますが、査読があるために出版に時間がかかりすぎますし、査読ではすべてのエラーを把握できません。つまり、従来の査読は明らかには不完全です。
私たちは、学術誌のブランドではなく論文の内容に注目することで、パブピアが査読の有効な補足になることを望んでいます。
● 論文が出版される前にオープンに議論はできないのと同じように、ほとんどの論文は一般大衆が自由にアクセスできません。すべての論文がオープン・アクセス(ウェブで無料閲覧できる)になる方がよりよい議論になると思いますか?
私たちはオープン・アクセスを望みます。読めない論文は議論できません。
★ 2015年8月31日:エヴェン・キャラウェイ(Ewen Callaway)の「ネイチャー」記事:Pioneer behind controversial PubPeer site reveals his identity : Nature News & Comment (保存版)
運営者は、2015年8月31日に、ブランドン・ステル(Brandon Stell)だと名乗り出た。それで「ネイチャー」が記事にした。
前記「2013年5月24日:ドイツの新聞」の内容と重複しない部分を以下に記述した。
● なぜ匿名での運営をあきらめたのですか?
私達は、パブピアを運営するための財団を設立したかったのです。サイトは、過去3年間で確立し、私達が予想した以上に成長し続けています。私達は、その成長を手助けしたいのです。そのためには、お金を集める必要があります。非営利組織を設立するには、匿名で運営し続けることはできないのです。
私は、パブピアがみっともなく崩壊するという心配を、もう、していません。
● コメンテーターの身元を開示することが、いつかありますか?
そうなるかどうか、わからないので、はっきりお答えできません。理想的な世界では、私達は、実名で論文内容を議論できれば快適です。しかし、あいにく、現実の世界では、匿名でない限り、自分の論文内容を他人がコメント(疑念の指摘)するのが不愉快だと思う莫大な数の人々が世の中にいます。
私達は、匿名訴訟に直面しました 。2014年10月、癌研究者のフォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)が、パブピアのコメンテーターの身元開示を法的に訴えたのです。この訴訟で、いろいろなことを学びました。私達は、設立したパブピア財団からの資金で、ユーザー・アカウントの匿名性を守り・支えたいと考えています。
● パブピアは噂と汚点を素早く広め、研究者のキャリアを破滅している、と批判する人もいますが?
パブピアには、「コメントは事実に基づかなければならない」という厳格なルールがあります。コメントする人々はこのルールを厳格に守っているので、煽りネタ(trolling)や根も葉もない噂が広がることはありません。私たち運営者も、非常に注意深く、この点をチェックしています。
● パブピアがネカト疑惑を指摘する重要なサイトになると期待していましたか?
いいえ。開設時に予想もしなかったのですが、現在、ネカト疑惑を指摘するコメントの多さに驚いています。既存の他の手段では、ネカト問題の解決に効果的ではないのは明らかです。パブピアは実験のデザインから結果の解釈までのすべての議論に適しているので、こうなったのでしょう。
● パブピアの将来は?
出版後査読(post-publication peer-review)は、研究システムを完全に変えると思います。研究者は、研究成果をすぐに公開したい。公開後、研究内容が査読される。現行の査読とは異なる方法ですが、研究システムは、この理想のシステムの方向に進むと思います。パブピアはその方向への変革を促進すると思います。
●7.【白楽の感想】
《1》コメンターの匿名
研究ネカトを実名で指摘するのは、現在でも、日本だけでなく欧米でも危険が伴う。
それで、パブピアは匿名(anonymous)で行ない、仮名や実名が使えなかった。
しかし、2017年6月に仮名や実名(signed account)が使えるシステムに変更した。 → ①:2017年6月15日の撤回監視記事:Meet PubPeer 2.0: New version of post-publication peer review site launches today – Retraction Watch at Retraction Watch。②:2017年6月18日の「 Scientist 」記事: PubPeer Launches Updated Site | The Scientist Magazine®
《2》運営者の匿名
2012年10月に開始した当初から運営者は匿名だった。しかし、約3年後の2015年8月、代表者1人が身元を開示した。
大きなきっかけは、2014年10月、癌研究者のフォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)が、パブピアのコメンテーターの身元開示を、法的に訴えたのからだ。2015年3月5日、結局、裁判所は匿名を維持することを認めたが、もっと強力な訴訟が起こされるかもしれない(Judge rules most of PubPeer’s commenters can remain anonymous – Retraction Watch at Retraction Watch)。
裁判で勝訴した5か月後、身元を開示した。
結局、組織として強く大きくするには少なくとも代表者の1人は、実名(戸籍名)を開示しなければ、社会的信用と資金が得られないということだ。
ある意味、当然の成り行きで、匿名を保ったままネカトハンター活動を続けられない。
《3》研究活動とパブピア活動
「パブピア(PubPeer)」活動と大学・研究所の業務の関係はどうなっているのだろう? 論文の査読、研究内容の議論・討論、研究情報交換は、研究活動である。
しかし、この場合、匿名だとどうなるのだろう?
運営者と投稿者(コメンテーター)の両方にこの問題が発生する。
研究活動であっても匿名では大学・研究所の業務とはされないだろう。論文の査読は匿名だが、編集局に対しては実名で、査読依頼から査読結果を提出するまで実名で対応する。
「サイエンス・フラウド(Science Fraud)」もかつて、匿名で運営されていた。しかし、匿名でなく身分が、ロチェスター大学医学部・準教授のポール・ブルックス(Paul Brookes)と暴露された。
この時、ブルックスは所属大学(米・ロチェスター大学)と話し合い、「サイエンス・フラウド」活動は、学外の無報酬コンサルタントという扱いに落ち着いた。
ロチェスター大学の方針で、学外の無報酬コンサルタントなら1週当たり1日まで使ってよいそうだ。活動していたブルックスは、自費でコンピュータを購入しているとのことだ。しかし、サイトを閉鎖してしまった。
《4》メリット?
ネカトハンター組織の運営者にどんな利益があるのだろう? 面白い、ワクワクする、社会正義を貫ける。そうだろう。それは大きな利益だろう。白楽の質問はキャリア上あるいは金銭上の利益である。
代表者のブランドン・ステル(Brandon Stell、写真出典)は、講演したり、存在感と尊敬が得られ、キャリア上あるいは金銭上の利益がある。他の2人の運営者は、匿名である。匿名である限り、キャリア上の利益も金銭上の利益も得られない。
活動は学外の無報酬コンサルタント扱いになるのかどうかわからないが、匿名だと、「パブピア(PubPeer)」活動が所属大学・研究所の承認を得られない。外部コンサルタント扱いにならない。実際はどうかわからないが、建前上は、所属大学・研究所の設備・消耗品・労働時間を使うことは許されないハズだ。
面白い、ワクワクする、社会正義を貫けるだけの無料奉仕では、時間・労力・金銭・危険の負担がかかりすぎる。本業の生命科学研究はおろそかになる。どうするのだろうか? いずれ、システムを商業化あるいはトムソン・ロイターなどの企業に売却するのだろうか?
●8.【情報】
- 2014年6月23日掲載、2016年3月25日保存:1‐4‐2.パブピア(PubPeer) | 研究倫理。2016年7月8日改訂版の保存
- 2019年6月16日のElisabeth Bikの記事:PubPeer – a website to comment on scientific papers – Science Integrity Digest
- PubPeer – Wikipedia
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。 ーーーーーー
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