大学:盗用放置:ベリンダ・フロスト(Belinda Frost) 対 サザン・ユタ大学(Southern Utah University)(米)

2017年5月15日掲載。

ワンポイント:サザン・ユタ大学の非常勤講師(女性)のベリンダ・フロスト(Belinda Frost)が、ESLクラスの学生の盗用をサザン・ユタ大学に15か月も訴えていた。しかし、大学は放置していた。2012年、フロストは、学生の盗用レポートに合格点を出した同僚講師の採点を証拠物として、大学とメディアに通報し、大学を辞職した。メディアが大騒ぎし、ようやく盗用対策に乗り出したお粗末なサザン・ユタ大学。この事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日の第10位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

米国のサザン・ユタ大学(Southern Utah University、写真出典)がESLクラスの学生の盗用を放置した事件である。

ESLクラス(English as a Second Language)は、大学の学部・大学院に入学する前、英語を母国語としない人(留学生など)を対象に、英語教育を行なうクラスである。

2011 年8月、40歳の女性・ベリンダ・フロスト(Belinda Frost)は、サザン・ユタ大学のESL非常勤講師に採用された。

それから1年以上、目に余る学生の盗用について対処するよう、何度もESL責任者とサザン・ユタ大学に訴えてきたが、ESL責任者とサザン・ユタ大学は放置していた。

2012年11月、学生の盗用レポートに合格点を出した同僚講師の採点を証拠物として、サザン・ユタ大学とメディアに送付し、ベリンダ・フロストはサザン・ユタ大学を辞職した。

この事件をメディアが大々的に取り上げた。

サザン・ユタ大学はようやく盗用に対処するようになった。

この事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日の第10位である。

サザン・ユタ大学(Southern Utah University)。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:サザン・ユタ大学
  • 集団名(英語):Southern Utah University
  • 事件人数:
  • 分野:英語教育
  • 不正年:2012年以前のウン年間
  • 発覚年:2012年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はサザン・ユタ大学のESL非常勤講師のベリンダ・フロスト(Belinda Frost)。大学とメディアに通報
  • ステップ2(メディア): 地元新聞「Salt Lake Tribune」、多数の新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①サザン・ユタ大学
  • 不正:盗用
  • 不正数:まん延
  • 被害(者):
  • 結末:改革。盗用許容講師は停職(解雇?)

●3.【事件の経過と内容】

★ベリンダ・フロスト

2011 年、サザン・ユタ大学は、以前はESL教育を外部機関に依頼していたが、自前で行なうことにした。

2011 年8月、ベリンダ・フロスト(Belinda Frost、40歳、女性)は、サザン・ユタ大学(Southern Utah University)のESLクラス(英語を母語としない人、English as a Second Language)」の英語の非常勤講師になった。

ESLオフィスは、12人の講師全員の共有室だった。

フロストは、応用言語学の修士号を取得し、それまで、6年間、ESL教育の経験を積んでいた。

しかし、サザン・ユタ大学は、ESL教育の訓練が全くされていない人や、ESL教育の経験が全くない人もESLクラスの講師に採用していた。12人の講師の学歴を具体的に書くと、修士号以上が2人、他分野の学士号取得者が8人、学部生が2人だった。

講師は学歴や経験とは関係なく、授業1時間17ドル50セント(約1,750円)支払われた。授業の準備、問題作成、レポート採点はカウントされていないので、その時間を入れると、フロストにとっては、時給9ドル(約900円)程度だった。

ESLクラスには受講生が182人で、1人の授業料は2万ドル(約200万円)で、受講生は、サウジアラビアからの学生が多かった。

フロストは、ESLクラスの学生に課題を与えると、提出レポートの約5分の1に盗用が含まれていた、と述べている。

フロストは、学生が提出したレポートに盗用を見つけると、不合格にした。しかし、多くの場合、これらの学生は単に別の講師のクラスで授業を受け直して合格点を得るか、不合格にもかかわらず、プログラムを進めていた。

学生は、ウィキペディアなどの英語文章をグーグル翻訳で異なる言語(例えば、アラビア語)へ一度翻訳し、アラビア語翻訳したのを再び英語に翻訳し直し、そのテキストをレポートに貼り付けてきた。ウィキペディアなどの英語文章をそのままコピペすると逐語盗用になって、盗用がバレやすいからである。

フロストはこれらの盗用を大学に報告していたが、大学は1年以上、何も対応してこなかった。

サザン・ユタ大学は、ESL講師に盗用の研修をしていなかった。ユタ州の高校・大学の教員に普通に支給されている盗用検出ソフト「Turnitin」も支給していなかった。

2011年、フロストは、盗用に関する会議をESL講師に提案したが、講師の1人は、「引用なしの流用は、3行以下なら盗用じゃない」という始末だった。

サザン・ユタ大学の規則は、盗用を「意図的あるいは不注意で、他人の作品・文章を自分の作品・文章のように提示する」と定義していた。

ディーン・オドリスコール副学長(Dean O’Driscoll)は、「サザン・ユタ大学は学生が盗用したかどうかの判断と処理を講師に任せてある」と述べている。

★ニーナ・ハンセンの採点

2012 年10月、フロストは、他の講師・ニーナ・ハンセン(Nina Hansen)の採点済のレポートが、間違って、フロストの棚に置かれているのに気がついた。

レポートを見ると、1つは、ほぼウィキペディアの文章をコピペしたものだったが、ハンセン講師は、そのレポートに合格点(B+)をつけていた。また、レポートの1つは、「私は先生の論文を盗用しています」と書いてあった。そのレポートにもハンセン講師は合格点をつけていた。

フロストは、唖然とした。

レポートを学外に持ち出してコピーし、ハンセン講師の棚に戻しておいた。

2012 年11月12日、フロストは、キャンパス警察から窃盗容疑で出頭するよう通知を受けた。

ハンセン講師に提出したレポートを無断で学外に持ち出したのを、ハンセン講師が窃盗だとキャンパス警察に通報したのだ。レポートは返却したが、無断で持ち出したことは事実である。

ハンセン講師は自分の非を指摘されて、仕返しをしたのだ。また、サザン・ユタ大学は、通報者のフロストを放逐したかったのだ。つまり、サザン・ユタ大学がコクハラをした(コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))。

ベリンダ・フロストに杜撰なESL教育だと指摘されたニーナ・ハンセン講師の採点を見てみよう。

すべてのレポートに「盗用(”plagerism”、正確にはplagiarism)」と手書きしてあった。

1つのレポートは、ほぼ全文盗用だが、73点で採点は「C」(合格)である。

1つのレポートは、文法の誤りが多い文章から始まり、その後、第4段落では完璧な英語になっていた。「少し盗用があります」とのメモがついていて、88点の採点だった。第3段落以降は、ウィキペディアの文章のコピペで、ウィキペディアについているハイパーリンクも一緒にコピペしてあるので、ウィキペディアの文章を盗用したことは明白である。

新聞記者の質問に、ハンセン講師は、「常に盗用をチェックしています。盗用を指摘しますが、採点は盗用がなかったと仮定したときの点数をつけました」と答えている。「学生の盗用を大学に報告したか」との記者の質問には返事をしなかった。

フロストは、この採点は、盗用を許容、イヤ、奨励していて、無意味だと述べている。 「レポートの文章が全部盗用だったら、ハンセン講師は、何点つけるのでしょうか? 名前を書けば合格点の「C」が貰えるんですか?」。

★大学の怠慢

2012 年11月14日、ベリンダ・フロストは、サザン・ユタ大学を辞職した。

辞職の理由は、ESLクラスの学生が広範囲に盗用していると、それまでの15か月間に何度もサザン・ユタ大学に伝えたが、大学はまともに対処してこなかった、である。

フロストは「サザン・ユタ大学で働くのは不道徳と感じます。私は辞任しなければならないと思いました」と述べている。

実は、辞職した日、ハンセン講師が合格点をつけた盗用レポートのコピーを、新聞社とESL教育の責任者であるマーク・アトキンス(Mark Atkinson、写真出典)に送付した。

その時、フロストは、「ハンセン講師に提出した学生レポートは盗用なのに無処罰です。ESLプログラムに規範がありません。規範は、ネカト禁止だけでなく、採点基準、教師の資格基準も含まれます」と記した。

フロストは「大学は、これまで盗用に対して何も行なっていません。大学には盗用に関する規則がないので、盗用する学生を処罰することができません」と述べている。

新聞記者の質問に、ディーン・オドリスコール副学長(Dean O’Driscoll)は、「大学は調査を開始しました。既に、ニーナ・ハンセン講師を休職にしています。我々は、フロスト元・講師が提起した疑惑のすべてを調査しています。盗用疑惑に関しては、第三者委員会を設立して、数日中に監査を開始する予定です」、と述べた。

ESLクラスは、大学入学前のプログラムで主に留学生に提供している。受講者はまだサザン・ユタ大学の学生ではないため、サザン・ユタ大学の規則とは別の規則で運営されている。そのため、ESL学生に対して、盗用規則が明確に記載されていなかった。

★サウジアラビア

サザン・ユタ大学のESLクラスの182人の学生の内、サウジアラビア人は158人だった。その158人の授業料は、サウジアラビア政府が払っていた。

サザン・ユタ大学の盗用事件を受けて、サウジアラビア文化代表団(Saudi Arabian Cultural Mission)は、学生が、サザン・ユタ大学のESLプログラムを受講することを禁じた。
→ 2012 年12月2日記事:Saudi Mission Bans Its Students From Troubled Program at Southern Utah U. – The Ticker – Blogs – The Chronicle of Higher Education

★改善

2013年1月、サザン・ユタ大学はESL教育の責任者として、新たにアンドレア・スティーフヴァイター(Andrea Stiefvater、写真出典、ESL教育の博士号所持者?)が着任した。スティーフヴァイターの前職は、ニューヨークのモリスタウン州立大学(Morristown State College in New York)・助教授だった。

組織の名称も「米語文化センター(American Language and Culture Center)」と変えた。

盗用に関する規則は、・・・、白楽は掴んでいませんが、規則を設け、禁止し、盗用者を処罰していると、推察(期待)する。

●4.【白楽の感想】

《1》ネカト禁止意識

サザン・ユタ大学が盗用の規則を設けず、杜撰なESL教育をしていた。だから盗用がはびこっていた。禁止する規則がないアキレタ大学だった。

この事件の記事を分析すると、サザン・ユタ大学の怠慢は明確である。

一方、日本の教育界は大丈夫だろうか?

日本の大学・研究所のネカト規則は、それなりに改善されてきたとはいえ、充分とは思えないケースが大部分である。

まして、中学や高校でネカト禁止教育がされているのだろうか? とういか、大部分の中学や高校にネカト禁止規則がそもそもない。中学教員や高校教員に、そして、文部科学省・初等中等教育局に、ネカト禁止の「意識」も「知識」もないのが実情だろう。

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サザン・ユタ大学。写真出典

●5.【主要情報源】

① 2012年11月26日のブライアン・マフリー(Brian Maffly)の「Salt Lake Tribune」記事: Is Southern Utah University tolerating plagiarism by ESL students? – The Salt Lake Tribune保存版
② 2012年11月26日のタイラ・ホルマン(Tayla Holman)の「Inquisitr」記事:Southern Utah University Investigating ESL Plagiarism保存版
③ 2012年11月26日のベンジャミン・ウッド(Benjamin Wood)の「Deseret News」記事:SUU instructor resigns amid complaints of student plagiarism, prompts university investigation | Deseret News保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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