キショア・ワサン(Kishor Wasan)(カナダ)

2019年11月17日掲載 

ワンポイント:ワサンはサスカチュワン大学(University of Saskatchewan)・食品薬学部長からトロント大学(University of Toronto)・薬学部長への栄転が確約されていた。栄転1か月前の2019年5月(54歳?)、2017年の書評の盗用が発覚した。トロント大学・薬学部長への栄転を辞退した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

キショア・ワサン(Kishor Wasan、ORCID iD:、写真出典)は、米国で教育を受け、カナダのサスカチュワン大学(University of Saskatchewan)・食品薬学部・教授・学部長になり、カナダのトロント大学(University of Toronto)・薬学部長に2019年7月1日に栄転することが確約されていた。専門は薬学(薬物伝達システム)である。

ところが、発覚の経緯は不明だが、栄転1か月前の2019年5月(54歳?)、2017年の書評の盗用が発覚した。

トロント大学・薬学部長への栄転を辞退したが、サスカチュワン大学・学部長は後任が決まっていて、2019年6月(54歳?)に学部長を辞任するしかなかった。

2019年11月16日(54歳?)現在、サスカチュワン大学・停職中である。

サスカチュワン大学(University of Saskatchewan)・食品薬学部。グーグル写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1992年9月に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:56 歳?
  • 分野:薬学
  • 最初の不正論文発表:2017年(52歳?)
  • 不正論文発表:2017年(52歳?)
  • 発覚年:2019年(54歳?)
  • 発覚時地位:サスカチュワン大学・教授・学部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。学術誌へ公益通報
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②サスカチュワン大学・調査委員会?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数1報
  • 盗用ページ率:不明
  • 盗用文字率:不明
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。栄転を辞退した
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Kishor M Wasan | BSc (Pharm), Ph.D. | University of Saskatchewan, Saskatoon | U of S | College of Pharmacy and Nutrition

  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1992年9月に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 19xx年(xx歳):米国のテキサス大学オースティン校 (The University of Texas at Austin)で学士号取得:薬学
  • 1988年9月-1992年9月(23-27歳?):米国のテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(MD Anderson Cancer Center)で研究博士号(PhD)を取得:薬学
  • 1992年10月(27歳?):米国のクリーブランド・クリニック(Cleveland Clinic)・ポスドク:細胞生物学
  • 1995年2月(30歳?):カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)・薬学部・教授
  • 2014年8月(49歳?):カナダのサスカチュワン大学(University of Saskatchewan)・食品薬学部・教授・学部長
  • 2019年5月(54歳?):「2017年のLancet」書評が盗用で撤回
  • 2019年6月(54歳?):サスカチュワン大学・学部長辞任。教授・停職

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
研究紹介の動画:「UBC start an evolution – Neglected Global Diseases – YouTube」(英語)3分33秒。
UBC DAEが2011/10/17

【動画2】
2014年2月19日の講演動画。話がとても上手い:「Dr. Kishor Wasan speaks at Sam Sullivan’s February 2014 Public Salon – YouTube」(英語)7分52秒。
Public Salonが2014/03/05

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★盗用発覚

盗用発覚の経緯は不明だが、「Lancet」誌は、盗用を理由にワサンの書評を撤回した。 → 2019年5月25日の「Lancet」の撤回公告:Retraction—A check-up on Canada’s health system – The Lancet

「Lancet」誌の説明によると以下のようだ。

2017年11月25日(52歳?)、キショア・ワサン(Kishor Wasan)は『Better Now: Six Big Ideas to Improve Health Care for All Canadians』の書評を「2017年のLancet」に出版した(書誌情報は以下)。

2019年2月(54歳?)、この書評のかなりの部分が、アンドレ・ピカール(André Picard)の「2017年1月のGlobe and Mail」書評(書誌情報は以下)に一致した。つまり、盗用である。

★弁明

https://p2irc.usask.ca/profiles/theme-2/kishor-wasan.php

ワサンは書評の初期の草稿でピカールの文章を叩き台にした。その時は文献を示していた。ところが、文章の改訂作業を進めるうちに、“誤って”、文献引用を削除してしまった、と弁明している。

ワサンは、この不始末について「自分に責任がある」ことを認めている。彼と彼の共著者は「だまそうとしたのではない」とも述べている。

白楽が不思議に思うのは、書評を書くとき、他人の書評の文章を叩き台に使ったことだ。白楽は何度も書評を書いているが、他人の書評の文章を叩き台に使ったことはない。叩き台どころか、そもそも、他人の書評を読まない。読んだら影響されてしまい、自分の書評が書きにくくなる。

白楽には、他人の書評の文章を叩き台に使うこと自体が盗用に思える。

だから、「初期の草稿でピカールの文章を叩き台にした。その時は文献を示していた。ところが、文章の改訂作業を進めるうちに、“誤って”、文献引用を削除してしまった」という弁明が、弁明に聞こえない。盗用を白状しているように聞こえる。

★栄転が没

キショア・ワサン(Kishor Wasan)はカナダのサスカチュワン大学(University of Saskatchewan)・食品薬学部・教授・学部長だった。

2018年6月(53歳?)、盗用発覚の1年前、カナダのトロント大学(University of Toronto)は、ワサンが2019年7月1日から5年間の任期でトロント大学・薬学部長に就任すると発表していた。
 → 2018年6月21 日:Appointment of Professor Kishor Wasan as Dean and Professor Christine Allen as Interim Dean, Leslie Dan Faculty of Pharmacy (PDAD&C #112) – Communications for Academic Administrators

ところが、上述したように、栄転直前の2019年5月、ワサンの盗用が「Lancet」誌に公表された。それで、ワサンは自発的にトロント大学への栄転を辞退した。

それで急遽、リサ・ドロビッチ教授(Lisa Dolovich、写真同)が、1年間、トロント大学・薬学部の暫定学部長を務めることになった。
 → | Leslie Dan Faculty of Pharmacy, University of Toronto

一方、ワサンのサスカチュワン大学での学部長の任期は2019年6月に正式に終了した。サスカチュワン大学のサイトを見ると、2019年11月16日(54歳?)現在、ワサンは停職になっている。
 → 2019年11月6日保存記事:Kishor Wasan – College of Pharmacy and Nutrition – University of Saskatchewan

Jane Alcorn

そして、ジェーン・アルコーン教授(Jane Alcorn、写真出典)が、サスカチュワン大学・食品薬学部長に2019年9月に就任していた。

【盗用の具体例】

キショア・ワサン(Kishor Wasan)の書評の大部分がピカールの文章と同じだったとある。しかし、ウェブ上に盗用比較図は見つからなかった。

仕方がないので、白楽が自分で作った。

★盗用比較図

以下に部分的な盗用比較図を示す(原著論文から白楽が作成)。

左側がキショア・ワサン(Kishor Wasan)の盗用書評で右がピカールの被盗用書評である。同じ単語を黄色で示した(逐語盗用)。その周辺の文章は構成が同じで単語を言い換えている加工盗用である。つまり、以下の部分はほぼ全部が盗用である。

この盗用比較図を見ると、ワサンの盗用は明白である。

ワサンはピカールの文章を叩き台にしていると前述したが、他人の文章を原材料にし(この時点で盗用)、原材料がわからないように叩いて(加工して)、自分の書評を完成させようとしている。つまり、この方法は本質的に盗用である。文章だけでなく、内容(つまりアイデア)も盗用していることになる。

そもそも、書評は研究論文と異なり、他人の書評を引用することは、通常は、考えられない。文章の改訂作業を進めるうちに“誤って”文献引用を削除してしまった、と弁明しているが、その弁明自体もおかしい。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2019年11月16日現在、パブメド(PubMed)で、キショア・ワサン(Kishor Wasan)の論文を「Kishor Wasan [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の159論文がヒットした。

「Wasan KM[Author]」で検索すると、1989~2019年の31年間の235論文がヒットした。

2019年11月16日現在、「Wasan KM[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
.
★撤回論文データベース

2019年11月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでキショア・ワサン(Kishor Wasan)を「Wasan, Kishor M」で検索すると、1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。本記事で問題にした「2017年のLancet」論文である。

★パブピア(PubPeer)

2019年11月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、キショア・ワサン(Kishor Wasan)の論文のコメントを「Kishor Wasan」で検索すると0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》タイミング 

キショア・ワサン(Kishor Wasan、写真出典)がトロント大学・薬学部長へ栄転する話は、1年前に決まっていて、ウェブ上に公表されていた。誰もが知ることができる情報である。

そして、その就任1か月前の2019年5月25日(54歳?)に学術誌に盗用が公表された。

タイミングが良すぎないか?

どこの誰が、学術誌に通報したのか不明だが、この人事に無関係ではないだろう。トロント大学側が身体検査して見つけたのか、学部長の別の候補者の誰かがあらさがしをしたのか? キナ臭い。

と言っても、盗用は盗用である。

なので、ワサンが学部長栄転を辞退したのは当然で、サスカチュワン大学は何らかの処分を科すべきだろう。

と、ここまでで、本事件は終わるが、ネカト研究者の白楽としては、ここまでだろうか? と疑問に思う。

ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」

ワサンの過去の論文に類似の盗用が多数ある、ということはないのだろうか?

《2》盗用者

上記《1》では、キショア・ワサン(Kishor Wasan)がネカト者として話を進めた。

キショア・ワサンが自分に責任があると述べているからである。

サスカチュワン大学が調査しているのかどうか不明だが、調査報告書は発表されていない。つまり、公式にはネカト者が特定されていない。

書評の著者は「Wasan KM, Wasan EK, Kalra J」の3人である。他の2人の内のどちらかが盗用者という可能性もある。

著者の2番目は、エレン・ワサン(Ellen K Wasan、Ellen Monhart Wasan、写真出典)で、サスカチュワン大学・薬学部の助教授でキショア・ワサンの妻である。1970年頃に生まれ、1994年6月4日にキショア・ワサンと結婚した。
 → Pharmacy – College of Pharmacy and Nutrition – University of Saskatchewan
 → Ellen K. (Monhart) Wasan (born 1970) – Texas

実は、妻のエレン・ワサンがネカト者で、キショア・ワサンが妻をかばっているということはないのだろうか?

著者の3番目は、ジャワハー・カルラ(Jawahar Kalra、写真出典)で、サスカチュワン大学・教授(病理・実験医学)である。確立した研究者なので、エレン・ワサンよりも盗用しそうにない。盗用したとしても、キショア・ワサンがかばうとは思えない。

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●9.【主要情報源】

①  2019年5月24日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「Medscape」記事:Pharmacy School Dean Has Book Review Retracted
②  2019年9月15日のキャスリン・マニー(Kathryn Mannie)記者の「Varsity」記事:Incoming pharmacy faculty dean withdraws from position over summer | The Varsity
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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