サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)(イタリア)

2025年11月18日(火)掲載 

クッツォクレアはメッシーナ大学の学部卒・院卒で、メッシーナ大学の助手から準教授、正教授、学長になった。父ディエゴもメッシーナ大学の学長だった。メッシーナ大学は利権を争うマフィアが暗躍している大学で、研究不正以外にも犯罪が多発していた(いる)(らしい)。
1998~2023年(26~51歳)の26年間に発表したクッツォクレアの164論文にデータ疑惑が指摘され、21論文が撤回されている。しかし、メッシーナ大学はネカト調査をしていない。2023年10月(51歳)、クッツォクレアは横領事件で学長を辞任し、現在、裁判が進行中だが、教授職を維持している。
とはいえ、横領事件で学長辞任した後に、政府の大学・研究省はクッツォクレアを「大学・研究大臣顧問」に任命した。イタリア薬理学会はクッツォクレアを2024~2026年の会長に選んだ。イタリアの不正まみれ文化・不正許容文化は学術界にも浸透している。この国の研究不正を防止するのは難しいだろう。
国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
 

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea、ORCID iD:?、写真出典)は、イタリアのメッシーナ大学(University of Messina)・学長だった。専門は薬理学である。

メッシーナ大学は利権を争うマフィアが暗躍している大学である。マフィアの構成員である準教授(容疑者の段階で自殺)が、利権抗争で教授を殺した事件も1998年に起こっている。

2017年3月(45歳)以降、8年間も、「パブピア(PubPeer)」でクッツォクレアの論文に研究不正があると指摘されたが、メッシーナ大学はネカト調査をしていない。

結局、1998~2023年(26~51歳)の26年間の164論文のデータが「パブピア(PubPeer)」で疑惑視され、1998~2022年(26~50歳)の21論文が撤回された。

疑惑論文が164論文もあるのは異常も異常で、疑惑論文数の多さでは世界のトップクラスだろう。

ネカトは画像データの不正加工や重複使用が多い。

疑惑論文数が多いこともあり、全論文をクッツォクレア自身がデータ捏造・改ざんしたとは思えない。室員の意図的ネカトあるいはズサンな行為が捏造・改ざんまたはクログレイ状態を生じさせたのだろう。

なお、クッツォクレアは研究費の「払い戻し事件」という横領事件で刑事被告になり、2023年10月(51歳)、メッシーナ大学・学長を突然、辞任した。

しかし、イタリアは不正に甘い国で、刑事被告になっているクッツォクレアが、イタリア大学・研究省の「大学・研究大臣顧問」に任命された。また、イタリア薬理学会はクッツォクレアを2024~2026年の会長に選んだ。

2025年11月17日現在、裁判所の結論は出ていない。クッツォクレアはメッシーナ大学・教授職を維持している。

イタリアの不正まみれ文化・不正許容文化は学術界に深く浸透していて、この国の研究不正を防止するのは難しいと感じさせるネカト事件である。

メッシーナ大学(University of Messina)。写真出典

  • 国:イタリア
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:メッシーナ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1972年3月11日
  • 現在の年齢:53歳
  • 分野:薬理学
  • 不正論文発表:1998~2023年(26~51歳)の26年間
  • ネカト行為時の地位:メッシーナ大学・院生、研究助手、準教授、教授、学長
  • 発覚年:2017年(45歳)
  • 発覚時地位:メッシーナ大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者の1人はクレア・フランシス(Clare Francis)で、「パブピア(PubPeer)」で指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「より良い科学のために」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①メッシーナ大学は調査せず
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査せず
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:捏造・改ざん、研究費横領
  • 不正論文数:164論文のデータが疑惑視され、21論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期・中期・後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし。横領で学長辞任
  • 対処問題:大学怠慢
  • 特徴:マフィアが暗躍するメッシーナ大学なので、研究不正は軽罪扱い
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:(1): Salvatore Cuzzocrea (born March 11, 1972), Swazi Pharmacologist, researcher | World Biographical Encyclopedia、(2):https://www.crui.it/documenti/54/New-category/1035/CV-versione-inglese-Presidente-.pdf

  • 1972年3月11日:アフリカのスワジランド(Swaziland)(現・エスワティニ)のジネヴラで生まれる
  • 1995年(23歳):メッシーナ大学(University of Messina)で学士号取得:薬学
  • 1998~2023年(26~51歳):この26年間の164論文が疑惑論文
  • 1999年(27歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:実験医学
  • 1999~2002年(27~30歳):同大学の研究助手
  • 2002~2011年(30~39歳):同大学の準教授
  • 2011年(39歳):同大学の正教授
  • 2017年3月(45歳):「パブピア(PubPeer)」で、研究不正が指摘された最初(多分)
  • 2018~2023年(46~51歳):メッシーナ大学の学長
  • 2022年12月(50歳):イタリア大学学長会議・議長
  • 2023年10月10日(51歳):メッシーナ大学・学長とイタリア大学学長会議・議長を辞任。メッシーナ大学・教授職は維持
  • 2024~2026年(52~54歳):イタリア薬理学会・会長
  • 2025年11月17日(53歳)現在:メッシーナ大学・教授

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
シンポジウム感想の動画:「Salvatore Cuzzocrea – Young sparks Symposium 2023, Solomeo – YouTube」(イタリア語)1分13秒。
Erasmus+ INDIRE(チャンネル登録者数 2710人) が2023/09/05 に公開

●4.【日本語の解説】

以下は事件の動画ではない。

クッツォクレアは、2016年12月21日に出願した日本の以下の特許で、発明者の1人になっている。

前立腺過形成の処置のための医薬組成物 | 特許情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201903021109755702

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★メッシーナ大学と犯罪

クッツォクレア事件はイタリア南部のシチリア島のメッシーナという街の特徴が絡んでいる。

メッシーナの政治、ビジネスはマフィアが絡んだ「利権」で支配されていた(いる)。

マフィア(Mafia)は、イタリアのシチリア島を起源とする組織犯罪集団である。19世紀から恐喝や暴力により勢力を拡大し、1992年段階では186グループ(マフィアのグループは「ファミリー」と呼ばれる)・約4,000人の構成員がいる。(出典:マフィア – Wikipedia

マフィアが絡んだ「利権」の中心がメッシーナ大学である。というのは、メッシーナ大学で巨額のお金が動いているからだ。例えば、総合診療所への医薬品供給、清掃、資金調達、改修のため、毎年2500億リラ(約228億円)の予算を使用していた。

サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)の父、ディエゴ・クッツォクレア(Diego Cuzzocrea)は、1995年から1998年までメッシーナ大学の教授、さらには学長だった。

父ディエゴが学長在任中の1998年1月15日、消化器内科教授のマッテオ・ボッターリ教授(Matteo Bottari、49歳、写真出典)がマフィアに殺された。 → 2021年1月15日記事:Quando Messina svelò il suo “verminaio”: l’omicidio di Matteo Bottari

第一容疑者はボッターリの同僚のジュゼッペ・ロンゴ準教授(Giuseppe Longo)だった。

ロンゴ準教授はマフィアの構成員だった。

裁判官は、ボッターリが総合病院の契約管理(医薬品供給、清掃、資金調達、改修)を握っていた「利権」を、ロンゴ準教授が奪い取ろうとしたのが殺害の動機だろうと述べている。

2013年、ロンゴ準教授は海辺の邸宅で死体となって見つかった。自殺らしいがはっきりしない。

上記の利権以外に、不正競争、試験の買収、偽の学位を印刷する「利権」も絡んでいたとの噂もあり、メッシーナ大学はマフィア・組織犯罪の良いビジネス場だった。[白楽の感想:「試験の買収」「偽の学位印刷」の利権だなんて、唖然‼ そもそも、どうどうたる不正なのに]

2021年2月、父ディエゴの弟、つまり、本記事の主役であるサルヴァトーレの叔父のディノ・クッツォクレア(Dino Cuzzocrea)は、脱税とマネーロンダリングで懲役2年6か月の判決を下された。 → 2021年2月17日記事:“Immobiliare Cappellani”: condanna a due anni per Dino Cuzzocrea. Assolti Di Prima e Aldo Cuzzocrea – VOCEDIPOPOLO Sicilia on line

つまり、本記事の主役であるサルヴァトーレの周辺は不正まみれの状況があった。

★発覚の経緯

2025年11月17日現在、「パブピア(PubPeer)」で、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea、写真出典)の164論文にデータ疑惑のコメントがある。

最初のコメントかどうかわからないが、以下のように8年前の2017年3月にはデータ疑惑の指摘があった。

2017年3月(50歳)、クレア・フランシス(Clare Francis)がクッツォクレアの以下の「2007年6月のBr J Pharmacol.」論文のデータ疑惑を指摘した。

以下のパブピアの図の出典:
https://pubpeer.com/publications/EE94B30A281962F7EB453536EB3E0D?

説明不要だと思うが、画像の不正加工は明白だ。

なお、この論文の連絡著者は、フェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II )のジュゼッペ・チリーノ(Giuseppe Cirino)だった。クッツォクレアの責任は幾分軽いだろう。なお、話を広げないが、ジュゼッペ・チリーノも4論文が撤回されている問題研究者である。

クッツォクレアが連絡著者の2論文を以下に示す。

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クッツォクレアが連絡著者の以下の「2012年1月のSpine (Phila Pa 1976).」論文にもデータ疑惑が指摘されている。

図5Aと5Bの赤枠のバンドが同じ。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E99392DB49D843EB4CC521B40740E8#

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クッツォクレアが連絡著者の以下の「2011年10月のJ Rheumatol」論文にもデータ疑惑が指摘されている。

図3のBとCの現図が同じ。CはBの拡大。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E9E25C4A50169D4309C822D9134A1A

★弁解

研究不正を問われた時の、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)の弁解は、「なるほど!」と思わせる点がある。「白楽の感想」を加え、以下に並べる。

1.ごくわずか

クッツォクレアは、訂正や撤回論文は「ごくわずか」だと述べている。

「『ごくわずか』と言うのは、私(クッツォクレア)が発表した論文は900本以上あるが、問題があったのは70論文だけで、撤回されたのは8~9論文だけだ」

「白楽の感想」:研究者として900論文も出版すれば、撤回理由が研究不正でなければ、間違え論文や撤回論文はそれなりにあるだろう。しかし、「問題があったのは70論文だけで」・・・、イヤイヤ、70論文は多すぎでしょう。「撤回されたのは8~9 論文だけ」・・・、イヤイヤ、8 ~9論文も多すぎです。

2.画像を憶えていない

重複画像を指摘され、クッツォクレアは、20年前は重複画像を見つけるのが今より難しかったと説明している。

「ポスドクや他部署の共同研究者から論文原稿を受け取って、原稿を精読した時、ポスドクや他部署の人が同じ画像を使用したと、どうやってわかるのでしょう? 当時、画像を検索できるソフトなどありませんでしたし」とクッツォクレアは述べた。

「白楽の感想」:これは、クッツォクレアの感覚・能力が正しいと思う。クッツォクレアは共同研究者のネカトを見破れなかった。実際問題、共同研究者のネカトを見破るのは難しい。ほぼ不可能である。
それで、共同研究者は全員、信頼のおける人だけにし、信用できない人と共同研究しない。しかし、実際問題、これも難しい。ほぼ不可能である。
2025年現在でも、重複画像を見破るのは難しい。重複画像検出ソフトが無料で使えるなら、多くの研究者がそれを気軽に使える。しかし、現実は高価で、例えば「Imagetwin」は1回のスキャンに数千円かかる。その上、そのソフトの能力も十分ではない。
それで、2025年10月、不正画像を検出するソフト作製コンテストを募ったりしている。 → https://www.kaggle.com/competitions/recodai-luc-scientific-image-forgery-detection
誰が、すごいソフトを開発し無料で提供して欲しい。

3.なぜ私のせい

クッツォクレアは、「私は1人で出版したわけではありません。共著者が9人もいるのに、ネカトはなぜ私のせいなのですか? 原稿は9人で作成しました。それを投稿し、査読され、1つの学術誌で却下され、別の学術誌に投稿し、さらにまた別の学術誌に投稿し、計7人の査読者と3人の編集者にチェックされたのです。その上、さらに、出版された論文に問題があるのを20年間、なぜ誰も気づかなかったのでしょうか?」

「白楽の感想」:クッツォクレアの感覚が正しいと思う。白楽は、著者だけでなく、査読者や編集者にも責任があると思う。ただ、現状では査読者や編集者の責任を問うのは難しい。現在、査読システムを含め、研究結果発表システム全体が破綻している。根本から変えるべきだと思う。

2週間前(2025年11月5日)、学術出版の改革を謳う「ストックホルム宣言(Stockholm Declaration)」が公表された。
昨日(2025年11月17日)、同じように学術出版の改革を謳う「フリブール宣言(Fribourg Declaration)」も公表された。両方とも読んでみようと思う。

4.上位著者(senior author)でも無理

クッツォクレアは、論文に問題があったかもしれないと認めている。

「自分が上位著者(senior author)として完璧だと言っているわけではありません。しかし、『ネイチャー』や『サイエンス』といった超一流学術誌にも撤回論文があります。この事実は、世界的にとても優秀な上位著者でも論文原稿の全てをチェックできていないことを示しています。つまり、上位著者が論文原稿の全てをチェックするのは根本的に不可能だということです」

「白楽の感想」:現在の研究結果発表システムは破綻している。クッツォクレアの感覚が正しいと思う。システムを変えるべきだと思う。

★「払い戻し事件」+

サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)は、研究不正だけでなかった。総額3,752万9,916ユーロ(約45億円)の経費のうち数百万ユーロ(数億円)規模の直接発注(工事や資材を含む一連の契約)で不正をしていた疑惑が浮上した。

クッツォクレアは、過去4年間で、220万ユーロ(約2億6千万円)を超える横領で警察の捜査を受けた。研究材料費として大学の研究費で発注し、そのお金を業者から自分に還流するという不正の疑いで刑事事件の被告になっている。 → 2023年10月6日記事:I rimborsi del rettore di Messina Cuzzocrea. Opposizioni e università: “Deve dimettersi” – la Repubblica

クッツォクレア学長とその妻ヴァレンティーナ・マルヴァーニ(Valentina Malvagni)がそれぞれ80%と20%の株式を保有する有限会社ディヴァハ・ソシエタ・アグリコラ社(Divaha Società Agricola)を利用した。

会社の管理者はクッツォクレア学長の母エウジェニア・マリア・サルボ(Eugenia Maria Salvo)で、同社は合計12万2300ユーロ(約1500万円)相当の支払いを14回受け取っていた(計約2億円)。この支払いが架空発注(?)らしい。 → 2023年10月10日記事:Messina university rector quits over expense scandal | www.italianinsider.it

2023年10月10日(51歳)、上記のことが横領事件として刑事告発されたのを受け、クッツォクレアはメッシーナ大学・学長を辞任した。

学長を辞任したことで、同時にイタリア大学学長会議・議長も辞任となった。なお、メッシーナ大学・教授職は維持した。

クッツォクレアは辞任の理由について、「大学への敬意の表れ」で、不正行為をしたとは考えていないと述べている。

検察は、クッツォクレア・元学長とその他7人の容疑者(大学の現学長であるフランチェスコ・ボナンノFrancesco Bonannoを含む)を、談合や公務員による共謀による偽造など、様々な罪で起訴した。→ 2024年7月31日: L’ex rettore Cuzzocrea nominato consulente della ministra Bernini – Stampalibera.it

なお、詳細を省略するが、「払い戻し事件」はクッツォクレアの2番目の事件で、1番目は「ANAC事件」(国家汚職対策庁(ANAC))だそうだ。

2025年2月22日(52歳)、そして、3番目の事件をアントニオ・ダマート(Antonio D’Amato)が率いるメッシーナ検察庁が捜査し始めた。 → 2025年2月22日記事: C’è una terza inchiesta sull’attività dell’ex rettore Cuzzocrea – Stampalibera.it

★事件後

2023年10月(51歳)、本記事の主役であるサルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)は横領事件でメッシーナ大学・学長とイタリア大学学長会議(Conference of Italian University Rectors)の議長を辞任した。現在、裁判が進行中だが、メッシーナ大学・教授職を維持している。

このような状況なのに、イタリア薬理学会はクッツォクレアを会長(2024~2026年任期)に選んだ。

また、2024年7月31日、大学・研究省のアンナ・マリア・ベルニーニ大臣(Anna Maria Bernini、写真by European Union, 2025、出典 )は、8月1日付けで、クッツォクレアをイタリア大学・研究省の「大学・研究大臣顧問」に任命した。 → 2024年7月31日: L’ex rettore Cuzzocrea nominato consulente della ministra Bernini – Stampalibera.it

【捏造・改ざんの具体例】

5章で既に3論文のネカト箇所を指摘したが、「パブピア(PubPeer)」では、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)の1998~2023年(26年間)の164論文にコメントがある。

とてもじゃないが、164論文の全部を指摘できない。指摘する必要もないだろう。

5章で選んだ3論文とは別の2論文を選んで、そのネカト部分を以下に示す。クッツォクレアの疑惑論文の出版は約30年に及ぶが、2つ目には2023年出版という最近の論文を選んだ。

★「1999年8月のJ Pineal Res」論文 

「1999年8月のJ Pineal Res」論文の書誌情報を以下に示す。2024年11月xx日に撤回された。

論文の図3(下図左)の画像はカラギーナン投与ラットの肺のCOX-2染色とある。

しかし、この画像を90度回転した画像が、同時期に同じ研究者が「1999年のEur J pharmacol」論文の図4(下図右)として発表していた。しかも、後者ではカラギーナン投与ラットの肺のニトロチロシン染色と説明していた。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/4E4BA8543CC44188BA2445BF3BC6F4

★「2023年7月のInt J Mol Sci.」論文 

「2023年7月のInt J Mol Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。2025年11月17日現在、訂正も撤回もされていない。

論文の図3(下図)の赤枠(顕微鏡写真EとF)の画像が同じである。単純な間違いだと思われるが、2023年8月時点で、同様またはさらに深刻な問題を抱えたクッツォクレアの論文が約90件ある。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/1FCB3C53215010F449A3B17EBBC3D0#

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年11月17日現在、パブメド(PubMed)で、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)の論文を「Salvatore Cuzzocrea[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の819論文がヒットした。

2025年11月17日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、15論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年11月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでサルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)を「Cuzzocrea, Salvatore」で検索すると、3論文が懸念表明、1998~2022年の21論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年11月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)の論文のコメントを「”Salvatore Cuzzocrea”」で検索すると、1998~2023年の26年間の164論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ああ! イタリア

マフィアが暗躍するシチリア島のメッシーナ大学なので、大学教授が利権を争い、恐喝や暴力が支配している。

白楽記事では、サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)のネカト行為を中心に書いたが、父のディエゴ・クッツォクレア(Diego Cuzzocrea)や叔父のディノ・クッツォクレア(Dino Cuzzocrea)は犯罪に加担していた。

要するに、サルヴァトーレの人生は、研究者として活躍したが、米国の映画・『ゴッドファーザー』(The Godfather)が描いたイタリアのマフィア一族のような、利権・恐喝・暴力・殺人などの世界で生きてきた(らしい)。

そういう人がメッシーナ大学(University of Messina)・学長になり、イタリア大学学長会議(Conference of Italian University Rectors)の議長になってしまう。

2023年10月10日(51歳)、メッシーナ大学・学長とイタリア大学学長会議・議長を辞任したが、2024~2026年のイタリア薬理学会・会長に選ばれてしまう。

2024年7月31日、イタリア大学・研究省の「大学・研究大臣顧問」に任命されてしまう。

この不正許容文化はどうなっているのだろう? イタリアの正義は日本の正義と違うの?

サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)。出典

《2》研究不正を防ぐ方法

本事件の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?

また、今後、同じような研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?

研究不正を防ぐ基本は「ネカト許さない文化」の構築で、具体策は、①規範を守る意識、②監視強化、③法律と厳罰化、④学術システム改革、である。

《1》ああ! イタリア」に書いたが、マフィアが暗躍するイタリアの大学・学術界で、「ネカト許さない文化」を構築するのは容易ではないだろう。

それも、学長の研究不正である。というか、研究不正者していた人を教授にし、学長に選んでしまう大学であり学術界なのだ。

現状では、適正に対処すべしと言っても、無理な気がする。少なくとも、学術界は対処できない。

学術界は対処できないので、学術界の外の上位機関が介入するしかない。

法律で研究不正を取り締まり、ネカト者とそれを許容する大学に厳罰を科す「③法律と厳罰化」で、正面から対処していくしか、防ぐ方法はないだろう。

無理な気はするが。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① クッツォクレアの記事アーカイブ:cuzzocrea Archivi – voce di Sicilia
② サルヴァトーレ・クッツォクレア(Salvatore Cuzzocrea)に関するレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事群:Salvatore Cuzzocrea – For Better Science・・・特に多く扱われている記事を以下に示した。
③ 2023年6月12日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:Uni Messina, money for nothing & brothers in arms – For Better Science
④ 2023年7月25日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために」記事:Queen Mary and John Vane’s Cowboys – For Better Science
⑤ 2023年10月16日のアネウルス・インコンスタンス記者(Aneurus Inconstans)の「より良い科学のために」記事:Cuzzocrea’s Magnificent Fall – For Better Science
⑥ 2025年4月4日のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Italian university head faces retractions and criminal investigations – Retraction Watch