2020年3月4日掲載
ワンポイント:リーはミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)の教授で、2016年以前-2018 年(53-55歳?)の2年間以上、研究室の院生にアカハラ行為(怒鳴る、無理な実験作業の要求、不公平な扱い、侮辱的な言動)を繰り返していた(多分、ポスドクにも)。2018年(55歳?)、地元紙の「Minnesota Daily」がアカハラ行為を詳細に報道し、リーは大学院担当教員と幾つかの役職を外された。2020年3月3日現在、同大学・教授職を維持している。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.アカハラ発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
マイケル・リー(Michael K. Lee、写真出典)は、ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)・神経科学科・教授で、医師免許(MD)は取得していない。専門は神経科学(運動ニューロン疾患、アルツハイマー病(AD)、およびパーキンソン病(PD))である。
2016年(54歳?)、ミネソタ大学医科大学院は院生からのアカハラ告発を受け、マイケル・リーに警告を発した。
しかし、リーに改善が見られなかった。
2018年11月8日(55歳?)、ミネソタ大学医科大学院・大学院長ヤクブ・トラー(Jakub Tolar)は、リーが依然として、アカハラ行為(怒鳴る、無理な実験作業の要求、不公平な扱い、侮辱的な言動)を続け、脅迫と恐怖の研究室にしていると判定した。ペナルティとして、いくつかの役職を解任し、2019年9月1日から、大学院担当教員を外すと通達した。
2020年3月3日(57歳?)現在、大学院担当教員と幾つかの役職を外されたが、リーはミネソタ大学医科大学院・教授として在籍している。 → Michael Lee, PhD | Medical School – University of Minnesota
ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)。CC/Flickr/August Schwerdfeger。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:バージニア大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1963年1月1日生まれとする。1985年に大学を卒業した時を22歳とした。米国生まれと想定した
- 現在の年齢:61 歳?
- 分野:神経科学
- アカハラ行為:2016年以前-2018 年(53-55歳?)の2年間以上
- 最初に訴えられた:2016年(53歳?)
- 社会に公表年:2018年(55歳?)
- 社会に公表時地位:ミネソタ大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の男性・院生・クリストファー・ガヤルド(Christopher Gallardo)で大学に公益通報
- ステップ2(メディア):地元紙の「Minnesota Daily」のみ
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミネソタ大学医科大学院・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:アカハラ
- 被害者数:少なくとも1人の男性院生
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けたが、いくつかの役職・権限を失った(▽)
- 処分:大学院担当教員、トランスレーショナル神経科学研究所・運営委員、神経変性疾患センター所長、の解任
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Michael K. Lee, PhD | Parkinson’s Disease
- 生年月日:不明。仮に1963年1月1日生まれとする。1985年に大学を卒業した時を22歳とした。米国生まれと想定した
- 1985年(22歳?):米国のマカレスター大学(Macalester College)で学士号取得:心理学
- 1991年(28歳?):米国のバージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得:神経科学
- 1991年(28歳?):米国のジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)・ポスドク:ドナルド・クリーブランド教授(Donald W. Cleveland)
- 1996-2009年(33-46歳?):米国のジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)・教員
- 2009年6月(46歳?):ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)・神経科学科・教授
- 2016年(53歳?):アカハラを訴えられ、大学が対処した
- 2018年11月(55歳?):アカハラを訴えられ(2回目)、大学が対処した
- 2019年2月(56歳?):「Minnesota Daily」紙がアカハラを詳細に報道した
- 2019年9月1日(56歳?):ミネソタ大学医科大学院の大学院の教員から2019年9月1日に除籍と通告
- 2020年3月3日(57歳?)現在:ミネソタ大学医科大学院・教授として在籍:Michael Lee, PhD | Medical School – University of Minnesota
●5.【アカハラ発覚の経緯と内容】
★マイケル・リー(Michael K. Lee)の人生と研究費
マイケル・リー(Michael K. Lee、写真出典)は、1985年(22歳?)に米国のマカレスター大学(Macalester College)で心理学の学士号を取得したが、それ以前の状況は不明である。リー(Lee)という姓は韓国に多いので、韓国出身かもしれない。
リーの結婚・離婚、さらに、子供の情報は見つからなかった。アカハラ事件を起こした時の家庭環境は不明である。当時、研究以外の生活でどんなストレスにさらされていたのかも不明である。
リーは2009年にミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)・神経科学科・教授に就任して以来、2018年までの10年間に、5人の学部生、5人の院生、13人のポスドクが研究室に在籍した。下記するように研究費が潤沢なのに、ポスドク数は若干少なく、学部生と院生の受け入れ数はかなり少ない。アカハラの評判が立っていたのがその理由かどうか、白楽は把握できていない。
リーの研究室では、マウスを使用して、人間の神経変性疾患を研究している。以下のグラフに示すように、毎年、NIH研究費を獲得していて、総額約800万ドル(約8億円)と潤沢な研究費である(出典:Grantome: Searchで所属を「University of Minnesota」とした)。研究費がないストレスはなかったと思われる。
★アカハラ事件の経緯
2016年(54歳?)、院生からのアカハラ告発を受け、ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)の神経科学科長のティモシー・エブナー(Timothy Ebner)と人事部長であるミケーレ・モリッシー(Michele Morrissey)は、マイケル・リー(Michael K. Lee)に、アカハラの警告をし、軽い処分を科した。
処分の1つとして、マイケル・リーにカウンセリングを受けることを科した。
2016年のこの事件をメディアが取り上げていないので、事件の詳細は不明である。
その2年後の2018年(55歳?)、マイケル・リーは再び、アカハラで処分を受けたのである。今度は、メディアが事件として報道した。
本記事は、その報道(【主要情報源】①)に基づいてアカハラ事件を読み解いた。
2018年11月8日(55歳?)、ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)の大学院長・ヤクブ・トラー(Jakub Tolar、写真出典)は、マイケル・リー(Michael K. Lee)に、リーの言動が「脅迫と恐怖の研究環境」を作り出しているとした手紙を送付した。
そして、2019年9月1日から、大学院担当教員を外すと通達した。
以下は手紙の冒頭部分である(出典:【主要情報源】①。全文もあり)。
手紙は、リーが研究室員を怒鳴る、実験作業時間を異常なほど短く設定する、研究室に常にいるよう研究室員に要求する、研究室員を不公平に扱う、そして、「無礼な振る舞いをした」と指摘した。
手紙は、また、大学教員は倫理的で誠実な言動をすべきで、他者に対して敬意を払い、公正に扱うべきである。また、責任を持って研究室を管理すべきである、と諭した。
「2年前の2016年(54歳?)に、神経科学科長のティモシー・エブナー(Timothy Ebner)と人事部長であるミケーレ・モリッシー(Michele Morrissey)が警告を発したのに、残念ながら、あなたはアカハラ言動を改めませんでした」と手紙は述べている。
そして、リーを大学院担当教員から解任しただけでなく、トランスレーショナル神経科学研究所・運営委員も解任した。さらに、神経変性疾患センター所長も解任した。
ただ、ポスドクと学部生の教育は認めた。
また、手紙は、6か月間の管理職向けのコーチング・プログラムを受けるよう指示した。
2018年11月19日(55歳?)、手紙を受け取った11日後、リーは、ヤクブ・トラー・大学院長とアマンダ・テルミューレン・学部院担当・副学長(Amanda Termuhlen)に異議を唱える手紙を送付した。以下は手紙の冒頭部分である(出典:【主要情報源】①。全文もあり)。
「私は批判を否定しません。私は地声が大きいので、普通に話していても大声になる傾向があります。これを批判されても、一部の個人にとっては改善は難しいものがあります。しかし、研究室員の実験にアドバイスする際の問題にはならないと思います」とリーは書いている。
そして、リーは、6か月間の管理職向けのコーチング・プログラムを受けることを了承した。
★環境の改善
指導教授と院生の権力関係が不均衡なことは、多くの研究室に普通に見られることで、リーの研究室に固有ではない。
ミネソタ大学医科大学院・教育担当副学長のコリン・キャンベル(Colin Campbell)は、「指導教授による院生へのアカハラは件数としては大きな問題ではありません。しかし、あなたが被害者なら、それは大きな問題です」、と指摘した。
大学院では、指導教授と院生の権力が不均衡で、院生と教員が多様な局面で対立している。
ミネソタ大学大学院部長のスコット・ラニヨン(Scott Lanyon、写真出典)は、「指導教授と院生の関係で重要なことの1つは、コミュニケーションです。コミュニケーションが不十分なためにアカハラ問題が起こるのです。コミュニケーションを改善すれば、両者の関係が良くなり、私たちが認識しているほとんどのアカハラ紛争を回避できます」と、コミュニケーションの重要性を強調した。
●【アカハラの具体例】
★クリストファー・ガヤルド(Christopher Gallardo)(当時xx歳)
以下の記事が主な出典である。 → 2019年2月11日のクレオ・クレイチ(Cleo Krejci)記者とカトリーナ・プロス(Katrina Pross)記者の「Minnesota Daily」記事:Professor’s ‘grave misconduct’ in UMN lab leads to discipline | The Minnesota Daily
クリストファー・ガヤルド(Christopher Gallardo、写真出典)は、リーの研究室で3年以上、院生として過ごした。
ガヤルドは、次の様に指摘している。
研究室に入ってすぐに、リー教授が些細なことで怒り狂い、いつも人々に侮辱的な言動していることに気が付きました。
2015年9月(52歳?)、そして2016年4月(52歳?)にも、ガヤルドはミネソタ大学医科大学院の学生課(Office of Human Resources)にリー教授の毒ラボ状況を通報した。
「私の指導教授であるマイケル・リー博士は、精神的にかなり不安定です。そのことは神経科学科そして同じ建物の人にとって、日常的に目にすることで、まったく驚くことではありません」とガヤルドは2016年のメールに書いている。
2017年冬(54歳?)、ガヤルドは、リー研究室で3年以上、アルツハイマー病とパーキンソン病の研究をしていたが、予定よりも早く、研究室を辞めるとリー教授に伝えた。
2018年夏(55歳?)、上記したように、リー教授は大学院担当教員を解任された。従って、ガラルドの指導ができなくなった。しかし、ガラルドは、薬理学の博士号を取得でき、現在はシカゴに住んでいる。
研究環境が悪い中で、博士号を取得できたのは、私にとっては幸せです。しかし、リー教授が他の人にアカハラ言動をしないことを願っています。
★ワン・ダックス(Wang Daxi)(当時xx歳)
ワン・ダックス(Wang Daxi)はマイケル・リー(Michael K. Lee)の研究室で過ごした院生(またはポスドク)と思われる。2015年、以下のアカハラを指摘している。 → 出典:(96) University of Minnesota Medical School – 投稿
マイケル・リー(Michael K. Lee)は、失礼な人物で、横暴で、傲慢で、いじめや気まぐれで、中国人を差別する傾向があります。非常に強く、実験することを求められ、非常に批判的です 。データを公開せず、他人の意見を聞かず、激しい気性で、意見の相違で何人もの研究室員をクビにしています。その上、推薦状を書くのを拒否しています。ポスドクは、実験遂行のための彼のテクニシャンです。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年3月3日現在、パブメド(PubMed)で、マイケル・リー(Michael K. Lee)の論文を「Michael K. Lee [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の48論文がヒットした。
「Lee MK[Author]」で検索すると、1977~2020年の44年間の2200論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
ミネソタ大学医科大学院(University of Minnesota Medical School)所属を加えた「(Lee MK[Author]) AND University of Minnesota Medical School[Affiliation]」で検索すると、2012~2019年の8年間の21論文がヒットした。
2020年3月3日現在、「Lee MK[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。しかし、本記事で問題にしている研究者以外の論文と思われる。
★撤回論文データベース
2020年3月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでマイケル・リー(Michael K. Lee)を「Michael K. Lee」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年3月3日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マイケル・リー(Michael K. Lee)の論文のコメントを「”Michael K. Lee” OR “Michael Lee”」で検索すると、4論文にコメントがあった。しかし、本記事で問題にしている研究者以外の論文と思われる。
●7.【白楽の感想】
《1》不可解
リー事件で、白楽が不思議の思うのは、アカハラと大学に訴えたガヤルドは研究室を去ったのちに、リー教授と共著の「2018年11月のJ Neurosci.」論文、「2019年10月のActa Neuropathol.」論文を出版している。 → Christopher Gallardo – PubMed – NCBI
2人の間が険悪なら、院生は実質、研究しない・できないので、研究成果はでないだろう。そして、研究室を去ったのちに、このような共著論文を出版することはあり得ないと思う。どうなっているのだろう?
ガヤルドの出版論文を調べると、2014-2019年の6年間に6論文発表している。しかし、第一著者の論文は1報もない。言っちゃ悪いが、院生として、研究成果はかなり貧弱である。
また、リー教授との共著論文は、2017-2019年の3年間の3論文である。2016年にリー教授のアカハラを大学に告発しているので、論文出版はアカハラ告発後である。なんか、ヘンである。
つまり、言っちゃ悪いが、出来の悪い院生(怠けている院生?)を、リー教授が注意した。注意されても態度を改めないので、リー教授は強く注意した。その「強い注意」を、ガヤルドはアカハラと捉えた。ということはないのだろうか?
それとも、第一著者の論文が1報もない事実こそ、リー教授のアカハラ行為と捉えるべきなのだろうか? イヤイヤ、著者在順に関して、ガヤルドは一言も不平を述べていない。公式にアカハラを申し立てたのだから、著者在順で不当な扱いを受けたなら、著者在順を申し立てているはずだ。
《2》アカハラ体質
アラン・クーパー(Alan Cooper)の記事に以下のように書いたが、アカハラは研究者個人の性向・体質が原因だろう。
→ 「アカハラ」:アラン・クーパー(Alan Cooper)(豪)
アデレード大学は、センター室員に訴えられると、クーパーを注意した。クーパーは注意された直後から1-2週間は収まるが、その後、アカハラ行為を再開した。つまり、アカハラはクーパーの人格的特性や考え方によるもので、いわば、「体質」や「個性」による。つまり、修正不能と思われる。
アカハラは「体質」によるもので修正不能なら、予防は早めに検知し、その「体質」を持つ研究者を研究界から排除することだ。
本記事のマイケル・リー(Michael K. Lee)も2年前の2016年に注意されているのに、2018年に再度注意を受け、今度は、大学院担当教員を外された。
アカハラは研究者個人の性向・体質が原因だと思う。白楽は検出法がある(開発できる)と思う。100%正確でなくても、3割程度の検出力でもそれなりに有効である。誰か、開発しませんか?
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① 2019年2月11日のクレオ・クレイチ(Cleo Krejci)記者とカトリーナ・プロス(Katrina Pross)記者の「Minnesota Daily」記事:Professor’s ‘grave misconduct’ in UMN lab leads to discipline | The Minnesota Daily
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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