化学:ファティ・シェン(Fatih Şen)(トルコ)

2021年3月29日掲載 

ワンポイント:この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「7」に挙げられたので記事にした。シェンはキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)・準教授である。2020年8月(36歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)とレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が各自のブログでシェンの論文のデータねつ造・改ざん、盗用を指摘した。「パブピア(PubPeer)」では87論文が問題だと指摘されている。キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学がネカト調査をしているかどうか不明で、シェンは無処分である。シェンが処分され、多数の論文が撤回されると仮定して、国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ファティ・シェン(Fatih Şen、Fatih Sen、ORCID iD:?、写真出典)は、トルコのキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)・準教授で、専門は化学(ナノ材料のバイオセンサー、バイオ燃料電池、熱発電エネルギー生成、カーボンナノチューブ、グラフェンなど)である。

2020年8月(36歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、ファティ・シェン(Fatih Şen)の論文に画像の重複があるというタラチャ・ラクリオルチャ(Thallarcha Lechrioleuca、仮名)の指摘を受け、ファティ・シェンの論文を調べ始めた。

ビックは、その時点で発表されていたシェンの158論文を精査し、約半数の論文に不適切な画像があることを見つけ、学術誌とキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)に通報した。

2021年3月28日(37歳?)現在、87論文も問題視されているが、その内の3論文だけが撤回された。キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学がネカト調査をしているかどうか不明である。シェンは無処分である。

キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)。写真出典

  • 国:トルコ
  • 成長国:トルコ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:中東工科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2011年に研究博士号を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:37 歳?
  • 分野:化学
  • 問題論文発表:2007年(23歳?)の2論文、2016~2020年(32~36歳?)の85論文
  • 発覚年:2020年(36歳?)
  • 発覚時地位:キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はタラチャ・ラクリオルチャ(Thallarcha Lechrioleuca、仮名)(詳細不明)だが、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が調べ、学術誌とキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学に通報した
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「Science Integrity Digest」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査しているかどうか不明
  • 大学の透明性:調査しているかどうか不明(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん、盗用
  • 不正論文数:87報、内3報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:賞の取り消し
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:PeerJ – Profile – Fatih Sen

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2011年に研究博士号を取得した時を27歳とした
  • 20xx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得:化学?
  • 20xx年(xx歳):xx大学(xx)で修士号取得:化学?
  • 2007年(23歳?):後で問題視される最古論文を発表
  • 2011年(27歳?):トルコの中東工科大学(Middle East Technical University)で研究博士号(PhD)を取得:無機化学。グルスン・ゴカガック教授(Gülsün Gökagac)
  • 2011年(27歳?):米国のマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute and Technology)・ポスドク。マイケル・ストラーノ教授(Michael S. Strano)
  • 2013年3月(29歳?):トルコのキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)・準教授
  • 2015年(31歳?): Science Academy Outstanding Young Scientist Award (TÜBA-GEBİP)受賞
  • 2016年(32歳?):後で問題視される論文をたくさん発表し始めた
  • 2017年(33歳?): 2017 Young Scientist Award受賞
  • 2020年8月(36歳?):不正研究が発覚
  • 2020年9月(36歳?): Science Academy Outstanding Young Scientist Award (TÜBA-GEBİP)の取り消し

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★出版論文出版が多い優秀な研究者

2013年3月(29歳?)、ファティ・シェン(Fatih Şen)は米国のマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute and Technology)・ポスドクを終え、トルコに帰国し、キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)・準教授に就任した。

トルコでは目覚ましい活躍をし、2015年(31歳?)に「Science Academy Outstanding Young Scientist Award (TÜBA-GEBİP)」を受賞した。

2017年(33歳?)には「2017 Young Scientist Award」を受賞した(以下の写真左、出典)。

ところが、受賞前年の2016年(32歳?)頃から、後で問題視される論文をたくさん発表し始めた。

2021年3月28日(37歳?)現在、グーグル・スカラー(Google Scholar)では177論文がヒットした。2019年に54論文、2020年に55論文も出版していた。

これらの論文の大半は、さまざまな種類のナノ粒子の生成を報告した論文である。

そして、2021年3月28日(37歳?)現在、ファティ・シェンの出版論文の約半数が「パブピア(PubPeer)」で問題視されているのだ。

なお、ファティ・シェンの出身大学である中東工科大学(Middle East Technical University)は、トルコでもランクが低い大学との指摘がある。入学試験では答案に自分の名前を書くだけで合格するとバカにされている(ビック記事のコメント:August 25, 2020 at 5:55 am)。

2010年12月、米国の研究公正局がネカト者と発表したコロンビア大学のベング・シゼン(Bengü Sezen、写真出典)は同じ中東工科大学の出身者である。 → 「博士号はく奪」:ベング・シゼン(Bengü Sezen) (米) | 白楽の研究者倫理

★発覚

2020年8月(36歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)は、ファティ・シェン(Fatih Şen)の論文に画像の重複があるというタラチャ・ラクリオルチャ(Thallarcha Lechrioleuca、仮名)の指摘を受け、ファティ・シェンの論文を調べ始めた。

エリザベス・ビックは、その時点で発表されていたファティ・シェンの158論文を精査した(Google Sheets document)。

すると、異なるナノ粒子の生成なのに、42論文に同じ画像が使われていた。以下、1画面にまとめた6例を示す(出典:エリザベス・ビックhttps://scienceintegritydigest.com/2020/08/03/big-trouble-in-a-nanoparticles-lab/)


他にもいろいろ不適切な画像が見つかった。

エリザベス・ビックは結局、ファティ・シェンの84論文の不適切画像を、「パブピア(PubPeer)」で指摘した。84論文は、2021年3月28日現在、87論文になっている。

84論文の内28論文は「Scientific Reports」で、内19論文は2020年の出版だった。84論文の内16論文は「International Journal of Hydrogen Energy」、16論文は「Journal of Molecular Liquids」、5論文は「Nano-Structures & Nano-Objects」に出版していた。

最も多い共著者は2018年に修士後を取得したベトゥル・セリック(Betül Celik)で、しばしば第一著者になっている。

ベトゥル・セリックは、2017年頃にベトゥル・シェン(Betül Şen)と改名しているので、 ファティ・シェンと結婚したと思われる。

2020年8月8日(36歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビックは、学術誌とキュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)に通報した。

★その後

2021年3月28日(37歳?)現在、キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学がネカト調査をしているかどうか不明である。シェンは無処分である。

87論文も問題視されているが、その内の3論文だけが撤回された。具体的には、「2020年7月15日のSci Rep.」論文が2020年11月に、「2020年7月16日のSci Rep.」論文が2021年3月に、「2020年7月22日のSci Rep」論文が2020年9月に、撤回された。

2020年9月14日(36歳?)、科学アカデミー理事会は2015年にファティ・シェンに授与したScience Academy Outstanding Young Scientist Award (TÜBA-GEBİP)賞を取消した。

以下は取消通知の冒頭部分(出典:同)。全文は2ページ → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2015/03/Dalton-Inorg.-Chim.-Acta-1967.pdf

【ねつ造・改ざんの具体例】

キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)がネカト調査をしているかどうか不明である。つまり、大学によるネカトの公式発表はない。

ただ、「パブピア(PubPeer)」で87論文が問題視されている。

87論文の問題点を示すのは膨大なので、撤回された「2020年7月15日のSci Rep.」論文と「2020年7月22日のSci Rep」論文の問題点を示す。

★「2020年7月15日のSci Rep.」論文

「2020年7月15日のSci Rep.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年9月に撤回された。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/DCC43E89AE0CD8909E9C707B7811C8

エリザベス・ビックが、別のナノ粒子なのに、図1(左)は同じグループの別の論文の図4(右)と同じだと指摘した。

エリザベス・ビックが、図2(左)は同じグループの別の論文の図5(右)を混ぜて合成していると指摘した。

エリザベス・ビックが、図4(左)は別の論文の図3(右)と酷似していると指摘した。


★「2020年7月22日のSci Rep」論文

「2020年7月22日のSci Rep」論文の書誌情報を以下に示す。2020年9月に撤回された。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/0C2D7FD92548E6F8A7D02C13FD6223?utm_source=Chrome&utm_medium=BrowserExtension&utm_campaign=Chrome

エリザベス・ビックが、図1の写真(上)はDaves Gardenの写真(下)と酷似していると指摘した。盗用ではないかとの疑念を表明している。


エリザベス・ビックが、図2(左)は別の研究者の論文の図1(右)と酷似していると指摘した。盗用ではないかとの疑念を表明している。

エリザベス・ビックが、図9(左)は同じ研究グループの論文の図1(右)と酷似していると指摘した。盗用ではないかとの疑念を表明している。

エリザベス・ビックが、図10は同じ画像を使用していると指摘した。ねつ造ではないかとの疑念を表明している。

Hydrochus Grandicollisが、文章は盗用文字率70%の盗用ではないかと指摘している。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年3月28日現在、パブメド(PubMed)で、ファティ・シェン(Fatih Şen)の論文を「Fatih Şen [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003年の2論文と2010~2021年の12年間の138論文の計・141論文がヒットした。

2021年3月28日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

「2020年7月15日のSci Rep.」論文が2020年11月に、「2020年7月16日のSci Rep.」論文が2021年3月に、「2020年7月22日のSci Rep」論文が2020年9月に、撤回された。

★撤回監視データベース

2021年3月25日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでファティ・シェン(Fatih Şen)を「Fatih Sen」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、3論文が撤回されていた。

上記したように、「2020年7月15日のSci Rep.」論文が2020年11月に、「2020年7月16日のSci Rep.」論文が2021年3月に、「2020年7月22日のSci Rep」論文が2020年9月に、撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2021年3月28日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ファティ・シェン(Fatih Şen)の論文のコメントを「”fatih sen”」で検索すると、87論文にコメントがあった。

2007年の2論文、2016~2020年の85論文である。

●7.【白楽の感想】

《1》学長と仲良し 

ファティ・シェン(Fatih Şen、写真出典)はネカト疑惑の指摘に対して、自分がネカトをしたのではなく、研究室の院生がネカト犯だと指摘している。しかし、ネカト疑惑は1つ2つの論文ではない。87論文もあるのだ。

87論文もあれば、研究室の院生が勝手にネカトしたとしても、研究室の環境を含め、シェン自身がネカト行為に大きく関与していた(いる)と思われる。学術界はこのようなネカト漬けの研究者を排除すべきだ。

ところが、シェンはカズム・ウイサル学長(Kâzım Uysal、写真出典)と仲良しなので、シェンは処分されないとレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は指摘している。

キュタヒヤ・ドゥムルプナル大学(Kütahya Dumlupınar University)がファティ・シェン(Fatih Şen)のネカト調査をしているかどうか不明である。

学長と仲良しならネカト調査をしないだろう。

もし、ネカト調査をしても、最初から「シロとする」結論ありきの調査になる可能性が高い。

どのような状況で進行するにしても、シェンの研究室の室員は不幸である。

若く活気のある研究室だと思って研究室に入ってきた院生・ポスドクは、ボスあるいは研究室がネカトまみれでは将来が暗い。このような院生・ポスドクは可哀そうだ。それでも、自己責任なんでしょうか?

ファティ・シェン(Fatih Şen)と室員。出典

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●9.【主要情報源】

① 2020年8月3日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Big trouble in a nanoparticles lab – Science Integrity Digest
② 2020年8月27日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Don’t mess with Fatih Sen – For Better Science
③ 2020年10月8日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journal retracts plant paper because authors plagiarized from a garden site — and several papers – Retraction Watch
④ ファティ・シェン(Fatih Şen)グループの写真集:Sen Research Group
⑤ 2021年3月2日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Erdogan’s academic elites – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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