●【概略】
アンドルー・フリードマン(Andrew J. Friedman、写真出典)は米国人で、ハーバード大学医学部・助教授、ブリガム女性病院の産婦人科医である。
1995年、1993-1995年のデータねつ造が発覚した。
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD):?
- 男女:男性
- 生年月日:1956年生まれ
- 現在の年齢:67(+1)歳
- 分野:産婦人科学
- 最初の不正論文発表:1993年(37(+1)歳)
- 発覚年:1995年(39(+1)歳)
- 発覚時地位:ハーバード大学医学部・助教授
- 発覚:公益通報
- 調査:①ハーバード大学医学部。②米国・研究公正局、調査期間:199x年x月~1996年6月。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:撤回論文2報
- 時期:研究キャリアの中期
- 結末:辞職
●【経歴と経過】
- 生年月日:1956年生まれ
- 1980年(24(+1)歳):米国・ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)医学研究科を卒業、医師免許取得
- 1980-1981年(24-25(+1)歳):米国・イェール・ニューヘブン病院(Yale New Haven Hospital)で研修医(Internship)
- 1981-1984年(25-28(+1)歳):米国・イェール・ニューヘブン病院(Yale New Haven Hospital)で研修医(Residency)
- 1984-1986年(28-30(+1)歳):米国・ブリガム女性病院(Brigham Women’s Hospital)で研修医(Fellowship)
- 19xx年(xx歳?):米国・ハーバード大学医学部・助教授、ブリガム女性病院の産婦人科医
- 1993年(37(+1)歳):データねつ造論文を発表する
- 1995年(39(+1)歳):データねつ造が発覚する
- 1995年(39(+1)歳):ハーバード大学医学部・助教授、ブリガム女性病院を辞職
- 2015年1月・現在(59歳):ニュージャージー州・タイタスビル(Titusville)で産婦人科医院を開業
米国・ブリガム女性病院(Brigham Women’s Hospital) 写真出典
●【不正研究者のあがき】
2005年7月10日、ロサンゼルス・タイムズ紙の記者・マーサ・メンドーザ(Martha Mendoza)が、ねつ造・改ざんしたフリードマンのあがく姿を描いている(Researchers Feeling Pressure to Fake Data – Los Angeles Times)。 同じ文章は、「Faked Research Results on Rise?」にもある。
米井香織/高森郁哉の日本語訳を引用する(深刻化する、科学研究の捏造・改竄・盗用(上) « WIRED.jp)。
アンドルー・フリードマン博士は12回目の結婚記念日の夜、何かに脅えていた。
ブリガム女性病院とハーバード大学医学部で外科医としても研究者としても優秀だったフリードマン博士は、この経歴も家族も築き上げてきた生活もすべて失うのではないかと怖れていた。
上司が真実へと着実に近づいていたためだ。フリードマン博士は過去3年にわたり、ピアレビューを受けた論文を代表的な医学雑誌でいくつも発表し、高い評価を得ていたが、それらの一部はデータをでっち上げたものだった。
フリードマン博士はのちに、ハーバード大学の調査委員会に対し、「私が経験した恐怖の度合いやばかげた考えを説明するのは難しい」と述べている。
ちょうど結婚記念日だった1995年3月13日の夜、フリードマン博士は医学部長から疑わしいデータについて説明するよう書面で命じられていた。しかし、フリードマン博士は命令に従わなかった。
「私は自分にでき得る最悪のことをしてしまった」と、フリードマン博士は証言している。同博士は医療記録が保管されている部屋に行き、3〜4時間かけて数人の患者の記録がとじられたファイルを抜き出した。そして、論文の内容を裏づけるのに必要な情報を書き込み、自分の嘘を隠した。「私はデータを作った。でっち上げたのだ。そのうえ、架空の患者も作り出した」と、フリードマン博士は証言している。
フリードマン博士はその夜、帰宅した際に玄関で妻と顔を合わせ、涙を抑え切れなかった。そして翌朝、かかりつけの精神科医に緊急の予約を入れた。
だが、フリードマン博士はこのとき精神科医に真実を打ち明けなかった。それから10日間にわたって嘘をつきつづけ、この間、1通の手紙と改竄したファイルを医学部長に提出した。
しかし結局は諦め、まずは妻と精神科医に、その後同僚と上司たちに自分のしていたことを打ち明けた。
フリードマン博士は正式に事実を認め、論文を撤回し、同僚に謝罪して処分を受けた。
その後、再出発を果たし、現在は米ジョンソン&ジョンソン社傘下の米オーソ・マクニール・ファーマシューティカル社(現・ヤンセン・ファーマ社:Janssen Pharmaceuticals, Inc.)で臨床研究の責任者として働いている。
フリードマン博士はAP通信の取材には応じなかった。しかし、マサチューセッツ州医療登録委員会に保管されている、積み上げると高さ2メートルを超える書類には、1人の男が、権力と嘘、学界からの押し潰されそうなプレッシャーと苦闘した経緯が記録されている。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、アンドルー・フリードマン(Andrew J. Friedman)の論文を「Friedman AJ[Author]」で検索すると、1949年~2015年の67年間の148論文がヒットした。ここで問題にしているフリードマンとは別の人の論文が含まれている。
2015年1月16日現在、以下の2論文が撤回されている。フリードマンは、その2論文と1つの未発表論文原稿のデータの約8割を改ざん・ねつ造したと認めている。
- Gonadotropin-releasing hormone agonist plus estrogen-progestin “add-back” therapy for endometriosis-related pelvic pain.
Friedman AJ, Hornstein MD.
Fertil Steril. 1993 Aug;60(2):236-41.
Retraction in: Friedman AJ. Fertil Steril. 1996 Jan;65(1):211. - Does low-dose combination oral contraceptive use affect uterine size or menstrual flow in premenopausal women with leiomyomas?
Friedman AJ, Thomas PP.
Obstet Gynecol. 1995 Apr;85(4):631-5.
Retraction in: Pitkin RM. Obstet Gynecol. 1995 Nov;86(5):728.
●【白楽の感想】
《1》 追い詰められた状況
フリードマンのねつ造事件は平凡な事件だが、追い詰められて告白する過程の記事が秀逸なので、その点を強調して記載した。研究者が研究ネカトをしない警告になるかもしれない、と期待した。
●【防ぐ方法】
《1》 研究者には研究博士号(PhD)取得の義務化
大学院で、研究のあり方を習得するときに、研究規範を習得させる。
フリードマンの場合、研究博士号(PhD)を取得していないかもしれない。そうすると、研究の訓練は不十分である。医師免許(MD)を取得していても研究博士号(PhD)を取得していない者に研究をさせないのが1つの方法だろう。
《2》 不正の初期
「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。
フリードマンの場合、研究ネカトをした研究環境がわからないので、適切な予防法を提示できないが、1人孤立して研究したわけではないだろうから、上司・同僚がいるはずだ。そのような身近な研究者が、不正の初期で見つけ、それなりの処分をしておけば、①改心して、以後、不正をしない。②あるいは、研究者を止める。のどちらかになった公算が高い。
フリードマンの場合、不正発覚後、大学を辞めて、実際に、研究者を止めている。医師として、医院を開業した。
「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響が大きくなる。
《3》 不正を100%見つける仕組みにする
人間はどうして飲酒運転をするか? 警察官、裁判官、教師も飲酒運転をする。
犯罪だと知っているのに飲酒運転をする。人生を破滅させるかもしれないと知っているのに飲酒運転をする。「今まで、見つかっていないので、今度も見つからない」からするのである。
「研究上の不正行為」も同じである。悪いこと、研究人生を破滅させるかもしれないと知っているのに不正をする。だから、研究者に研究倫理の講習や研修を義務化しても、効果は薄い。なぜなら、「してはいけないこと」「悪いこと」を承知していて、するのだから、「してはいけないこと」「悪いこと」と教えても意味がない。
すぐに必ず見つかれば、しない。だから、現在の研究制度を変えて、「研究上の不正行為」はすぐに100%(約98%でも可)見つかる仕組みにする。
●【主要情報源】
① ORI NEWSLETTER、Volume 4, No. 3, Office of Research Integrity, June 1996
② 2005年7月10日、ロサンゼルス・タイムズ紙の記者・マーサ・メンドーザ(Martha Mendoza)の記事:Researchers Feeling Pressure to Fake Data – Los Angeles Times