フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)(ブラジル)、ダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)(米)

2024年2月29日掲載 

ワンポイント:フェレイラはブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)・教授で、米国のスタンフォード大学医科大学院(Stanford University School of Medicine)のモクリー=ローゼン教授の弟子で、フェレイラの論文の4割はモクリー=ローゼン教授と共著である。2023年9月、パブピアでフェレイラ(42歳)の論文のデータにねつ造・改ざん疑惑が指摘され、結局、疑惑論文は、2008~2022年の15論文になった。内、8論文(53%)はモクリー=ローゼンと共著だった。2024年2月28日現在、サンパウロ大学とスタンフォード大学医科大学院はネカト調査をしていない(推定)。大学怠慢、学術誌怠慢。ネカトでクロとなると、国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。この事件は、2023年ネカト世界ランキングの「5」の「4」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio C. B. Ferreira、Julio Cesar Batista Ferreira、ORCID iD、写真出典)は、ブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)・教授で医師免許は持っていない。専門は細胞生物学(ミトコンドリア)である。

ダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen、ORCID iD:?、写真出典)は、イスラエル出身で、米国のスタンフォード大学医科大学院(Stanford University School of Medicine)・教授になった。専門は化学・システム生物学である。

モクリー=ローゼンは、フェレイラがスタンフォード大学医科大学院・ポスドクだった時のボスで、その後も、フェレイラと共同研究を続けていた。

「パブピア(PubPeer)」では、フェレイラの2008~2022年の15論文にコメントがある。その内、2012~2022年の8論文(53%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。モクリー=ローゼンが最後著者なので、モクリー=ローゼンの研究室から出版した論文と見てよいだろう。

白楽記事では、フェレイラを主役にモクリー=ローゼンを脇役に記載した。

ネカト処分の白楽原則:「受益者有責の原則」・・・発表した論文で利益を得る人は、その論文に問題があれば、責任がある。

白楽記事では、ネカトの実行犯は別にいたとしても、研究室主宰者であるフェレイラとモクリー=ローゼンに主要な責任があるとした。

サンパウロ大学とスタンフォード大学医科大学院はネカト調査を始めていない(推定)。大学怠慢、学術誌怠慢。

この事件は、2023年ネカト世界ランキングの「5」の「4」である。つまり、「より良い科学のために(For Better Science)」サイトで2023年に最も読まれた記事ランキングの第4位だった。

サンパウロ大学・生物医科学研究所(Instituto de Ciências Biomédicas da Universidade de São Paulo)。写真出典

★フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio C. B. Ferreira、Julio Cesar Batista Ferreira)

  • 国:ブラジル
  • 成長国:ブラジル
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:サンパウロ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1980年11月4日
  • 現在の年齢:44 歳
  • 分野:細胞生物学
  • 不正論文発表:2008~2022年(27~41歳)の14年間
  • ネカト行為時の地位:サンパウロ大学・院生、ポスドク、準教授。スタンフォード大学医科大学院・ポスドク
  • ネカト発覚年:2023年(42歳)
  • 発覚時地位:サンパウロ大学・準教授(正教授?)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は匿名でパブピアで指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①サンパウロ大学、調査していない。②スタンフォード大学医科大学院、調査していない。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文0報。15論文がパブピアで問題視
  • 時期:研究キャリアの初期・中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 対処問題:大学怠慢、学術誌怠慢
  • 特徴:
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio C. B. Ferreira、Julio Cesar Batista Ferreira)

主な出典:Currículo do Sistema de Currículos Lattes (Julio Cesar Batista Ferreira)https://orcid.org/0000-0003-2694-239X

  • 生年月日:1980年11月4日、ブラジルで生まれた。根拠:Julio Cesar Batista Ferreira – ABC
  • 2003年(22歳):ブラジルのサンパウロ大学・体育スポーツ学部(Escola de Educação Física e Esporte da Universidade de São Paulo)で学士号を取得
  • 2006年(25歳):同学部で修士号取得
  • 2008~2022年(27~41歳):この14年間の15論文がパブピアで問題視されている
  • 2009年(28歳):ブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)で研究博士号(PhD)を取得。この間、米国のスタンフォード大学で共同研究あり
  • 2009~2010年(28~29歳):ブラジルのサンパウロ大学・ポスドク
  • 2010~2012年(29~31歳):米国のスタンフォード大学医科大学院(Stanford University School of Medicine)・ポスドク
  • 2012年3月(31歳):ブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)・準教授。その後、正教授になっているらしいので、本記事では正教授とした
  • 2017年(36歳):ブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)・ハビリテーションを取得
  • 2023年9月(42歳):論文のデータにねつ造・改ざん疑惑が指摘された
  • 2024年2月28日(43歳)現在:サンパウロ大学とスタンフォード大学医科大学院はネカト調査を始めていない(推定)。フェレイラは従来職を維持

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
フェレイラの講演動画:「SNCT 2023 – EDUCAÇÃO CIÊNCIA E TECNOLOGIA – Prof. Dr. Julio César Batista Ferreira – YouTube」(ポルトラル語)1時間22分5秒。
ICB-USP(チャンネル登録者数 1.65万人)が2023/10/24に公開

 

【動画2】
モクリー=ローゼンのインタビュー動画:「Daria Mochly-Rosen, Ph.D.: Stanford Childx Conference – YouTube」(英語)3分53秒。
Stanford(チャンネル登録者数 187万人)が2015/04/09に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)はブラジルで生まれ育ち、ブラジルのサンパウロ大学(University of Sao Paulo)で研究博士号(PhD)を取得した。

米国のスタンフォード大学医科大学院のダリア・モクリー=ローゼン教授(Daria Mochly-Rosen)のポスドクになった。

その後、ブラジルに帰国し、サンパウロ大学・教授になるが、モクリー=ローゼンと共同研究を続けた。

本記事では、フェレイラを主役にモクリー=ローゼンを脇役に記載した。

ネカト処分の白楽原則:「受益者有責の原則」・・・発表した論文で利益を得る人は、その論文に問題があれば、責任がある。

白楽記事では、ネカトの実行犯は別にいたとしても、研究室主宰者であるフェレイラとモクリー=ローゼンに主要な責任があるとした。

「パブピア(PubPeer)」では、フェレイラの2008~2022年の15論文にコメントがある。その内、2012~2022年の8論文(53%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。モクリー=ローゼンが最後著者で、モクリー=ローゼンの研究室から出版した論文と思われる。

★獲得研究費

ダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)は、1989~2023年の35年間にNIHグラントを97件、総額$32,566,040(約32億円)得ていた。巨額である。

2021~2023年の3年間のグラント獲得は以下のようだ。 → RePORT ⟩ Daria Mochly-Rosen

フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)はNIHグラントを獲得していない。ブラジルの研究助成機関・FAPESPから研究助成を受けている。

フェレイラはブラジルが本拠なので、米国NIHグラントを獲得していないのは普通である。

★発端と対処

2023年9月、パブピアでフェレイラ(42歳)の多数の論文にデータの異常があると指摘された。

「パブピア(PubPeer)」では、フェレイラの2008~2022年の15論文にコメントがある。その内、2012~2022年の8論文(53%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。モクリー=ローゼンが最後著者で、モクリー=ローゼンの研究室から出版した論文と思われる。

2024年2月28日現在、サンパウロ大学とスタンフォード大学医科大学院はネカト調査を始めていない(推定)。

【ねつ造・改ざんの具体例】

パブピアでフェレイラの2008~2022年の15論文にデータの異常があると指摘された。ネカト調査されていないが、3報選んで、どのデータに異常があったのか見ていこう。

★「2018年のCardiovasc Res」論文

フェレイラとモクリー=ローゼンが共著の「2018年のCardiovasc Res」論文の書誌情報を以下に示す。2024年2月28日現在、論文は撤回されていない。

2023年10月、図S1D。赤枠の測定値が非常によく似ている、と指摘された。つまり、図の使いまわしという、データねつ造。 → https://pubpeer.com/publications/68C76B6075C672E60F561FDBFC3052

★「2019年のNat Commun」論文

フェレイラとモクリー=ローゼンが共著の「2019年のNat Commun」論文の書誌情報を以下に示す。2024年2月28日現在、論文は撤回されていない。

2023年9月、Supplementary Materialsのウェスターンブロット画像が同じ。再使用ではないか、と指摘された。つまり、図の使いまわしという、データねつ造。 → https://pubpeer.com/publications/46BD2478C55F3E3F5289ACCFAF7F92

パブピアに以下の図が貼り付てあるので、本記事でも貼り付けたが、白楽は、画像の問題点を理解できていない。ゴメン。

2019年2月20日、なお、ブラジルの研究助成機関・FAPESPはこの論文の研究成果を報じた。既に心不全の新薬の特許を取得し、産業界の協力者を求めているとのことだ。 → 2019年2月20日:Researchers create a new molecule to treat heart failure

★「2020年4月のFASEB J」論文

モクリー=ローゼンが共著ではない論文。

フェレイラの「2020年4月のFASEB J」論文の書誌情報を以下に示す。2024年2月28日現在、論文は撤回されていない。

2023年9月、図S4F。黄色枠の画像が非常によく似ている、と指摘された。つまり、図の使いまわしという、データねつ造。 → https://pubpeer.com/publications/BCDBB1CF9BDCE04254FA4571EBF27D

この論文はまた、同じ第一著者であるジュリアン・カンポス(Juliane C. Campos)の過去の論文の図を再使用している、と指摘された。

さらに、ジュリアン・カンポス(Juliane C. Campos)の博士論文の図を再使用している、と指摘された。

ジュリアン・カンポス(Juliane C. Campos、写真出典)は現在、ハーバード大学・ポスドク( T. Keith Blackwell 研究室)である。

カンポスは上記した最初と2番目の論文で第二著者になっている。つまり、ココに示した3論文に共通の著者である。もし、彼女がネカト実行者なら、ハーバード大学でもネカトをする可能性が高い。要注意である。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2024年2月28日現在、パブメド(PubMed)で、フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)の論文を「Julio Cesar Batista Ferreira[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2023年の15年間の21論文がヒットした。

21論文の内、12論文(57%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。共著は2009年の最初の論文から2022年の論文まであった。

「Ferreira JCB」で検索すると、2007~2024年の18年間の83論文がヒットした。

83論文の内、33論文(40%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。共著は2009年の最初の論文から2023年の論文まであった。

2024年2月28日現在、「Retracted Publication」のフィルターでフェレイラの論文撤回リストをパブメドで検索すると、0論文が撤回されていた。

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ダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)の論文のコメントを「Mochly-Rosen D」で検索すると、1980~2024年の45年間の318論文がヒットした。

2024年2月28日現在、「Retracted Publication」のフィルターでモクリー=ローゼンの論文撤回リストをパブメドで検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年2月28日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでフリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)を「Julio Cesar Batista Ferreira」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年2月28日現在、「パブピア(PubPeer)」では、フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio Cesar Batista Ferreira)の論文のコメントを「”Julio C. B. Ferreira”」で検索すると、2008~2023年の19論文にコメントがあった。

19論文の内4論文は、理由は不明だが、フェレイラは著者ではない。残り15論文は2008~2022年の出版である。

2008~2022年の15論文の内、2012~2022年の8論文(53%)はダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)と共著だった。モクリー=ローゼンの研究室から出版した論文と思われる。

ダリア・モクリー=ローゼン(Daria Mochly-Rosen)の論文のコメントを「”Daria Mochly-Rosen”」で検索すると、17論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》腐敗 

フリオ・セザール・バティスタ・フェレイラ(Julio C. B. Ferreira、Julio Cesar Batista Ferreira、写真出典)事件は、2023年ネカト世界ランキングの「5」の「4」である。つまり、「より良い科学のために(For Better Science)」サイトで2023年に最も読まれた記事ランキングの第4位だった。

レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログでは、所属大学・研究所のネカト調査前のネカト行為を暴く記事が多い。その場合、研究室主宰者をターゲットに、ネカト内容を記載する傾向が高い。今回もその1つである。

それで、ネカト実行犯は別にいる可能性は十分にある。例えば、本文で示したジュリアン・カンポス(Juliane C. Campos)である。

それにしても、ネカト処分の白楽原則:「受益者有責の原則」・・・発表した論文で利益を得る人は、その論文に問題があれば、責任がある。

ネカトの実行犯は別にいたとしても、白楽記事では、研究室主宰者であるフェレイラとモクリー=ローゼンに主要な責任があるとした。

なお、フェレイラの問題論文は、2008~2022年(27~41歳)の14年間に及んでいる。院生の時からネカトをしていたようなので、もっと早く摘発すべきだった案件である。

ネカトの法則:「ネカトでは早期発見・厳罰処分が重要である」。

そして、ネカトの法則:「ネカトはその人の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」なので、調べるともっと多数の論文にネカトが見つかる可能性がある。。

シュナイダーのブログを読んでいると、研究界上層部の腐敗の蔓延ぶりに吐き気がしてくる。

研究者の社会、そして、人間社会はこんなものなのでしょうか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】

① 2023年11月15日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Julius Caesar & Daria – Brazilian Tango in Stanford – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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