7-77 研究倫理教育は時間の無駄?

2021年8月24日掲載 

白楽の意図:院生や研究者への研究倫理教育は時間の無駄で、子供時代の教育が重要だという「2019年10月のBMC Medical Ethics」論文を、ジェマ・コンロイ(Gemma Conroy)が「2020年2月のNature Index」論文で解説した。それを読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
4.論文内容
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

白楽注:本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

●1.【論文概要】

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 著者:ジェマ・コンロイ(Gemma Conroy)
  • 紹介: About – Gemma Conroy
  • 写真: https://twitter.com/gvconroy
  • ORCID iD:
  • 履歴:
  • 国:オーストラリア
  • 生年月日:現在の年齢:41 歳?
  • 学歴:xx国のxx大学(xx)で学士号(生物学)xxxx年
  • 分野:科学ジャーナリズム
  • 論文出版時の所属・地位:フリーランス(freelance)。Scientific American、New Scientist、Smithsonian、Nature、Australian Geographic、ScienceAlert、PopularScienceなどで、記事を執筆。そして、モデル

●4.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

《1》研究倫理教育は無駄 

研究上の悪行を減らす方策として、研究倫理教育をもっと行なうことと、明確なガイドラインを作成することが推奨されている。しかし、以下の論文は、研究者の性根が悪ければ、これらの努力は無駄だと述べている。

「2019年10月のBMC Medical Ethics」論文(以下)は、子供時代の教育(childhood education)と研究者の生来の性格(personality traits)が、研究倫理教育よりも、研究規範を守るという倫理観に大きな影響を与えていることを明らかにした。

倫理観の欠けている院生やプロの研究者に、研究ルールを教えることはできても、倫理観を持たせることはできない。

世界中の大学・研究機関は、ネカト行為を減らすために最善を尽くしている。

そして、米国のNIHと科学庁(NSF)から研究助成を受ける院生・研究者に研究公正教育を義務化して20年が経った。

しかし、論文は、「研究公正の向上・維持に研究公正教育が有効だったという証拠は(ほとんど)無い」、と指摘している。

《2》子供時代に身につける 

論文の筆頭著者でスイスのバーゼル大学(University of Basel)・ポスドクのプリヤ・サタルカル(Priya Satalkar、写真出典)は、次のように述べている。

「研究倫理観の構築は、小学校時代から始まっています。そのまとめとして、大学の学部時代に正式な研究公正教育を受けることが効果的です。

研究公正は、結局、その人の持つ誠実さ、公正性、透明性に帰着します。それが研究者の子供時代にその人の性情の一部になっていれば、大学院やプロの研究者になってから研究倫理教育を受ける必要はありません。

逆に、子供時代にその人の性情の一部になっていなければ、大学院やプロの研究者になってから研究倫理教育をしても効果はありません」。

ただ、研究職採用に応募してきた応募者の倫理観を検定するのは難しい現実がある。

研究職採用時の面接では、「研究が失敗した時の対処方法は?」、「研究で成功するには多少の手抜きは仕方ないと思うか?」などの質問をし、応募者の反応を評価する必要がある。このような質問とその質問への応募者の反応は、「応募者の生来の性格(personality traits)と研究倫理観を知る貴重な手がかりになる」、とサタルカルは述べた。

サタルカルは、論文の共著者であるデイヴィッド・ショー上級研究者(David Shaw、バーゼル大学、写真出典)とともに、スイスの大学・研究機関の33人の生命科学研究者(博士院生~教授)に、各人がどのように研究倫理観を構築したかについてインタビューした。

回答者の約40%は、研究公正教育を大学・学部の教育科目に含めるべきだが、研究公正教育で学んだことを実際の研究現場で生かすには、正直さと公正さに対する根源的な価値観をその人が持っている必要があると主張した。

インタビューを受けた人の3分の2は、キャリアのどの段階でも研究公正に関する正式なトレーニングを受けておらず、教育機関でトレーニングの機会があるのかどうかも知らなかった。

ほぼ半数は、両親と教師が幼い頃から「公正に行動するよう」教えてくれたと述べていた。3分の1以上は、彼らの研究公正観は生来の性格(personality traits)に基づいていると述べた。

ある中堅研究者はインタビューで、「私は嘘をつくのが好きではないと思います。嘘をつくと、気分が悪くなるのです」と述べた。

《3》適切な動機を与える 

Fanelli3_cut_small英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics)で研究バイアスとネカト行為を研究しているダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli、写真出典)は、研究公正教育を効果的に行なうには、適切なインセンティブを設定する必要があると述べている。

そのようなインセンティブの1つは、研究公正を積極的に促進し、高い倫理基準に従って研究する研究者を表彰し、報酬を与えることだ、と彼は言う。

「表彰し、報酬を与えれば、表彰された研究者を見習って、他の研究者も自分の専門家としての尊敬度を高めようと努力するようになる」と。

ワシントン大学(University of Washington)の微生物学者で、ネカト行為に関する論文を発表しているフェリック・ファン(Ferric Fang、写真出典)は、構造化されたトレーニングは役立つ面はあるが、研究規範に優れた個人と研究チームの名声を強調することが、ネカト行為の頻発を防ぐ鍵だと述べている。

「研究文化の改革は、多くの研究公正教育を実施するよりも野心的な目標です。そして、ネカト行為を減らすの唯一の根源的な方法は研究文化の改革だと思います」

●6.【白楽の感想】

《1》日本では? 

つい、出羽守が登場してしまう。はい。

以前から言っていることだが、「研究倫理教育は時間の無駄?」のような論文を読むと、日本に同様な研究が全くない現実に愕然とする。

ハッキリ言って、日本にはネカト研究者がいない。

だから、時間の無駄だと言われる研究倫理教育に、ここ10年以上、大学は熱心である。

そりゃそうだ、文部科学省が熱心だし、いわゆる日本の偉い学者も熱心だからだ。

どうしてかって? 

米国の一部に研究倫理教育を推進する人たちがいて、その真似をすればいいと信じているからだ。

その米国の研究倫理教育について、本論文は以下のように批判している。

米国のNIHと科学庁(NSF)から研究助成を受ける院生・研究者に研究公正教育を義務化して20年が経った。

しかし、論文は、「研究公正の向上・維持に研究公正教育が有効だったという証拠は(ほとんど)無い」、と指摘している。

研究文化は米国と日本で異なる面はある。

だから、米国で役に立たなくても日本では役立つ可能性はある。ただ、そういう科学的な根拠があるかどうかを含め、研究公正の向上・維持のためにどうすべきかという問題にたいして、日本では何も研究していない。だから、データがない。

白楽が現役時代、そういう研究をしようと、研究費を申請したことがあるが、却下された。つまり、研究者がいないだけでなく、そういう研究が必要だという意識が研究上層部になかった(し、今もない、多分)。

だから、日本の研究倫理観は向上していない。ネカト件数も減っていない。  ・・・、かどうか、データがないのでわからない。

《2》研究倫理教育 

日本の研究倫理教育をどうすると良いか? 白楽の考えを述べておこう。

小・中・高・大学の教科の中で、レポートや課題の提出を求めた時、ネカト禁止についてハッキリ教える。現状では盗用問題(含・論文代行)が多いと思うので、特に、盗用、引用、論文代行などをハッキリ教える。

日本の研究訓練は学部の卒論で始まり、大学院が中心である。

それで、学部の卒論を実施する時、講義で1単位(2時間x7回)程度の科目を設け、かなりシッカリ教える。大学院の1年生の時にも再度、講義でシッカリ教える。

それから、ここが肝心だけど、院生の研究成果を学会発表しようと計画した時、論文にまとめようと考えた時、作業に並行して、研究室の指導教員が、その院生にネカトとクログレイ(著者在順など)の実地訓練をガッチリ行なう。

これが、その院生が研究者になってからネカト・クログレイで失敗しないための、シメの教育である。

研究者になった人には、義務としての研究倫理教育は必要ない。

但し、大きな問題は、大学院教育を受けないで大学教員になった人である。例えば、論文博士者、官僚や民間から移籍した大学教員は、研究のイロハを知らない割合が多く、ネカト比率が高い(チャンとしたデータはない)。この人たちには、採用時に研究倫理教育を義務化する。

そして、大きなポイントは、全国の研究者が自分で学べる講演会(研修会)・本・サイト、そして、相談できるサイトを用意することだ。

前者は既に少しある。後者はない。

後者に関しては、日本全国から受け付ける無料の「研究倫理相談室」を設けるべきだろう。

例えば、民間企業のエディテージ・インサイト社が提供している「Q&Aフォーラム 」は素晴らしいと思う。このような活動を非営利団体がすべきだと思う。

日本学術振興会または科学技術振興機構が資金をだして「研究倫理相談室」をもうけたらどうでしょう? 白楽は相談員になりますよ。

《3》科学ジャーナリトでモデル 

ここは、「7-75 扇情的な科学用語は危険」と同じ。

この記事の著者・ジェマ・コンロイ(Gemma Conroy)はフリーランスの科学ジャーナリストで、そして、モデルである。

なんか、両立しないような業種だが、両立するんですね。以下の写真、モデルのサイトから一枚拝借した。出典:Modelling – Gemma Conroy

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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