2017年3月28日掲載。
ワンポイント:盗博サイトのヴロニプラーク・ウィキの23番目。国はドイツではなくデンマークである。パキスタンのシンド大学を卒業した男性で、2007年(45歳)にデンマークのオールボー大学で工学の博士号を 取得し、サザンデンマーク大学・準教授になった。2012年(50歳)に盗博がバレ、2014年(52歳)にデンマーク科学不誠実委員会がクロと判定した。2016年(54歳)に博士号がはく奪された。盗用ページ率は64.9%で、盗用文字率は約37%である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.盗用解析
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ナスルラ・ミーモン(Nasrullah Memon、写真出典)は、パキスタンのシンド大学を出て、2007年(45歳)にデンマークのオールボー大学(Aalborg Universitet Esbjerg、英語:Aalborg University – Esbjerg)で工学の博士号を取得した。その後、サザンデンマーク大学(University of Southern Denmark in Odense)・準教授になった。専門は、工学(コンピュータ)である。
2012年4月18日(50歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が盗博を告発した。23番目の盗博事件である。盗用ページ率は64.9%で、盗用文字率は約37%である。
→ 1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
ヴロニプラーク・ウィキがドイツ以外の大学の盗博も告発している少数例(2017年3月27日現在・14人)の1人である。英語で記載されているのも珍しい。
2014年12月2日(52歳)、デンマーク政府の研究情報技術省の下部機関であるデンマーク科学不誠実委員会(Danish Committee on Scientific Dishonesty)は、「ナスルラ・ミーモンに盗博があった」という調査報告書を発表した。
2016年6月30日(54歳)、オールボー大学は、博士号をはく奪した。
ミーモンは盗博だけでなく、ネカト論文が多数見つかっている。2017年3月27日現在、ミーモンの15論文が撤回され、「撤回監視(Retraction Watch)」の「撤回論文数」世界キングの第30位以内に、「過去」に入っていた。
オールボー大学(Aalborg Universitet Esbjerg、英語Aalborg University – Esbjerg)。写真出典
- 不正:盗博(盗用博士論文)
- 国:デンマーク
- 成長国:パキスタン
- 研究博士号(PhD)取得年月日:2007年8月15日(45歳)
- 研究博士号(PhD)取得大学:デンマークのオールボー大学
- 分野:工学(コンピューター)
- 博士論文タイトル:Mathematical Models for Analyzing, Visualizing and Destabilizing Terrorist Networks
(日本語訳):テロリスト・ネットワークの分析、可視化、非安定化の数学モデル - 博士論文審査教授: Prof. Dr. Henrik Legind Larsen, Prof. Dr. Hsinchun Chen, Prof. Dr. Jørgen Fischer Nilsson, Prof. Dr. Kim Bæhr Larsen.
- 公開: 2007. → ISBN 978-87-7606-020-6.
- 盗博発覚年月日:2012年4月18日(50歳)
- 盗用ページ率:64.9%
- 盗用文字率:約37%
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:2016年6月30日(54歳)、はく奪
- 男女:男性
- 生年月日:1961年。仮に1961年12月31日とする。パキスタンで生まれる(推定)。
- 現在の年齢:62 歳?
- 発覚時地位:サザンデンマーク大学(University of Southern Denmark in Odense)・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の人
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①オールボー大学・調査委員会。②デンマーク科学不誠実委員会は調査報告書を2014年12月2日に発表
- 結末:博士号はく奪。実質的には解雇。
●2.【経歴と経過】
主な出典:https://www.linkedin.com/in/nasrullah-memon-93b7635?authType=NAME_SEARCH&authToken=a_ta
- 生年月日:1961年。仮に1961年12月31日とする。パキスタンで生まれる(推定)。
- 年(21 – 25歳):パキスタンのシンド大学(University of Sindh)。応用数学専攻。修士号取得
- 1987年8月 – 2003年5月年(25 – 41歳):パキスタンのメヘラーン工科大学(Mehran University of Engineering and Technology)・助教授
- 2000年(38 – 39歳):英国のハダースフィールド大学(University of Huddersfield)。ソフトウェア開発学専攻。修士号取得
- 2003年(41 – 45歳):デンマークのオールボー大学で研究博士号(PhD)取得。データーマイニング専攻
- 2007年7月 – 2009年4月(45 – 47歳):デンマークのオールボー大学・準教授
2009年5月(47歳):デンマークのサザンデンマーク大学(University of Southern Denmark in Odense)・準教授 - 2012年4月18日(50歳):5年前の盗博が発覚
2016年6月30日(54歳):オールボー大学は、博士号をはく奪した 2016年12月(54歳):デンマーク のオーゼンセにエヌエム・コンサルティング社(NM Consulting)を設立
●3.【動画】
【動画1】
事件ニュースではない。ナスルラ・ミーモン(Nasrullah Memon)の研究インタビュー「Math against Terrorism 」(英語)2分36秒
nasrullah memon が2009/08/22 にアップロード
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ナスルラ・ミーモン(Nasrullah Memon)は、パキスタンで生まれ育った(推定)。
パキスタンの大学で修士号を取得後、パキスタンのメヘラーン工科大学・助教授に就任するが、在職のまま、デンマークのオールボー大学に大学院留学した。
2007年(45歳)、ナスルラ・ミーモンは、デンマークのオールボー大学で工学の研究博士号(PhD)を取得した。専門はデーターマイニングである。
2009年5月(47歳)、デンマークのサザンデンマーク大学(University of Southern Denmark in Odense)・準教授に就任した。
★「盗博」事件
2012年4月18日(50歳)、5年前の2007年のナスルラ・ミーモンの博士論文に盗用があると、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が、盗博を告発した。
オールボー大学は調査委員会を設置し、調査の結果、引用文献なしの逐語盗用と言い換えがあり、盗博があったと結論した。
2012年7月24日(50歳)、オールボー大学は自大学での調査結果を添えて、ナスルラ・ミーモンの盗博を、デンマーク政府の研究情報技術省の下部機関であるデンマーク科学不誠実委員会(Danish Committee on Scientific Dishonesty)に申し立てた。
2年数か月が経った。
2014年12月2日(52歳)、デンマーク科学不誠実委員会は、「ナスルラ・ミーモンに盗博があった」という調査報告書を発表した。
engelsk-anonymiseret-afgorelse-af-2-december-2014さらに、1年半が経った。
2016年6月30日(54歳)、発覚4年2か月後、オールボー大学は、ナスルラ・ミーモンの博士号をはく奪した。
★盗博以外の盗用論文:1-8報目の撤回論文
ナスルラ・ミーモンは、博士論文だけでなく、ジャーナルに発表した論文でも盗用していたことが見つかった。以下に8撤回論文を並べる。
出典:2013年1月16日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Eight papers by anti-terrorism professor retracted for plagiarism – Retraction Watch at Retraction Watch
- “Detecting New Trends in Terrorist Networks,” in the Proceedings of the 2010 International Conference on Advances in Social Networks Analysis and Mining (ASONAM)
- “Detecting High-Value Individuals in Covert Networks: 7/7 London Bombing Case Study,” in the Proceedings of the IEEE/ACS International Conference on Computer Systems and Applications, 2008
- “Detecting Key Players in 11-M Terrorist Network: A Case Study,” in the Proceedings of the Third International Conference on Availability, Reliability and Security, 2008
- “Practical Algorithms and Mathematical Models for Destabilizing Terrorist Networks,” in Military Communications Conference, MILCOM 2007
- “Harvesting Terrorists Information from Web,” in the Proceedings of the 11th International Conference Information Visualization (IV’07), 2007
- “Detecting Critical Regions in Covert Networks: A Case Study of 9/11 Terrorists Network,” in the Proceedings of the Second International Conference on Availability, Reliability and Security, 2007
- “Practical Approaches for Analysis, Visualization and Destabilizing Terrorist Networks,” in the Proceedings of the First International Conference on Availability, Reliability and Security, 2006
- “Novel Algorithms for Subgroup Detection in Terrorist Networks,” in the Proceedings of the International Conference on Availability, Reliability and Security, 2009
★盗博以外の盗用論文:9報目の撤回論文
以下の「2007年のAdvanced Data Mining and Applications」論文が撤回されている
How Investigative Data Mining Can Help Intelligence Agencies to Discover Dependence of Nodes in Terrorist Networks
Nasrullah Memon, David L. Hicks, Henrik Legind Larsen
Advanced Data Mining and Applications
Volume 4632 of the series Lecture Notes in Computer Science pp 430-441, 2007
撤回の理由は、表1が2006年出版の他人の論文からの盗用だった。
この論文撤回は、その後、「訂正」と訂正されたが、再度、撤回された
★盗博以外の盗用論文:10-15報目の撤回論文
説明省略。
●6.【盗用解析:博士論文】
ナスルラ・ミーモン(Nasrullah Memon)の博士論文のタイトルは 「Mathematical Models for Analyzing, Visualizing and Destabilizing Terrorist Networks
(日本語訳):テロリスト・ネットワークの分析、可視化、非安定化の数学モデル 」である。
- 青:表題、目次、表、図、文献、付録で、計算に含めない
- 白:盗用なし
- 黒:盗用が50%以内
- 暗い赤:盗用が50%~75%未満
- 明るい赤:盗用が75%以上
博士論文は271 ページ、本文249ページ、盗用ページ率は64.9%、盗用文字率は約37%と算定された。明るい赤が多い。
なお、元の盗用分析図では、バーコードがページ毎の盗用分析にリンクしている。→ http://de.vroniplag.wikia.com/wiki/Nm
★イラスト表示
以下はページ毎に色分けしたイラスト表示である。
盗用の色分けは、灰色= 逐語盗用(コピペ、文献提示なし)、赤色 = 加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)、黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)、 青色 = 翻訳盗用、である。
★各ページの盗用分析
ナスルラ・ミーモン(Nasrullah Memon )の博士論文の各ページ毎に盗用分析がされている。盗用があるページは青色で、盗用がないページは赤色である。青色をクリックすると、各ページが開く。
【61ページ目】
1例として、61ページ目(つまり、061)をクリックすると、盗用比較図が出てくる。以下はその1部分を示した。
左側がナスルラ・ミーモンの博士論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である。
●7.【白楽の感想】
《1》処分なしの大甘
ナスルラ・ミーモンは博士号がはく奪され、15論文が撤回された。
それでも、デンマークのサザンデンマーク大学(University of Southern Denmark in Odense)はナスルラ・ミーモンを解雇していない、と匿名者が、2016 年11月3日にコメントしている。
Anonymous
15 retractions and still a stable job at SDU’s The Maersk Mc-Kinney Moller Institute:
http://findresearcher.sdu.dk:8080/portal/en/person/memon
どうして解雇しなかったのだろう?
その後、結局、解雇したのだが、サザンデンマーク大学の広報官は次のように述べている。
大学が予算削減の一環としてこの分野を閉鎖し、多くの教職員を解雇しました。その中にナスルラ・ミーモンも含まれています。ただし、解雇は、大学の経済的問題であって、盗博とは全く関係ありません(Danish university revokes PhD of anti-terrorism researcher – Retraction Watch at Retraction Watch)。
どうして、「盗博とは全く関係ない」と主張(弁解)するのだろう?
ナスルラ・ミーモンはデンマーク科学不誠実委員会の調査では、デンマークの弁護士・フレミング・シュロール(Flemming Schroll Madsen、写真同)を雇っている。盗博では解雇しないという示談が結ばれたのだろうか?
《2》グローバリズム
ナスルラ・ミーモンはパキスタン出身である。白楽はパキスタンの事情を理解していない。
しかし、ネカトに、人種、宗教、文化・制度の違い、を持ち込むべきではない。
日本も、「日本は米国とは違う」という日本特殊論をネカトに持ち込むべきではない。
とはいえ、先進国の研究倫理ルール(洗練された高度なルール)を適用される発展途上国の研究者は、大変ですねえ。
http://meta-synthesis.iss.ac.cn/kss2009/presentation/session.jsp?sessionNO=g&sessionName=Session%20V
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●8.【主要情報源】
① ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のナスルラ・メモン(Nasrullah Memon)サイト。通常はドイツ語だが、今回は英語で、珍しい:Nm | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
② 2013年1月16日以降の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Nasrullah Memon – Retraction Watch at Retraction Watch
③ Brede Wiki:Nasrullah Memon – Brede Wiki
④ 2016年7月15日の「Weekendavisen」記事:PressReader.com 世界の新聞
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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