シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)(ドイツ)改訂

2019年5月6日掲載。

ワンポイント:イタリア生まれ・育ちの免疫学者・医師で、米国で研究博士号(PhD)を取得し、35歳の時、ドイツのボルステル研究センター(Research Center Borstel)・免疫細胞生物部・部長に就任した。論文の画像改ざんが発覚し、1999年~2009年の13論文が2011年に撤回された。ネカト者はポスドクのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)だったが、監督不行き届きで研究室縮小、大学院生・ポスドク受入れ禁止の処分が科された。ボルステル研究センターを辞し、英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授に就任した。2015年7月2日当時、トータル13論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキ ング の第26位(2人いる)だった(The Retraction Watch Leaderboard- Retraction Watch、日本語サイト: 「撤回論文数」世界ランキング)。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

141101 bulfone-paus1[1]シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus、1964年11月10日~、ORCID: 0000-0002-5764-8516 、写真出典)は、イタリア生まれ・育ちの免疫学者・医師で、米国で研究博士号(PhD)を取得し、35歳の時、ドイツのリューベック大学・教授、ドイツのボルステル研究センター(Research Center Borstel)・免疫細胞生物部・部長に就任した。研究は主にボルステル研究センター で行なった。3人の子供がいる。

141101i200_50b1ee6faaa854.89833871[1]夫のラルフ・パウス(Ralf Paus、写真出典)は、ドイツ人で、ドイツのリューベック大学皮膚科教授、英国・マンチェスター大学医学部・皮膚科学の教授である。

2009年10月(44歳)、シルビアは、発表論文の画像改ざんを指摘された。

調査の結果、研究室のロシア人ポスドクが改ざんをしたとされた。1999年~2009年発表の13論文が撤回された。シルビアは、研究室員の監督不行き届きで、院生の受け入れと研究費申請が期限付きで禁止された。

2011年(46歳)、今度は、ロシア人ポスドクが著者に入っていない1999年の論文で、ねつ造・改ざんの嫌疑がかけられた。シルビアは、これは「間違い」だったと釈明し、論文出版の13年後だが、2012年に訂正した。

2012年12月7日(48歳)、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)が調査報告書を発表した。シルビアは研究室員の監督不行き届きのためにデータ改ざんが発生したのでデータ改ざんで有罪となった。研究室のロシア人ポスドクのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova 写真 c 2014 DocCheck Medical Services GmbH)が、データ改ざんで有罪になった。

シルビアは、ドイツのリューベック大学・教授とドイツのボルステル研究センター・免疫細胞生物部・部長を停職、その後、辞職(解雇?)。

2015年7月2日当時、トータル13論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキ ング の第26位(2人いる)だった(The Retraction Watch Leaderboard- Retraction Watch、日本語サイト: 「撤回論文数」世界ランキング)。

2019年5月5日(54歳)現在 シルビアは、2013年(48歳)に就任した英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授に在職している。事件後も研究者を続けた少数例。

141101FZB_Wissens-und_Kommunikationszentrum_b4a9d77fd2[1]ドイツ北部ハンブルク郊外にあるボルステル研究センター。写真出典

  • 国:ドイツ
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:イタリアのトリノ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:米国・イエール大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1964年11月10日
  • 現在の年齢:59 歳
  • 分野:免疫学
  • 最初の不正論文発表:1999年(34歳)
  • 発覚年:2010年(45歳)
  • 発覚時地位:ドイツのリューベック大学・教授、ドイツのボルステル研究センター(Research Center Borstel)・免疫細胞生物部・部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はシルビア研究室のポスドクだったカリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer、生物学者)
  • ステップ2(メディア): 「The Local」紙、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ボルステル研究センターは2010年7月~2010年10月の3か月。②DFG-ドイツ研究振興協会(DFG:German Research Foundation)は2010年5月~2012年12月7日の2年7か月間
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:研究室員のデータ改ざんの監督不行き届き
  • 不正論文数:13論文(1999年~2009年)が2010年に撤回。他に6論文疑念
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:ボルステル研究センターでは、研究室縮小、大学院生・ポスドク受入れ禁止。その後、停職、辞職(解雇?)。
  • 日本人の弟子・友人:不明

●2.【経歴と経過】

【経歴】
主な出典:SFB Proteolysis as a Regulatory / Signaling Event in Pathophysiology

  • 1964年11月10日:イタリア、トリノで生まれる
  • 1989年(24歳):イタリア北西部のトリノ大学(Turin University)医学部で免疫学を学び卒業。医師免許
  • 1989年(24歳):トリノ大学で最初の論文出版:Development. 1989 Jul;106(3):473-81.。著者:Mangiarotti G, Bulfone S, Giorda R, Morandini P, Ceccarelli A, Hames BD.
  • 1989年(24歳):米国・イエール大学・大学院入学。ドイツ人の未来の夫・ラルフ・パウス(Ralf Paus)は、同じ時期(1987~1990年)、イエール大学・皮膚科学研究室にポスドクとして滞在していた。米国で結婚、出産。1990年、夫・ラルフ・パウス(Ralf Paus)はドイツに帰国・就職したが、1993~1994年の13か月は育児休暇で米国滞在
  • 1994年(29歳):米国・イエール大学・遺伝学研究室で博士号取得
  • 1994年(29歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部(Tibor Diamantstein教授)・ポスドク。サイトカイン(IL-15)とその受容体の研究開始
  • 1995年(30歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部(Tibor Diamantstein教授)で、独立した研究者になる
  • 1996年(31歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部・代理部長
  • 1997年(32歳):夫と共著の論文出版:Nat Med. 1997 Oct;3(10):1124-8. 著者:Bulfone-Paus S, Ungureanu D, Pohl T, Lindner G, Paus R, Ruckert R, Krause H, Kunzendorf U.
  • 1999年(34歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部・助教授
  • 2000年(35歳)10月:教授資格論文(Habilitation)提出。ドイツのリューベック大学(University of Lubeck)・正教授。ボルステル研究センター・免疫細胞生物部・部長
  • 2006-2008年(41-43歳):ボルステル研究センター・所長(?)
  • 2009年(44歳):不正研究が発覚する
  • 201X年(XX歳):ボルステル研究センター・停職、その後、辞職(解雇?)
  • 2013年(48歳):英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ボルステル研究センター

ボルステル研究センター(Research Center Borstel)(Research Center Borstel)は、結核とハンセン病の研究所として、1947年に設立されたドイツの非営利の国立研究所である。

2004年、非大学研究所の全国的な組織であるライプニッツ協会(Leibniz Association)傘下の研究所になった。その組織の傘下であることを示すために、「ボルステル研究センター-医学とバイオサイエンスのライプニッツ・センター(”Research Center Borstel – Leibniz-Center for Medicine and Biosciences”)と改名された。

ライプニッツ協会とは、

ライプニッツ協会として知られているゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ学術連合(WGL)は、国家レベルの重要な課題に取り組む89の研究所を統括する連合組織です。人文科学、社会科学、経済学、空間科学、生命科学、数学、自然科学、工学、環境学など幅広い分野を扱っているのが特色です。傘下の研究所は、学問的にも組織的にも独立しているため、ライプニッツ協会は分権化された組織体制となっています。研究活動のほか、大学や研究機関、企業などに研究インフラや各種サービスの提供も行っています。

総職員数は17,200人、うち8,200人が研究者です(2013年)。年間予算は14億ユーロ(2012年)で、出資比率は、連邦政府38.7%、州政府38.7%、その他22.6%です。

ライプニッツ協会の名称は、哲学者・数学者・科学者として幅広い分野で活躍したゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)に由来しています。(ライプニッツ学術連合 – ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京

★研究内容

シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)は、アレルギーや感染時の炎症過程におけるマスト細胞の役割を研究している。特に、先天性免疫と獲得免疫の間の相互作用を調節する際のマスト細胞の役割の解析である。

141101newsimage[1]写真出典

【不正発覚の経緯】

2009年10月(44歳)、シルビア研究室のポスドクだったカリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer、生物学者)が、シルビア研究室が発表しているいくつかの論文のウェスタン・ブロット像が酷似していることを指摘した(使い回し、ねつ造・改ざん)。

同じ画像のラベルを変えただけの画像、フォトショップでバンドを移動・変形した画像があり、ねつ造・改ざんと指摘した。カリン・ウィーバウアーはその5年前の2004年から、ねつ造・改ざん疑惑をシルビアに伝えていたので、実際は、シルビアは5年前の2004年から研究ネカトを知っていたハズだと訴えた。

2009年11月(44歳)、カリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer)は、研究ネカトを詳細に記したメールをシルビアに送った。しかし、シルビアは、ボルステル研究センターにそのことを、3か月間後の2010年2月まで伝えなかった。

2010年2月(45歳)、シルビアは、やっと、ボルステル研究センターにねつ造・改ざん疑惑を伝えた。

2010年4月(45歳)、ボルステル研究センターは調査委員会を設置した。

2010年5月(45歳)、シルビアはDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)から研究資金を助成されていたから、ボルステル研究センターはDFG-ドイツ研究振興協会にネカト疑惑が通報されたことを伝えた。

2010年6月(45歳)、ボルステル研究センターは調査を開始した。

2010年7月(45歳)、匿名の内部告発者は、Marco Berns、David Hardman、Fernando Pessoaなどの偽名で、ネイチャーが「名誉毀損」と呼ぶようなメールを、調査員、研究者、政治家に送った。ねつ造画像(右図出典)を示し、ブルフォーネ=パウスを攻撃した。
→ 2011年2月3日記事:Smear Campaign’…” (PDF)Lab Times (1): 3. February 2011

2010年10月(45歳)、ボルステル研究センター調査報告書は、2001-2009年の6論文の画像ねつ造・改ざんがあった。「論文には不注意な点があったが、研究結果には問題がない」とした。「データを改ざんしたのはシルビア研究室にロシアから来たロシア人ポスドク・カップルのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova 写真 c 2014 DocCheck Medical Services GmbH)とヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)である。141101large_1372249760[1]シルビアには研究室員の監督責任があった」と結論した。シルビアの研究室は縮小され、大学院生・ポスドクの受け入れは禁止された。
→ 2010年12月記事:Schiermeier, Quirin (December 2010). “German research centre widens misconduct probe”Naturedoi:10.1038/news.2010.671

エレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)とヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)のロシア人カップルは論文撤回に同意しなかったが、シルビアは、1999年~2009年の12論文を撤回した。

2011年3月16日(46歳)、25人の国際的な科学者たちが署名した公開書状がボルステル研究センター評議会に提出された。25人の科学者たちは繰り返しシルビアへの賞賛・尊敬を表明し、悲しいが、シルビアには研究ネカトをした2人のポスドクへの責任はあるとした。(OPEN LETTER – TO WHOM IT MAY CONCERN March 16, 2011

以下の文書をクリックすると、PDFファイル(5ページ)が別窓で開く。

2011年6月(46歳)、カリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer)は、「Blood」誌に出版したシルビアの別の論文にもデータねつ造・改ざんあると糾弾した。その論文の著者にロシア人カップルは入っていない。夫のラルフ・パウスが共著者になっていた。一方、ラルフ・パウスにも6報(1997年~2003年)の論文に研究ネカトの嫌疑がかかった。6報の内、5報は妻・シルビアと共著である。

その「Blood」論文は以下である。

1999年の「Blood」論文は、13年後の2012年9月、シルビアは訂正を発表した。

訂正の概略は以下のようだ。

1999年論文の3,536ページの図5Aと5Bが重複していると指摘された。図は、非常に良く似たヒストグラムだったので間違えました。不注意でした。著者(シルビア)は、図5Aと5Bの元となるフローサイトメトリーの生データを探したが、見つからなかった。研究所と政府のガイドラインに従うと実験終了後10年を経た記録は廃棄してよいとされているので、廃棄していた。結論の有効性のために再実験をしたが、オリジナルの抗IL-15 M112抗体(ジェンザイム社)とIL-15 IgG2b融合タンパク質は、もはや市販されていないので入手不可能だった。
それで、Peprotech社のウサギ抗ヒトIL-15ポリクローナル抗体で代用した。IL-15:Fc融合タンパク質はChimerigen社から購入した。新しい図を以下に示します(図は白楽が削除)。

2012年12月7日(48歳)、DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)が調査報告書を発表した(DFG, German Research Foundation – Scientific Misconduct: Decisions in Three DFG Cases)。

DFG-ドイツ研究振興協会調査委員会は、研究室のリーダーの機能として研究室員の監督があるが、シルビアはそれがいい加減だったので、研究ネカトで有罪とした。ペナルティは、3年間の研究費申請が不可、研究費審査委員になることも不可だった。

DFG-ドイツ研究振興協会・事務局長のドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek)は次のように述べている。

この結論は、彼女が若手の研究者の監督責任を履行しなかったためで、ブルフォーネ=パウスさん(Ms. Bulfone-Paus)をけん責する適切な手段と考えます。経験を積んだ研究者として、ブルフォーネ=パウスさん(Ms. Bulfone-Paus)は、彼女の同僚に、よいロールモデルを提供する重要な役割を遂行すべきところ、遂行しませんでした。

14110102_dzwonnek[1]ドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek) c DFG / Eric Lichtenscheidt:出典

どうでもいいかもしれないが、ドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek)は、ブルフォーネ=パウス「博士」と呼ばずに、ブルフォーネ=パウス「さん」(Ms. Bulfone-Paus)と呼んでいる。違和感がある。

DFG-ドイツ研究振興協会調査委員会は、エレーナ・ブラノバ博士(Dr. Elena Bulanova)は、問題論文の第一著者(first author)で責任著者(corresponding author)である。論文の画像操作、つまりデータ改ざんで有罪とした。夫(恋人?)のヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)はおとがめなしだった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★【撤回論文】

2015年7月2日当時、トータル13論文が撤回され、「撤回論文数」世界ランキ ング の第26位(2人いる)だった(The Retraction Watch Leaderboard- Retraction Watch、日本語サイト: 「撤回論文数」世界ランキング)。

2019年5月5日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)の論文を「Silvia Bulfone-Paus [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の70論文がヒットした。

「Bulfone-Paus S[Author] 」で検索すると、1995~2019年の25年間の118論文がヒットした。

2019年5月5日現在、「Bulfone-Paus S[Author] AND Retracted 」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1999~2009年の13論文が2011年に撤回されていた。

以下に13撤回論文を示す。ポスドクのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)に下線を引いたが、12論文で著者だった。2番目の論文は著者ではない。夫のラルフ・パウス(Ralf Paus)は青字にしたが、7論文で共著者だった。

パブメドで検索すると、エレーナ・ブラノバとシルビアの共著論文は全部で23報ヒットした。約半数が撤回されたことになる。

  1. Death deflected: IL-15 inhibits TNF-alpha-mediated apoptosis in fibroblasts by TRAF2 recruitment to the IL-15Ralpha chain.
    Bulfone-Paus S, Bulanova E, Pohl T, Budagian V, Durkop H, Ruckert R, Kunzendorf U, Paus R, Krause H.
    FASEB J. 1999 Sep;13(12):1575-85.
    Retraction in: FASEB J. 2011 Mar;25(3):1118.
  2. An interleukin-2-IgG-Fas ligand fusion protein suppresses delayed-type hypersensitivity in mice by triggering apoptosis in activated T cells as a novel strategy for immunosuppression.
    Bulfone-Paus S, Ruckert R, Krause H, von Bernuth H, Notter M, Pohl T, Tran TH, Paus R, Kunzendorf U.
    Transplantation. 2000 Apr 15;69(7):1386-91.
    Retraction in: Transplantation. 2011 Dec 27;92(12):e68
  3. The IL-15R alpha chain signals through association with Syk in human B cells.
    Bulanova E, Budagian V, Pohl T, Krause H, Durkop H, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2001 Dec 1;167(11):6292-302.
    Retraction in: Pohl T, Krause H, Durkop H, Paus R, Bulfone-Paus S. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2681.
  4. Enhanced inhibition of tumour growth and metastasis, and induction of antitumour immunity by IL-2-IgG2b fusion protein.
    Budagian V, Nanni P, Lollini PL, Musiani P, Di Carlo E, Bulanova E, Paus R, Bulfone-Paus S.
    Scand J Immunol. 2002 May;55(5):484-92.
    Retraction in: Scand J Immunol. 2011 Mar;73(3):266.
  5. Mast cells express novel functional IL-15 receptor alpha isoforms.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Krause H, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2003 May 15;170(10):5045-55.
    Retraction in: Krause H, Paus R, Orinska Z, Bulfone-Paus S. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2682.
  6. Signaling through P2X7 receptor in human T cells involves p56lck, MAP kinases, and transcription factors AP-1 and NF-kappa B.
    Budagian V, Bulanova E, Brovko L, Orinska Z, Fayad R, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2003 Jan 17;278(3):1549-60. Epub 2002 Nov 6. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 18;286(11):9894
  7. Natural soluble interleukin-15Ralpha is generated by cleavage that involves the tumor necrosis factor-alpha-converting enzyme (TACE/ADAM17).
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Ludwig A, Rose-John S, Saftig P, Borden EC, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2004 Sep 24;279(39):40368-75. Epub 2004 Jun 23. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 18;286(11):9894.
  8. Extracellular ATP induces cytokine expression and apoptosis through P2X7 receptor in murine mast cells.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Hein M, Petersen F, Thon L, Adam D, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2005 Apr 1;174(7):3880-90.
    Retraction in: Orinska Z, Hein M, Petersen F, Bulfone-Paus S, Thon L, Adam D. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2683.
  9. Soluble Axl is generated by ADAM10-dependent cleavage and associates with Gas6 in mouse serum.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Duitman E, Brandt K, Ludwig A, Hartmann D, Lemke G, Saftig P, Bulfone-Paus S.
    Mol Cell Biol. 2005 Nov;25(21):9324-39.
    Retraction in: Mol Cell Biol. 2011 Mar;31(6):1330.
  10. A promiscuous liaison between IL-15 receptor and Axl receptor tyrosine kinase in cell death control.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Thon L, Mamat U, Bellosta P, Basilico C, Adam D, Paus R, Bulfone-Paus S.
    EMBO J. 2005 Dec 21;24(24):4260-70. Epub 2005 Nov 24. Retraction in: EMBO J. 2011 Feb 2;30(3):627.
  11. Soluble Interleukin IL-15Ralpha is generated by alternative splicing or proteolytic cleavage and forms functional complexes with IL-15.
    Bulanova E, Budagian V, Duitman E, Orinska Z, Krause H, Ruckert R, Reiling N, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2007 May 4;282(18):13167-79. Epub 2007 Feb 27. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Feb 18;286(7):5934.
  12. Reverse signaling through membrane-bound interleukin-15.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Pohl T, Borden EC, Silverman R, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2004 Oct 1;279(40):42192-201. Epub 2004 Jul 28. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 11;286(10):8708.
  13. ATP induces P2X7 receptor-independent cytokine and chemokine expression through P2X1 and P2X3 receptors in murine mast cells.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Koch-Nolte F, Haag F, Bulfone-Paus S.
    J Leukoc Biol. 2009 Apr;85(4):692-702. doi: 10.1189/jlb.0808470. Epub 2009 Jan 21.
    Retraction in: J Leukoc Biol. 2011 Mar;89(3):489.

★撤回論文データベース

2019年5月5日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでシルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)を検索すると、14論文がヒットし、1999~2009年の13論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年5月5日現在、「パブピア(PubPeer)」は、シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)の11論文にコメントしている。コメントは撤回告知である。

●7.【白楽の感想】

《1》監督責任

日本のネカト事件のデータを集計したのを別の記事で書いた。その記事で、ネカト事件で日本は監督責任で処分されるが、世界には監督責任という処分はない、と書いた。

2001年‐2018年の18年間の339件のネカト・クログレイ事件のうち、27件が監督責任で処分を受けている。日本以外の世界(欧米だけではなく世界)は、「不正行為に関与していない」教員を処分することはない。(1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編 | 研究倫理(ネカト、研究規範)

米国・NIHのスタンリー・ラポポート室長(Stanley Rapoport)の事件では、研究室の3人がネカトを行なった。ラポポートは2005年~2013年のトータル21論文が撤回されたが、しかし、ラポポートは監督責任で処分された形跡はない。
→ スタンリー・ラポポート(Stanley Rapoport)(米) | 研究倫理(ネカト、研究規範)

今回のシルビア事件も研究室の室員2人が別々にネカトを犯した。そして、1999年~2009年の13論文を撤回している。つまり、11年間も研究ネカトをしていたことになる。

シルビアはネカト者ではなかった。

「データを改ざんしたのはシルビア研究室にロシアから来たロシア人ポスドク・カップルのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)とヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)である。シルビアには研究室員の監督責任があった」。

シルビアはネカト通報を3か月も放置し、2010年2月に腰を上げるのだが、その5年前の2004年にウェスタン・ブロット像が酷似していると指摘されていた。その時も、シルビアはまともに対処しなかった。指摘されながら5年間、2回目は3か月、も放置していては、ネカト黙認が過大で、単なる監督責任よりも重いだろう。ネカト黙認は全室員にいずれ伝わるだろうから、ネカト共犯とは言わないが、同等レベルのズサンな研究室管理である。

米国とドイツでは監督責任の考えは違うかもしれないが、シルビアは、監督責任という名目で、研究室縮小、大学院生・ポスドク受入れ禁止、3年間の研究費申請不可、研究費審査委員不可の処分を受けた。

上記のネカト黙認的な態度だったので、この程度の処分を受けるのは当然だと思う。但し、ネカト者ではないためか、ドイツでは解雇された(辞職?)が、英国・マンチェスター大学医学部・免疫学では教授に採用された(夫が同じ大学だから、夫のパワーが効いているだろうが)。そして、そこで研究活動を維持している。

撤回された最古の論文は1999年の論文である。この時、シルビアは34歳だった。この時に発覚し適正な処分を科していれば、その後のネカトは防げたはずだ。研究ネカトは「早期発見・厳罰対処」が重要だ。

《2》スケープゴート

ブルフォーネ=パウスがネカト者で、ロシア人ポスドクはスケープゴートにされた、とみなす人もいる。

白楽も同様な印象を「少し」受ける。

調査内容の詳細がわからないので、これ以上はなんとも言えません。

《3》他の論文の信頼度

2011年に事件の渦中にあったシルビアだが、その後、メゲズニ以下の数の論文を発表している。

2012年に4報
2013年に3報
2014年に1報
2015年に2報
2016年に2報
2017年に2報
2018年に4報
2019年に3報

研究成果をあげることは望ましいが、これらの論文は信頼されるのだろうか?

《4》 ポスドクの人生

研究ネカトとは別問題だが、ポスドクの人生も考えさせられる。

ネカト者とされたエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)はロシア人ポスドクだが、シルビア研究室で、1999年~2010年の12年間、シルビアとの共著論文が23報ある。その内、第一著者は6報もある。11年間もポスドクだったことになる。

仮に、最短コースの研究者人生として、27歳でロシアで博士号を取得し、すぐにシルビア研究室に来て、1年後から論文を発表したとする。1999年で28歳。2010年では39歳である。論文は毎年2報出版している。論文数から判断すると、かなり有能である。しかし、39歳でもポスドクのままではかわいそうだ。そのような有能な人を、正規研究者に登用しないのは、研究者の人材育成システムに問題があるのではないか?

こんなに長期間ポスドクとして使っていないで、どこかに独立した研究室を持つように、シルビアは助力すべきだったのではないだろうか?

ドイツでは外国人(ロシア人)研究者は、研究室を主宰しにくいような差別があるのだろうか? そういえば、シルビア自身も外国人(イタリア人)で、差別を受けていたのだろうか?

振り返って考えると、日本では外国人ポスドクに独立した研究室を持たせるシステムや文化をもっていない。日本の方が差別が強い。外国人留学生に日本語を教えないで英語だけでOKにしているので、彼らは日本に就職できない。

《5》ポスドクの研究ネカトと教授の責任

「《1》監督責任」をもう一度、考える。

大学院生やポスドクが研究ネカトをしたとき、教授の責任をどうとらえるといいのだろう?

論文で大きく得をする人は、第一著者と教授である。

米国では、テクニシャン(技術員、有給)のメラニー・ココニス(Melanie Cokonis)がデータねつ造で有罪とされても、上司は責任を問われなかった。

日本では、大阪大学医学部の下村伊一郎教授、竹田潤二教授、医学生のデータねつ造事件があった。論文の筆頭著者である医学生(無給)が単独でねつ造したとされた(本人は後で否定)。責任著者である両教授は監督不意行き届きで軽微な処分だった。

院生(日本では無給、欧米では有給)やポスドク(有給)と教授との関係が、国によって幾分異なる。有給なら研究者として責任を負わせて良いと考えるか?

そうではなくて、力関係が重要だろう。教授は院生やポスドクよりかなり権限が強い。その場合、教授の責任の方が重い。教授が室員にネカト行為を強制すればもちろんだが、室員のネカト行為を見て見ぬふりすれば、ネカトを許容したととらえる。監督責任というより共犯だろう。

シルビア・ブルフォーネ=パウス:写真出典Allergieforschung in Borstel

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Silvia Bulfone-Paus – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2011年5月19日のBulfone-Paus saga continues: Her supporters and home institution exchange sharp letters | Retraction Watch
③ 2011年6月11日のコピー・シェーク・ペースト(Copy, Shake, and Paste)の記事:Copy, Shake, and Paste: The Strange Tale of the Paus Family and Borstel
④ 2011年6月2日のポール・ジャンプ(Paul Jump)の「Times Higher Education」記事:Husband and wife in data duplication papers probe | General | Times Higher Education
⑤ 参考:2014年3月、藤井基貴、山本 隆太: 「ドイツにおける研究倫理への取り組み(1) : 「DFG 提言」(1998)および「補遺」(2013)の検討を中心に」、静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇. 64, p. 113-130  http://dx.doi.org/10.14945/00007855
⑥ 2016年2月1日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Zombie Scientists – For Better Science
⑦ 旧版:2014年11月12日
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