1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編

2019年2月23日掲載

ワンポイント:小保方事件から5年が経過した。小保方事件は、「Nature」論文のデータねつ造・改ざん、その後、博士論文の盗用発覚という事件だったが、5年前の丁度今頃、日本のメディアは芸能人のスキャンダルのように熱狂していた。ネカトの基本問題はあまり議論されなかった。5年経つが、この5年間に政府・学術界・大学はおざなりなネカト対策しかしてこなかった。それで、相変わらず、見当はずれな施策をし、ネカト事件は多発し、事件を隠蔽し、調査委員はクロをシロと判定している(推定)。本ブログでは、日本のネカト事件についてはデータ収集にとどめ、解説をしてこなかった。今回、日本のネカト・クログレイ事件データを整理し、解釈し、日本の問題点を指摘した。なお、本ブログ開設5周年、白楽が研究者の事件を調べ始めてから20年周年記念でもある。日本のネカトの防止・抑制に役立つことを願う。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本の事件
3.考察
4.白楽の感想
5.参考文献
6.コメント
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●1.【概略】

2001年‐2018年の18年間のネカト・クログレイ事件を分析した。この18年間に日本のネカト・クログレイ事件は339件あった。それらネカト・クログレイ事件の年代別発生数、事件種、事件者の男女比、事件者の職位を数値で示した。さらにネカトについて、ネカト者の分野、ネカト者の処分、大学・研究機関の調査透明性、ネカト大学ランキングも分析した。その結果、いくつかの点で、日本は、世界の基準(欧米だけではなく世界の基準)から大きく逸脱していることがハッキリした。また、政府・学術界・大学のネカト対策・施策はデータに基づかない思い付きだとも思えた。日本のネカト対策・施策の抜本的な再考を願う。

●2.【日本の事件】

元データは【日本の研究者のネカト・クログレイ事件一覧】である。
→ 日本のネカト・クログレイ事件一覧 | 研究倫理(ネカト)

  1. 表から「事件種」で「無罪」「疑惑」「?」と印した事件を除いた。
  2. ネカト事件は、ねつ造・改ざん(両者を区別しない)、盗用、盗博(含・盗修)、経歴詐称、妨害である。
  3. クログレイ事件は「*」印の事件で、二重出版、著者在順、監督責任、自己盗用、間違い、ズサンである。
  4. 事件は実行者数で数えた。例えば、加藤茂明のネカト事件は複数人がネカト実行者だった。この場合、複数の人数で示した。同じ人が複数回事件を起こした場合、複数回数えた。

ネカト・クログレイ事件は
1931年‐2018年の88年間に367件あった。
2001年‐2018年の18年間に339件あった。←ここを分析した
2011年‐2018年の8年間に250件あった。

★1.日本の研究者のネカト・クログレイ事件

  1. 2001年‐2018年の18年間に339件のネカト・クログレイ事件があった。ネカトは265事件、クログレイは74事件だった。平均すると、ネカトは14.7件/年、クログレイは4.1件/年だった。
  2. ネカト事件は、2011年まで10件/年だったが、2012年に37件と急増した。2012年と2015年は多いが、2012年‐2018年の直近7年間に増減の傾向はみられなかった。2012年‐2018年の直近7年間を平均すると、ネカトは26.4件/年だった。
  3. クログレイ事件は、2005年以前はほぼゼロ、2006年‐2013年は約3件/年、2014年‐2018年の直近5年間は約9件/年、と増加した。
  4. 解釈①:2012年にネカト事件が多いのは、加藤茂明研究室の9人がネカト者とされたことが一因である。また、2015年にネカト事件が多いのは、光山勝慶研究室の7人がネカト者とされたことが一因である。また、2015年に多いもう1つの理由として、2014年の小保方晴子事件で、日本全体がネカト事件に関心を持ち、告発が増え、さらに、新聞などのメディアが記事にしたことが影響している。
  5. 解釈②:2014年の小保方晴子事件を受け、政府・学術界・大学はネカト対策を強化したと思われるが、2016年‐2018年のネカト事件数(24件/年)はそれ以前の2012年‐2014年の事件数(24件/年)と比べ、ほぼ同じである。つまり、事件数で測定すると、政府・学術界・大学が行なったネカト対策は有効だったとは思えない。なお、小保方晴子事件以前の対策・施策でも事件数を減らす効果はなかった。
    基本的な問題として、そもそも、政府・学術界・大学の対策・施策は思い付きで、科学的データに基づいていないと思われる。さらに、対策・施策の効果を測定する方法がないまま対策・施策をしてきたと思われる。
  6. 提言①:政府・学術界・大学はデータに基づいたネカト対策・施策をすべきである。
  7. 提言②:政府・学術界・大学はネカト対策・施策の効果を科学的に測定できる方法を開発すべきである。

★2.事件種

  1. 2001年‐2018年の18年間に339件のネカト・クログレイ事件があった。ネカトは265事件、クログレイは74事件だった。平均すると、ネカトは14.7件/年、クログレイは4.1件/年だった。
  2. ネカト265事件の事件種は、ねつ造・改ざんが46%、盗用が46%と同割合であった。盗博は7%だった。盗博を含めた盗用は53%だった。経歴詐称は2%、妨害は0.4%だった。
  3. クログレイ74事件の事件種は、監督責任が36%、二重出版が32%、著者在順が9%、間違いは9%、ズサンは8%、自己盗用は4%だった。
  4. 解釈①:ネカト対策・施策は「ねつ造・改ざん」防止と「盗用」防止をほぼ同じウェイトですべきである。
  5. 提言①:クログレイ事件の監督責任は【3.考察】で述べるが、世界の基準(欧米の基準だけではなく世界の基準)から日本は大きく逸脱している。ネカト対策・施策を基本から再考すべきである。

★3.事件者の男女比

  1. 男女別に集計すると、ネカト者の77%が男性で、15%が女性、8%が不明だった。同様に、クログレイ者の89%が男性で、8%が女性、3%が不明だった。
  2. 解釈①:2014年4月の総務省・統計局のデータによると、研究者全体に占める女性の割合は、14.4%である。従って、ネカト事件では男女の差がなく事件を起こしていた。一方、クログレイ者では女性が少なかった。
  3. 提言①:ネカト対策・施策に男女を区別する必要はない。

★4.事件者の職位

  1. ネカト者・クログレイ者を職位別に分類すると、最も多い職位が教授で、全体の36%を占めた。2番目に多いのが准教授の16%、3番目が助教の12%だった。指導教員(教授・准教授・講師)は58%、助教を加えた大学教員は70%と約3分の2である。ポスドク・院生は合わせて11%と少ない。
  2. 注:職位の分類。学長は所長、副学長、学部長を含めた。教授は元教授、部長、名誉教授、特任教授を含めた。准教授も同様でかつ助授教を含めた。助教も同様でかつ助手を含めた。講師も同様だが非常勤講師は除いた。院生は元院生を含めた。研究員は元研究員を含めた。その他は、非常勤講師、医師、副主、技師、学芸員、学部生などだった。
  3. 解釈①:日本政府の主要なネカト対策・施策として、文部科学省は、2012年から2017年までの5年間、院生を対象にした研究倫理教育(CITI Japan プロジェクト)に数億円を助成した。上記のデータから明らかなように、ネカト対策・施策の対象を院生にしたのは間違いである。現在も日本のネカト対策・施策はその間違いを引きずっている。日本のネカト・クログレイ問題は大きくは改善していない。
  4. 提言①:ネカト対策・施策は指導的立場の教員(教授・准教授・講師)をターゲットに絞る必要がある。2011年既に、白楽は著書『研究者の事件と倫理』で、医学系男性教授にターゲットを絞るべきだと述べていた。

★5.ネカト者の分野

以後はネカト者の分析結果である。クログレイ者を除いている。

  1. ネカト者の分野は医学が36%と一番多く、次いで工学の11%、農学の8%だった。
  2. 文系・理系で分けると、理系が70%、文系が25%、その他(含・不明や曖昧)が5%だった。
  3. 解釈①:ネカトは医学の事件であって、文系はほとんど関係ないという根拠のない意見を述べる人がいる。確かに医学が36%と一番多いが、上記表の事件数は、日本の実際の研究者数にほぼ比例している(と思われる)(データ提示予定、忘れていなければ)。
  4. 提言①:ネカトは学問分野の特性とはほぼ無関係に発生しており、理系・文系を問わず、対策・施策すべきである。

★6.ネカト者の処分

  1. ネカトと判定された研究者のうち、解雇あるいは辞職(含・転職)など事件当時の職を失った人は40%だった。53%は停職、減給、訓告、厳重注意などの処分、あるいは無処分で、事件当時の職を維持していた。
  2. 解釈①:ネカト者に対する日本の処分は何に基づいているか、浅学にして白楽は知らないが、世界の基準(欧米だけではなく世界の基準)から日本は大きく逸脱している。世界のほとんどの国は、ネカトは研究精神と真反対というとらえ方をし、研究界からネカト者を排除している。なお、若干甘い処分を科す他の国は韓国やイタリアなどあるが、日本は韓国やイタリアよりも処分が甘く、世界一、処分が甘い国と思われる。
  3. 解釈②:研究は1つの国際基準のもとで実行されている。ネカト者に対する日本の処分が、世界の基準から逸脱していると、国際的な評価・信頼が落ちる、国際共同研究で問題が生じるなどの懸念がある。例えば、欧米のまともな研究室は、日本のネカト教授の指導を受けた院生を受け入れたくないだろう。
  4. 提言①:ネカト者に対する処分を欧米(研究先進国)の基準に合わせるべきである。

★7.大学・研究機関の調査透明性

以下の説明部分の一部は再掲である:出典 → 7-16.もっと信頼できるネカト調査報告書を | 研究倫理(ネカト、研究規範)

ネカト対処の基本である文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(2014年8月26日)」に「調査結果の報告書に盛り込むべき事項」が記載されている。
→ http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/08/26/1351568_02_1.pdf#zoom=75

以下に示すように(黄色は白楽)、「ネカト者の氏名、所属・職」、「調査委員会の構成(氏名・所属)」の報告が要求されている。

2001年‐2018年の18年間の265ネカト事件(クログレイは含まない)について、当該機関(大学・研究機関など)の調査を分析した。以下は表の記号の説明である。

1.大学・研究機関は実名発表し調査報告書(調査委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)。弁護士が委員に加わっている(◎弁)
2.大学・研究機関は実名発表しているが、調査報告書に調査委員名なし(〇)
3.大学・研究機関は実名発表したが、調査報告書のウェブ公表なし(含・削除された)(△)
4.調査報告書のウェブ公表があってもなくても、大学・研究機関は匿名発表。つまり、隠匿の意図あり(Ⅹ)
5.大学・研究機関はウェブ公表なし。つまり、調査していない、あるいは、隠蔽(✖)

結果:

  1. (◎)+(◎弁)は20%だった。驚いたことに、文部科学省の指針に従って、ネカト者の「研究者(氏名、所属・職)」を記載、「調査委員会の構成(氏名・所属)」を記載した調査報告書を公表している大学・研究機関は20%しかなかった。
  2. (〇)は12%だった。実名報道で機関も調査報告書をウェブ公表しているのに、調査委員名を掲載しないケースが12%だった。これでは、調査内容の信頼性に欠ける。
  3. (Ⅹ)+(✖)は59%だった。文部科学省の指針に違反してネカト者を匿名で発表するケースが24%、調査もしないケースが35%と、大学・研究機関はネカト事件の半数以上に対しまともに対応していなかった。
  4. 解釈①:大学・研究機関の隠蔽体質は顕著である。ネカト行為の責任を個人ではなく組織に転嫁する体質が日本は強い(例:監督責任)。その思想の延長として、政府は罰として、事件を起こした大学への交付金を削減する。そのため、大学・研究機関はネカトを隠蔽する。
  5. 解釈②:大学・研究機関がネカト者を匿名にすることで、大きな社会悪をもたらしている。(1)記載内容が信用できない。(2)ネカト者を保護し、ネカト被害を拡大させている。例えば、ネカト者と知らずに院生が指導教員として選ぶ。ネカト者と知っていれば、なかったハズの昇進・授賞・委員委嘱・転職など、が行なわれてしまう。(3)ネカト抑制効果を落とす(つまり、ネカトを促進の方向)。
  6. 提言①:ネカト疑惑の通報・ウェブ公表があれば、大学・研究機関は弁護士を委員に加えた調査委員会を立ち上げ、調査終了後、ネカト者の「研究者(氏名、所属・職)」を記載、「調査委員会の構成(氏名・所属)」を記載した調査報告書を官庁・メディアに伝え、かつ、ウェブ上に公表し、削除しない。現状では判定が無罪の場合、公表しなくて良いことになっているが、それでは、調査したのかどうかがわからない。判定が無罪であっても、同じように公表する。
  7. 提言②:文部科学省はガイドライン、ネカト者の「研究者(氏名、所属・職)」を公表するように指導しているのに、文部科学省自身の公表サイト「文部科学省の予算の配分又は措置により行われる研究活動において不正行為が認定された事案(個別表)」では匿名に変えて公表している。一方、文部科学省傘下の助成機関・日本学術振興会の調査報告書は顕名である。文部科学省はすべて一貫してネカト者の「研究者(氏名、所属・職)」を公表すべきである。

★8.ネカト事件の発覚

ネカト行為は誰が見つけるか?

論文の審査員が見つけると思う一般人が多い印象があるが、そう思う研究者は稀だろう。

  1. ネカト全体で被盗用者が見つける割合が14%だった。盗用は121件が発覚しているので、被盗用者が37件指摘したということは、盗用の3分の1(31%)は被盗用者が指摘したことになる。
  2. 学外・学内・同じ研究室・同じ分野・共同研究者を含めた通報は、115件で、全体の43%だった。
  3. ネカトハンターは13%を占めた。
  4. 解釈①:ネカト行為は誰がどのように見つけるのか、世界的にも十分な研究がない。一般に、ネカト行為を通報する人は、大きく2大別できる。1つは、そのネカト研究と無関係なネカトハンター(ボランティア)である。追及者の項目の「ハンター」「論文」「ウェブ」はこの項目に入る。合わせると、18%を占めた。もう1つは、そのネカト研究の被害者(例:被盗用者)や同じ研究室・共同研究者などがたまたまネカト行為に巻き込まれた場合である。この人たちをネカト被災者と呼ぼう。ネカト被災者が通報したケースは57%を占めた。つまり、ネカト事件の57%はたまたまネカト事件に巻き込まれた研究者が、勇気を出して、通報したのである。
  5. 解釈②:以下、推定値である。米国・生命科学系では、毎年、3,000件のネカト「行為」があり、約1割が大学や政府機関(例:研究公正局、科学庁、食品医薬品局など)に通報される(3,000件のうちの300件)。通報の85%は調査対象にならない(さらなる情報を求めると返事なし、情報がいい加減、対象外の行為など。ここでは、300件のうちに245件)。調査に入った45件のうちの半数がクロ判定だった(45件の内の23件。23件の内の10数件は研究公正局)。政府機関のクロ判定以外でも事件報道があるので、ネカト「事件」になる(=報道される)のは毎年40件程度である。
    この過程と推定値で分かるように、ネカト行為の予防・抑制・摘発には、最初の通報行為が決定的に重要である。
  6. 提言①:ネカト疑惑を通報するシステムを抜本的に改善する。現在はネカトをしてもほとんど発覚しない(通報されない)。その状況が、ネカト行為を助長している。ネカト対策の基本は「必見・必厳罰」である。
  7. 提言②:表に示したように通報は、115件で、全体の43%を占める。しかし、どのような人がどのような方法で通報したのか、記載がないことが多い。これでは、通報者の保護を含め、通報システムの改善に役立たない。通報者の記載をもっと詳細にする。例えば、ネカトハンター、被盗用者、同じ研究室、同じ分野、共同研究者などの区別をする。
  8. 提言③:ネカト防止のポイントであるネカトの告発数を増やすためには、1つは、たまたまネカト事件に巻き込まれたネカト被災者に対する施策が必要だ。ネカト被災者がネカトを通報しやすいシステムを構築する。この時、告発者が仕返しを受けるコクハラ(告発者ハラスメント)が後を絶たない。従って、同時に、告発者保護制度をもっとしっかり作る。
  9. 提言④:ネカト防止のポイントであるネカトの告発数を増やすためのもう1つは、ネカトハンターを増やす施策である。ネカトハンターはボランティアだが、(1)ネカトハンターを組織化する。あるいは、(2)通報にメリットが得られる制度を導入する。例えば、1件の通報につき100万円を支給する。または、以下に示す米国の「私人による代理訴訟(qui tam action)」のように、通報により政府の損害が減った額の30%を支給する。
    以下の出典 → 1‐2‐2.研究ネカトの経費・損得 | 研究倫理(ネカト、研究規範)
    米国では、虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730) 違反で、「私人による代理訴訟(qui tam action)」が行なわれる。

    虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730)は、連邦政府に対する不正請求等を知った者が、当該情報を元に連邦政府のために、不正請求等を行っている者に対して、民事訴訟(キイタム訴訟)を提起し、これにより政府が得た収益の最大 30%を報償金として得ることができるとするものである(31 U.S.C§3730(d)(2))。また、訴訟を提起された被用者等が労働者等に対し不利益取扱いをすることを禁止し、不利益取扱いを受けた者は、同等の地位での復職や遡及賃金の倍額の請求等が可能である(31 U.S.C§3730(h))(出典:立法後の米国及び欧州における公益通報者保護制度の状況)。

    2009年、コーネル大学のロレーン・グダス教授(Lorraine J. Gudas)はデータ改ざんで、NIHから研究費1400万ドル(約14億円)を不正に受給した。タリン・レズニック(Taryn Resnick)は「私人による代理訴訟」で裁判を起こし、勝訴し、260万ドル(約2億6千万円)を得た。
    → 2009年3月24日記事:C.U. Will Pay $2.6M in Fraud Case | The Cornell Daily Sun

★9.ネカト大学ランキング

  1. ネカト事件数の多い大学ランキングでは、東京大学が第1位で23件と圧倒的に多かった。第2位は筑波大学の10件、第3位は慶應義塾大学の9件だった。
  2. 教員が多ければ事件も多いだろう。事件数ランキングの上位大学の事件数を専任教員数で割った。大阪市立大学は専任教員119人に1人の割合でネカト事件を起こした。東京大学は専任教員167人に1人の割合でネカト事件を起こした。
  3. 解釈①:事件数を専任教員数で割った値が小さい大阪市立大学と東京大学は、1つの研究室から複数のネカト院生がでていた。その事件の影響が大きい。
  4. 解釈②:ネカト事件数の多い大学は問題が多い大学だと非難する人が多い。確かに問題は多いだろうが、研究ネカトへの取り組みが優れている面もある。少なくとも、研究ネカトの摘発と公表に積極的である。白楽の印象では、まだまだ改善の余地があるが、東京大学は研究ネカトの摘発と公表では日本のトップクラスの取り組みをしている。
  5. 提言①:表のデータはクロと判定されたケースである。つまり、ネカト行為数とその疑惑数はその数倍(十数倍)あるだろう。2,000‐3,000人の教員を抱える大規模大学では毎年数件のネカト疑惑事件が起こる(調査の結果、シロと判定される場合も含む)、と想定し対策・施策を講じるべきである。

●3.【考察】

《1》ネカト「行為」≠ネカト「事件」

ネカト・クログレイ「事件」数は、ネカト・クログレイ「行為」数ではない。今回分析した数は、メディア(含・個人的なウェブ)が報道したネカト・クログレイ「事件」の数である。メディア(含・個人的なウェブ)が報道しなければ、事件にはならないし、「行為」があったのかどうかもわからない。つまり、日本のネカト・クログレイ「行為」数は誰も正確なデータを持っていない。

だから、ネカト・クログレイ「行為」数が増えた・減ったと言うことはできない。

「行為」数が同じでも、「告発」数が増えれば「事件」数が増える。また「行為」数と「告発」数が同じでも、メディアが「事件」として報道する数が増えれば、「事件」数は増える。

「★8.ネカト事件の発覚」書いたように、米国の生命科学系では、3,000件のネカト「行為」の約1パーセント程度しか「事件」にならない。

ネカト「報道」が多くなっても、ネカト「行為」が増えたと誤解しないように。

《2》世界からズレてる日本の現状

白楽は、世界のネカト・クログレイ事件を日本と同じように分析したデータを公表しようと計画している(作業は困難で、死にそうになる)。

データを公表していないので印象になるが、世界の基準(欧米だけではなく世界の基準)から日本が大きく逸脱している部分を述べる。以下は箇条書き(順不同)。

★世界には監督責任という処分はない

2001年‐2018年の18年間の339件のネカト・クログレイ事件のうち、27件が監督責任で処分を受けている。日本以外の世界(欧米だけではなく世界)は、「不正行為に関与していない」教員を処分することはない。

ネカト・クログレイ行為は、個人の行為である。院生のネカト行為でも指導教授に責任を科さない。だから、米国の指導教授は院生のネカトを告発する。

ところが、日本は、院生がネカトをした場合、「不正行為に関与していない」指導教授にも監督責任を科し処分する。だから、指導教授は院生のネカトを隠蔽する。そして、大学にネカト事件が起こると、文部科学省は大学に管理責任を科し、罰として大学への交付金を減額する。となると、大学も組織ぐるみでネカト事件を隠蔽することになる。この同じ文化は、ネカト者の実名を発表しない、つまり隠蔽することを促進する。

これらの結果、ネカトの問題点がぼけてしまう。例えば、明らかに院生がネカトをしたのに、大学の研究倫理教育が不十分だったと、大学の責任に転嫁してしまう。大学に責任があるなら、文部科学省に責任があると、世間から非難される。それで、文部科学省もネカト事件を隠蔽する精神構造になってしまう。これらは、ネカト者を排除しない方向に作用し、結果としてネカトを擁護することになる。

基本は、ネカト問題の本質を見つけ、有効な防止案を策定し、それを実施することである。しかし、問題を見る最初から、ポイントをぼやけさせ、ズレさせている。これでは、問題はいつまでたっても見えてこなし、解決はしない。

以下の説明部分の一部は再掲である:出典 → 7-16.もっと信頼できるネカト調査報告書を | 研究倫理(ネカト、研究規範)

この「不正行為に関与していない」教員を監督責任者として処分するのはとても不思議である。世界標準では「奇異」である。不正行為をしていないと認定された研究者がどうして処分されるのか?

なお、この不思議な処分は文部科学省のガイドラインに沿っているので、問題は、文部科学省のガイドラインに問題がある。

具体的に、日本学術振興会の「研究活動の不正行為及び研究資金の不正使用等への対応に関する規程」(平成18年12月6日規程第19号)(PDF 2019年2月23日、リンク切れ。この文書は削除されている)を以下に示す。最下段左側に、「特定不正行為に関与していないものの、・・・」とネカトに関与しなかった人も処分対象にしていて、とても驚きである

★集団ネカト・クログレイ

監督責任という処分と関係があるのかどうか不明だが、日本では、同じ事件で1つの研究室(含・他の共同研究室)から複数のネカト・クログレイ院生・研究室員がでている。以下は、「事件種」で「無罪」「疑惑」「?」と印した事件を含めて数えた。

2005年の大阪大学の下村伊一郎事件では、4人
2006年の神戸大学の中井哲男事件では、6人
2008年の筑波大学の長照二事件では、4人
2012年の東京大学の加藤茂明事件では、12人
2014年の理化学研究所の小保方晴子事件では、9人
2015年の大阪市立大学・熊本大学の光山勝慶事件では、8人

さらに、2013年のディオバン(バルサルタン)事件では、別々の大学だが、7人の教授が関与していた。

日本以外の世界(欧米だけではなく世界)は、このような集団ネカト・クログレイは見られない。

この現象をどうとらえるべきだろうか?

1つは、ネカト・クログレイ行為を見た時、日本人は告発せず(できず)、自分も加担する。

もう1つは、1人の院生・研究者がネカト・クログレイ行為をし、その1人に責任があるのだが、処分方式が欧米と異なり、周辺の人たちを集団で処分する。

十分に研究していないが、多分、前者だろう。ネカト・クログレイ行為に気が付いても、日本では、極端なほど、通報・告発をしない(できない)。また、日本人は悪行をする場合、「皆で渡れば怖くない」精神が深く根付いている。

日本のネカト問題の改善にはこの点も考慮すべきだ。

この点の考慮なしで、「ネカトを見たら通報しなさい」といくら教育・研修しても、ネカト防止効果は薄いだろう。

★処分が大甘

欧米では、学術界から研究ネカト者を排除するのが処分の基本である。従って、免職が基本である。日本ではネカト者の53%は停職、減給、訓告、厳重注意などの処分を受けでも(あるいは無処分で)、事件当時の職を維持している。

日本の処分は「4懲戒3注意」である。
・懲戒処分:免職>停職>減給>戒告
・軽微な処分:訓告>厳重注意>口頭注意

研究ネカト(者)を秘匿(匿名)する大学・研究機関が多いが、この「大甘な処分」ではネカト抑止効果が薄い。ある意味、ネカト助長ともとれる。

★盗博

博士号を取得し、研究者になる人とならない人がいる。

研究者が研究論文で盗用する場合と、政治家などが博士号取得のために博士論文で盗用する場合は、状況が異なる。博士論文での盗用を盗博(含・盗修・盗学)と呼ぶが、日本では盗博の意識が薄い。事件数も少ないが、行為はかなりの数あると思う。

外国では、特にドイツやロシアでは盗博の数は多く、ジャンルとして盗用とは別扱いである。日本では、盗博に対する関心が低く、調査が十分されていない。

●4.【白楽の感想】

《1》ネカトの原因

2018年1月、京都大学iPS細胞研究所の36歳の特定拠点助教がデータねつ造事件を起こした。ノーベル賞受賞者の山中伸弥所長が謝罪した。この助教の雇用期限は2018年3月だったこともあり、一部のメディアは、「ポスト不足と不安定雇用」がネカトの原因だとした。

この指摘はネカト問題を大きくゆがめてしまう。「ポスト不足と不安定雇用」がネカトの原因なら、解決は、期限付きではない研究職ポストを増加すべきという、別の方向になる。

「★4.事件者の職位」で示すように、ネカト・クログレイ事件者に占める助教の割合は12%でしかない。12%に焦点を当てた対策を立てたら88%はどうなるのだ。ネカト・クログレイ問題を調べれば、ネカト・クログレイ問題の解決のためには58%を占める指導教員(教授・准教授・講師)をターゲットにすべきことは容易にわかる。

その視点に立てば、「DORAのブログ」が指摘しているように、若手がネカト行為をするのは「指導教官からの強いプレッシャー」だという解釈も理解できる。

それにしても、日本のネカト問題はデータに基づいた対策・施策がほとんどされていない。思い付きが大手を振っている。

どうしてだろうか?

日本にまともなネカト研究者がいないし・育っていないからだ。

博士課程をもつ複数の基幹大学にネカト研究室を設けるべきだろう。その研究室がネカト研究をし、かつ、院生を育てる。そうしないと、ネカト事件にトンチンカンなコメント・提案をする状況が続くだろう。

《2》ネカト・クログレイ事件データ集計:世界編

「ネカト・クログレイ事件データ集計:世界編」は、機会を見つけて分析しまとめようと思う。作業は膨大で死にそうである。

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●5.【参考文献】

①白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413
②白楽ロックビル (2011年9月30日). “明治~平成(136年間)の研究者・技術者・教授の事件と倫理

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

1 thought on “1‐1‐1.ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編

  1. 「★4.事件者の職位」では、「指導教員(教授・准教授・講師)は58%、助教を加えた大学教員は70%」とありますが、一方で、「●3.【考察】《2》世界からズレてる日本の現状」を見ると、院生のネカトを例に監督責任について論じておられ、矛盾を感じます。 指導、監督責任がある方々が主導した研究不正がメジャー(院生のネカトはマイナー)である事を考慮すると、告発が難しいことも、処分が大甘になることも、容易に想像されることです。院生のネカトを例に監督責任を論じることにより論点が不明瞭になる気がします。監督責任にある立場の方が不正するから、問題が難しいという視点に立つ必要があると思います。

    また、研究室を主宰する研究者には、最低限の「監督責任」はあると思います。例えば、論文の共著者や最終著者として名を連ねる以上は、論文記載内容については責任を負い、ミスや不正が疑われるような所見が論文内にあれば、きちんと検証するよう指示するくらいの事はすべきと考えます。

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