ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)(米)ノーベル賞受賞者

2021年10月10日掲載 

10月初旬はノーベル賞発表の季節です。ノーベル賞受賞者(含・予想)事件シリーズの4件目です。

ワンポイント:イグナロは、1998年(57歳)、ノーベル生理学・医学賞を受賞したカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・名誉教授である。ノーベル賞受賞の18年後の2017年1月(75歳)、匿名者が「パブピア(PubPeer)」でイグナロ論文の画像はねつ造ではないかと指摘した。結局、25論文が疑惑視されている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校は調査していない。研究公正局は何も発表していない。米国の主要メディアも沈黙している。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ルイ・イグナロ(Louis Ignarro、Louis J. Ignarro、写真出典)は、米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・名誉教授で、専門は薬理学である。

イグナロは、1998年(57歳)、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞理由は「循環器系における情報伝達物質としての一酸化窒素(NO)の発見」である。

ノーベル賞受賞者なので、書籍、論文、研究に関する情報、写真、動画はたくさんある。本記事ではネカト問題に焦点を絞って記述する。

2017年1月(75歳)、匿名者が「パブピア(PubPeer)」でイグナロの論文の画像はねつ造ではないかと指摘し始めた。

なお、本事件では、イグナロ自身がネカト者なのか、共著者がネカト者なのか、ハッキリしない。誰がネカト者かは特定されていないが、イグナロを主役として記事をまとめた。

「パブピア(PubPeer)」では、1989~2012年(48~71歳)の23年間に発表されたイグナロの25論文にコメントがついている。そのいくつかは、明白な画像の不正(ねつ造)である。

しかし、論文は1報も撤回されていない。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校はイグナロのネカト疑惑について何も調査していない。

研究公正局は何も発表していない。米国の主要メディアも沈黙している。従って、当然ながら、イグナロ及び室員は無処分である。

image192012年7月9日。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles:UCLA)正門前の筆者(白楽)

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ミネソタ大学ツインシティー校
  • 男女:男性
  • 生年月日:1941年5月31日
  • 現在の年齢:82歳
  • 分野:薬理学
  • 不正疑惑論文発表:1989~2012年(48~71歳)の23年間
  • 疑惑発覚年:2017年(75歳)
  • 発覚時地位:カリフォルニア大学ロサンゼルス校・名誉教授。ノーベル賞受賞者
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は「パブピア(PubPeer)」で指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①調査なし
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん。ネカト者は共著者かもしれない
  • 不正論文数:25報。撤回論文なし
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。ネカト者は共著者かもしれない
  • 処分:なし。ネカト者は共著者かもしれない/li>
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

YouTube動画作成の途中まできたけど、手間がかかり、完成できそうもないので、動かない動画のママ、アップした。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Louis Ignarro | Biography, Nobel Prize, & Facts | Britannica

  • 1941年5月31日:米国のニューヨーク州ニューヨーク市ブルックリンで生まれる
  • 1962年(21歳):コロンビア大学(Columbia University)で学士号取得:薬学
  • 1966年(25歳):ミネソタ大学ツインシティー校(The University of Minnesota, Twin Cities)で研究博士号(PhD)を取得:薬理学
  • 1973年(32歳):チューレーン大学(University of California, Los Angeles)・助教授
  • 1979年(38歳):同大学・教授
  • 1985年(44歳):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・教授
  • 1987年(46歳):血管内皮由来弛緩因子(EDRF)の発見。この発見で後にノーベル生理学・医学賞を受賞する
  • 1998年(57歳):ノーベル生理学・医学賞を受賞
  • 2013年(72歳):カリフォルニア大学ロサンゼルス校・名誉教授
  • 2017年1月(75歳):論文画像に疑念が指摘

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
ノーベル生理学・医学賞の受賞講演の動画(英語)52分09秒。
以下をクリック
Louis J. Ignarro – Nobel Lecture: Nitric Oxide: A Unique Endogenous Signaling Molecule in Vascular Biology

●4.【日本語の解説】

★ウィキペディア:「ハーバライフ」

出典 →ハーバライフ – Wikipedia 

ノーベル生理学・医学賞を受賞している循環器系の医師ルイス・イグナロ博士は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授で、ハーバライフ社と共同開発した「ナイトワークス」、同博士推奨の「ハーバライフライン」「トリシールド」をはじめとして、健康をサポートする製品を開発している。

★xxxx年x月xx日:松田雅人(日本サプリメントフーズ株式会社):「シトルリンとは」

出典 → ココ、(保存版) 

以下は画像にして貼り付けた。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ノーベル生理学・医学賞

1998年(57歳)、ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)はノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞理由は「循環器系における情報伝達物質としての一酸化窒素(NO)の発見」である。

★金儲けに熱心

2003年、ノーベル賞の受賞5年後、イグナロはハーバライフ社(Herbalife)の有償コンサルタントになった。なお、後に、ハーバライフ社(Herbalife)の科学諮問委員会(Scientific Advisory Board)のメンバーに就任した。なお、本務であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校・教授、その後、名誉教授の職を維持した兼業である。

ハーバライフ社(ハーバライフ・ニュートリション、Herbalife Nutrition Ltd.、ロゴ出典)の概要をウェブサイト「Herbalife Nutrition 」やウィキペディアから抜粋すると以下のようだ。出典:ハーバライフ – WikipediaHerbalife Nutrition – Wikipedia

ハーバライフは、栄養を補助する食品やスキンケア製品を扱っているダイレクトセリングの会社であり、そのブランド名である。

ハーバライフは1980年2月1日にマーク・ヒューズ(Mark Reynolds Hughes)が創設した。

2018年時点で、世界94カ国、300万人以上の正規メンバーによって同社の製品が流通し、同時にハーバライフの「Making the world healthier and happier」というスローガンの下、世界中の人々への健康的なウエイトマネジメントに貢献することを目的としてビジネスが展開されている。

2018年時点で、従業員は8,900+人

2020年時点で、純利益は3億7260万ドル(約372億円)

主たる製品
「フォーミュラ1」「フォーミュラ2」「フォーミュラ3」「ライフライン」「ナイトワークス」が基本的な製品。

イグナロはハーバライフ社(Herbalife)に協力し心血管の健康と運動能力の向上のための栄養補助食品を開発した。

企業への協力で、イグナロは、研究よりも金儲けに重きを置いたと言える。もちろん、だからと言って、不正ではないし、悪いことではない。むしろ、自分の研究成果をなるべく多くの人々の健康増進に役立てているともいえる。

そして、身体の一酸化窒素の生成を促進する栄養補助食品であるナイトワークス(Niteworks)をハーバライフ社(Herbalife)で開発した。この開発で、100万ドル(約1億円)以上の収入を得たとのことだ。

イグナロはさらに、オメガ-3脂肪酸やCoQ10などの追加のサプリメントを開発し続けて、2012年の時点で、ハーバライフ社(Herbalife)から1500万ドル(約15億円)以上の収入を得たとのことだ。

イグナロは、ハーバライフ社(Herbalife)の製品を宣伝するビデオに登場し、ハーバライフ社(Herbalife)のイベントで頻繁に講演をしている。

【動画】
ナイトワークス(Niteworks)の宣伝をする動画:「Dr. Lou Ignarro on Niteworks® Powder Mix | Herbalife – YouTube」(英語)3分12秒。
Louis Ignarroが2014/12/06に公開

【動画】
ナイトワークス(Niteworks)の宣伝をする動画:「Herbalife Niteworks Importance of Nitric Oxide – YouTube」(英語)3分35秒。
Herbalife Nutritionが2018/12/20に公開

★ネカト疑惑

2017年1月(75歳)、匿名者が「パブピア(PubPeer)」でイグナロの論文の画像にねつ造の疑念があると指摘し始めた。

2021年10月9日(80歳)現在、「パブピア(PubPeer)」には、1989~2012年(48~71歳)の23年間に発表されたイグナロの25論文にコメントがついている。そのいくつかは、明白な画像の不正(ねつ造)である。

しかし、論文は1報も撤回されていない。

但し、イグナロ自身がネカト者なのか、共著者がネカト者なのか、ハッキリしない。誰がネカト者かは特定されていない。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校はイグナロのネカト疑惑について何も調査していない。

研究公正局は何も発表していない。米国の主要メディアも沈黙している。従って、当然ながら、イグナロ及び室員は無処分である。

次項で「パブピア(PubPeer)」が指摘したネカトデータを示す。

【ねつ造・改ざんの具体例】

イグナロの複数の論文にデータねつ造・改ざんがあるが、正式には研究不正だと認定されていない。何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。

それで、「パブピア(PubPeer)」、そして、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログでスマット・クライド(Smut Clyde)が指摘している疑惑画像を以下に示す。

断っておくが、以下は疑惑画像のすべてではない。一部である。

★「1997年4月のJ Biol Chem.」論文

「1997年4月のJ Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。ノーベル賞受賞の1年前に出版された。

2017年1月に画像のねつ造が指摘されたが、現在まで、著者の対応がない。論文は訂正も撤回もされていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/B63D7CA8F9FA99B7C62DD19BD0F6AB

★「2001年2月のProc Natl Acad Sci U S A」論文

「2001年2月のProc Natl Acad Sci U S A」論文の書誌情報を以下に示す。ノーベル賞受賞の3年後前に出版された。

2017年1月に画像のねつ造が指摘されたが、現在まで、著者の対応がない。論文は訂正も撤回もされていない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/946BE93ABFC0B83A5B794EE3404930

図2Eは黄色で囲ったバンドが同じ。

別の人が図2Eの別のねつ造箇所も指摘した。

以下は図4の図D2とD4の重複箇所(ねつ造データ)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年10月9日現在、パブメド(PubMed)で、ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)の論文を「Louis Ignarro[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1999年の1報と2002~2021年の20年間の117論文がヒットした。

2021年10月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年10月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでルイ・イグナロ(Louis Ignarro)を「Ignarro」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年10月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)の論文のコメントを「Louis Ignarro」で検索すると、25論文にコメントがあった。

25論文は1989~2012年(48~71歳)の23年間に発表された論文である。

●7.【白楽の感想】

《1》合法的なカネ儲け 

ノーベル賞受賞者のルイ・イグナロ(Louis Ignarro)が、特定の企業であるハーバライフ社(Herbalife)に協力して自分の栄養補助食品を開発し、製品化し、その宣伝をしている。それで、数十億円(数百億円?)の収入を得ている。

このことは、不正でも研究倫理違反でもない。ノーベル賞という権威を利用している点は、マー、やり過ぎの印象はある。でも、この手の研究者はほぼ全員、〇〇大学教授などの肩書を利用して宣伝している。

研究者は聖人君子ではない。ノーベル賞受賞者も聖人君子ではない。

白楽は、合法的なカネ儲けにケチを付ける気はない。

《2》ネカト 

問題はネカトである。

「パブピア(PubPeer)」がイグナロの多数の論文に明白な画像不正(ねつ造)を指摘している。

ところが、

1. 論文は1報も撤回されていない
2. カリフォルニア大学ロサンゼルス校はイグナロのネカト疑惑について何も調査していない
3. 研究公正局は何も発表していない
4. 米国の主要メディアは沈黙している

カリフォルニア大学ロサンゼルス校はなぜネカト調査をしないの?

気に入りません。

《3》ノーベル賞受賞者

10月初旬はノーベル賞の季節なので、関連する事件を4件、続けてアップした。

[この文章は以前の記事を修正・再利用している]

日本社会はノーベル賞受賞者を人格高潔で万能な超人扱いをする。

ノーベル賞受賞者が 厚顔無恥な傍若無人な言動 をしても、日本社会は、好意的、あるいは大目に見るように白楽は感じる。

では、ノーベル賞受賞者は研究成果だけでなく研究公正も優れているのだろうか?
白楽は否定的である。

科学的業績と規範的言動は基本的には全く別である。

しかし、あえて言えば、ノーベル賞受賞者は自己主張とズルさが人一倍強く、ネカト・クログレイはギリギリという研究者が多い、と思う。

ノーベル賞は研究者の倫理や人間性を評価しているわけではない。激しい研究競争を勝ち抜くには謙遜や温厚では無理だ。だから、当然と言えば当然だ。

もちろん、ノーベル賞受賞者には規範に優れた人もいるが、研究界全体の平均値と比較すれば平均値以下だろう。

ノーベル賞受賞者の不祥事を、「●白楽の卓見・浅見3【ノーベル賞受賞者の不祥事は多いと思うべし】」にまとめている。

MLA style: Louis J. Ignarro – Photo gallery. NobelPrize.org. Nobel Prize Outreach AB 2021. Thu. 30 Sep 2021. <https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1998/ignarro/photo-gallery/>

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア日本語版:ルイ・イグナロ – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:Louis Ignarro – Wikipedia
③ 2004年12月9日のマイケル・オリオーダン(Michael O’Riordan)の「medscape」記事:Conflict of interest for Nobel Prize winner
④ 2013年12月20日のダン・マクラム(Dan McCrum)の「Financial Times」記事:Ten weird things about the Herbalife saga | Financial Times
⑤ 2018年8月27日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Fake data and real pomegranate juice in Nobelist Louis Ignarro’s papers – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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