1‐4-6.出版後査読・私的告発サイトの全体像

論文の「ねつ造」「改ざん」「盗用」の告発は、出版後の論文をチェックすることで始まる。この活動は、従来もあったが、ここ数年、疑義の点をウェブ上にアップし議論するようになった。

この活動は、一般的には、学術論文の意見交換である。欧米では、ウェブ上での「出版後査読(post publication peer-review)」活動が活発である。

この活動は、「ねつ造」「改ざん」「盗用」の告発を認めるサイトと認めないサイトがある。

【「出版後査読(post publication peer-review)」の台頭】

学術論文の根本は、もちろん、研究者の研究作業である。研究作業が完成し、その内容を研究者が原稿を書いて、学術誌の出版局に送付する。出版局は同じ研究テーマで原稿内容をよく理解できる第一線の研究者(ピア peer)に原稿を送り、審査(レビュー review)を依頼する。審査の結果、出版局(の編集長)が、出版の可否を決める。この過程、つまり、論文原稿の内容を科学的に審査することをピアレビューと呼ぶ(peer review、査読)。

出版OKの場合でも、文章の修正や追加実験などの条件を付けられることが多い。この出版前審査で、論文の質が改善される。審査員は3人のことが多い。

出版OKの場合、数百年の間、論文は雑誌の体裁で紙に印刷され出版された。世界中の研究機関・大学・研究者個人が年間契約でこの雑誌を購入した。約20年前(1994年)に電子ジャーナルが導入され、論文は電子版と雑誌、あるいは電子版だけで出版されるようになった。

出版された論文は、重大な「不正」や「間違い」が発覚すれば、「撤回」「訂正」されるが、従来、そのようなことはマレであった。

論文内容の、論理の不整合、解釈の異常、結果が追試できないなどの否定的なことは、同じまたは別の研究者が後続の論文として発表するか、研究者仲間からは単に「無視」され、引用されず、話題に上らなずに、消えていった。

つまり、論文は、出版「前」に議論・精査され、出版「後」に議論・精査されることはなかった。ところが、ここ数年、インターネットの普及と論文の電子化で、出版後の論文を議論・精査するという「出版後査読(post publication peer-review)」というスタイルが活発になってきた。新しいシステムが動き始めているのである。

Bonnie Swogerの文章を一部借用すると、科学研究が始まった17世紀、会議場で科学者は自分の発明・発見を発表し、仲間の議論・質問・反論・評価を受け、それをフィードバックし、自分の研究に生かしていた。その頃、学術誌はなかった。学術界が大きくなると、全員を入れる会議室はないので、ごく一部の人(特定の仲間)に自分の発見・発明を聞いてもらい、ごく一部の人(特定の仲間)の議論・質問・反論・評価しか受けられないなかった。学術誌ができ、発明・発見は多くに仲間に伝えられるようになったが、フィードバックはほんの少ししかなかった。それが、21世紀の現代、「出版後査読(post publication peer-review)」で、世界中の誰もが科学者の各発明・発見を議論・質問・反論・評価す、科学者はそれをフィードバックし、自分の研究に生かすことが可能になったのである。(Bonnie Swoger:Post publication peer-review: Everything changes, and everything stays the same | Information Culture, Scientific American Blog Network、March 26, 2014)

そして、2014年3月時点、既にたくさんのサイトがありすぎて、どこで議論しようかサイトの選択に迷うほどになった(Richard Van Noorden:The new dilemma of online peer review: too many places to post? : Nature News Blog、14 Mar 2014)。

【ココで解説したサイト】

バイオ政治学のサイトで、すでに、論文の「ねつ造」「改ざん」「盗用」の告発関連の「出版後査読(post publication peer-review)」サイトを解説した。

★ 論文の「ねつ造」「改ざん」「盗用」の告発絡みのサイト

1‐1‐4‐3.米 パブピア(PubPeer)
1‐1‐4‐4.米 リトラクション・ウオッチ(Retraction Watch、論文撤回監視)
1‐1‐4‐5.米 サイエンス・フラウド(Science Fraud)
1‐1‐4‐6.日 私的告発サイト

★研究規範の違反の議論はしないサイト

1‐1‐5‐1.独 リサーチ・ゲイト(ResearchGate)/オープン・レビュー(Open Review)
1‐1‐5‐2.米 パブメド・コモンズ(PubMed Commons)
1‐1‐5‐3.英 ファカルティ1000(Faculty of 1000)

★研究規範の「盗用」に特化しているサイト

1‐2‐6‐2.盗用データベース:米 デジャヴュ(Deja vu)
1‐2‐6‐3.盗用告発:独 ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
1‐2‐6‐4.盗用告発:露 ディザーネット(Dissernet)
1‐2‐6‐? 盗用ブログ:独 コピー・シェーク・ペースト(Copy, Shake, and Paste)

【ココで解説していないサイト】

バイオ政治学のサイトで解説していないサイトもいくつかある。厳密には「出版後査読(post publication peer-review)」ではない類似サイトもリストに入れた。加熱気味である。もちろん閉鎖したサイトもある。

★稼働しているサイト(2014年6月16日閲覧時に稼働)

★閉鎖したサイト

  • Ologeez
  • Lab Meeting
  • Naboj Dynamical Peer Review

【白楽の感想】

《1》

「出版後査読(post publication peer-review)」は、ある意味、恐ろしい。サイトは大きければ大きいほど有利なので、1つ(または2つ)の英語サイトが全世界を抑えてしまうだろう。となると、日本の学術界は、欧米だけでなく、アジアの英語圏国に比べ、さらに一段と低位になり、不当に搾取されることになる。

日本は、「出版後査読(post publication peer-review)」では、すでに、後進国になっている。

日本の有力な研究者は、長年、外国の英文学術誌に投稿し、自国の日本語学術誌を無益な状態にしてしまった。だから、日本人研究者は日本語学術誌の「出版後査読(post publication peer-review)」をしないだろう。英文学術誌で日本語での議論はできない。研究の才能がある前に英語が堪能でなければ、研究者がつとまらない事態が加速する。

《2》

欧米に比べると、日本では一般大衆と科学は大きく分離している。科学研究は科学者専用の領域で、一般大衆は入ってこなくて良い。一般大衆向けには、科学を噛み砕いた3次情報(科学啓蒙書)の公園で楽しんで下さいと言う姿勢である。これは、日本人科学者が重要な発見・発明を英語で発表し、日本語で発表しないので、一般大衆は、誰れかが噛み砕いた3次情報しか触れることができないことも一因である。

「出版後査読(post publication peer-review)」が欧米で活況を呈していても、科学に関心があるのに研究者ではない日本人は、「出版後査読(post publication peer-review)」サイトが英語(専門英語)では敷居が高いだろう。