「アカハラ」:アラン・クーパー(Alan Cooper)(豪)

2020年2月27日掲載 

ワンポイント:クーパーはニュージーランドで生まれ・育ち、アデレード大学(University of Adelaide)のスター教授になった。2002-2019 年(36-53歳)の18年間、研究室の院生・ポスドクにアカハラ行為(怒鳴る、脅す、恥をかかせる)を繰り返していた。被害者数は不明だが、毎年2人とすれば36人に及ぶ。2019年7月(53歳)、アデレード大学はクーパー研究室の“文化”を調査した(”culture check”)。2019年12月20日(53歳)、調査の5か月後、アカハラでクロと判定し、クーパーを解雇した。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)。

【追記】
・2021年2月22日記事:Neanderthals abused to support bully Alan Cooper – For Better Science

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アラン・クーパー(Alan Cooper、Alan J. Cooper、写真出典)は、ニュージーランドで生まれ育ち、オーストラリアのアデレード大学(University of Adelaide)・教授、オーストラリア古代DNAセンー(Australian Centre for Ancient DNA (ACAD)・所長となった。専門は進化分子生物学で、この分野では著名な学者だった。

クーパーは2002-2019 年(36-53歳)の18年間、研究室の院生・ポスドクにアカハラ行為(怒鳴る、脅す、恥をかかせる)を繰り返していた。被害者数は不明だが、毎年2人とすれば36人に及ぶ。

2019年7月3日(53歳)、アデレード大学(University of Adelaide)・生物科学部長のミーガン・ルイス(Megan Lewis)がクーパー研究室の文化を調査した(”culture check”)。

2019年8月19日(53歳)、調査の1か月後、アデレード大学はクーパーをアカハラ者と認め、停職処分(suspended)にした。この時点で、クーパー研究室、つまり、アデレード大学・オーストラリア古代DNAセンターには36人の院生・ポスドク・スタッフがいた。

2019年12月20日(53歳)、調査の5か月後、アデレード大学はクーパーを解雇した(fired)。

なお、クーパー事件は刑事事件になっていない。

アデレード大学(University of Adelaide)。写真出典

アデレード大学・オーストラリア古代DNAセンター(Australian Centre for Ancient DNA (ACAD) University of Adelaide)。写真出典

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:ニュージーランド
  • 研究博士号(PhD)取得:ヴィクトリア大学ウェリントン校
  • 男女:男性
  • 生年月日:ニュージーランドのダニーデンで1966年に生まれた。仮に1966年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:55 歳?
  • 分野:進化分子生物学
  • アカハラ行為:2002-2019 年(36-53歳)の18年間
  • 最初に訴えられた年:不明
  • 社会に公表年:2019年(53歳)
  • 社会に公表時地位:アデレード大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の男性・ニック・ローレンス(Nic Rawlence)で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):マイケル・バルター(Michael Balter)記者の「Balter’s Blog」記事、「Science」、「Nature」など多数のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アデレード大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学・処分のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:アカハラ
  • 被害者数:被害者数は不明だが、毎年2人とすれば36人に及ぶ院生・ポスドク
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けた続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:解雇
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は20億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:
Professor Alan Cooper| People in ACAD

  • 生年月日:ニュージーランドのダニーデンで1966年に生まれた。仮に1966年1月1日生まれとする
  • 1986年(20歳):ニュージーランドのヴィクトリア大学ウェリントン校 (Victoria University of Wellington)で学士号取得:生化学と生理学
  • 1993-1995年(27-29歳):米国のスミソニアン博物館(Smithsonian Institution)・分子遺伝研究室(Molecular Genetics Laboratory)・ポスドク(職位は不確)
  • 1994年(28歳):ニュージーランドのヴィクトリア大学ウェリントンで研究博士号(PhD)を取得
  • 1995年(29歳):英国のオックスフォード大学(University of Oxford)・ポスドク、その後、昇進
  • 2002年(36歳):英国のオックスフォード大学(University of Oxford)・教授
  • 2005年(39歳):データねつ造で英国のオックスフォード大学を辞職
  • 2005年(39歳):オーストラリアのアデレード大学・教授
  • 2019年7月3日(53歳):アデレード大学がアカハラ調査開始
  • 2019年8月(53歳):アデレード大学・停職
  • 2019年12月(53歳):アデレード大学・解雇

【受賞】(出典:【主要情報源】①)

South Australian Science Excellence Award (2018)
Eureka Prize (2017)
South Australian Scientist of the Year (2016)
ARC Laureate Fellowship (2014)
Royal Society of South Australia Verco Medal (2013)
ARC Future Fellowship (2011)
ARC Federation Fellowship (2004)
Phillip Leverhulme Prize (2002)
Zoological Society of London Medal (2002)
Wellcome Trust University Award (2001)
NERC Advanced Fellowship (1999)
Ernst Mayr Award (1995)
Walter Fitch Award (1994)

●3.【動画】

【動画1】
アカハラ事件の動画ではない。講演は話が少し早いけど、それなりに上手。講演動画:「古代の歯科―DNAからの学習:(Ancient Dentistry – Learning from DNA: Alan Cooper at TEDxAdelaide )- YouTube」(英語)17分44秒。
TEDx Talksが2013/08/25 に公開

●5.【アカハラ発覚の経緯と内容】

★ネカト、セクハラ、アカハラの百貨店

アデレード大学(University of Adelaide)・教授で、アデレード大学のオーストラリア古代DNAセンー(Australian Centre for Ancient DNA:ACAD)所長であるアラン・クーパー(Alan Cooper、写真出典)のアカハラは、院生・ポスドクに対する深刻ないじめ、嫌がらせだった。

アカハラだけではなく、助成金申請およびその他の文書の偽造、セクハラ、DNA分析のためのサンプルの非倫理的な取り扱い、オーストラリア先住民の祖先への侮蔑もあった。

クーパーは、2001年から2005年まで英国のオックスフォード大学・ヘンリーウェルカム古代生体分子センター(Henry Wellcome Ancient Biomolecules Centre)の所長を務めていた。その時にも、アカハラ・セクハラ行為をしていた。

2005年4月(39歳)にオックスフォード大学辞任したのは、公式には、研究助成金申請書のネカトが発覚し、辞任を余儀なくされたことになっている。 → 2005年7月4日のスティーブンピンコック(Stephen Pincock)記者の「Scientist」記事:Oxford ponders how to replace director of ancient-DNA lab | The Scientist Magazine®

しかし、すでにこの時、クーパーは院生やポスドクに対するアカハラ(いじめ、嫌がらせ、無視)・セクハラ行為が指摘されていた。さらには、目上の同僚や大学事務局の人に対しても乱暴な振る舞いをしていた。公式には表明されていないが、これらのアカハラ・セクハラ言動も辞任の理由に含まれていた。

本記事では、オックスフォード大学の事件に深入りせず、また、セクハラ事件などにも深入りせず、アデレード大学でのアカラハ事件を中心に話を進める。

★オーストラリア古代DNAセンーの毒ラボ

アラン・クーパー(Alan Cooper、写真出典)はアデレード大学(University of Adelaide)・教授で、アデレード大学のオーストラリア古代DNAセンー(Australian Centre for Ancient DNA:ACAD)所長である。研究は世界的に著名で、たくさんの賞を受賞している。

ところが、研究室は毒ラボだった。

2005年(39歳)、クーパーが教授・所長に就任して間もなく、院生・ポスドクから不平・不満の声があげられるようになった。

問題の人物はクーパー所長だけでなかった。研究室を牛耳るお局(職員)のマリア・レキス(Maria Lekis、写真出典)もいじめに加担していた。

★アデレード大学の調査

アデレード大学(University of Adelaide)は、それまで、クーパーのアカハラ行為についての申し立てを受けていたが、決定的な対処をしてこなかった。

2019年7月3日(53歳)、ようやく、アデレード大学(University of Adelaide)・生物科学部長(Head, School of Biological Sciences)のミーガン・ルイス(Megan Lewis、写真出典)がオーストラリア古代DNAセンターの人たちに研究室文化を質問する(”culture check”)メールを送付した(以下のメールの出典:Balter’s Blog: University of Adelaide begins “culture check” of its ancient DNA center and the director, Alan Cooper. A euphemism for an inquiry into bullying, harassment, and other alleged misconduct going back many years.)。

要点を意訳すると以下のようだ。

大学は現在、センターの文化チェック(culture check)を行なっており、外部のSAEコンサルタント社(SAE Consulting)がこの文化チェックを担当しています。

センター内のすべてのスタッフ、院生、関係者は参加してください。大学は、すべてのスタッフ、院生、関係者が前向きで協力的な環境で研究に従事することを望んでいます。

ご意見と情報は、センターの研究環境に、もし問題あれば、何を変更すべきかを私たちに知らせるのに役立ちます。

連絡先は○○です。

オーストラリア古代DNAセンターの多くの研究室員は、アデレード大学が研究室“文化”の調査を開始したことにホッと安心した。

ただ、調査範囲が狭すぎることが疑問視された。つまり、センターに過去に在籍した人への調査は対象外になった。イジメが原因で研究をやめた人がかなりいたハズだと指摘している。

アデレード大学の調査は「匿名」での苦情の申し立てを認めなかった。このことで、申し立てを躊躇する研究室員も多くいた。

★アデレード大学の処分

2019年8月19日(53歳)、“文化”調査発表の1か月後、アデレード大学はクーパーを停職処分(suspended)にした。
 → 2019年8月19日記事:Head of prestigious ancient-DNA lab suspended amid bullying allegations

この時点で、クーパーの研究室、つまり、アデレード大学・オーストラリア古代DNAセンターには36人の院生・ポスドク・スタッフがいた。大所帯だった。

2019年12月20日(53歳)、調査発表の5か月後、アデレード大学はクーパー所長を解雇した(fired)。
 → 2019年12月20日記事:Head of ancient-DNA lab sacked for ‘serious misconduct’

アデレード大学は、代わりに、ジェレミー・オースティン(Jeremy Austin、写真出典)を所長に任命した。オースティンは2005年にセンターが設立された時から副所長を務めていた人物である。

【アカハラの具体例】

アカハラだったと主張する人と、そうではないと主張する人がいる。

★アカハラだった:ニック・ローレンス(Nic Rawlence)(当時:院生・ポスドク、xx歳):2006年から2013年の7年間

以下の記事が主な出典である。
 → 2019年7月12日のミーガン・ディロン(Meagan Dillon)記者の「ABC News」記事:University of Adelaide to run probe into ‘culture’ at world-class ancient DNA lab – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)

ニック・ローレンス(Nic Rawlence、写真出典)は、2006年から2013年の7年間、オーストラリア古代DNAセンー(Australian Centre for Ancient DNA:ACAD)で院生として過ごした。現在は、オタゴ大学(University of Otago)・動物学科・講師で古遺伝学研究室を主宰している。

ローレンス講師は、「オーストラリア古代DNAセンーの研究者がニュージーランドで講演したとき、その研究に魅了された。オーストラリア大学院奨学金(Australian Postgraduate Award)を申請し、採択され、アデレード大学のオーストラリア古代DNAセンーでの大学院に入学した。しかし、そこは良好な研究環境ではなかった」と述べた。

研究室の文化は、「冷酷」、「激しい競争」、「誰もが自己中心的」だった。研究室では毎日のように、たくさんのことが起こって、右往左往しました。

研究室の皆が金曜日の午後の研究室セミナーを恐れていました。クーパー所長は、その研究セミナーで特定の人を選び、怒鳴り、恥をかかせました。クーパー所長のイジメは、「いじめの教科書」にのるような典型的なイジメでした。

それで、私たちはクーパー所長のイジメ行為を大学に公式に申し立て、上層部に掛け合いました。

ところが、上層部は毒ラボについてのことは知っているが、どうにもできないと言いました。

ローレンス講師は、オーストラリア古代DNAセンーの院生時代に自信を失い、外部に文書で訴えることができなかった。そして、人前にでるのも辛かったそうだ。

私たちは皆、健康上の問題を発症しました。胃が痛くなり、1週間から1か月、何もかもが嫌になり、衰弱しました。医師はストレスの結果だと診断しました。多の研究室員は、間違ったことが起こっていると認識していて、不満を言いました。と同時に、クーパー研究室は素晴らしい研究成果を挙げているラボでもあったのです。

このラボで生き残るためには、良き友人を得ること、そして、研究室外では、優しい家族に支えてもらうことでした。

★アカハラだった:ディーン・メイル(Dean Male)(当時:上級研究員、xx歳):2006年から2017年の2年間

以下の記事が主な出典である。
 → 2019年8月23日のダイアニ・ルイス(Dyani Lewis)記者の「Nature」記事:‘Paralysed by anxiety’: researchers speak about life in troubled ancient-DNA lab

ディーン・メイル(Dean Male)は、2006年から2007年までアデレード大学・オーストラリア古代DNAセンーの上級研究員だった。現在は研究者だが、まもなく、学術界を去るそうだ。

世界クラスの研究室で研究していましたが、クーパーに怒鳴られ、ののしられ、脅される、などのイジメを受けました。それで、研究室を去ることに決めました。

クーパーは研究室で最も弱い人を標的にしました。彼がイジメた人は、ほとんど反撃しない人たちでした。

クーパーのオフィスのドアを通して、クーパーの怒鳴り声を何度も聞きました。

クーパーのオフィスで、座っている間、何度も怒鳴られました。オフィスの椅子に座っていると、クーパーは歩いて近づいてきます。そして、オフィスのドアを閉じます。それは実際に非常に威圧的でした、そして怒鳴り始めるのです。

★アカハラじゃない:バット・ブラザートン(But Brotherton)(当時:ポスドク、xx歳):200x年から2011年のx年間

英国オックスフォード大学でクーパー研究室のポスドクとして働き、2011年12月まで3年間、アデレード大学・オーストラリア古代DNAセンーで研究していたバット・ブラザートン(But Brotherton)は、現在は、学術界で働いていない。

ブラザートンは、クーパーがイジメていたとは考えていなかった。

多くのイジメ告発は、考え方や性格の違いから来ています。クーパーは研究室の院生・ポスドクから親しまれるボスになることに失敗しましたが、研究室員をイジメてはいません。

ただ、クーパーは、自分の研究プロジェクトに関心を持たない研究室員には話しかけませんでした。クーパーの行動は「イジメに関与ではなく、なにも関与しない無視の罪」だったといえます。

ブラザートンは、クーパー研究室での自分の経験をアデレード大学に証言すると申し出た。しかし、大学から、情報が古すぎるので必要ない、と言われたそうだ。

★他のアカハラ証言

マイケル・バルター(Michael Balterの「Balter’s Blog」記事(8.【主要情報源】④)では、アデレード大学の被害者8人が匿名で証言している。この8人は匿名なので、推測になるが、上記の2人を含むと思われる。

研究キャリアを恐れて、匿名でも証言しない人も多いと思われる。つまり、クーパーは、依然として、学術界に強い影響力を持っている。

以下に証言 の1例を挙げる。

私はいつも不安でした。研究室セミナーは毎週金曜日の午後3時から午後5時までありました。毎週、彼は誰かを選び、グループ全体の前で、「キミ(アナタ)は役立たずだ。とても無能だ!」と執拗に叱責します。

クーパーが誰を餌食にし、怒鳴り、イジメるのか誰もわからないので、今週は私がイジメられるかもしれないと思って研究室セミナーの椅子に座ります。

金曜日は恐ろしかったです。でも、クーパーが解雇され、もう、クーパーに2度と会わなくて良く、正直、ホットしています。神に感謝です。

別の記事に、以下の声もあった。

クーパーの院生・ポスドクの研究に対する批判は非建設的で、クーパーは院生・ポスドクを残酷なほど叱責していました。

私は叱責され、しばしば不安で身体が麻痺しました。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年2月26日現在、パブメド(PubMed)で、アラン・クーパー(Alan Cooper)の論文を「Alan Cooper [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の320論文がヒットした。

「Cooper A[Author]」で検索すると、1802~2020年の219年間の3013論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

2020年2月26日現在、「Cooper A[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。しかし、本記事で問題にしている研究者とは別人の論文と思われる。

★撤回論文データベース

2020年2月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでアラン・クーパー(Alan Cooper)を「Alan Cooper」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年2月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アラン・クーパー(Alan Cooper)の論文のコメントを「Alan Cooper」で検索すると、3論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》アカハラの原因

アラン・クーパー(Alan Cooper)のアカハラの原因は何なのだろう?

アデレード大学は、2019年にクーパーを解雇する前に、クーパーのアカハラを数回、センター室員に訴えられていた。その時、大学はクーパーに注意した。クーパーは注意された直後から1-2週間はアカハラ言動を止めるが、その後、アカハラ行為を再開した。つまり、アカハラはクーパーの人格や性癖や考え方による「体質」で、悪いと知りつつも止められない、つまり、修正不能な「体質」と思われる。

白楽は、性不正とネカトも「体質」面が大きいと思うが、話がずれるので、ここでは議論しない。

話しを戻そう。

アカハラは「体質」によるもので修正不能なら、予防は早めに検知し、その「体質」を持つ研究者を研究界から排除することが重要な解決策だ。

Credit: David Solm 出典:https://www.nature.com/articles/d41586-019-02540-5

《2》大学の無作為

クーパー事件で、クーパーがアカハラを始めた時期を特定するのが難しい。ネカトや性不正は行為を行なった時期を特定しやすいが、アカハラは難しい。最初に院生を怒鳴った時、としても、院生が悪いことをすれば、教員が教育的指導として怒鳴っても不思議はない。

クーパーの場合、オックスフォード大学在任中にすでにアカハラ行為をしている。それで、本記事では、2002年(36歳)に英国のオックスフォード大学(University of Oxford)・教授に就任した時からアカハラをしていたとした。つまり、クーパーは2002-2019 年(36-53歳)の18年間に渡ってアカハラ行為を繰り返していた。被害者数は不明だが、毎年2人とすれば36人に及ぶ。

つまり、36人の院生・ポスドクがイジメられ、研究キャリアが大きく阻害され、人生を曲げられてしまった。院生・ポスドクという人たちは、その国のトップクラスに優秀な人材である。1人育成するのに数千万円のお金が投入されている。学術界としても国・国民としても大きな損失になる。

ところが、《4》の述べるようにオックスフォード大学はまともな対処をしてこなかった。

アデレード大学も、センター室員に何度も訴えられたが、2019年になるまでクーパーを停職や解雇などの適切な処分をしなかった。だから、アデレード大学でも被害が大きくなった。

《3》研究室選択原理 

クーパーは、18年間もアカハラ行為を繰り返していた。

性不正事件もそうだが、アカハラ事件でも不思議に思うのは、院生・ポスドクはなぜ、そういう悪評の研究室を選ぶのか? である。

性不正事件でも教授の女癖が悪いと知りつつ院生・ポスドクは自分から進んでその研究室を選ぶ。今回、クーパー教授はアカハラという評判があるのに、院生・ポスドクはクーパー研究室を選んでいる。強制的に配属されたわけではない。

悪行が表面化していなくても、自分が院生・ポスドクとして過ごす研究室を決める前に、その研究室を訪問したり、訪問しなくても研究室員に尋ねたり、研究室での研究生活を調べるだろう。

原理として、院生・ポスドクが評判の悪い研究室を選ばなければ、研究室は衰退し、被害者は少なくなる。研究室員が少なければ、教授も丁寧に扱う可能性が高まる。それなのに、2019年にクーパーが停職処分を受けた時点で、オーストラリア古代DNAセンターには36人の院生・ポスドク・スタッフがいた。

研究室選択原理というか、需要と供給というか、市場原理というか、院生・ポスドクが研究室を選ぶときの抑制メカニズムが働いていない。なんか、ヘンだ。

《4》大学の公表責任 

クーパーのアカハラ事件が公になったのは、2019年7月3日、アデレード大学(University of Adelaide)・生物科学部長(Head, School of Biological Sciences)のミーガン・ルイス(Megan Lewis)が調査を開始し、それをメディアが伝えたからだ。

しかし、その14年前の2005年4月、クーパー(39歳)は、オックスフォード大学・ヘンリーウェルカム古代生体分子センター(Henry Wellcome Ancient Biomolecules Centre)・所長の辞職を余儀なくされていた。オックスフォード大学は、その理由を研究助成金申請書でのネカトとした。ただし、解雇ではなかった(推定)。また、ネカト調査報告書を公表しなかった。

しかし、この時点で、クーパーは院生・ポスドクに対するいじめ、嫌がらせ、無視が指摘されていた。さらには、目上の同僚や大学事務局の人に対しても乱暴な振る舞いを働いていたことが指摘されていた。

ネカト者だとされたクーパーを教授に迎えたアデレード大学もどうかと思うが、オックスフォード大学がクーパーの悪行をちゃんと公表しないオックスフォード大学もどうかと思う。オックスフォード大学は、ある意味、加害者側、つまり、共犯のような形になっている。

問題の研究者によるその後の事件を誘発しないように、大学は社会に対して、学術界に対して、警告を込めて、問題の研究者の悪行を詳細に公表すべきだ。

なお、オックスフォード大学でのクーパーの悪行をメディアが伝えたという記事があるらしいが、白楽は、クーパーの悪行を報道した当時の記事を見つけられなかった。

アデレード大学は、研究で優れた研究者を自大学に招聘したいために、クーパーの悪行を承知で、オーストラリア古代DNAセンー(Australian Centre for Ancient DNA (ACAD)・所長に迎えたという状況らしい。

しかし、少なくとも、アデレード大学がクーパーの採用をためらう程度には、オックスフォード大学はクーパーの悪行をちゃんと公表していなかったことは事実だ。

アデレード大学が採用をためらう記述をしておけば、アデレード大学はクーパーを採用しなかった。そうすれば、その後、クーパーのアカハラ・セクハラに苦しむ多くの院生・ポスドクを救えたはずだ。そういう意味で、自分の大学からのババ抜きで良しとしたオックスフォード大学は共犯であり、非難されるべきだ。

一般的に、研究者の不祥事を公表する時、外国の大学は事実を改ざんして発表することはあるが、少ない。一方、日本の大学は事実を改ざんして発表することがほとんどである。例えば、事件を起こした研究者名を隠蔽する(つまり、事実の改ざん)。この慣行はオカシイ。事実を改ざんせずに事実のママ伝えるべきだ。大学は社会おける公的機関としての役目を放棄している。国民を馬鹿にするな!

事実をどう受け止めるのかは受け手の国民であって、発信する側の大学ではない。

例はたくさんあるが、最近の2020年2月5日に発表した政策研究大学院大学の「修士の学位授与の取消しについて」を以下に示す。出典 → 修士の学位授与の取消しについて | 政策研究大学院大学(GRIPS)

政策研究大学院大学で「修士の学位」が取り消された人が誰だか分からない。この発表はだれに対してどんな意味があるのだろう?

さらに、大学の隠蔽発表を深堀りせずにそのまま報道する日本の産業メディアも問題である。なんのためのメディアなのか、わからなくなる。政策研究大学院大学の「修士の学位授与の取消しについて」は大手メディアは報道していない。

しかし、大学名しかわからない不祥事をニュースとして伝える意味って、何ですか? そんな意味のない情報を発表したり、メディアが記事として売っている日本、なんか、ヘンです。

《5》鉄は熱いうちに打て 

アカハラ事例を多数分析した結果ではないが、一般的に、アカハラ教授の研究成果は超優秀と思われる。

超優秀な研究者は院生・ポスドクだった時にハードに研究していた。だから、優れた研究者として認められた。

本記事のアラン・クーパー(Alan Cooper)も超優秀だが、以下も超優秀(含・優秀)だ。

    • 「アカハラ」:天文学:マルセラ・カロロ(Marcella Carollo)(スイス):女性
    • 「アカハラ」:ナズニーン・ラーマン(Nazneen Rahman)(英):女性
    • 「アカハラ」:タニア・シンガー(Tania Singer)(ドイツ):女性
    • 「アカハラ」:マイケル・リー(Michael K. Lee)(米)
    • 「アカハラ」:古生物学:ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)(英):男性
    • 「アカハラ」:天文学:リチャード・ブーウェンズ(Rychard Bouwens)(オランダ):男性

その同じハードな研究スタイルを自分の研究室の院生・ポスドクなどに要求する。しかし、院生・ポスドクのほとんどは、超優秀な研究者が院生・ポスドクだった時ほどハードに研究をしない。もちろん、ほとんどの院生・ポスドクは超優秀な研究者には育たない。そもそも、超優秀な研究者になろうとも思っていない。

それで、アカハラ教授は自分の研究室にいる院生・ポスドクに叱咤激励する。熱くなると、怒りの感情が混じって発言してしまう。この発言を受け取る院生・ポスドクは、「なにくそ!」と奮起せず、不安に駆られて落ち込む。そして、無能呼ばわりされたアカハラ言動と受け止める。

院生・ポスドクは子供のころから学部生まで「頭いい」「優秀だ」と、両親から、世間からチヤホヤされて育ってきた。「無能!」と、叱られた経験の少ない院生・ポスドクは落ち込んで、登校拒否し、アカハラ告発となる。

ボスからきつい言葉を投げかけられても、ボスから時々の温かい言葉、そして褒美(学位授与、論文発表、就職など)を与えられれば、院生・ポスドクは傷ついた心を内に収めてアカハラ告発をしない。アカハラ告発をすれば褒美(博士号、論文発表、就職など)は得られないからだ。

つまり、世界中のすべての超一流研究室はハードな研究室だが、ボスの人徳と褒美が成功すれば「研究に熱心で厳しい研究室」と呼ばれ、人徳と褒美が成功しないと、「毒ラボ・アカハラ研究室」と呼ばれる。

優れた研究成果を望むなら、ハードな研究室は必須だと思う。ハードな研究をしつつ、毒ラボ・アカハラと感じさせない研究室運営が必要だ。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】

①  ウィキペディア英語版:Alan J. Cooper – Wikipedia
② 2019年7月12日のミーガン・ディロン(Meagan Dillon)記者の「ABC News」記事:University of Adelaide to run probe into ‘culture’ at world-class ancient DNA lab – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)
③ 2019年8月19日のエリザベス・クロッタ(Elizabeth Culotta)記者の「Science」記事:Australian university suspends ancient DNA expert Alan Cooper as part of workplace investigation | Science | AAAS
④ ◎2019年12月20日更新のマイケル・バルター(Michael Balter)記者の「Balter’s Blog」記事:Balter’s Blog: From Oxford to Adelaide: Ancient DNA expert Alan Cooper’s bullying and harassment has left a trail of psychological damage and wrecked careers [[Update Dec 20, 2019: Cooper fired]]
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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