情報工学:アブヒジット・チャクラバーティ(Abhijit Chakrabarti)(インド)

2017年10月27日掲載。

ワンポイント:ジャダフプール大学・学長(男性)で、専門は情報工学だった。2014年9月(58歳?)、ジャダフプール大学・学内で女子学生への性的虐待事件が起こり、その対処に失敗した。数百人の学生デモが起こり、警察官の導入と36人の学生の逮捕、大勢の学生の怪我・入院という事態を招いた。この騒動の渦中、チャクラバーティ学長の盗博、盗用、自己盗用が指摘された。学生、教員、州知事の辞任要求を受け、2015年1月(59歳?)、学長を辞任した。教授も辞職した(推定)。博士号ははく奪されていない。損害額の総額(推定)は8億2千万円。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

アブヒジット・チャクラバーティ(Abhijit Chakrabarti、写真出典)は、インドのジャダフプール大学(Jadavpur University)・学長で、専門は情報工学だった。2015年までに13冊の書籍と121報の論文を出版した。

2014年9月(58歳?)、ジャダフプール大学・学内で女子学生への性的虐待事件が起こり、その対処に失敗した。数百人の学生デモが起こった。警察官を導入し、36人の学生の逮捕、大勢の学生の怪我・入院という事態を招いた。

2014年10月(58歳?)、上記の大事件の渦中に、ジャダフプール大学教員組合(Jadavpur University Teachers Association)は科学価値会(SSV, Society of Scientific Values。インドのネカトの学会)に事実確認をしてもらった上で、チャクラバーティ学長の盗博、盗用、自己盗用を指摘した。学生と教員はチャクラバーティ学長の辞任を要求した。

2015年1月(59歳?)、西ベンガル州知事も事件に乗り出し、チャクラバーティ学長の辞任を要求した。

2015年1月(59歳?)、チャクラバーティは学長を辞任した。教授も辞職した(推定)

なお、ジャダフプール大学は、「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第63位の大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。

ジャダフプール大学(Jadavpur University)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:コルカタ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1956年1月1日生まれとする。1978年の大学卒業時を22歳とした
  • 現在の年齢:61 歳?
  • 分野:情報工学
  • 最初の不正論文発表:1991年(35歳?)
  • 発覚年:2014年(58歳?)
  • 発覚時地位:ジャダフプール大学・学長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はジャダフプール大学の教員と思われる。ジャダフプール大学教員組合(Jadavpur University Teachers Association)に通報した
  • ステップ2(メディア): インドの新聞・テレビ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①科学価値会(SSV, Society of Scientific Values。インドのネカトの学会)。②ジャダフプール大学は調査委員会を設置しなかった
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗博、盗用、自己盗用
  • 不正論文数:少なくとも2報。うち1報は博士論文
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は8億2千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が24年間=4億8千万円。③院生の損害は不明。②に含めた。④外部研究費の獲得額は不明だが2億円とした。⑤調査経費(盗用発見者と科学価値会)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業の額は不明。②に含めた。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:学長を辞任した。教授も辞職した(推定)

●2.【経歴と経過】

主な出典:

  • 生年月日:不明。仮に1956年1月1日生まれとする。1978年の大学卒業時を22歳とした
  • 1978年(22歳?):インドのナショナル工科大学(National Institute of Technology Durgapur)を卒業。電子工学
  • 1978―1985年(22―29歳?):インドの企業で7年間働く
  • 1987年(31歳?):インドのインド工科大学(Indian Institute of Technology Delhi)で修士号取得。工学
  • 1991年(35歳?):インドのコルカタ大学(University of Calcutta)で研究博士号(PhD)を取得した
  • xxxx年(xx歳):ジャダフプール大学・教授
  • 2013年10月(57歳?):ジャダフプール大学・暫定学長
  • 2014年8月(58歳?):女子学生の性的虐待事件発生
  • 2014年10月(58歳?):ジャダフプール大学・学長
  • 2014年10月(58歳?):盗用が発覚
  • 2015年1月(59歳?):学長を辞任した。教授も辞職した(推定)
  • 2017年10月27日現在(61歳?):ジャダフプール大学に在籍していない。Welcome to the official website of Jadavpur University.

●3.【動画】

【動画】
「恥かかされるジャダフプール大学・学長(Jadavpur University Vice-Chancellor Embarrassed)」(英語)3分51秒
TIMES NOWが2015/01/12 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

●5.【不正発覚の経緯と内容】

アブヒジット・チャクラバーティは2013年10月に暫定学長(interim V-C)に就任し、2014年10月、事件の渦中に4年間の任期で学長に就任した。本記事中では、ややこしいので「暫定学長」の時も「学長」とした。

【直前の別の事件】

★女子学生への性的虐待事件

2014年8月28日の夜、ジャダフプール大学が主催する「フェスティバル」の間に事件が起こった。

学部2年生の女子学生(A子さん)が、工学部や人文学部の男子学生10人ほどに、強制的にキャンパス内の宿舎に連れていかれ、携帯を奪われ、性的虐待を受けた(molested her)。 A子さんはスキを見て逃げた。

9月1日、事件の4日後、A子さんの父親が、アブヒジット・チャクラバーティ学長に抗議に行った。すると、チャクラバーティ学長はニューデリーに行くので2日間後に来るようにと返事し、会ってくれなかった。

9月2日、父親は娘の性的虐待について警察に訴状を提出し、9月3日に大学当局に抗議の手紙を送った。その際、パルタ・チャッタージ州教育大臣(Partha Chatterjee)は学長不在でも内部調査するようジャダフプール大学に命じた。

事件1年前の2013年から、「職場における女性の性的嫌がらせ法(セクシュアルハラスメント法、Sexual Harassment of Women at Workplace Act)」が施行されていた。この法律に基づいて、ジャダフプール大学の学内苦情委員会(ICC:Internal Complaints Committee)が設置された。

9月5日、学内苦情委員会2人の委員がビダンガガル(Bidhannagar)のA子さんの家を訪問した。ところが、2人の委員はA子さんに、自分たちの身分を伝えるのを拒否し、A子さんが事件の夜に着ていた服について質問をした。この質問は、「もっと露出の少ない、セクシーではない服を着ていれば暴力を防げたのではないか」と、被害者を非難する気持ちが暗に込められている。→ 2017年09月26日 記事:「レイプされた時、あなたは何を着ていた?」 性暴力と服装の相関関係を問う、アメリカ大学の展覧会

9月6日、A子さんは2人の委員はジャダフプール大学・教授であること知り、ビダンガガル警察署に「精神的嫌がらせ(メンタルハラスメント)」を受けたと訴えた。

その後、多数の学生が、学内苦情委員会の委員の交代と、「外部委員会」の設置、セクシュアルハラスメント法で推奨される地域苦情委員会(LCC)の設置を要求するデモを行い、 キャンパス内における女子学生の安全を要求した。

チャクラバーティ学長は学生の要求を拒否した。同時に、9月16日の夕方に評議会を開催するので、その後まで待ってほしいと学生に伝えた。

★デモ学生36人逮捕と警察官の暴行事件

2014年9月16日の夕方、評議会は、 調査の途中で学内苦情委員会の委員を交代できないと決定した。 大学関係者によると、最高裁のガイドライン(Vishaka Guidelines)で「途中で委員を交代ができない」と決まっていたそうだ。

9月16日の夕方、評議会の結論に納得しない多数の学生が、チャクラバーティ学長と数人の大学関係者を包囲して尋問した。何度か話し合ったが状況は行き詰まった。

9月16日午後8時、チャクラバーティ学長はコルカタ警察所に警察官の派遣を要請した。

学生は大学の対応に不満で、数百人の学生が夜中までデモを続け、学内は騒然とし始めた。

9月17日午前2時、真夜中、本部棟の入口の照明が消され、警察官はデモ学生を排除し、チャクラバーティ学長と数人の大学関係者を救出した。この騒動で警察官は学生を殴打し、36人の学生を逮捕した。多くの学生が怪我を負い、病院に担ぎ込まれた。

インド社会は、学生を暴力的に排除したジャダフプール大学の行為を強く非難した。

教員と学生は強く抗議した。

Kolkata: Students take part in a rally aganist the alleged molestation of Jadavpur University female student in Kolkata on Friday. PTI Photo by Ashok Bhaumik(PTI9_19_2014_000199B) *** Local Caption ***. http://www.rediff.com/news/report/did-mamatas-nephew-just-call-jadavpur-protesters-drug-addicts/20140922.htm

 

【動画】
2014年9月20日のジャダフプール大学・学生の抗議活動「ジャダフプール大学抗議:ホック・コロロブ(The Jadavpur University Protests: Hok Kolorob)」(英語)0分15秒
Nishant Chhinkwani が2014/09/21 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

【動画】
チャクラバーティ学長が事件を説明しているが、司会者が少し激している。「ジャダフプール大学のチャクラバーティ学長がニュースXと質疑応答(Abhijit Chakrabarty VC of Jadavpur University speaks to NewsX)」(英語)11分32秒
NewsXが2014/09/19 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

その後。いくつかのことがあったが、細かいことは省略する。

工学部と人文学部の学生の実に96%以上がチャクラバーティ学長の辞任を要求した。7,100人の回答の88%がキャンパスへの警察官導入を非難した。.

ジャダフプール大学教員組合(Jadavpur University Teachers Association)もチャクラバーティ学長の辞任を要求した。
→ Plagiarism charges fuel demands for removal of Jadavpur University’s vice chancellor(下記の写真も)

2015年1月12日、結局、西ベンガル州知事のマムター・バナルジー(Mamata Banerjee)もチャクラバーティ学長の辞任を要求した。
→ 2015年1月12日の記事:Mamata Banerjee sacks Jadavpur University VC

2015年1月14日、チャクラバーティは「自発的」に学長を辞任した。政治的圧力はないと主張した。
→ 2015年1月14日の記事(下の写真出典):‘Anarchy’: Jadavpur University VC Abhijit Chakraborty looks back | The Indian Express

【盗用事件】

2014年10月(58歳?)、上記の大事件の渦中に、ジャダフプール大学教員組合(Jadavpur University Teachers Association)は研究ネカトを監視する科学価値会(SSV, Society of Scientific Values)の事実確認を受けた上で、チャクラバーティ学長の盗博、盗用、自己盗用を指摘した。

盗博、盗用、自己盗用の指摘によって、チャクラバーティ学長はますます立場が悪くなり、辞任の圧力が高められた。

盗博の盗用分析図はウェブ上に見つからなかった。研究博士号(PhD)を取得したインドのコルカタ大学(University of Calcutta)は盗博を調査していない。

「2011年のAnnual IEEE」論文の盗用、自己盗用の盗用分析図の一部が見つかった。

★「2011年のAnnual IEEE」論文

  • Implementation of Genetic Algorithm and Modified Shuffled Frog Leaping Algorithm for Transmission Loss Minimum Re-scheduling
    Priyanka Roy, A.Chakrabarti
    India Conference (INDICON), 2011 Annual IEEE, December, 1-4, (2011)
    DOI: 10.1109/INDCON.2011.6139539

上記論文に以下の2つの論文から多数の逐語盗用が見つかった。2つ目の論文はチャクラバーティ学長自身の論文なので、自己盗用である。

  1. A combination of shuffled frog-leaping algorithm and genetic algorithm for gene selection
    Cheng-San Yang, Li-Yeh Chuang, Chao-HsuanKe, Cheng-Hong Yang
    Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, Vol.12, No.3. 218-226(2008)
  2. Genetic Algorithm based transmission loss optimization under deregulated environment
    Sawan Sen, Priyanka Roy, S.Sengupta, A.Chakrabarti
    2010 Joint International Conference on Power Electronics, Drives and Energy Systems (PEDES), 2010 Power India, 1-5,(2010)
    DOI: 10.1109/PEDES.2010.5712401

以下に示した黄色の部分は自己盗用の部分である(出典)。4ページの論文の1ページ目である。2ページ目には自己盗用と他人の論文からの盗用があったと指摘されているが、盗用分析図のリンクが切れていてお見せできない。

自己盗用は上手の黄色部分だが、かなりゴッソリと逐語盗用している。なお、白楽は序論部分の自己盗用に寛容である。

●6.【論文数と撤回論文】

2017年10月26日現在、arXiv.org e-Print archiveで、アブヒジット・チャクラバーティ (Abhijit Chakrabarti)の論文を検索すると、1論文がヒットした。

2017年10月26日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、アブヒジット・チャクラバーティ(Abhijit Chakrabarti)の論文を検索すると、428論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文以外の論文が多数含まれていると思われる。

2017年10月26日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、アブヒジット・チャクラバーティ(Abhijit Chakrabarti)の撤回論文を「(retraction OR retracted) author:”Abhijit Chakrabarti”」で検索すると、3撤回論文がヒットした。しかし、本記事で問題にしている研究者の論文ではない。

白楽は、論文総数と撤回論文総数を把握できなかった。

●7.【白楽の感想】

《1》あらさがし

インドは混沌としているが、研究公正に対する強い抗議活動が時々起こる。

チャクラバーティ事件は、チャクラバーティ学長が女子学生への性的虐待事件への対処に失敗したことが切っ掛けである。

性的虐待事件への対処の失敗で、学生・教職員はチャクラバーティ学長の辞任を要求した。辞任を要求する教員たちが、チャクラバーティ学長のあら捜しをし、盗博、盗用、自己盗用を見つけた。

性的虐待事件の対処に失敗という切っ掛けがなければ、盗博、盗用、自己盗用は見つからなかった。一般的に、盗博、盗用、自己盗用はインド学術界にかなり深く浸透していると思われる。

http://indiatoday.intoday.in/story/ju-protest-interim-vc-chakrabarty-made-full-time-hokkolorob/1/394410.html

《2》盗博

経緯はどうであれ、チャクラバーティ学長の盗博が指摘された。

指摘の23年前の1991年にコルカタ大学(University of Calcutta)がチャクラバーティに研究博士号(PhD)を授与した。

コルカタ大学は調査委員会を設置し、盗博が事実なら、博士号をはく奪すべきである。

標語:「盗博の博士号は当然はく奪!」

ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:2014 Jadavpur University protests – Wikipedia
② 2014年10月22日、「Times of India」記事:Plagiarism charge against Abhijit Chakrabarti – Times of India(保存版)
③ 2012年3月27日、「Telegraph」記事:JU gets new VC, only for six months#.WfEXRuRrxmI 、(保存済)
④ 2014年11月15日のアイ・アート・コレクティヴ(Eye Art Collective)の「EYEZINE」記事:Proof of Plagiarism: Dr. Abhijit Chakrabarti steals Research Work (保存版)
⑤ 2014年11月18日のマヤンク・ジェイン(Mayank Jain)記者の「Scroll.in」記事: Plagiarism charges fuel demands for removal of Jadavpur University’s vice chancellor
、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です