2026年1月6日(火)掲載
ハッティは、ニュージーランドで育ち、カナダのトロント大学で研究博士号(PhD)を取得し、オーストラリアのメルボルン大学の教授になった。2008年(58歳)から『Visible Learning(可視化された学習)』シリーズの著書を出版し、オーストラリアのトップクラスの教育学者になった。日本語に訳された著書が複数ある。ところが、メルボルン大学の院生だったスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker、告発時は英国の大学教員)がハッティの盗用を見つけ、2024年(74歳)に盗用を指摘・公表し、メルボルン大学に告発した。メルボルン大学は盗用を認めたが、本調査をするほどではないと、捻じ曲げた結論を下した。憤慨したヴェインカーは、数百箇所の盗用を示す明確な盗用比較図を公表した。盗博も見つけたが、トロント大学は盗博の調査をしていない。大学隠蔽、大学調査不正(ズサン調査)の事件である。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤個論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】
ジョン・ハッティ(John Hattie、John Allan Clinton Hattie、ORCID iD:?、写真出典)はニュージーランドで育ち、ニュージーランドのオタゴ大学(University of Otago)で修士号を取得した。
その後、カナダのトロント大学で研究博士号(PhD)を取得し、オーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・教授、その後名誉教授になった。専門は教育学である。
彼は初中等教育のカリキュラムや教材に教師が関与することで教育効果が高まるという「Visible Learning(可視化された学習)」を提唱し、オーストラリアのトップクラスの教育学者になった。
ハッティは、多数の著書を出版しているが、最も有名で影響力の大きい著書・『Visible Learning(可視化された学習)』(2008年)は日本語訳がない(本の表紙出典はアマゾン)。
日本語に翻訳された著書は『Visible Learning(可視化された学習)』シリーズの『教育効果を可視化する学習科学(Visible Learning and the Science of How We Learn)』(2000年、原書2014年)、『教師のための教育効果を高めるマインドフレーム:可視化された授業づくりの10の秘訣(10 Mindframes for Visible Learning: Teaching for success)』(2021年、原書2018年)など3冊がある(本の表紙出典はアマゾン)。

なお、日本語訳された彼の著書は、内容は優れているのに、日本語訳が悪いというコメントがいくつもある。
2018年x月xx日(68歳)、メルボルン大学・教育経営学の院生だったスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker)が、ハッティの論文に異常な引用があることに気が付いた。
それから6年後の2024年(74歳)、英国のセント・メアリーズ大学 (St Mary’s University)・助教授(?)になっていたヴェインカーはハッティの盗用を論文として公表し、メルボルン大学に告発した。
メルボルン大学は盗用があることを認めたが、本調査するほどではないと結論を捻じ曲げ、しっかりした調査をしなかった。
その結論に激怒したヴェインカーはさらに調べ、ハッティの論文・著書に数百個の盗用があると指摘した。つまり、ハッティの論文・著書は盗用まみれで、盗用はハッティの執筆スタイルだと指摘した。
ヴェインカーが示した盗用比較図は明白な逐語盗用が多く、メルボルン大学の対応・判定は誰が見ても異常だと思える。また、盗博だと指摘された博士論文に対して、トロント大学は調査をしていない。
この事件は大学隠蔽、大学調査不正(ズサン調査)の事件である。
なお、盗用は明確なのに、世界の教育学関係者は、盗用発覚後も、ハッティをトップクラスの学者として扱っている。例えば、ドイツでキーノート講演者として招聘した。 → https://www.youtube.com/watch?v=_wp-V1NUHQY
メルボルン大学(University of Melbourne)。写真出典
メルボルン大学(University of Melbourne)構内。入口に門が見つからなかった。
- 国:オーストラリア
- 成長国:ニュージーランド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのトロント大学
- 男女:男性
- 生年月日:1950年。仮に1950年1月1日生まれとする。ニュージーランドに生まれた
- 現在の年齢:75歳
- 分野:教育学
- 不正論文発表:1981年(31歳)、2008~2024?年(58~74?歳)
- ネカト行為時の地位:トロント大学・院生。メルボルン大学・教授、その後、名誉教授
- 発覚年:2024年(74歳)
- 発覚時地位:メルボルン大学・名誉教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は、メルボルン大学・教育経営学の院生だったスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker、現在は英国で教師)が2018年に気が付き、2024年の論文として公表しメルボルン大学に告発
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤個監視(Retraction Watch)」「X」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①メルボルン大学・調査委員会は予備調査でシロと認定。本調査をしていない。② カナダのトロント大学は博士論文の調査をしていない
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。本調査をしていない
- 大学の透明性:本調査していない、隠蔽(✖)
- 不正:盗用
- 不正論文数:?報
- 盗用ページ率:?%
- 盗用文字率:?%
- 時期:研究キャリアの初期・後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 対処問題:大学隠蔽、大学調査不正(ズサン調査)
- 特徴:オーストラリアの超有名教授の盗用で、大学は処分できない。推定だが、院生~名誉教授の学者人生の全過程で盗用していた(ハッティの執筆スタイルだから)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Curriculum Vitae John A. C. Hattie Mailing Address | PDF | University | Teachers
- 生年月日:1950年。仮に1950年1月1日生まれとする。ニュージーランドに生まれた
- 1970年(20歳):ニュージーランドのオタゴ大学(University of Otago)で学士号取得:教養学
- 1974年(24歳):同大学で修士号取得:教育学
- 1981年(31歳):カナダのトロント大学(University of Toronto)で研究博士号(PhD)を取得:統計学。博士論文:Decision Criteria for Determining Unidimensionality
- 1977~1984年(27~34歳):オーストラリアのニューイングランド大学(University of New England)・講師、後に上級講師
- 1985~1994年(35~44歳):オーストラリアの西オーストラリア大学(University of Western Australia)・教授
- 1994~1998年(44~48歳):米国のノースカロライナ大学(University of North Carolina)・教授
- 1998年(48歳):ニュージーランドのオークランド大学(University of Auckland)・教授
- 2008年(58歳):後に問題視される『Visible Learning(可視化された学習)』を出版した
- 2011年3月(61歳):オーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・教授、その後、名誉教授
- 2011年6月6日(61歳):ニュージーランドの2011年女王誕生日栄誉賞(2011 Queen’s Birthday Honours in New Zealand)のニュージーランド・メリット勲章(New Zealand Order of Merit )・受章:2011 Birthday Honours (New Zealand) – Wikipedia
- 2024年(74歳):盗用・盗博が発覚
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
研究のはなし:「John Hattie – Collective Teacher Efficacy 2018 – YouTube」(英語)9分54秒。
leap4principals(チャンネル登録者数 313人) が2018/08/12に公開
【動画2】
講演が上手。
講演:「#KonfBD25: Keynote von John Hattie „Visible Learning in the context of personalized learning“ – YouTube」(英語)47分40秒。
Forum Bildung Digitalisierung(チャンネル登録者数 1090人) が2025/10/10に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ジョン・ハッティ(John Hattie、John Allan Clinton Hattie、写真出典)はニュージーランドに生まれ育ち、ニュージーランドのオタゴ大学(University of Otago)で学士号・修士号を取得した。
その後、カナダに移動し、カナダのトロント大学で研究博士号(PhD)を取得した。
学者として、オーストラリア、米国、ニュージーランドのいくつかの大学・教授を経て、2011年3月(61歳)、オーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・教授に就任した。その後名誉教授になった。
ハッティは初中等教育のカリキュラムや教材に教師が関与することで教育効果が高まるという「Visible Learning(可視化された学習)」を提唱し、オーストラリアのトップクラスの教育学者になった。
妻は同じメルボルン大学の教育学教授・ジャネット・クリントン(Janet Clinton)である。 → Prof Janet Clinton : Find an Expert : The University of Melbourne
ジョン・キー(John Key)が第38代ニュージーランド首相だった時(在位2008~2016年)、ハッティはニュージーランド第5次国民政府の教育アドバイザーとして、国家学習基準と教師の業績連動型給与について助言した。 → 2010年2月6日記事:Standards and the professor – New Zealand News – NZ Herald
2011年6月6日(61歳)、ニュージーランドの2011年女王誕生日栄誉賞(2011 Queen’s Birthday Honours in New Zealand)のニュージーランド・メリット勲章(New Zealand Order of Merit )を受章した。 → 2011 Birthday Honours (New Zealand) – Wikipedia
つまり、ハッティは学者として、大学教授として、政府要人として、国民からみて、ニュージーランドとオーストラリアのトップクラスの教育学者だった。
★発覚の経緯
2018年x月xx日(68歳)、メルボルン大学・教育経営学の院生だったスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker、写真出典)は、ハッティの論文に、他人の文章を引用せずに流用している箇所が多数あることに気が付いた。
まず、適切な引用なしの逐語流用した12個のセンテンスを見つけた。その中には、「人々」や「個人」といった単語を単に「生徒」に置き換えた箇所が7個もあった。
その後、ヴェインカーはさらに調べ、ハッティの著書の中で最も有名で影響力の大きい著書・『Visible Learning(可視化された学習)』(2008年)とその続編、そしてハッティの博士論文に、数百ものデータエラーや盗用を見つけた(本の表紙出典はアマゾン)。
院生終了後、オーストラリアから英国に移動し、英国のセント・メアリーズ大学 (St Mary’s University)・助教授(?)になったヴェインカーは「撤個監視(Retraction Watch)」に「ハッティの著書と論文の文章を調べてみました。そして、全く同じ文章を引用なしで流用していることに気づいたんです。一言一句、全く同じ文章でした」と述べている。
2024年夏(74歳)、ヴェインカーはハッティの盗用のあらましを査読なしの2本の論文にまとめ、論文を添付してメルボルン大学に告発した。
メルボルン大学は、ヴェインカーの告発を受け、予備調査を行なった結果、ハッティの論文に修正すべき「誤り」や「引用の不備」を確認した。
しかし、ハッティの盗用は本調査するほどではないと結論し、本調査をしなかった。
★ハッティの攻撃
ヴェインカーの盗用指摘に対し、ハッティは、「他人の著作物を盗用したことは一度もない」と反論した。
そして、ヴェインカーに、謝罪と発言の撤個、大学への告発を取り下げるよう要求した。
2025年5月(75歳)、ハッティは、ヴェインカーが対応しなかったので、オーストラリアのビクトリア州最高裁判所に「名誉毀損」の正式な訴訟を起こした。
●【少し振り返って】
★ヴェインカーより前、ハッティの著書への批判
前節であらましを書いたが、少し振り返ってみよう、記述は一部重複する。
2008年(58歳)、ジョン・ハッティ(John Hattie、John Allan Clinton Hattie、写真出典、保存版)は『Visible Learning(可視化された学習)』を出版した。
この本は、教師が生徒と良好な関係を築き、生徒の学習に介入することで生徒の学習を向上できるという考え方を書いた本で、この考えは世界中の小中高校の教育に影響を与えた。オーストラリア政府の報告書にもその研究結果が引用され、教育改革運動の一環となった。
ハッティの著書は、800件以上のメタアナリシス、合計5万件以上の小規模研究を引用し、効果の大きさを表す統計指標「コーエンのd(Cohen’s d)」を用いて介入をランク付けしていた。
2024年(74歳)にヴェインカーがハッティの盗用を指摘する前、複数の研究者がハッティの『Visible Learning(可視化された学習)』のデータ、対象集団の選定、統計計算の異常などを批判していた(以下)。
- 2009年1月、スヌーク(I. Snook等)の批判: (PDF) Invisible Learnings: A commentary on John Hattie’s book visible learning: A synthesis of over 800 metaanalyses relating to achievement
- 2012年1月11日、アルネ・コーレ・トッポル(Arne Kåre Topphol)の批判:Kan vi stole på statistikkbruken i utdanningsforskinga?
- 2016年1月18日、スティーブン・ホーキング(Stephen Hawking)の批判:VisibleLearning
★ヴェインカーの追求とメルボルン大学の調査
ヴェインカーは、ハッティの出版物を調べ、著書・『Visible Learning(可視化された学習)』(2008年)とその続編、そしてハッティの博士論文に、537個の盗用箇所を見つけた。
そのうち432箇所は不十分な言い換えで、残り105箇所は原資料をそのままコピーした逐語盗用だった。
ヴェインカーはまた、200件以上のデータの誤りも見つけた。
2024年5月29日(74歳)、ヴェインカーは最初の調査結果をまとめ、「ジョン・ハッティの研究公正の失敗と教育改革運動の脆弱性」と題する47ページの論文を発表した。 →SocArXiv Papers | John Hattie’s failures of academic integrity and the fragility of the education reform movement(以下は冒頭の一部)

2024年5月30日(74歳)、論文発表に翌日、ヴェインカーは「X」にも投稿した。
最初の部分をグーグル翻訳すると、「ハッティは、ロックが1990年にゲイリー・レイサムと共著で出版した著書や他の目標設定理論家・著作からの直接引用を通して、目標設定の重要な考え方を説明しました。
しかし、これらを直接引用として言及することはありませんでした。引用符やページ番号は省略し、著者と出版年のみを示しました。」
黄色塗の表の前は、「したがって、以下の例では、ハッティは間接的にのみ引用しています(著者、年)。」です。
So, in the examples below, Hattie has cited, but only indirectly (Author, Year): pic.twitter.com/dZbHS5QqP5
— Stephen Vainker (@StephenVainker) May 30, 2024
2024年6月(74歳)、論文発表に翌月、ヴェインカーは調査結果を添え、メルボルン大学にハッティの盗用を告発した。メルボルン大学に告発したのは、問題の著書はハッティがメルボルン大学在職中に執筆していたからだ(白楽が調べた経歴では、前職のニュージーランドのオークランド大学在職中に執筆と思えるので、少し異なる。理由不明)。
メルボルン大学は、ハッティの捏造・改ざん・盗用について予備調査をした。
1年後の2025年x月x日(75歳)、メルボルン大学の研究能力担当副学長(pro vice-chancellor of research capability)のケイト・スミス=マイルズ(Kate Smith-Miles、写真出典 )は、データに「意図しない誤り(“unintended” errors)」があること、ハッティの引用方法に改善点があることを認め、ヴェインカーにその旨を伝えた。〈白楽注:えーと、「意図しない誤り(“unintended” errors)」とあるが、誤りは「基本的に」「意図しない」〉
そして、スミス=マイルズ副学長は「意図しない誤り(“unintended” errors)」は研究不正行為ではないので正式な調査(本調査)は「必要ないし、適切でもない」と結論した。
「撤個監視(Retraction Watch)」は、メルボルン大学の研究公正性担当部署(research integrity office)に、「調査に問題はなかったのか?」と質問した。
すると、質問には直接回答せず、「私たちは、オーストラリア研究責任行動規範(Australian Code for the Responsible Conduct of Research)に基づき、研究公正に関するあらゆる懸念事項に対応しています。この規範は、手続き上の公正、機密、そして誠実を優先する体系的なプロセスです」と一般的な(トンチンカンな)回答をしてきた。
さらに、機密は「あらゆる調査プロセスを公正に実施するために不可欠です。これには、懸念を表明する告発者と調査対象となる被告発者の権利の保護が含まれます」と加えてあった。
なお、スミス=マイルズ副学長の書簡によると、メルボルン大学は米国のカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)のマイケル・ヘバート準教授(Michael Hebert、写真出典)にこの件の調査を依頼していた。
ヘバート準教授は、無作為に抽出した14件の盗用疑惑のうち11件で誤りを確認し、さらに20件の誤りを特定した。彼はこれらの誤りは人為的なミスまたは方法論的選択によるものであり、意図的な誤りによるものではないと述べた。
書簡には、ハッティがヘバート準教授の調査結果に異議を唱え、誤りは「重要ではない」、「無視できる程度」と批判したことが記載されていた。
ヘバート準教授はまた、データベースの信頼性を高めるために、より幅広い専門知識を持つチームと協力することをハッティに勧めた。
しかし、ハッティは、研究助手からの支援を受けながら自らデータをコーディングしたため、大規模なチームは不要だとして、この提案を拒否した。
なお、ヘバート準教授は「撤個監視(Retraction Watch)」の問い合わせに回答しなかった。
ヘバート準教授の調査結果に基づき、メルボルン大学はまた、ヴェインカーが提出した181箇所の盗用疑惑のうち14箇所を審査した結果、盗用に相当するものはなかったものの、11件は「疑わしい引用方法」の可能性があると結論した。
書簡の中でハッティは、社会科学分野で引用スタイルの一つである「APA7」(過剰な引用を推奨しない)を引用し、自身の引用方法を擁護した。 → 「APA7」の日本語説明は: APA Style 7the Edition引用文献リスト作成について|和歌山大学図書館
メルボルン大学はそれ以上の調査をしないと決めた。
ただ、報告書では、全体として見ると引用の誤りは著書・『Visible Learning(可視化された学習)』(2008年)の『続編』に広範囲にわたった引用不備がありそうだ」と盗用をほぼ認めている。
ヴェインカーはメルボルン大学のやり方を批判し、「報告書では可能な限りの最善を尽くして調査したという強硬な姿勢をつくろっているが、実際には、徹底的な調査をしていない。181箇所の盗用疑惑のうちたった14箇所しか調査していない。「14箇所を無作為に抽出した」とある、それも信用できない。1箇所を1時間で調査できるのに、彼らは1年もかかって14箇所しか調査しなかった」と批判した。
ヴェインカーは大学に対し、盗用とされる14箇所の事例のうちどれを精査対象としたのかを尋ねた。と同時に、同じメールでヴェインカーは逐語的にコピーされた11件の事例を伝えた。
2025年7月11日(75歳)、大学の研究倫理担当官は、追加された11事例に対して「当初の無作為抽出による精査では明らかではなかった懸念が生じている」と盗用を認めた。
担当官は、大学は「ハッティに追加情報を求めています。ハッティの回答によって、更なる措置が必要かどうかが決めます」と述べた。
なお、2025年3月、ヴェインカーは「ジョン・ハッティの経歴:盗用、不正行為、そして教育の粗野化」と題する2番目の論文を発表した。 → (PDF) THE CAREER OF JOHN HATTIE: PLAGIARISM, MISCONDUCT, AND THE COARSENING OF EDUCATION
★ハッティの反論
再掲するが、2024年5月29日(74歳)、ヴェインカーは、ヴェインカーは最初の調査結果をまとめ、「ジョン・ハッティの研究公正の失敗と教育改革運動の脆弱性」と題する47ページの論文を発表した。 →SocArXiv Papers | John Hattie’s failures of academic integrity and the fragility of the education reform movement(以下は冒頭の一部)

ヴェインカーはその論文で、ハッティが目標設定理論家から文章をそのまま引用し、職場の用語を教育用語に置き換えたと主張した。
2024年8月、ハッティは次のように反論した。
あなたは、私が盗用を行なった、研究公正を欠いている、虚偽の合計値を入力した、軽率である、などと主張しています。これらは重大な非難です。私はこれらの主張が不当かつ虚偽であると強く主張します。
あなたが注目している3~5ページは、明らかにロックとレイサムの著作に依拠しています。そのことはページに記載しています。私が彼らの著作を言い換え、より教育的な分野に取り入れていることは明らかです。その文章がロックとレイサムの著作であることに疑いの余地はありません。さらに、盗用の証拠もありません。第7版APAスタイルマニュアル「APA7」には、過剰な引用を避けるべきであると明記されています。この著作がロックとレイサムに依拠し、彼らに帰属していることは疑いの余地がありません。
メールの中でハッティは、ヴェインカーに対し、盗用に関する「名誉毀損の可能性がある」部分を削除し、論文を再出版するよう求めた。
ヴェインカーはその要求を拒否した。
数か月後、ハッティの弁護士は、2024年の論文とヴェインカーのXへの12件の投稿は名誉毀損にあたると指摘した。
そして、論文と投稿を削除し、謝罪し、ハッティの訴訟費用と賠償金を支払い、メルボルン大学研究公正局への告発を取り下げるよう要求した。
ハッティの弁護士が「撤個監視(Retraction Watch)」送ってきた声明文(2025年8月2日)を「撤個監視(Retraction Watch)」が公開した。以下はその冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2025/08/Letter-to-Ms-Youmshajekian-re-Prof-Hattie-20.08.2025_Redacted.pdf
ハッティは上記の声明の中で「私は他人の著作を盗用したことは一度もありません」と述べている。
弁護士は、ハッティは守秘義務を理由にメルボルン大学の調査についてコメントできないと述べた。また、ヴェインカーの大学への告発は「根拠がない」と主張した。
一方、ヴェインカーは「私は調査し、確認し、自分が正しいと確信しています。ハッティの対応は私に対する単なる威嚇だと思います。ハッティには勝訴する材料がありませんから」と述べた。
「彼があれほど多くの本を盗用なしで書けたとは思えません。盗用は単なるズサンな行為ではなく、彼の著作にとって不可欠な要素だったと思います」と加えた。
★世界の対応
盗用発覚後も、世界の教育学関係者は、ハッティをトップクラスの学者として扱っている。
例えば、ドイツでキーノート講演者として招聘した。 → https://www.youtube.com/watch?v=_wp-V1NUHQY
日本は?
ハッティの著書の日本語訳を出版しているが、ハッティの盗用行為(または盗用疑惑)を、そもそも、知らない?
●【盗用の具体例】
――逐語盗用 2つの盗用比較図――
以下の図の出典: → 2025年8月25日のスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker)著「The University of Melbourne’s sham investigation into John Hattie’s plagiarism」
左がハッティの盗用箇所、右が被盗箇所。同色が盗用部分。ほぼ完ぺきな逐語盗用ですね。

左がハッティの盗用箇所、右が被盗箇所。同色が盗用部分。ここも、ほぼ完ぺきな逐語盗用ですね。
――いろいろな盗用比較図――
以下の図の出典: → 2024年5月29日のスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker)著「SocArXiv Papers | John Hattie’s failures of academic integrity and the fragility of the education reform movement」
以下の盗用比較図は論文に示された盗用指摘の一部である。全体は上記論文をお読みください。
上記と左右が異なり、左が被盗箇所、右がハッティの盗用箇所。ほぼ完ぺきな逐語盗用ですね。
単語を類義語に替えた盗用(同色部分)。
表も盗用している。同色部分が盗用。
多様な盗用。
●6.【論文数と撤個論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★論文数と著書数
2007年の履歴書に、1972~2007年の35年間のジョン・ハッティ(John Hattie)の546論文と10冊の著書・モノグラフが記載されている。 → Curriculum Vitae John A. C. Hattie Mailing Address | PDF
2026年1月5日現在、それから19年経過しているので、ハッティの論文数はもっと多いだろう。
★撤個監視データベース
2026年1月5日現在、「撤個監視(Retraction Watch)」の撤個監視データベースでジョン・ハッティ(John Hattie、John Allan Clinton Hattie)を「Hattie」で検索すると、0論文が撤個されていた。
★パブピア(PubPeer)
2026年1月5日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジョン・ハッティ(John Hattie、John Allan Clinton Hattie)の論文のコメントを「John Hattie」で検索すると、4論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》博士論文
1981年、31歳の時、ジョン・ハッティ(John Hattie)は、カナダのトロント大学(University of Toronto)で研究博士号(PhD)を取得した。
スティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker )は、その時のハッティの博士論文「Decision Criteria for Determining Unidimensionality」も盗用だと指摘している。
ヴェインカーは今のところ、トロント大学に告発していないようだが、いずれ告発し、ハッティの博士号が剥奪されるのか? 白楽は、わかりません。
アナタも無料でハッティの博士論文(171ページ)をダウンロードできます。 → Decision Criteria for Determining Unidimensionality
《2》大学のネカト調査のハチャメチャ
盗用の場合、特に逐語盗用の場合、盗用比較図を見れば明らかに盗用だとわかる。
研究不正の専門家でなくても、研究とは全く関係ない八百屋のおじさんでも、トラックドライバーのお姉さんでも、ハッキリ、スッキリ、すぐわかる。
それなのに、よくまあ、メルボルン大学のケイト・スミス=マイルズ副学長(Kate Smith-Miles)はシロと言い張ったもんだ。どういう目(頭)をしているのだろう?
ジョン・ハッティ(John Hattie)がメルボルン大学にとって重要な人物ということなのだろう。オーストラリアのトップ教育学者という評価なので、メルボルン大学自慢の教授なんでしょう。それとも、多額の寄付をしたとか、するとか?
ハッティの妻のジャネット・クリントン(Janet Clinton)がメルボルン大学・教育学教授と言うのもメルボルン大学の判定に影響しているのだろう。
それにしても、明白なクロなのにシロと言い張るメルボルン大学は、大学の評価が落ちます。いいんですかねえ~。
なお、このクロをシロと言い張る大学は、メルボルン大学に特異で異常な判定、というわけではなく、世界中の大学、そして日本の大学でも頻繁に起こっているデタラメ判定である。
白楽の印象では、むしろ、研究不正告発に対する大学の対処(告発対応・調査・処分・公表)が「まとも」な例の方が日本では少ない気もする。クロをシロと結論する調査結果は珍しくない。
日本の全調査資料を入手できれば、そこそこ正確な分析ができるけど、後ろめたい場合、大学は調査結果を公表しない(または一部しか公表しない)。公表された調査資料を分析しても、全体像はつかめない。
「大学の対処(告発対応・調査・処分・公表)」を監査する組織が日本に必要だと、つくづく、心から、痛切に、思う。
《3》盗用の本質
ネカトハンターの チェシャー(Cheshire)が「撤個監視(Retraction Watch)」記事のコメント「August 21, 2025 at 10:15 pm」で「盗用」事件の本質を指摘している。興味深い。
以下、抽出意訳。
盗用かどうかを判定するのに、流用した単語数や重複率といった定量的な側面に重点を置くの意味は小さい。
これは、もちろん、盗用検出ソフトウェアを販売する企業が顧客に指標を示して購入してもらうための方策である。弁護士もそのような指標を好む。
しかし、盗用の本質は他人の知的財産(intellectual property)を自分のものと偽装することであって、数値の問題ではない。
他人の知的財産を自分のものと偽装する行為は、明白に研究規範に違反する。
原則として、国民の税金は再利用された研究に使われるべきではない。独創性のない研究は、雇用、終身在職権、公的助成金といったジャンルで報酬を得るべきではない。
確かに、すべての研究は先行研究の上に成り立っている。私が言いたいのは、ハッティのような、アイデアに「新しい」要素がほとんど加えられていないケースに「盗用」というレッテルを貼るかどうかは、本質的な問題ではない。
重要なのは、その研究自体に価値がないということだ。これが、ヴェインカー博士が表明した根本的な不満だと思う。
《4》研究不正を防ぐ方法
ジョン・ハッティ(John Hattie)の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?
また、今後、同じような研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?
研究不正を防ぐ基本は「ネカト許さない文化」の構築で、具体策は、①家庭での道徳教育と小中高大院での(学術)規範教育の徹底、②規範意識の高い人だけを研究者に採用・昇進するシステム作り、③ネカト監視・通報の徹底(通報者保護)、④ネカトを刑事犯化へと法改正、⑤学術システムの改革、であるが、根本的解決の1つは、⑥現行の大学が調査をやめ、麻薬取締部などの捜査権を持つ格上機関がネカト調査すべきだと思う。
単純な盗用事件で、「①大学院での(学術)規範教育の徹底」が大きいと思う。研究キャリアの初期に盗用スタイルで文章を書く癖がつかないように教育すべきだった。
ネカトの法則:「ネカト癖は研究キャリアの初期に形成されることが多い」。
それで、
そこがうまくできないと、ネカトの法則:「ネカトはその人の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」になる。
スティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker)は、盗博以外に、ハッティの2008~2024?年(58~74?歳)の16年間の著書・論文の盗用を指摘している。
ハッティの盗用を、誰かがもっと早く見つけ、ハッティを学術界から排除しておくことも必要だったと思う。
「③ネカト監視・通報の徹底」が欠けたために、ハッティは多数の著書・論文を執筆し、オーストラリアのトップクラスの教育学者になり、著書の日本語訳まで出版された。
ジョン・ハッティ(John Hattie):出典
●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:John Hattie – Wikipedia
② 2025年8月21日のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤個監視(Retraction Watch)」記事:Top education researcher goes to court over plagiarism claims, university review – Retraction Watch
③ 2025年9月5日のスティーブン・ヴェインカー(Stephen Vainker)記者の「Stephen’s Substack」記事:Two further LLM-written papers co-authored by John Hattie, more fake references
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