2025年5月13日掲載
ワンポイント:6か月前の2024年12月、白楽は、研究不正の日本の「現場」「現実」を改革しようと、ネカトハンター活動を始めた。6か月で、10件告発・2件深堀した。ある程度は予想していたが、やはり、大学・研究所・学術誌の保身のための隠蔽と防御、研究者と国民の無関心さに直面した。この方法で、日本の研究不正の対処システムの向上を急速には改善できないというのが、現時点の白楽の結論である。それで、研究不正の告発活動をしばらく休止する。作戦を練り直す。
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白楽の卓見・浅見24
★研究不正の対処
★ネカトハンター
★告発活動
★10件告発・2件深堀
★絶望的
★文部科学省が諸悪の根源
★対処の問題
★告発活動を休止する
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●【白楽の卓見・浅見24】
★研究不正の対処
最初に、日本の研究不正の対処システムの基本的流れを簡単に述べておく。
黄色部分は告発を受けた大学・研究所が行なう対処・処罰である。( )内に英語を書くが、米国と同じプロセスである。
ネカト(research misconduct)発覚 → 通報(告発、allegation) → 告発対応 → 告発判断(assessment) → 予備調査(inquiry) → 本調査(investigation) → 認定(finding) → 行政措置(懲戒処分など)の裁定(adjudication) → 不服申立て(appeal)への対処
★ネカトハンター
社会で大人が悪いことをしたら、被害者・関係者や気付いた一般人がほぼ100%、警察に通報する。
学術上で研究者が悪いこと(研究不正)をしたら、それを取り締まる科学警察官に通報・・・、イヤイヤ、そういう科学警察官はいない。学術界にも大学にも、社会にも。
被害者・関係者やネカトハンター*は、被疑者の所属する大学に通報する。通報率は、実際に起こっている研究不正の10%程度(推定)である。
[*ネカトハンターは善意・無報酬で研究不正を調べる個人ボランティアで、世界に約50人いる。研究とは無縁の人もいるが研究者が多い]
世界の研究不正発覚の1割は被害者・関係者の通報によるが、残り9割はネカトハンターが通報している(1割・9割は白楽の推察。統計データはない)。
しかし、日本にはネカトハンターがいない。10数年前にはいたが、今はいない。
外国のネカトハンターが日本の研究不正を通報してくれるが、勿論、多くはない。
それでも、不正論文をたくさん出版した日本人研究者が多くいるので、だいぶ前から「日本は研究不正大国」と言われている。
学術上で悪いこと(研究不正)をした研究者を通報するネカトハンターが日本にいないのは、日本の学術システムとしても日本社会としても欠陥である。
学者の本分から外れるが、6か月前の2024年12月、白楽は、研究不正の「現場」「現実」を改革しようと、仕方なしに、ネカトハンター活動を始めた。もちろん、無給の奉仕活動である。
コレ、定年退職した学者がすることだろうか? と思いつつ。
定年退職は置いておいても、少なくとも、学者の本務ではない。
ただ、6か月で10件告発・2件深堀し、見えてきた問題は学者として重要だった。本記事ではその内容を記述する。
「見えてきた」問題と書いたが、問題は前々から「見えていた」。告発して問題が「明確になった」というのが正しい。マー、いいけど。
★告発活動
ネカトハンター活動を始めた趣旨は別途詳しく書いたので、気になる人はそちらをお読みください。 → 「5C 日本の研究疑惑:通報と対処 目次(1) | 白楽の研究者倫理」
趣旨のポイントを簡単に書くと、研究不正をした研究者を追及するのではなく、不正疑惑の研究者が所属する大学・研究所・学術誌に、研究不正疑惑を通報(告発)した時、大学・研究所・学術誌が行なう調査・対処・処罰での問題点を調べ、その改善を促すのが趣旨である。
また、上記を公開し、日本の研究不正調査・対処の問題点を日本国民・メディア、及び研究機関・研究者が一緒に考え、日本の研究倫理体制をより良い方向に改善することだ。
ただ、大学・研究所・学術誌に問題点を指摘しても、日本の研究倫理体制をより良い方向にもっていけるとは、実は、始める前から大きくは期待していなかった。
ベン・ランドー=テイラー(Ben Landau-Taylor)は、米国でも、「学術界ぐるみの不正許容文化(根深い慣行)」のため、大学・研究所自身が研究不正対策に後ろ向きだ、と書いている。
白楽の思いは、ランドー=テイラーの分析結果と同じである。
究極の解決策は、大学・研究所とは全く異なる捜査権を持つ国の機関(仮に、ネカト取締部)を設立することだ、と白楽は思っている。 → 参考:2022年3月18日の毎日新聞、2024年3月21日の読売新聞、ヤフーニュース、2024年4月9日の朝日新聞その1、その2。
とはいえ、日本の大多数の研究者及び国民は、現状では、研究不正の実態、悪質性、損害の大きさを理解していない。捜査権を持つ国の機関の設立にはかなりの年月がかかるだろう。
それで、とりあえずは、移行期間として、現状の問題を日本の研究者及び国民に示すことだと思っている。
そういう役割として、白楽の始めた告発活動が研究不正の抑止に役立つ可能性は、「ある」と感じていた。
研究不正疑惑を見つけ、告発と同時に白楽ブログで公表し、その顛末を白楽ブログに書くと、どうなるか?
今までは、研究不正をしても、①見つからない。②見つかっても告発されない。③告発されても大学は握りつぶして調査しない。④大学は調査してもクロと認定しない。⑤クロと認定しても処分が甘い。⑥結局、トータルで考えて、研究不正した方が論文はたくさん出る。学位も、奨学金も、就職も、昇進も得られる。コッソリと研究不正した方が得だ。という研究不正許容文化がなんとなく浸透していた。
それが、研究不正をすると、「①【必ず】見つかる」。「②見つかって【必ず】告発される」。「③~⑤」は白楽ブログが公表するので、大学の対応を研究者と国民が批判するようになり、「大学は【必ず】調査し、【必ず】クロと認定し、【必ず】厳しい処分をする」ようになる。「ネカト許さない文化」が浸透し、研究不正をしないようにしよう、と研究不正への態度を変えることが期待できる。
そのためには、疑惑者の姓名と所属大学・研究所名をはっきり公表することだ。
そして、大学・研究所の対応を公開する。
それらを、主要メディアが記事にして大多数の研究者および国民に知らせる。
さらに、重要なことは、10年前でも、20年前でも、研究不正をした事実を姓名と共に公表することだ。
そのためには、すべての研究不正疑惑を取りこぼさないで告発することが重要だ。
と思って、始めた。
★10件告発・2件深堀
研究不正疑惑を告発しても調査する機関は、研究不正した研究者が所属する(含・所属した)大学・研究所である。
次々節「★文部科学省が諸悪の根源」で述べるように、このシステムは異常だが、現在、国のガイドラインがそう決めている。
白楽は、この6か月で12件の研究不正事案をブログに記述した。
疑惑研究者が所属する(含・所属した)大学・研究所・学術誌は、国立研究所3件、国立大学3件、公立大学2件、私立大学2件、学術誌1件、私立病院1件である。
12件のうち10件を大学・研究所・学術誌に告発した。告発しなかった2件は、学術上の研究不正なのだけど、文部科学省の規則では研究不正ではないのが1件、残りの1件は大学の調査・対処は終わっていたが、対処に問題があった事例である。
告発した10件のうち、大学・研究所・学術誌の対応は以下である。
4件:予備調査の後、本格的に調査する(本調査と呼ぶ)と結論し、調査中
1件:少し調べて(予備調査)、シロと結論した
1件:白楽が告発した時、既に本調査をしていた
1件:返事はあったが、調査するかどうか不明
1件:返事はあったが、対応なし
2件:返事なし
件数が少ないので、日本全体の対応ウンヌンと一般化するのは難しいが、10件のうち5件は、白楽が告発したからネカト調査を始めたのである。逆に言うと、告発しなければ、調査しなかった、というわけだ。
だから、ネカトハンターのような第三者が告発しないと、毎年100件(推定)の研究不正疑惑が告発・調査されないままだということだ。
研究不正疑惑の機関による特徴もあると思うが、調べた12件は、国立研究所3件、国立大学3件、公立大学2件、私立大学2件、学術誌1件、私立病院1件である。総件数が少なく、特徴については結論できない。推察もしない。
★絶望的
10件告発・2件深堀した白楽の結論は、白楽1人が活動するこのやり方で「日本の研究不正大国」を直すのは無理だ、ということだ。
少なくとも2025年5月現在は無理だ。
それで、告発活動は一時的に休止する。作戦を練り直すが、再開の目途は「ない」。
どうして無理だと思ったのか?
- 日本の大学・研究所・学術誌は「本気」で研究不正を減らす気はない。
そう思う根拠:10件告発・2件深堀で大学・研究所・学術誌の対応が示している。
自分の大学・研究所が研究不正で糾弾されて評判を落とさないように「組織を守る」姿勢が最優先で、隠蔽する。対応しない。告発者を脅す。
学術誌「Internal Medicine」は論文出版の拠点なのに、盗用を許容している。
そして、福岡歯科大学事件で見たように、調査し、論文撤回と発表しても、論文撤回は実行されない。
要するに、どのくらいの割合かわからないが、日本のネカト調査・対処・処罰はまやかしが多い。 - 日本の学術界と研究者も「本気」で研究不正を減らす気がない。
そう思う根拠:白楽が研究不正をブログ記事で訴えても研究者の反応(研究者向けメディア)はとても低調である。
学術誌「Internal Medicine」が盗用を許容する事件には愕然としたが、学術界と研究者がその学術誌の改善を要求しないのにもガッカリした。 - 文部科学省も「本気」ではない。
そう思う根拠:これは従来から分かっていた。文部科学省の規則に問題が多いのは別の記事に書いた。問題を指摘しても改訂しない。規則が「現実」「現場」に合わないままである。 - 国民は無関心である。
結局、1人の老学者が6か月ネカトハンター活動をし、10件告発・2件深堀しても、上記4セクターのどこも「歓迎しないか無関心」だった。
という現実に直面した。
要するに、現在、日本のどのセクターも「研究不正を減らす本気の活動」をする気がない。
そして、5点目。
告発は無意味だった。
研究不正疑惑を指摘しても、①調査しない(エム・サントシ事件)、②対処しない(学術誌「Internal Medicine」編集室)。③対処・処罰の効力がない(福岡歯科大学事件)、という現実に直面した。
カッコ内は代表例で、他も似た傾向である。
つまり、告発しても、調査・対処・処罰が部分的にしか有効ではなく、日本の研究公正は大きく改善される方向ではない。告発はモグラたたきのような耐久戦となり、システムを変えなければ、モグラは一定の割合で頭を出す。白楽1人で多数の大学・研究所とやり合い続けるのは無理がある。
さらに、6点目。
日本の研究不正の統括組織がない。だから、研究不正行為もだが、告発件数も年間何件あるのかを誰も知らない。当然、研究不正行為数と告発数は増えているのか減っているかわからない。白楽の告発活動が研究不正行為の減少につながるかどうかを測定できない。
それだけでなく、告発し、大学が調査し、不正な論文の撤回を決めたとしても、その論文が撤回されたかどうかを確認する組織もない、大学の調査が妥当だったかを検証する組織もない。
学術誌「Internal Medicine」に盗用と告発しても、不正な盗用論文を撤回しないで、盗用のタイプを変えた盗用論文に差し替えて掲載した。それを抗議しても、学術誌は無視している。
だから、告発しただけで終わらない。その後のフォローも必要になる。
つまり、調査・対処・処罰の終了後、それらの妥当性を検証し、問題点を抽出する。問題点が見つかれば、問題点を指摘しなければならないが、指摘しても是正されなかった。
告発しても、調査・対処・処罰が無効かもしれない現実を知り、「告発、やってられない」と思った次第だ。
★文部科学省が諸悪の根源
研究不正の日本での調査・対処・処罰では、「文部科学省が諸悪の根源」である。
「諸悪の根源」と書いたが、実は、「諸【善】の根源」でもある。
つまり、研究不正の調査・対処・処罰の基準は学術界ではなく、文部科学省が決めている。
それで、悪い点も良い点も全部、文部科学省の所為となる。日本は、米国の規則を後からまねたので、全体的には、文部科学省の規則の方が米国より優れていると思う。
ここでは、文部科学省の「諸【善】の根源」と「諸悪の根源」の全部を掘り下げないが、両国に共通する悪い規則を1つだけ掘り下げる。
それは、「研究不正の調査・対処・処罰」を研究者が所属する大学・研究所が行なうとした規則である。
昨今のフジテレビ問題などを含め、組織の不祥事はその組織と直接関係がない第三者委員会が調査するのが真っ当な調査とされている。
ところが、研究不正の調査は、「第三者」どころか「第一者」、つまり、不正疑惑当事者である当該大学・研究所が自前で委員会を設置して調査する、と文部科学省が決めている。
「第一者」は少し言い過ぎかもしれない。外部委員を半数以上入れることになっているので「第二者」が妥当だろう。ただ、外部委員と言っても、独立組織の「日本研究不正調査委員会」が選任した委員を、外部委員として大学・研究所に派遣するわけではない。そもそも、「日本研究不正調査委員会」は存在しない。
外部委員も不正疑惑者が所属する大学・研究所が選任する。それで、普通に考えて、雇い主の大学・研究所に都合の良い人が外部委員に選ばれる。当然、大学・研究所の利益を守る方針・姿勢で審議を進め結論をだす。
あけすけに書くと、早い話、大学・研究所は、告発を封じ込め、不正を隠蔽する。仕方なく調査しても、クロをシロと曲解し、なるべく発表せず、臭いものに蓋をして、人の噂も75日とやり過ごす。研究不正事件を学内抗争の道具にも使う。
多かれ少なかれ、この状況が多くの大学・研究所で常態化している。
ここをなんとか突破しようと、白楽は、大学・研究所が行なう調査・対処・処罰での問題点をこの6か月、ブログに公開した。
★対処の問題
10件告発・2件深堀し何が問題だったか?
具体的に書こうと思うが、問題点が多すぎて、全部を書くと、かえって、問題点があいまいになる。それで、3点に絞った。
問題点を3点に絞ったと書いたが、読者に3点しかないと思われるのもナンなので、ここで、3点以外の例を、先に、1つ挙げておく。
大学・研究所に所属していない人の研究論文にネカトを見つけたら、どこに通報すればいいのか? 当人に通報すれば喧嘩になる、証拠隠滅する、脅迫してくる、無視するなどで当人に伝えないのが基本である。となると、実は、通報先はない。そして、調査する人・組織はない。この問題は3点以外の例なので、解説しないけど、このような問題は3点以外にもいくつかある。
話を先に進めよう。
【1.調査の姿勢】
告発は、個人が「あなたの大学・研究所の研究者が問題を起こしていそうですよ」と善意で伝えるのだが、伝えられた大学・研究所は、保身のための隠蔽と防御で対応する。
大学・研究所が、所属する研究者のネカトを自律的に見つけ、積極的に調査することはない。告発されたために、仕方なしに調査する。
つまり、そこには、指摘を受けて自分の大学・研究所の問題点を見直し、研究公正を高めようという前向きな姿勢はほぼない。研究不正で糾弾されないように「組織を守る」姿勢を最優先にし、対応する。
それで、騒がれないようにする、なるべく隠蔽する、となる。
今回の告発体験でも実際、告発された大学・研究所の一部は告発や調査を無視している。また、一部は、告発者に威圧的・脅迫的に対応してきた。
誠実そうに対応する大学・研究所はあるが、ネカト告発を受けて、最低限の対応で済まそうという姿勢が濃厚である。
自分の大学・研究所を守る姿勢が強いので、白楽が質問・提案しても、有益な話し合いにはならない。
こうなると、告発する意義(調査・対処・処罰での問題点の改善を促進)はほぼない。「告発、やってられません」。
【2.調査委員会の構成と役割】
大学・研究所がネカト調査委員会を設けて調査するのだが、その際の調査委員の選任が問題である。
「組織を守る」目先の姿勢が最優先なので、当然ながら、大学・研究所にとって都合の良い御用委員が選任される。この御用委員の役割は当該大学・研究所にとって都合の悪い結論にしないということだ。
しかし、調査の中身以前に、全員、研究不正問題の専門家であるべきところ、その専門家がいない委員会もある。いても、4人や6人の委員のうちの1人だけだったりする。
ハッキリ言って、研究不正調査委員会なのに、研究不正問題の専門家ではない委員が大半である。
調査の中身・結論は推して知るべしで、そのことはここでは触れない。
こうなると、告発する意義(調査・対処の問題点の改善を促進)はほぼない。「告発、やってられません」。
【3.調査の透明性・公表】
3点の問題点中で最も問題が大きいのが調査の透明性・公表である。この問題点「3」は問題点「1、2」を「裏」とした「表」の部分である。
まず、「1」で指摘したように「組織を守る」姿勢が最優先なので、隠蔽する。隠蔽すれば、不都合な真実はバレない(バレにくい)。
文部科学省のガイドラインの中にある「調査関係者以外に漏えいしないよう、関係者の秘密保持を徹底する」などという文部科学省の文言が、隠蔽姿勢を強く求めている。
しかも、下記の文部科学省のガイドラインの「(6)調査結果を公表」の①②(19ページ目)で示すように、大学・研究所は本調査でクロと認定した時のみ、調査結果を公表する義務がある。逆に言うと、本調査でクロと認定した時以外は、何も公表しなくてよい。
最初の節の「★研究不正の対処」で研究不正の対処は以下の流れだと述べた。黄色部分は告発を受けた大学・研究所が行なう対処・処罰である。
ネカト(research misconduct)発覚 → 通報(告発、allegation) → 告発対応 → 告発判断(assessment) → 予備調査(inquiry) → 本調査(investigation) → 認定(finding) → 行政措置(懲戒処分など)の裁定(adjudication) → 不服申立て(appeal)への対処
クロと認定し公表の義務があるのは、この流れを最後まで進め、クロとした時だけである。
繰り返すが、逆に言うと、本調査でクロと認定した時以外は、何も公表しなくてよい。
ネカトの通報があっても無視できる。予備調査でシロでもクロでも公表しない。本調査でシロと判定しても公表しない(上記、文部科学省の②)。など、随所で隠蔽できるし、してきている。
従って、告発しても本調査でクロに至らないケースがどのくらいあったのか、誰もわからない。
なお、文部科学省の「(6)調査結果を公表」の③で「調査結果の内容(項目等)は、調査機関の定めるところによる」としたので、公表しても、ほぼ隠蔽に近い公表をする大学もある。
極端なケースとして、日本大学の2024年3月21日の公表は、研究不正とセクハラで教員1人を停職処分にしたと一行公表しただけだった(空色下線は白楽)。なお、この事件は、白楽の10件告発・2件深堀の事件ではない。
これでは、調査でクロと発表されても、研究不正行為の内容はわからない。研究公正の何が問題でどう改善するかの参考にならない。同じ大学に所属する研究者にとっても何をどう気を付けるかの指針にもならない。告発しても意味がなく、「告発、やってられません」となる。
告発を受け、調査したなら、シロでも、論文名と疑惑者名を示し、公表しないと、論文と研究者に不正疑惑が残ったままになる。
★告発活動を休止する
というわけで、研究不正の告発活動をしばらく休止する。作戦を練り直さないと、目的が達成できない。
理由は3つある。
1.歓迎しないか無関心
この記事の「★絶望的」の節に書いたように、日本のどのセクターも研究不正問題の活動を「歓迎しないか無関心」だった。
つまり、日本のどのセクターも「研究不正を減らす活動」を本気でする気はない。
研究不正に対処しないと金銭的に損になる、メディアに叩かれる、などマイナスがないと本気にならないのかもしれない。日本学術振興会という公的組織が実名を挙げて罰しているが、強い抑止力になっていない。
日本の大学ランキングの評価項目に各大学の犯罪数というマイナスも加えてもらうのはどうだろう。犯罪の中に、刑事事件などと共にネカト事件数・ネカト論文数(アカハラ、性不正事件数)も加える。そうすれば、大学・研究所はもっと前向きになるかもしれない。
また、「告発者への報奨金制度」を導入し、研究不正を見つけ告発すると、国の損害額の10%を告発者がもらえる制度の導入もいいかもしれない。 → 7-170 学術界ぐるみの不正許容文化(根深い慣行) | 白楽の研究者倫理
つまり、本気で「研究不正を減らす活動」をする強い動機が必要なのだ。
2.告発は研究公正向上の役に立たない
上記「1」の「歓迎しないか無関心」の中でも、告発した時、大学・研究所・学術誌の対応にひどくガッカリした。
特にガッカリしたのは次の3つだ。①対処しない(エム・サントシ事件)、②対処しない(学術誌「Internal Medicine」編集室)、③対処・処罰の効力がない(福岡歯科大学事件)。
先に挙げたランドー=テイラーは、米国の大学管理者たちは研究不正者を積極的に擁護し、不正を隠蔽していると分析している。 → 7-170 学術界ぐるみの不正許容文化(根深い慣行) | 白楽の研究者倫理
日本の大学も米国と同じ(or 後ろ向き?)姿勢なので、告発しても研究公正向上の役に立たないと感じた。
3.運不運は不公平
白楽は6か月で10件告発・2件深堀したが、件数が全然足りない。
白楽のデータでは、白楽の把握する日本の研究不正行為の疑惑件数は、年間150件ぐらいある。
論文中の画像重複などは、告発すると、「間違い」だったとなるケースが多い。それを3分の1の50件とすると、白楽の把握する研究不正でクロ濃厚行為は年間100件ぐらいである。
白楽は、10件告発・2件深堀するのに6か月かかった。つまり、今のまま、作業を続けると、年間20件告発・4件深堀、計24件となり、残り76件(76%)のクロ濃厚行為を告発・深堀できない。
となると、告発・深堀された人と告発・深堀されない人の運不運が生じ、不公平である。
前に書いたように、すべての研究不正疑惑を取りこぼさないで告発することが重要なので、これは、マズイ。
しかし、白楽1人ではとてもできない。
優先順位をつけることも考えた。例えば、国立大学・教授の事件だけを告発するとかだが、適正とは思えない。
なお、脇道だが、日本には日本で起こっているネカト行為・事件の件数のすべてを把握する部署はないので、「クロ濃厚行為は年間100件ぐらい」の100件は、しっかり調べ始めると、もっと少ない、あるいは、多いかもしれない。
ーー PS ーー
外国のネカト事件を多数調べても、外国の論文を多数読んでも、研究公正を高めるのに即効的で〔定年退職〕学者ができる定番の方法はみつからない。
今回、大学・研究所・学術誌が行なう対処システムの問題点を公開し、その改善を促す活動をしたが、有効かどうかわからない。なお、この方法は、外国では行なわれていない。
研究公正を高める力があるのは、多分、メディアだと、現在は思う。メディアは、日本国民と研究者を啓蒙し、「ネカト許さない文化」を広げ、浸透させることができる。官僚・政治家を動かし、国の規則を変えさせられる。
研究不正に関心を持つ若手・中堅の誰かが、社交メディア(SNS)で発信するとか、主要新聞の記者に質の高い情報を提供し、メディア活動をしてくれないだろうか?
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
を植え付ける用語、差別語、動物虐