スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)(米)

2022年10月5日掲載 

ワンポイント:2022年8月8日(42歳?)、発覚から3年後(遅いですね)、研究公正局は、ケンタッキー大学(University of Kentucky)・助教授だったジャレットのネカトを発表した。ジャレットは 3件の研究費申請書(2件は不採択、1件は採択)、2014~2018年(34~38歳?)の5年間の4論文で、28個の画像をねつ造・改ざんしていた。2022年7月18日から4年間の締め出し処分が科された。ジャレットは研究職を廃業した。記事執筆時点では、撤回論文は3論文。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett、Stuart Gordon Jarrett、ORCID iD:、写真出典)は、英国のカーディフ大学(University of Cardiff)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・ポスドク、その後、助教授になった。専門は細胞分子生物学である。

2019年4月3日(39歳?)、外部からケンタッキー大学と研究公正局にネカトの告発があり、ケンタッキー大学はネカト調査を始めた。

2019年9月(39歳?)、ジャレットはケンタッキー大学を辞職した。

2020年4月16日(40歳?)、ケンタッキー大学・ネカト調査委員会は調査を終了し、2014~2018年(34~38歳?)の5年間のジャレットの4論文と2件の研究費申請書にデータねつ造・改ざん、1報の論文に誠実な間違いがあったとした。

2022年8月8日(42歳?)、発覚から3年後(遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ケンタッキー大学(University of Kentucky)・助教授だったジャレットのネカトを発表した。

ジャレットは 3件の研究費申請書(2件は不採択、1件は採択)、2014~2018年(34~38歳?)の5年間の4論文で、28個の画像をねつ造・改ざんしていた、と発表した。

2022年7月18日(42歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

ケンタッキー大学(University of Kentucky)。写真出典 Royalty Free Aerial stock photo of the William T Young Library at the campus of the University of Kentucky; Lexington, Kentucky

  • 国:米国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のカーディフ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。2005年に最初の第一著者論文を発表した時を25歳とした
  • 現在の年齢:44 歳?
  • 分野:細胞分子生物学
  • 不正論文発表:2014~2018年(34~38歳?)の5年間
  • 発覚年:2019年(39歳?)
  • 発覚時地位:ケンタッキー大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。学外の人
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ケンタッキー大学・調査委員会。②研究公正局
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:要旨がある → ココ
  • 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は3件の研究費申請書(2件は不採択、1件は採択)、4報の発表論文。撤回論文は3論文
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから 4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:藤田医科大学の若松一雅・名誉教授(Kazumasa Wakamatsu)、伊藤祥輔・名誉教授(Shosuke Ito)が2020年の論文で共著者になっている

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:https://archive.ph/PgYPc

  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。2005年に最初の第一著者論文を発表した時を25歳とした
  • xxxx年(xx歳):xxのxx大学で学士号を取得
  • xxxx年(xx歳):英国のカーディフ大学(University of Cardiff)で研究博士号(PhD)を取得。ボスはMike Boulton:分子生物学
  • xxxx年(xx歳):米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・ポスドク。ボスはDavid Kaetzel
  • 2012年(32歳?):米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・助教授。ボスはジョン・ドラジオ(John D’Orazio)
  • 2014~2018年(34~38歳?):出版した4論文が後に問題視される
  • 2019年4月3日(39歳?):外部からケンタッキー大学と研究公正局にネカト告発
  • 2019年9月(39歳?):ケンタッキー大学・辞職
  • 2020年4月16日(40歳?):ケンタッキー大学・ネカト調査委員会は調査を終了し、結果を大学上層部に伝えた
  • 2020年8月26日(40歳?):ケンタッキー大学はネカト調査の結果、ジャレットをクロと認定した
  • 2022年8月2日(42歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ネカト

スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)は英国のカーディフ大学(University of Cardiff)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・ポスドク、その後、2012年(32歳?)に助教授になった。ボスはジョン・ドラジオ(John D’Orazio、写真出典)だった。

2019年4月3日(39歳?)、外部からケンタッキー大学及び研究公正局にネカト告発があり、ケンタッキー大学はネカト調査を始めた。

2019年9月(39歳?)、ジャレットはケンタッキー大学を辞職した。その後は、行方不明。

2020年4月16日(40歳?)、ケンタッキー大学・ネカト調査委員会は調査を終了し、結果を大学上層部に伝えた

2020年8月26日付け調査要旨によると、ケンタッキー大学はジャレットの4報の論文と2件の研究費申請書にデータねつ造・改ざんがあり、1報の論文に誠実な間違いがあったとした。

ボスのジョン・ドラジオ(John D’Orazio)はネカト者ではないとされたが、部下の監督不十分との理由で、降格処分が科された。結果として、年収40万ドル(約4千万円)が半額の20万ドル(約2千万円)になったらしい。

ネカト4報は、2014~2018年(34~38歳?)に出版した論文である。

以下はケンタッキー大学の2020年8月26日付け調査要旨の1ページ目を「 DeepL機械翻訳」で日本語訳し、「Readable」で元のPDF形式に整えた。英語の元文書の全文(3ページ)は → ココ

Executive Summary_Markey 08282020-1-1

 

★研究公正局

2022年8月8日(44歳?)、発覚から3年後(遅いですね)、研究公正局はジャレットが3件の研究費申請書(2件は不採択、1件は採択)、4報の発表論文で、28個の画像をねつ造・改ざんしていた、と発表した。

2022年7月18日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

3件の研究費申請書(2件は不採択、1件は採択)は以下の通り。研究公正局の発表のコピペ。

  • R01 CA131075-06, “Defining the contribution of ATR to MC1R-enhanced DNA repair in melanocytes,” submitted to NCI, NIH, on July 1, 2014 (not funded).
  • R01 CA131075-06A1, “Defining the contribution of ATR to MC1R-enhanced DNA repair in melanocytes,” submitted to NCI, NIH, on March 2, 2015, Funded Project Dates: July 1, 2010-March 31, 2022.
  • R01 CA207312-01, “Defining mechanisms of MC1R-enhanced nucleotide excision repair in melanocytes,” submitted to NCI, NIH, on October 1, 2015 (not funded).

4報の発表論文は以下の通り。2014~2018年(34~38歳?)の5年間の4論文である。研究公正局の発表のコピペ。

  1. PKA-mediated phosphorylation of ATR promotes recruitment of XPA to UV-induced DNA damage. Mol. Cell 2014 Jun 19;54(6):999-1011; doi: 10.1016/j.molcel.2014.05.030 (hereafter referred to as “Mol. Cell 2014”).
  2. AKAP12 mediates PKA-induced phosphorylation of ATR to enhance nucleotide excision repair. Nucleic Acids Res. 2016 Dec 15;44(22):10711-26; doi: 10.1093/nar/gkw871 (hereafter referred to as “Nucleic Acids Res. 2016”). Retraction in: Nucleic Acids Res. 2020 Nov 18; 48(20):11814; doi: 10.1093/nar/gkaa984.
  3. Sirtuin 1-mediated deacetylation of XPA DNA repair protein enhances its interaction with ATR protein and promotes cAMP-induced DNA repair of UV damage. J. Biol. Chem. 2018 Dec 7; 293(49): 19025-37; doi: 10.1074/jbc.RA118.003940 (hereafter referred to as “JBC 2018”). Retraction in: J. Biol. Chem. 2021 Jan-Jun;296:100185; doi: 10.1016/j.jbc.2020.100185.
  4. The melanocortin signaling cAMP axis accelerates repair and reduces mutagenesis of platinum-induced DNA damage. Sci. Rep. 2017 Sep 15;7(1):11708; doi: 10.1038/s41598-017-12056-5 (hereafter referred to as “Sci. Rep. 2017”). Retraction in: Sci. Rep. 2021 Jan 7;11(1):847; doi: 10.1038/s41598-020-80467-y.

【ねつ造・改ざんの具体例】

2022年8月8日(37歳?)の研究公正局の発表でネカト部分を指摘している。

しかし、言葉で説明されてもわかりにくい。仕方がないので、研究公正局のネカト論文リストの最初の論文を選んで研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう。

★「2014年6月のMol Cell.」論文

研究公正局のネカト論文リストの最初である。

「2014年6月のMol Cell.」論文の書誌情報を以下に示す。2022年10月4日現在、撤回されていない。

研究公正局の指摘箇所は以下のように画像の再使用(データねつ造)である。画像の出典は原著論文。

――――図7Dと7E

図7DのUV非処理細胞と図7Eの UV処理細胞で異なる実験なのに、下段の「Input」画像は同じ画像を使っていた。

――――図S3C

図S3Cの「6-4」で異なる実験なのに、同じ画像を使っていた。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年10月4日現在、パブメド(PubMed)で、スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)の論文を「Stuart Jarrett [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2005~2021年の17年間の37論文がヒットした。

2022年10月4日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年10月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでスチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)を「Stuart G Jarrett」で検索すると、1論文が訂正、1論文が懸念表明、3論文が撤回されていた。なお、懸念表明の1論文は後に撤回され、撤回3論文に含まれている。

★パブピア(PubPeer)

2022年10月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)の論文のコメントを「Stuart Jarrett」で検索すると、5論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ありふれたネカト事件 

スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)は、英国のカーディフ大学(University of Cardiff)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・助教授になった。

ケンタッキー大学・助教授の 2014~2018年(34~38歳?)の5年間に論文や研究費申請書でデータ画像をねつ造・改ざんした。

ジャレット事件は、ありふれたネカト事件である。

白楽は、今まで、約千件(多分)もネカト事件を解説している。かれこれ20数年、ネカト事件を調べているが、白楽ブログで解説する数倍の頻度で世界のあちこちで現在も研究者はネカト行為を働いている。

感想としては、研究者は、悪いと知りつつも、あとからあとから、どうして、ネカト行為をするのだろう、である。

答えは、得だからなのだが、現在のネカト防止策が役に立っていない、ということだ。

根本的な改革が必要だが・・・。

世界も日本も、ネカト事件から学んだ教訓を生かしてこない。防止策を考えても、実行してこない。

この歴史的事実から、白楽は何を学ぶべきか? ですね。

スチュアート・ジャレット(Stuart Jarrett)。https://retractionwatch.com/2022/08/08/a-significant-departure-former-kentucky-researcher-faked-28-figures-in-grant-applications-and-papers-say-feds/
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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2022年8月8日:Case Summary: Jarrett, Stuart G. | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年8月11日の連邦官報:FRN 2022-17264 Jarrett.pdf 。(3)2022年8月11日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年8月15日:NOT-OD-22-199: Findings of Research Misconduct
② 2020年8月28日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:University of Kentucky demotes cancer researcher following finding of misconduct by scientist in his lab – Retraction Watch
③ 2020年8月28日のサラ・ラッド(Sarah Ladd)記者の「Louisville Courier Journal 」記事:University of Kentucky says cancer researcher engaged in misconduct
④ 2022年8月8日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘A significant departure’: Former Kentucky researcher faked 28 figures in grant applications and papers, say Feds – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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