7-14.博士論文の代行します53~630万円

2018年4月19日掲載。

白楽の意図:日本では論文代行を問題視しないが、論文代行はどう見ても盗用である。100歩譲っても著者在順である。博士論文を依頼すると53~630万円で仕上げてくれるそうだ。論文代行は高等教育を破壊するので、英国では大学教員が非難している。では、論文代行業の実態はどうなっているのか? 日本の大学教員はなぜ放置しているのか? 文部科学省はなぜ、禁止し、取り締まらないのか?

2018年4月18日午後、私事ですが、健康を害して体温が40.3度です。ここ2年程、数回40度の発熱です。このネカトブログ、いつまで続けられるか、わかりません。

【追記】
・2019年3月31日記事:UK students paying more than £6,000 to firms to write their PhD dissertations | World – Geo.tv

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

論文代行(contract cheating)をする学術論文請負サイト(Academic Custom Writing websites)の存在と活動に対する認識が高まっている。しかし、彼らの仕事の仕組みはあまり理解されていない。ファイアウォールやパスワードで保護さてていて、実態を知るのことができないと考えられ、いままでほとんど分析されていなかった。私たちは、サイトの「亀裂」を見つけ、ビジネス・プロセスをつかみ、ビジネス・モデルを特定した。 私たちの分析は、論文代行業を阻止するための将来の戦略に役立つだろう。

http://www.topgradepapers.com/

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:The infernal business of contract cheating: understanding the business processes and models of academic custom writing sites
    日本語訳:論文代行の厳しいビジネス:学術論文請負サイトのビジネス・プロセスとビジネス・モデルを理解する
  • 著者:Cath Ellis, Ian Michael Zucker and David Randall
  • 掲載誌・巻・ページ:International Journal for Educational Integrity, 14:1
  • 発行年月日:2018年1月11日
  • DOI:10.1007/s40979-017-0024-3
  • ウェブ:https://doi.org/10.1007/s40979-017-0024-3
  • PDF:https://edintegrity.springeropen.com/track/pdf/10.1007/s40979-017-0024-3

★著者

キャス・エリス(Cath Ellis)2 APRIL 2009.

【動画】
論文の内容とは無関係。
レガント教育システムの重要性を説明している動画:「レガントの顧客の声 – キャス・エリス – ニューサウスウェールズ大学(Leganto Customer Testimonial – Cath Ellis – University of New South Wales) – YouTube」(英語)3分52秒。
ExLibrisLtdが2016/09/26 に公開

●3.【論文内容】

【1.序論】

論文代行(contract cheating)は、学生・院生が第三者に執筆を依頼し、出来上がった論文を自分が執筆した論文として教育機関に提出する行為である。他人の文章とアイデアなのに、その帰属を示さず、学生・院生自身のものとするので、代行された論文の提出は盗用の一形態である。

通常は、第三者にお金が支払うが(例:代行業者)、支払わなくても論文代行である。支払わない場合(例:友人)、通常、何らかの見返り義務が生じている(Lancaster and Clarke 2014a)。

論文代行は最近の現象であると一般的に受け止められているが、カンニングと同じように、最も古い学業不正の1つである。

最近の変化は、コンピュータの新しい技術の発展に伴い、学術論文請負業者が論文を受注して有料で製作する方法が主流になっているということだ。

驚くべきことではないが、大学の教育担当副学長と教育担当スタッフは論文代行を十分に理解していない。代行された論文

論文代行はその性質上、秘密とダマシが真髄なので、実態がなかなかわからないようになっている。大学の認識が低いことに加え、代行された論文を効率的に見破るツールがまだ開発されていない。

ほとんどの大学は、学生・院生の論文代行を調査し、見つければ、処分を科している。メディアは発覚した論文代行を不正事件として報道することもある(Jacks 2016)。

検出できた論文代行の数は、大学に提出される代行論文のほんの少しではないかという懸念が高等教育界で高まっている。つまり、現時点では、代行論文はほとんど発覚しないので、学生・院生が処分される可能性はとても低い(Rigby et al。2015)。

学生・院生が論文代行を依頼する時、リスク、処罰、報酬を天秤にかける。個人が直面する倫理(ethics)、規範(norms)、リスクの選択もする。そして、学生・院生は業者に論文代行を依頼する。

発覚のリスクが低いことは、依頼する学生・院生にとってかなり重要である。それだから、高等教育界は発覚率を高めようという努力をしれている。

ただ、マクドナルドとキャロル(Macdonald and Carrol)は、代行論文を検出することに焦点を絞って対策を立てることは、学術的不正行為の適切な解決策にならないと指摘している(Macdonald and Carroll 2006)。

しかし、代行論文を検出できれば、論文代行の抑止に大きく威力を発揮し、学生・院生の学術公正(academic integrity)を維持するのに貢献できる。

この論文は、代行論文の検出を向上させるために、論文代行業の実態を理解することが重要であるという前提に立って、研究を行なった。

論文代行にはいくつかの種類がある。 2009年のマフムード(Mahmood)の論文では5種類に分けている(Mahmood 2009)。論文代行してくれる人・サイトは、①友人、②家族、③ディスカッションサイト、④チュートリアルサイト、⑤オークションサイト、の5種類である。

ニュートンとラングは、①学術論文請負業者、②オンライン労働市場、③エッセイ銀行、④ファイル共有サイト、⑤有料の試験受験請負(paid exam takers)、の5種類に分けている(Newton and Lang 2015)。

cheating-story1カネで論文を買う。写真出典:Image Source: Katie Hall, 2016

【2.方法と学術論文請負の構造】

2015年5月、著者らは、見た目が似ている少数の学術論文請負サイトを見つけた。 これらのサイトのサイト名、ロゴ、画像、カラースキームは異なっていたが、サイトの構造は非常によく似ていた。これらのサイトに共通点があり、そのようなサイトがさらに存在する可能性が高いと、私たちは推測した。

逆ドメインネームサーバー法(rDNS:reverse Domain Name Server)を使って、既に見つかったサイトのインターネットプロトコル(IP)番号に関連付けられた他のサイトがあるかどうかを調べた。

rDNS法は、IPアドレスのドメイン名を照会する方法で、通常ブラウザ経由でウェブサイトにアクセスするが、その逆順路を探る方法である。この方法を使って、同じIP番号を使用している他のウェブサイトのURL(Universal Resource Locator)を明らかにすることができる。

この逆ドメインネームサーバー法で130個以上のサイトを見つけた。これらのサイトは、論文代行サイトとして最もよく知られたサイトだった。

これらのサイトには、ローランド(Rowland)らが指摘した典型的な学術論文請負業の特徴があった(Rowland et al。2017)。

つまり、情報提供(例えば、提供されるサービスと使用条件に関する情報)、信頼性(例えば、執筆者と完成原稿の両方の品質の保証、価格、プライバシーの保証、支払いの安全性の保証) 、接客サービス(例えば、顧客に24時間365日のライブチャットサービス、ソーシャルメディア、個人アカウントの提供)である。

多くのサイトでは、英国、米国、オーストラリアの市外局番の電話番号が提示されていた。しかし、電話は転送できるので、これらのサイトが必ずしも英国、米国、オーストラリアで運営されているとは限らない。

私たちは、これらのサイトを「クライアントサイト」と呼ぶ。これは、依頼主(クライアント)である学生・院生に代行論文を提供する受注窓口である。

逆ドメインネームサーバー法で、私たちは、「クライアントサイト」とは著しく異なるが、学術論文請負業と明確に関連した2種類のサイトを見つけた。

1つ目のサイトは、論文を執筆する人を集めるサイトで、私たちはこれらを「ライターサイト」と呼ぶ。「ライターサイト」は30サイト以上が見つかった。「ライターサイト」では、執筆者を募集する際の条件を示していて、通常、執筆可能な量、家庭で執筆可能なこと、高額な報酬(ボーナスを含む)、執筆範囲がさまざまな学術分野に及ぶことを示していた。

2つ目のサイトは、執筆者に報酬を支払うための学術論文請負業を設定するサイトで、私たちはこれらを「マスターサイト」と呼ぶ。「マスターサイト」として4つのサイトを見つけた。「マスターサイト」は、料金体系、執筆のライブ・デモンストレーション(「ライブデモ」と呼ばれる)、提供するサイトの機能一覧表を示していた。このサイトの重要な機能の1つは、学術論文請負業の管理である。

私たちの調査では、学術論文請負業の基本構造は以下のようだ。

つまり、多くの場合、複数の「クライアントサイト」が1つの「ライターサイト」とつながっている。ペイパル(Paypal)情報(銀行口座情報)、電話番号、IPアドレス、ISP名(Internet Service Provider:インターネットサービスプロバイダ)が同じ複数の「クライアントサイト」が見つかった。これら複数の「クライアントサイト」は単一の経営者(組織)に管理されている。 これらのサイトのドメイン名はすべて同じで、同一のIPアドレスを共有していた。

1つのライターサイトが複数のクライアントサイトを所有または管理している。

1つのクライアントサイトは1つの店の「ウィンドウ」である。従って、ライターサイトにリンクしているクライアントサイトが多ければ多いほど、市場への露出が多くなる。

1つのサイト所有者は、異なる分野(例えば、看護学の学生・院生に魅力的なサイトと工学系の学生・院生に魅力的なサイト)や、地理的な場所(例えば、英国人の学生・院生を対象としたサイトとオーストラリア人の学生・院生を対象としたサイト)などの異なる市場に対応することができる。

依頼者(学生・院生)はクライアントサイトの画面で発注し、受注担当者と通信する。

ライターサイトは、フリーランスの執筆者に依頼論文の執筆を割り当てたり、論文執筆を請け負う受注を入札したり、執筆が終わった論文の改訂と完成のためのインターフェースを提供している。

【3.学術論文請負のプロセス】

省略。

【4.入札とライターのステータス】

省略。

【5.品質保証】

執筆者が作業を完了すると、原稿をサイトにアップロードする。ここで、管理者は原稿段階を「編集中(editing)」に変更し、品質管理プロセスに入る。

原稿に修正が必要と思う場合は、執筆者に修正が必要だと伝え、返送し、原稿段階を「改訂中(revision)」に変更する。

執筆者が時間内に仕上げられなかった場合や品質が水準に達していない場合、管理者は他の執筆者へ再割り当てする。この時、原稿段階を「未確認(unconfirmed)」に戻す。

執筆された原稿の品質を承認した時は、原稿段階を「完成(completed)」に変更する。

この時点で、論文を注文した依頼主が原稿を受け取ることができる。提供された原稿の品質に依頼主が満足した場合、依頼は完了し、原稿段階を「承認済み(approved)」とする。

依頼主が原稿の品質に不満な場合、執筆者に原稿の改善を求め、原稿段階を「改訂中(revision)」に戻す。

原稿を改善したのに依頼主が不満な場合、原稿段階を「紛争(dispute)」に変える。

このように、品質保証プロセスは洗練され確立している。管理者は、品質保証および紛争解決メカニズムに十分な注意を払っている。

【6.議論】

省略。

●4.【関連情報】

① ウィキペディア英語版:Contract cheating – Wikipedia
② 2018年4月2日の「マシューローラー(Matthew Roller)」記者の「Cherwell」記事: Record number of Oxford students found guilty of plagiarism | Cherwell

以下のグラフに示すようにオックスフォード大学の学生の盗用が年々増加していて、2017-18年度は53人が発覚した。全員かどうか不明だが、退学処分だそうだ。

③ 2018年2月22日の「撤回監視」記事: Psst…Need a PhD thesis? That’ll be $63,000 at Retraction Watch

キャス・エリス(Cath Ellis)https://retractionwatch.com/2018/02/22/psst-need-a-phd-thesis-thatll-be-63000/#more-61770

撤回監視のアリソン・マクック(Alison McCook)が論文の第一著者であるキャス・エリス(Cath Ellis)にインタビューした。

撤回監視:博士論文を代行するサイトはいくつありますか? 代行された博士論文が学術誌に学術論文として発表される可能性はありますか? あるいは、確立された研究者が学術誌に出版する論文を依頼できるサービスはありますか?

キャス・エリス:すべての論文代行サイトは博士論文の代行も請け負っています。プルダウンメニューを見ると、通常、クライアントは博士論文まで任意に選択できます。サイトの注文フォームには多くの学問分野があります。特殊な論文代行サイトは標準として学術レベルの論文代行専門です。

論文代行サイトの中には博士論文や研究論文という特定のセクションを設けているサイトもあります。その場合、依頼主は博士論文や研究論文を書ける専門家を、結果的に、雇うことになると思います。学部のエッセイに比べ、実際にそういった依頼がどれくらいあるのか、また、執筆された博士論文や研究論文の内容がどれくらい正確なのかわかりません。

確立された研究者が、学術誌に出版する論文の原稿を論文代行サイトに依頼しているとは思えません。論文代行サイトは基本的には学生・院生をターゲットにしており、レベル選択は、通常、博士論文までです。この事実は、確立された研究者は学術誌に出版する論文の原稿を依頼していないことを示唆しています。とはいえ、私は確立された研究者も利用している可能性を否定しません!

撤回監視:料金の範囲は?

キャス・エリス:料金は論文のレベル(博士論文レベルが最も高価)、長さ(ページが長いほど値段が上がる)、顧客が論文を受け取るのを望む日付、つまり「緊急性」(期限が短くなるにつれて価格が高くなる)に依存しています。

いくつかのサイトでは、価格は分野によっても変わります。STEM科目(科学・技術・工学・数学)は、通常、HASS科目(人文・芸術・社会科学)よりも高価です。

成績に対して支払うプレミアムがある場合もあります(2.1とか、2.2以上とか)。

白楽注:2.1とか、2.2以上という成績は日本ではつけない。以下を参考にしてください(出典:What Exactly are university degrees (2.1, 2.2)? – The Student Room)。
First-Class Honours (First or 1st) = Grade A**・・・超秀(白楽が勝手に日本語化した)
Upper Second-Class Honours (2:1) = Grade A*・・・秀
Lower Second-Class Honours (2:2) = Grade A・・・優
Third-Class Honours (Third or 3rd) = Grade B・・・良
Ordinary degree (Pass) = Grade C・・・・・・・・可

代行論文の価格は非常に幅があります。他の業界と同じで、論文代行業者の中には品質で勝負する代行業者がある一方、価格で勝負する代行業者もあります。

価格の具体例として、工学分野の博士論文を1か月間で仕上げる価格は約633万円 [AUD80,000、$ 63,300 USD]です。別のサイトでは、同じ注文で約53万円(AUD6700、$ 5300 USD)しかかかりません。

多くのサイトでは、論文原稿の個々の章を依頼することもできますし、論文原稿の校閲や編集を依頼することもできます。

撤回監視:最も心配していることは何ですか?

キャス・エリス:論文代行業者に依頼して修士号や博士号を取得するのは、学位が示す研究能力の証明にならないことが基本的な問題です。

また、研究公正の観点で私が心配しているのは、学位取得候補者が研究成果を渡して論文代行業者に博士論文の執筆を依頼することです。 この場合、学位取得候補者は、論文代行業者に研究データを送信します。誰がその研究データを見るのか、どこに保存されているのか、それが匿名化されているかどうか、は誰にもわかりません。 このことで、研究チーム全体が不適切なデータ保存と不適切なセキュリティ管理の疑いをかけられる可能性があります。その研究データの共著者は、危険にさらされる可能性があります。

また、送信した研究データ以上に優れた博士論文を学位取得候補者が要求することも心配しています。 つまり、その場合、執筆者はデータを加工(ねつ造・改ざん)して見栄えを良くする可能性が高いということです。

上記と同じですが、この要求で、その研究データに基づく共著者は、危険にさらされる可能性があります。

●5.【白楽の感想】

《1》犯罪として取り締る

日本では、大学教員はなぜ論文代行を放置しているのか? 文部科学省はなぜ、禁止し、取り締まらないのか?

ニュージーランドでは犯罪である。2013年に警察の捜査が入り、2014年に裁判所が有罪とした。
→ Commissioner of Police v Li [2014] NZHC 479 (14 March 2014)

英国でも、2017年、犯罪とする方向である。英国で2万人の学生・院生が論文代行業を利用している。博士論文は6,750ポンド(約95万円)で作ってくれるそうだ。
→ 2017年2月21日のハリー・ヨーク(Harry Yorke)記者の「Telegraph」記事:University students could be fined or handed criminal records for plagiarised essays, new proposals suggest

英国の大学教員は、2017年、論文代行サイトを妨害するとある。
→ 2017年10月9日のサラ・マーシュ(Sarah Marsh)記者の「Guardian」記事:Universities urged to block essay-mill sites in plagiarism crackdown | Education | The Guardian

英国では論文代行業は、年商1億ポンド(約140億円)の市場で成長産業だそうだ。
→ 2017年10月12日のガイ・ケリー(Guy Kelly)記者の「Telegraph」記事:Inside the ‘essay mills’ offering to do students’ work for them

英国やオーストラリアなどの大学は、海外からの多数の学生・院生を受け入れている。留学した学生・院生の仕上がりの質が低下すれば、お客さん(留学生)は別の国に行ってしまう。だから、卒業生の質の確保はかなり重要である。

では、実際、英国やオーストラリアの留学生数はどれほどだろうか?

調べてみよう。

英国では44万人の留学生がいる。生活費と授業料と友人・家族の訪問で、1人の留学生あたり年間500万円を使用するとすれば、毎年2兆2千億円のお金が英国に落ちる。巨大ビジネスである。
→ 2018年3月22日の英国留学生会議(UKCISA: The UK Council for International Student Affairs)の報告:UKCISA – international student advice and guidance – International student statistics: UK higher education

オーストラリアでも英国とほとんど同じ42万人の留学生がいる。同じように試算すれば、毎年2兆1千億円のお金がオーストラリアに落ちる。巨大ビジネスである。
→ 2018年1月のオーストラリア教育省の報告:https://internationaleducation.gov.au/research/International-Student-Data/Documents/MONTHLY%20SUMMARIES/2018/Jan%202018%20MonthlyInfographic.pdf

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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