7-37.捕食学術誌のICMJE推薦学術誌リストへの浸食

2019年4月27日掲載

白楽の意図:捕食論文は定評ある学協会の推薦学術誌リストにどれだけ浸食しているのだろうか? 捕食論文を採録していないことになっているスコーパス(Scopus)への浸食を以前紹介した(7-31.スコーパス(Scopus)中の捕食論文)。今回は、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)の推薦学術誌リストへの浸食度を調べたラファエル・ダルレ(Rafael Dal-Ré)の「2019年3月のNetherlands Journal of Medicine」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
7.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Article: Potential predatory journals are colonizing the ICMJE recommendations list of followers
    日本語訳:潜在的な捕食学術誌が国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)推薦学術誌のリストに入っている
  • 著者:Rafael Dal-Ré and Ana Marušić
  • 掲載誌・巻・ページ: The Netherlands Journal of Medicine 77(2), 92-96
  • 発行年月日:2019年3月
  • 引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:http://www.njmonline.nl/article_ft.php?a=2093&d=1370&i=223
  • PDF:http://www.njmonline.nl/getpdf.php?id=2093

★著者

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  • 最後著者:アナ・マルシッチ(Ana Marušić)
    https://twitter.com/ana_marusic
  • 写真:https://www.glas-koncila.hr/prof-dr-ana-marusic-o-odnosu-etike-i-znanosti/
  • 履歴:http://neuron.mefst.hr/docs/znanost/IBZ/Marusic_CV_March2013.pdf
  • 国:クロアチア
  • 生年月日:1962年6月16日。ボスニア・ヘルツェゴビナ モスタール。現在の年齢:59 歳?
  • 学歴:クロアチアのザグレブ大学医科大学院(Zagreb University School of Medicine)、1985年医師免許(MD)取得、1989年研究博士号(PhD)取得
  • 分野:解剖学。学術誌編集
  • 論文出版時の地位・所属:①スプリット大学医科大学院・解剖学教授:Professor of Anatomy and Chair of the Department of Research in Biomedicine and Health at the University of Split School of Medicine, Split, Croatia。
    ②Journal of Global Healthの共同編集長。ヨーロッパの科学編集者協会の会長。世界医学雑誌編集者協会の研究委員会の委員長。コクラン科学委員会の共同議長:Co-editor in Chief of the Journal of Global Health 。President of the European Association of Science Editors. She chairs the Research Committee of the World Association of Medical Editors. Prof. Marušić is also the Co-Chair of the Cochrane Scientific Committee.

マドリード自治大学(Universidad Autónoma de Madrid)。写真出典

●3.【日本語の予備解説】

★アナ・マルシッチ(Ana Marušić)

最後著者のアナ・マルシッチ(Ana Marušić)が欧州の田舎・クロアチアの一介の大学教授と思いきや、Journal of Global Healthの共同編集長、ヨーロッパの科学編集者協会の会長、世界医学雑誌編集者協会の研究委員会の委員長、コクラン科学委員会の共同議長である。学術誌の編集では世界の要職に就いている重要人物である。

★ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)リスト

国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)の基準(2017年改訂版)日本語訳は以下のサイトにある。
→ https://www.honyakucenter.jp/usefulinfo/uniform_requirements2018.html

その、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)の基準に従う学術誌のリストは、以下に最初の6誌を示すが、2018年2月時点で約3,100~3,200の生物医学誌またはヘルスケア学術誌がリストされていた。
→ ICMJE | Journals stating that they follow the ICMJE Recommendations

AACN ADVANCED CRITICAL CARE (list date 8/23/17)
AAS OPEN RESEARCH (list date 3/18/19)
ABCS HEALTH SCIENCES (list date 12/1/15)
ABDOMEN (list date 10/28/15)
ACADEMIA ANATOMICA INTERNATIONAL (list date 2/18/16)
ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE (list date 3/20/14)
以下略

なお、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)は、「このリストは完全ではないし、正確かどうかを検証していない。勧告と方針に従わない学術誌を掲載している可能性がある」と、但し書きしている。

●4.【論文内容】

《1》序論

「predatory journals(捕食学術誌)」という用語は2008年にジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)によって造られた。ビールは同時に捕食学術誌と捕食出版社のリストも作成した。

学術界が合意した「捕食学術誌」の定義はないが、編集の透明性がない出版社が、査読がない(またはほぼない)質の悪い論文を出版するオープンアクセス学術誌と理解されている。彼らの主な目的は著者から論文掲載料を得るという経済的利益だ。

捕食学術誌は約8,000誌もあり、発表された論文の総数は、2010年に53,000報だったのが、2014年には40万報までに増加した。論文数の増加に伴い、捕食学術誌問題に対する関心が高まり、2012年から2017年にかけて、捕食学術誌を問題視した論文は5報から140報に増え、合計324報も報告されている。

ほとんどの捕食学術誌は発展途上国、特にインドとトルコで出版されているが、捕食学術誌の利用は世界中に広がっている。国連に属する193か国のうち146か国の研究者が捕食学術誌に論文を掲載している。このことは2020年にプランSを実施するヨーロッパにおいて特に重要である。というのは、プランSはオープンアクセス論文の割合を増加させるからだ。研究者は真正学術誌と捕食学術誌を区別する方法を知っていなければならない。

出版規範委員会(COPE:Committee of Publication Ethics)、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE:International Committee of Medical Journal Editors、この記事では日本語訳が長いので「ICMJE」を使う)、世界医学雑誌編集者協会(WAME:World Association of Medical Editors)のような学術出版の規範と質を扱う組織はあるが、捕食学術誌は学術誌の世界に深刻な問題をもたらしている。

研究者の信用と高い評価を得ようと、多くの捕食学術誌はICMJEのような信用度の高い組織の会員誌(または追随誌)だと主張している。ICMJEは、捕食学術誌が「真正学術誌のお墨付き」を得るためにICMJE推薦学術誌(ICMJE Recommendations:ICJME-R)にリストされることを画策している。そして、リストされると、リストされたことを悪用する。ICMJEが懸念を表明するのはこのような行為を防ぐためである。

本研究の目的は、ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)に捕食学術誌がリストされていることの認識とその実情を分析することである。

《2》方法

2018年2月時点でICMJE推薦学術誌(ICJME-R)にリストされている約3,100~3,200の生物医学誌またはヘルスケア学術誌から、ランダムに350誌を選んだ。これらの学術誌がICMJEの6指針/要件を順守しているかどうかは、学術誌の英語ウェブサイトからデータを収集し、判定した。また、ICMJE推薦学術誌にリストされた年、対象分野、出版社、国、論文掲載料のデータも収集した。

ICMJEの3指針は、著者在順、著者の利益相反、盗用に違反していないことである。また、ICMJEの3要件は、被験者へのインフォームド・コンセント、研究倫理委員会の承認、臨床試験登録がされていることである。

捕食学術誌を避ける方法を示した定評のあるサイト「Think Check Submit」の基準に従い、捕食学術誌かどうかを判定した。

捕食学術誌は、出版規範委員会(COPE)、オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals:DOAJ)、オープンアクセス学術出版社協会(Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA))、アフリカ・オンライン学術誌((AJOL:African Journals Online)、科学出版物入手国際ネットワーク(INASP:International Network for the Availability of Scientific Publications)などの学術出版協会のメンバーに承認されてはならない。そして、ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)のリストに入る資格もない。

私たちはこの論文で、ビールのリストにある捕食学術誌と捕食出版社(predatory publisher)がICMJE推薦学術誌(ICJME-R)にどれだけリストされているかを調査した。

《3》結果

ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)はICMJEの基準に準拠しているとされている。そのICMJE推薦学術誌(ICJME-R)からランダムに選んだ350誌を調べた結果、31%(108/350)の学術誌が捕食学術誌の特徴を持っていた(これらを捕食「的」学術誌と呼ぶ)。

表1は、それらのほとんどが過去4年間(2014‐2017年)にICMJE推薦学術誌(ICJME-R)リストに加えられたことを示していた(94%; 102/108)。その4年間(2014‐2017年)で、新たにリストに加えられた捕食「的」学術誌の数は年15誌(2014)から年33誌(2017)へと120%も増加した。半分(54/108)が米国の出版社の学術誌で、62%(67/108)が医学の分野だった。

6指針/要件の内の5つの遵守はとても低く、51%(盗用)から7%(臨床試験登録登録)の範囲で、しか遵守されていなかった。唯一共通して多く(72%)の捕食「的」学術誌が遵守していた指針は「著者の利益相反」だった。3誌のみが、6指針/要件を遵守していると述べていた。論文掲載料に関する情報は、82誌(76%)で表示されていたが、24誌(22%)では見つけられなかった。2誌は論文掲載料がないと述べていた。

表2に、アメリカとインドの捕食「的」学術誌の比較を示す。著者在順の指針は、アメリカの出版社よりもインドの出版社の学術誌のほうがはるかに多く記載していた(53%対30%; p = 0.047)。他の5つの指針/要件に違いはなかった。捕食「的」学術誌の80パーセント(86/108)は、更新されたビールの捕食学術誌リストに含まれていた。

《4》考察

私たちの研究は、多くの捕食「的」学術誌が実際にICMJE推薦学術誌(ICJME-R)のリストに入っているという証拠を示している。そしてこれは2014年に始まった最近の現象である。ビールは2012年を捕食学術誌が急増した年だと述べているが、我々の結果は、捕食学術誌がICMJE推薦学術誌(ICJME-R)に入るための競争を始めたのはその2年後の2014年に始まったことを示している。

2018年2月時点で、ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)の31%が捕食「的」学術誌になった。

捕食学術誌も信用を得るために他のデータベースに侵出する。従って、パブメド(PubMed)にも捕食学術誌に掲載された論文が含まれている。2016年にはリハビリテーション、神経科学および神経学のパブメド(PubMed)学術誌の11~20%が捕食学術誌だったが、2017年にはこの割合は16~25%に増加した。捕食学術誌の割合はわずか1年で大幅に増加したのである。

なお、我々の研究には2つの制限があった。 1つは、「Think Check Submit」の基準で捕食「的」学術誌かどうかを判定したのだが、判定要素のうち、論文掲載料の提示や出版協会の会員など客観的かつ検証可能な基準しかチェックできなかったことだ。「同僚がその学術誌を知っているか」、「まともな編集委員会の存在」、「論文の索引付け」など、主観的で調査困難な項目は除外した。

また、22誌は論文掲載料を特定できなかった。一般的に、捕食学術誌の多くは、原稿が受理された後に、論文掲載料について知らせてくる。論文掲載料の提示の調査もこの制限の中で行なった。

2つ目の制限は、学術誌に記載されている6指針/要件の遵守正確度をチェックしなかったことだ。著者在順の指針以外は、原稿を提出しないと確認できないからだ。それで、本論文では捕食学術誌とせずに、捕食「的」学術誌、と常に「的」を入れて表現した理由である。

ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)のリストの31%が捕食「的」学術誌だという事実は、とても問題である。31%の学術誌がICMJEの基準を遵守している証拠がないのである。

捕食「的」学術誌に論文を掲載するのは勧められない。ICMJE推薦学術誌(ICJME-R)のリストに掲載している捕食「的」学術誌は、論文を投稿しようとする研究者に誤解を招く。即刻、リストから削除されるべきだ。

捕食学術誌を排除するには、専門分野内で信頼できる学術誌の「グリーンリスト」を作成することだ。例として、2018年12月現在、泌尿器科学は57誌を「泌尿器学グリーンリスト(Urology green list)」にリストしている。

●5.【関連情報】

①【捕食学術リスト】
捕食学術誌への悪ふざけリスト(1)
捕食学術の記事リスト(1)

②【動画1】
捕食学術誌とは関係ないラファエル・ダルレ(Rafael Dal-Ré)の講演。
講演動画:「会議:「ヘルシンキ宣言の起源と発展」(Conferencia: “Origen y desarrollo de la declaración de Helsinki”) – YouTube」(スペイン語)1時間1分00秒。
fundaciogrifolsが2013/11/15 に公開

【動画2】
2015年2月13・14日、トルコのトラキア大学(Trakya University)で行なわれたアナ・マルシッチ(Ana Marušić)の講演:「学術誌の認知度を高める:インパクトとプロモーション(Increasing visibility of journals: impact and promotion (Ana MARUŠIĆ) )- YouTube」(英語)1時間15分31秒。
Balkan Medical Journalが2015/03/10 に公開

●6.【白楽の感想】

《1》捕食出版社を取り締る

捕食学術誌をどう除外するか、ビールが捕食学術誌リストのサイトを閉鎖してから、それ以上のリストがいまだに出てこない。

今回、国際医学学術誌編集者委員会(ICMJE)推薦学術誌リストへの31%が捕食「的」学術誌である。

パブメド(PubMed)にも捕食学術誌に掲載された論文が1~2割含まれている。

真正学術誌とされていたスコーパス(Scopus)のリストにも捕食学術誌が入っている。 → 7-31.スコーパス(Scopus)中の捕食論文

どうすると良いのか?

泌尿器科学は57誌を「泌尿器学グリーンリスト(Urology green list)」を作製したように、各学会が、学会認定の学術誌を決め、そのリストを公表するのが良い。各学会が「○○学会グリーンリスト」を作り、論文掲載後のキューレーションも担当する。

プランSへの移行と合わせて、各学会が動くといい。

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●7.【コメント】

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