7-109 米国・科学庁(NSF)の盗用調査と盗用防止策

2022年9月12日掲載 

白楽の意図:盗用の有効な防止策とは? 米国・科学庁(NSF)が、2007~2017 年の盗用者137人を対象に調査分析した科学庁(NSF)の「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文を読んだ。また、その論文の解説をしたテレサ・デフィーノ(Theresa Defino)の「2022年6月のReport on Research Compliance」論文を読んだ。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.科学庁(NSF)の「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文
3.デフィーノの「2022年6月のReport on Research Compliance」論文
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★科学庁・監査総監室(NSF-OIG)

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)と研究公正(ORI)は米国・連邦政府機関が対応する研究公正の双璧である。

管轄分野は一部重複するが、おおむね研究公正局が生命科学を扱い、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は理工・人文社会学を扱う。

ただ、同じ政府機関とはいえ、両機関は大きく異なる。例えば、研究公正局はネカト者を実名で発表するが、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)はネカト者が特定されないように発表する。以下、以前の比較表を再掲しよう → 出典:1‐5‐4 米国・科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General) | 白楽の研究者倫理

★2020年9月29日掲載:7-61 米国・科学庁(NSF)のネカト制裁の拙劣さ | 白楽の研究者倫理

白楽の意図:米国の研究公正局(ORI)は、ネカト者の実名を公表している。しかし、科学庁・監査総監室(OIG)は秘匿している。白楽は、同じ政府機関なのにまったく異なる措置が許されることを長年疑問に思っている。そのことを解説していると思ってテレサ・デフィーノ(Theresa Defino)の「2020年8月のReport on Research Compliance」論文を読んだので、紹介する。科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General)は、半年ごとにその活動を議会に報告している(半期報告書(SAR))。この論文は、その「半期報告書(SAR)」の中身を解析し、科学庁・監査総監室(OIG)の活動の様子と問題点を指摘していた。ただ、白楽の疑問に触れているが、答えてはいなかった。マーしょうがない。

2年前に同じテレサ・デフィーノ(Theresa Defino)の論文を解説していました。

●2.【科学庁(NSF)の「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文】

★書誌情報と著者情報

  • 論文名:Observations from NSF   Plagiarism Investigations and Strategies to Prevent Plagiarism
    日本語訳:NSF からの観察 盗用の調査と盗用を防止するための戦略
  • 公式著者:National Science Foundation Office of Inspector General
  • 実際の著者:Sacknovitz Aliza
  • 掲載誌・巻・ページ:Report Number I-18-0002-PR.
  • 発行年月日:2022年3月4日
  • 指定引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://oig.nsf.gov/reports/other/observations-nsf-plagiarism-investigations-and-strategies-prevent-plagiarism
  • PDF:https://oig.nsf.gov/sites/default/files/reports/2022-03/Strategies%20to%20Prevent%20Plagiarism_I-18-002-PR.pdf または https://bit.ly/3NuVaHl
  • 実際の著者の紹介:アリザ・サクノヴィッツ(Aliza Sacknovitz、写真出典、経歴出典)は、2001年に米国のラトガース大学(Rutgers University)で学士号(言語学)、2007年に米国のジョージタウン大学(Georgetown University)で研究博士号(PhD)(言語学博士)を取得した。2005年5月に科学庁・監査総監室(NSF-OIG)に就職し、2006年9月以降、論文出版時の地位は上級調査科学者(Senior Investigative Scientist)だった。ココに元・従業員とあるので、論文出版後退職したと思われる。 2022年9月4日、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)のサイトで検索してもヒットしない

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなく米国・連邦政府機関の調査報告書である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

ーーー論文の本文は以下から開始

★導入

科学は信頼に基づいている。科学者が研究不正でその信頼を裏切った場合、その影響は、研究者同士の信頼関係だけでなく、科学と社会全体の信頼関係が損なわれる。

連邦政府は盗用を「他の研究アイデア、研究プロセス、研究結果、文章を適切なクレジットせずに流用すること」と定義しているが、世界中の学生と教員に盗用が見つかっている。

盗用を防止する有効な盗用防止策が必要だが、未だに、有効な防止策がない。

今回、大学により良い盗用防止策を提供するために、米国・科学庁(NSF)が研究助成した事業での盗用事例を分析し、有効な盗用防止策を探る調査を行なった。

★背景

米国・科学庁(NSF)の連邦規則(45 CFR 689) は、研究不正行為(research misconduct)を、《科学庁(NSF)に申請した研究費申請書、または科学庁(NSF)が助成した研究の研究結果、の「ねつ造、改ざん、盗用」》と定義している。

盗用は故意に(intentionally, knowingly, or recklessly)「適切なクレジット」をせずに他の文章・図表を流用することだが、誠実な間違い(honest error)は盗用と見なされない。

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は、「適切なクレジット」を以下の3点で判断している。

抜粋(quotation):コピーした文章をクォーテーションマークで囲む・インテンドするなど、抜粋部分を明示しているか
引用(citation):コピーした文章・図表などの出典を文章中に表示しているか
参照(reference):引用(citation)した出典元を読者がわかるように参照文献としてリストしているか

[白楽注:日本語では「quotation」と「citation」は両方とも「引用」と訳され、日本語では区別がつかない。日本語が貧困なのだ。ここは新語が必要で、誰か作って欲しいと思ったけど、他人に頼らないで自分で作った。「quotation」を「抜粋」、「citation」は従来の「引用」にした。
また、「intentionally, knowingly, or recklessly」も「故意に」「意図的」などの意味だが3つの英単語を区別する3つの日本語がない。ここも新語が必要です。誰か作って欲しい。一応、まとめて「故意に」にしておいた]

2007~2017年に、米国・科学庁(NSF)は、170件のネカト事件を認定した。そのうち盗用は137 件 (81%)だった。今回の調査では、これら137件の盗用の調査記録を分析した。

★科学庁・監査総監室(NSF-OIG)のネカト対応プロセス

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)の告発窓口(匿名告発可)、科学庁(NSF)の研究運営官(プログラムオフィサー)、研究費審査委員、大学など、多くの情報源からネカト告発を受けている。

ネカト告発のうち盗用告発だった場合、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は、盗用ソフトウェアを使い独自に予備調査をする。その予備調査で疑惑が払拭されない場合、疑惑研究者の所属する大学に盗用調査を依頼する。

大学に盗用調査を依頼するのは、連邦規則(45 CFR 689)で次のように決まっているからである。

日本語化すると、

研究助成を受けた大学・研究機関は、ネカト行為の防止と検出、およびネカト行為疑惑の予備調査、本調査、裁定の責任を負う。科学庁(NSF)は、研究助成を受けた大学・研究機関の・・・を速やかに信頼する。

それで、大学が盗用を調査するのである。

★結果1:盗用者の身元

2007~2017年に米国・科学庁(NSF)が134件の盗用事件で盗用者と認定した137人を対象に調査分析をした。

その結果は以下のようだった。

【所属機関】

  • 137人のうち、120人(88%)の所属は大学だった。
  • 16人は中小ビジネス革新研究(Small Business Innovation Research)および中小ビジネス技術移転プログラム(Small Business Technology Transfer programs)の枠で研究費を受給した企業に所属する者だった。
  • 残りの11人は連邦機関の研究者で、別の大学・研究所に採択された研究プロジェクトの共同研究者だった。[白楽注:連邦機関の研究者は科学庁(NSF)の競争的研究費枠の研究費を申請できない]

【身分】(データは以下の図1)

  • 137人のうち、研究者は126人(92%)で、大学教員(113人)または企業研究者(13)だった。
  • 7人(5%)が学生またはポスドク、残りの4人は会社役員(3人)と大学職員(1人)だった。
  • 113人の大学教員のうち、69人(61%)は研究キャリア初期の職位で、助教授(63人)とその他(6人)だった。研究キャリア初期の職位とは博士号取得後あるいはポスドク後の最初の教員職である助教授、または、非常勤講師や研究員である。

図 1. 137人の身分(図は英語のママでスミマセン。以下の図も英語のママです)

  • 報告書には文章として書いてませんが、図1を見ると、正教授が22人(16%)もいるんですね。学長・副学長が3人(2%)もいる。正教授や学長・副学長の選出法に「問題アリ」ですね。

【教育】

  • 137人のうち、2000~2009年に59人(43%)、1990~1999年に47人(34%) が最高学位を取得した (図2)。

図3に示すように、盗用者の多くは米国以外の大学で学士号と修士号を取得していた。

  • 105人(77%)は米国以外の大学で学士号を取得していた。
  • 45人(32%)は米国以外の大学で博士号を取得していた。
  • 42人(31%)は米国以外の大学で学士号・修士号・博士号の全部を取得していた。
  • 盗用者は米国以外の36か国で高等教育を受けていた。多い国順に並べると、中国(30人)、インド(27人)、カナダ(9人)、韓国(7人)だった。[白楽注:日本は不明だが、韓国に負けてます。というか、この場合、勝っている?]

[白楽感想:盗用者の研究分野、性別の情報も欲しかったですね]

★結果2:盗用の内容

盗用は、米国・科学庁(NSF)の「①研究費申請書」と「②研究助成した研究成果を出版した論文」で発覚した。

盗用と認定されたケースは、米国・科学庁(NSF)の320件の研究費申請書に絡んでいた。

320件の研究費申請書のうち、240件(75%)は不採択、57件(18%) が採択、23件が審査なしの取り下げだった。

盗用者が137人なのに、盗用と認定された研究費申請書320件ということは、1人で何件もの研究費申請書を提出していたことになる。

  • 75人(55%)が複数の研究費申請書絡みで盗用をした。1人は11件の研究費申請書絡みで盗用をした。
  • 118人(86%) は複数の情報源から盗用した。
  • 104人 (76%) は論文または学会プロシーディングから、59人(43%)はインターネットソースから、29 人(21%)は他の研究費申請書から盗用した。
  • 98人 (72%)は、200行未満のテキストをコピーし、73 人(53%)はテキストに付随した参照文献ごとコピーした。
  • 85人(62%)は盗用を繰り返していた。うち5人は大学または科学庁・監査総監室(NSF-OIG)が調査している間に、さらに別の盗用をした。
  • 83人(61%)は、盗用と認定されると知りつつ盗用をした.
  • 50人(37%)は、盗用に加えて、データ改ざん、研究審査違反、科学庁(NSF)助成金の不適切使用、証拠ねつ造など、その他の不正行為をした。

採択した研究費申請書に盗用が見つかった場合、その盗用部分が申請研究の採否決定に非常に重要で、盗用があったことを知っていれば研究助成は採択されなかったかどうか、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は研究運営官(プログラムオフィサー)に尋ねていた。

研究運営官(プログラムオフィサー)は、採択した57件のうち 9件は、採択に重要な部分の盗用だったと述べていた。

科学庁(NSF)は、当時、これら9件の研究費申請のうち、6件の助成金を回収していた。 残りの3件は、助成金が全額使い終わっていた。また、別の主宰研究者に譲渡されていた。それで、助成金を回収できなかった。

★結果3:盗用の理由

この報告書では、137人の盗用者に盗用した理由を、複数回答可で、質問した。集計値が多い理由順に図4 に示した。

図 4:盗用の理由

上記「図 4:盗用の理由」の第1~5位を日本語にすると以下のようだ。

  1. 抜粋(quotation)、 引用(citation)、 参照(reference)が必要だとは思わなかった                          51人(37%)
  2. 適切に引用したと思っていた                                            44人 (32%)
  3.  (引用不要の学術界の)共有文章を使用したと思った    43人 (31%)
  4.  (総説や序論の)背景紹介でコピーしただけ        43 人(31%)
  5.  何も間違っていないと思った                                                   41人 (30%)

[白楽の感想―――ここから

盗用の理由を見ると、驚くことに、どれも、自分は不正をしていないと主張している。

不正を認めたかもしれないと思えるのは、第8位の「引用なしでカット/ペーストして再利用 38人 (28%)」と最後・第16位の「間違えた(mistake) 10人(7%)」だが、両方とも不正を認めたと確信できる答えではない。

つまり、明確に「悪いと知りつつ、つい出来心でしてしまいました。悪うございました」という人は1人もいない。

ただ、最初から、「つい出来心でしてしまいました。悪うございました」という回答項目がなかったのかもしれない。すべての選択肢は示されていなかった。

もう1点。

盗用した理由をいつ聞いたのだろう? 盗用調査の過程で聞いたのか、それとも、今回まとめて137人に同じ質問をしたのか?

多分、前者だと思う。この場合、盗用調査の過程で聞いても、盗用者は事実を伝えるより、自分を守るために自分は悪くないという主張をする。これは、後でも触れる。

もし後者だと、盗用してから何年も経ってから理由を聞いても、まともな答えは、得られない。

つまり、盗用者に理由を聞く場合、聞く時期や方法にかなりの注意が必要である。単純に聞いて、得られた回答を単純に集計しても役に立たない。

白楽の感想―――ここまで]

★結果4:盗用者の処分

【科学庁(NSF)の処分】

図5だけ示して説明は省略。要するに研究費申請をできない年数で処分している。その年数の長さ。

【大学の処分】

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は、今回の再調査で、大学に処分を問い合わせた。

137人の盗用者のうち114人について回答があった。

大学は、114人の盗用者のうち95人に処分を科した。盗用を見つけられなかった13人に対しても措置をした。

[白楽注:①盗用者114人のうち、盗用を見つけられなかった13人って? なんかヘンですけど。②人数が合わない。114人-95人-13人=6人なんです。6人どうしました?]

  • ほとんどの大学は、盗用者に「責任ある研究実施」(Responsible Conduct of Research (RCR))トレーニングの受講を義務付けた。
    具体的には、114人の盗用者のうち、
    60人に「責任ある研究実施」トレーニングの受講を義務付けた。
    14人は「責任ある研究実施」コースで教えるのを義務付けた。
    7人に、学生と一緒に「責任ある研究実施」(RCR)トレーニングの受講を義務付けた。
    1人に、3つすべてを行なうことを義務付けた。
    [白楽注: 114人-60人-14人-7人-1人=32人。32人はどうしました? 32人には「責任ある研究実施」トレーニングを義務付けなかったんですよね。それならそう書いて欲しい]
  • 他の措置は、研究費申請禁止処分。減給処分。解雇。昇進拒否。役職の解任。盗用者のメンター必要措置。
    さらに、19人(14%)は、所属大学を辞職した。
    [白楽注:この項目に該当する人が 32人だったんですよね。それならそう書いて欲しい]
  • 盗用が発覚した大学は、研究倫理規則の変更、研究倫理教育教本の作成や改訂、学生・教員に盗用検出ソフトウェアの使用などの改革をした。

[白楽の感想:研究費申請禁止処分。減給処分。解雇。昇進拒否。役職の解任。盗用者のメンター必要措置などにそれぞれ何人なのか、データが欲しかった。それにしても、辞職者が19人(14%)と随分少ない。生命科学系だと盗用者の多くは辞職している。科学庁(NSF)は処分が甘い印象だ]

★結果5:盗用の防止策

【大学】

研究規範の研究によると、大学の有効な盗用防止策は、盗用者を許さず、盗用者に責任を負わせる大学の研究規範文化を確立することが重要である、とのことだ。

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は次のことを推奨する。

大学は、優れた研究公正文化の構築に努め、規則に違反する院生・ポスドク・教員に責任を負わせる。

具体的には、

  • 「責任ある研究実施」(Responsible Conduct of Research (RCR)) についてすべての教員・院生・ポスドクを継続的に教育し、すべてのアカデミックコースに「責任ある研究実施」(RCR)教育を組み込む。
  •  教員と院生・ポスドクを同じ研究倫理基準で扱う。
  •  教員には院生・ポスドクの模範となることを強調し、院生・ポスドクには研究公正の重要性を強調する。
  • 盗用を他の研究不正行為であるねつ造・改ざんと同レベルで扱う。
  • 研究不正行為を告発する窓口へのアクセス法、安全かつ内密に告発できること、内部告発者は保護されること、を教員・院生・ポスドクに周知する。

【大学はネカト行為規則を制定公表する】

省略

【トレーニング】

今回分析した盗用者の大半は大学の若手の教員、最近学位を取得した人、米国以外の国で教育を受けた人だった。

盗用者の多くは、盗用を避けるためには、どのように抜粋(quotation)、 引用(citation)、 参照(reference)するのかを、理解していなかったと述べている。

それで、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は次のことを推奨する。

  • 新任のすべての教員と新入のすべての院生・ポスドクに、オリエンテーションの一環として 「責任ある研究実施」(RCR)トレーニングを義務付ける。
  • 既存の教員・院生・ポスドクでも、「責任ある研究実施」(RCR)トレーニングを一度も受講したことがない人を特定し、トレーニング必要者として登録する。
  • すべての教員・院生・ポスドクに、3年ごとに「責任ある研究実施」(RCR)の更新トレーニング受講を義務付ける。
  • 研究助成金申請の経験が浅い研究者や米国以外の国で教育を受けた研究者など、問題を起こしそうな個人を特定し、その人たちに継続的に 「責任ある研究実施」(RCR)トレーニングをする。
  •  初期、再教育、継続的の3タイプ「責任ある研究実施」(RCR)のトレーニングを次のように実施する:

o インタラクティブで、
o 少なくとも部分的には対面で、
o 盗用の複雑さを詳述し、
o 大学規則(米国の規則)に基づく適切な引用規範を守らせる。
o 定義、演習、ケーススタディを含める。
o 盗用したとして挙げられているそれぞれの理由が解消する処置をする。
o 育った国と米国の研究公正文化の違いを認識させ、受講者自身の内面に米国の研究公正文化を取り込ませる。

[白楽注:ネカト教育は中高大で始めるべきだと思う。ただ、今回は科学庁(NSF)の研究助成を受けた人だけが対象だから、はなから中高大生は除かれている]

===途中でスミマセン===

しばらく前から、バカバカしくなって、真面目に読む気がしないんです。

防止策として、「責任ある研究実施」(RCR)トレーニングを徹底するっていいですよ。費用対効果ではどうかわかりませんし、効果の大きさもわかりませんが、それなりの効果はあると思います。

ただ、「結果3:盗用の理由」のあたりから、白楽は、こりゃダメだと思い始めた。

この論文は、盗用者に盗用の理由を聞いて、その理由を解消する方向で盗用の防止策を練っているけど、このやり方はダメです。

不正を犯した時、不正者の発する言葉は、自分の罪が軽くなるように、自分には非がない方向で弁解する。

だから、不正者の発する言葉をそのまま受け取っては、盗用の本当の理由や原因を探れない。

それでここで、解説を

中止

 

●3.【デフィーノの「2022年6月のReport on Research Compliance」論文】

★書誌情報と著者情報

  • 論文名:Common, Costly, Preventable? NSF OIG Finds Pearls in Review of 10 Years of Plagiarism Cases
    日本語訳:一般的で、費用がかかり、予防可能ですか?NSFOIGは盗作事件の10年のレビューで真珠を見つけます|
  • 著者:Theresa Defino
  • 掲載誌・巻・ページ:Report on Research Compliance 19 no. 6 (June, 2022)
  • 発行年月日:2022年6月xx日
  • 指定引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://www.jdsupra.com/legalnews/common-costly-preventable-nsf-oig-finds-4442952/
  • 著者の紹介:テレサ・デフィーノ(Theresa Defino、写真出典)。学歴:米国のフロリダ大学(University of Florida)で学士号(ジャーナリズム学)1985年? 論文出版時の所属・地位:2006年12月以降、医療コンプライアンス協会の記者・編集者(Writer/Editor at Health Care Compliance Association (HCCA))

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

前章の「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文について解説した論文なので、前章の論文をかみ砕いた内容である。

前章の論文では、実際の著者がアリザ・サクノヴィッツ(Aliza Sacknovitz)だと、どこにも書いてない。

デフィーノのこの「2022年6月のReport on Research Compliance」論文にアリザ・サクノヴィッツが著者だと書いてある。

また、それだけでなく、「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文の裏話的な事が書いてある。

内容が重複するので、この論文の解説はしない。

●9.【白楽の感想】

《1》弁解をまともに受け取るな! 

「2022年3月の科学庁の盗用調査・防止策」論文では、盗用者に盗用の理由を聞いて、盗用の防止策を練っている。この方法は今回だけでなく、いろいろな組織や論文が行なっている。

で、白楽はいつも思うのだが、盗用者に盗用の理由を聞いて、盗用の防止策を練っているけど、何らかの工夫をしないと、このやり方はダメです。

不正を犯した時、不正者の発する言葉は、自分の罪が軽くなるように、自分には非がない方向で弁解する。

盗用者は、盗用だとは知らなかった。盗用について大学が教育してくれなかった。大学の規則がわかり難かった、指導教授に論文原稿を見せた時、OKと言った。だから、自分は悪くない、という。

また、他の文章をコピペしてそれを参考に文章を構築する予定だったが、うっかり、そのまま発表してしまった。参照論文を書いてあったのだけど、途中でどういうわけが消えていた。共著者と文章の改訂でやり取りしている内に引用が消えてしまった。つまり、一所懸命真面目に論文を書いたのに、結果として盗用になってしまった。自分は悪くない、という。

でも、実際は、悪いと知りつつ、意図的に盗用したと、白楽は思う。

商品を盗むとき、悪いと知りつつ、意図的に盗む。しかし、いろいろな弁解をする。

盗用者に盗用の理由を聞いても、発する言葉をそのまま受け取っては、効果的に盗用を防止できる方策を探れない。

理由を聞いてもいいけど、どうしてそれを真に受けるの? 不正をした人(他人をだます人)の話を真に受けるあなた、バカじゃない? ウウン? と白楽は思ってしまって、もう、論文をまともに読む気がしなかった。

例えば、ヒトのお金を盗んだ場合、「遊ぶ金欲しさでやりました」と盗んだ人が理由を述べたとする。この場合、防止策は、盗まないように「遊ぶ金」を与えることだろうか? 違うでしょう。

不正を犯した時、発する言葉は、自分の気持ちと罪が軽くなるように弁解する。自分は悪くないが、親が悪い、上司が悪い、環境が悪いとする。常識でしょう。

不正を犯した人の言葉をそのまま受け取るのではなく、何らかの工夫をして解釈しないと、不正を防ぐ方策は見えてこない。

《2》隗より始めよ 

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)が大学に「あーせい、こーせい」と言ってもいいけど、自分のところですべき大きなことがあるでしょう。

自分たちの施策とその効果を再考し、自分たちのネカト対策を改善すべきだ。

例えば、ネカト者の公表である。

研究公正局(ORI)はネカト者の所属と名前を発表している。その発表によるネカト防止効果はかなり高いと思う。科学庁(NSF)も同じようにネカト者の所属と名前を発表すべきだ。

所属と名前を発表しないことで、ネカト防止効果を減退させているだけではない。

所属と名前で発表していないため、盗用事件でも、どの論文が盗用かを示せない。示せば、著者の所属と名前から、記者が関係者に問い合わせることができるので、ネカト者が特定される。

問題の論文を示していないので、盗用論文は撤回されない、あるいは、撤回されたかどうか不明である。

となると、研究者は盗用論文を引用し、盗用論文と知らずに不正を広めてしまう。2次被害を広めてしまう。

科学庁・監査総監室(NSF-OIG)は自分たちの非をわかっています?

《3》理工・人文社会学にもネカト行為は多発している 

今はどうか知らないが、かつては、「ネカト行為は生命科学の分野がとても多く、他の分野では滅多に起こっていない」と日本の多くの研究者が思っていた節がある。

それで、生命科学以外の分野の研究者はネカト問題に無関心だった。白楽は、そのような話や文章を何度も耳に、目にした。

反論する機会があれば、当時、白楽は反論していたが、今回もここで反論しておく。

本論文で、2007~2017年に米国・科学庁(NSF)は170件のネカト事件を認定したと述べている。同じ期間の研究公正局のクロ件数を以前の記事から数えると120件だった。 → 以前の記事:7-94 研究公正局のネカト調査集計:2021年 | 白楽の研究者倫理

つまり、ネカト事件数は科学庁(NSF)の方が多い。研究公正局の1.4倍で、約4割ほど多かった。

ただ、研究公正局はネカト者を実名で発表するが、科学庁(NSF)はネカト者が特定されないように発表する。

それで、科学庁(NSF)がクロと判定したネカト者は、「Science」や新聞などメディアで報道されない。つまり、科学事件として目立たない。

「ネカト行為は生命科学の分野がとても多く、他の分野では滅多に起こっていない」と日本の多くの研究者が思っているようだが、上記のように、米国では、理工・人文社会学のネカト者の方が4割も多い。

日本も理工・人文社会学のネカト者の方が多いと思う。

ただ、理工・人文社会学の日本の研究者はネカトを依然として軽視している。それで、ネカト事件としてあまり表にでてこない(ココは推定。データはない)。

《4》米国の盗用者は米国人ではない

事情を知らない一般の日本人は、米国の研究者が盗用したと聞くと、金髪白人の米国人を想像すると思う。

ところが、実態は全く違う。

これも、機会があれば、白楽は指摘しているが、今回もここで指摘しておく。

図3に示すように、科学庁・監査総監室(NSF-OIG)が盗用でクロと判定した人の内、米国の大学・学部を卒業した人は20 %(27人)しかいなかった。

米国の大学・学部を卒業しても金髪白人の米国人(国籍)とは限らない。外国からの留学生もいれば、親が外国生まれの米国人(国籍)もいる。多分、金髪白人の米国人(国籍)は数%しかいない。

盗用者が高等教育を受けた国の22%(30人)は中国で、20 %(27人)はインドと、約4割強が中国・インドなのである(図3)。

米国の学術研究者に占める中国人・インド人(国籍)の割合も、多分、約4割強なのだろう。中国系米国人・インド系米国人(人種)を含めると、アジア系は軽く5割を超える(データを調べていないが、韓国などアジア、そして、中東を加えると多分8割ほど)に違いない。

かつてはナチスから逃れたユダヤ人が米国の強力な研究界を支え、構築した。

それが、ユダヤ人の代わりに、今や、中国・インド系が米国の研究界を支えている。

ところが、米国は米国で研究している中国系研究者を追い出そうとしている。中国系研究者を追い出したら、米国の研究界は衰退するだろう。

一方、中国は科学研究を強力に推進している。日本人を含め、たくさんの優秀な人材を集めている。今後、中国に強力な研究界が構築されるだろう。

日本は、どこかで米国を見限らないと、米国と共倒れしてしまう。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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