7-52 科学公正とCOVID-19

2020年4月20日掲載 

白楽の意図:論文名に「Scientific Integrity(科学公正)」と「COVID-19(新型コロナウイルス)」があったので、タイムリ―と思って読み始めた。ジェシー・グッドマン(Jesse L. Goodman)らの「2020年4月のJAMA」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Finding Effective Treatments for COVID-19: Scientific Integrity and Public Confidence in a Time of Crisis
    日本語訳:COVID-19の効果的な治療法を見つける:危機的状況における科学公正と国民の信頼
  • 著者:Jesse L. Goodman, Luciana Borio
  • 掲載誌・巻・ページ:JAMA
  • 発行年月日:2020年4月16日
  • 引用方法:Goodman JL, Borio L. Finding Effective Treatments for COVID-19: Scientific Integrity and Public Confidence in a Time of Crisis. JAMA. Published online April 16, 2020. doi:10.1001/jama.2020.6434
  • DOI:10.1001/jama.2020.6434
  • ウェブ:https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764823
  • PDF:

★著者

  • 第1著者:ジェシー・グッドマン(Jesse L. Goodman)
  • 紹介:Jesse Goodman: Georgetown University
  • 写真:Dr Jesse Goodman | GSK
  • ORCID iD:
  • 履歴:Jesse Goodman: Georgetown University
  • 国:米国
  • 現在の年齢:61 歳?
  • 学歴:米国・ニューヨーク州のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)で医師免許(M.D.)取得
  • 分野:感染症
  • 論文出版時の所属・地位:ジョージタウン大学・教授、DC退役軍人管理病院の感染症担当医師、医療製品アクセス/安全および管理(COMPASS)センター長: Director, Center on Medical Product Access, Safety and Stewardship (COMPASS) and Attending Physician, Infectious Diseases, Georgetown University and DC Veterans Administration Hospitals

ジョージタウン大学・医療製品アクセス/安全および管理(COMPASS)センター。(The Center on Medical Product Access, Safety and Stewardship)、37th and O Streets, N.W., Washington DC。グーグルマップを白楽が切り取り

●3.【日本語の予備解説】

★2020年3月25日:東亜日報:金潤鍾:「医療スタッフは交通費無料」 英雄のように迎える欧州

出典(含・写真) → ココ、(保存版) 

「彼は大学教授というより『ロックスター』のようだ」

フランスのメディア「フィガロ」は最近、フランスの感染症専門家のディディエ・ラウール教授(Didier Raoult)をこのように説明した。マルセイユにある地中海疾病研究センター(IHU)所長のラウール氏は17日、新型コロナウイルスに感染した患者30人余りにマラリアの治療薬であるクロロキンを臨床テストした結果をインターネットに公開した。1日500ミリグラムを投じたところ7割の患者でウイルスが消えた。長い髪にひげを伸ばした容貌や治療法が論議を呼び、ラウル教授は一躍話題の人になった。

★2020年3月31日:日経バイオテクONLINE:久保田文:米FDA、新型コロナに抗マラリア薬のクロロキンの緊急使用許可

出典 → ココ、(保存版) 

米食品医薬品局(FDA)は、2020年3月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者などを対象に、製薬企業から無償提供された抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキンについて緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を出した。

★2020年4月10日:日刊薬業:ヒドロキシクロロキン、新型コロナ対象に臨床試験開始 米NIH

出典 → ココ

米国立衛生研究所(NIH)は現地時間9日、米国内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の成人患者を対象に、免疫調整剤ヒドロキシクロロキン(一般名)を投与する臨床試験を開始したと発表した。盲検…

★2020年4月14日:時事ドットコム:米CIA、「抗マラリア薬」使用に警告 新型コロナ治療で

出典 → ココ

【ワシントン時事】米紙ワシントン・ポスト(電子版)は13日、米中央情報局(CIA)が新型コロナウイルス治療における抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」の使用について、突然死などの副作用をもたらす恐れがあると警告したと報じた。トランプ大統領はヒドロキシクロロキンが新型コロナ治療の「画期的な薬」になると期待を寄せていた。

★2020年4月15日:Newsweek:松岡由希子:アメリカが期待した「クロロキン」、ブラジルで被験者死亡で臨床試験中止

出典 → ココ

ブラジルの研究チームは、ブラジル北部マナウスの病院に入院中の新型コロナウイルス感染症患者81名を対象に、クロロキンの効能と安全性を評価する臨床試験を実施。

すべての被験者に抗生物質の「セフトリアキソン」と「アジスロマイシン」を投与したうえで、そのうち41名に、1回600ミリグラムのクロロキンを10日間にわたって1日2回、合わせて12グラムを投与する一方、残りの40名には、1回450ミリグラムのクロロキンを初日のみ1日2回、その後4日間、1日1回、合わせて2.7グラムを投与することにした。しかし、被験者のうち11名が死亡し、臨床試験は6日目で中止された。

●4.【論文内容】

《1》新しい治療法 

現在、誰もが、コロナウイルス(COVID-19)病の新しい治療法とワクチンを求めている。

一方、不十分な臨床試験と単なる観察知見という限られたデータしかない状況下で、多くの臨床医は、証明されていない治療法で人体実験することを強いられている。

この方法では、治療が効果的かどうかの答えを得ることはできない。毎日、患者を不当な危険にさらしている。

最近、米国・食品医薬品局(FDA)がCOVID-19患者の治療に緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)を出したクロロキン(chloroquine)とヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)は、今後、ますます使用されるだろうが、しっかりと注視する必要がある。

説得力のないデータに基づいたこれらの薬物の無制御の使用は潜在的にマイナスなだけでなく、政府の意思決定にますます圧力がかかことになる。つまり、患者の健康を損なう可能性とパンデミックに効果的に対処して欲しいという国民の信頼を損なう可能性が同時にあるからだ。

2014年、エボラウイルスは、西アフリカで蔓延し、ほとんどの感染者に致命的だと考えられた。その時、「秘密の血清」というトリプルモノクローナル抗体の組み合わせ(ZMapp)の初期標品が、2人の米国市民に投与され。2人共回復した。そのことで、この製品や他の実証されていない治療法を使用すべしという強い圧力が世界的に発生した。

その後、当時の有望な治療法でさえ、ほとんどの場合、効果がないか、または有害であることが判明した。

緊急事態であっても、医薬品が機能するかどうかを知るための最速の方法はランダム化臨床試験(RCT:randomized clinical trials)だったのだ。

供給システムが適切なら、臨床試験に登録できなかった患者には、米国・食品医薬品局(FDA)の「思いやり使用」(または「拡張アクセス」)規定によって医薬品の投与が可能である。

緊急使用許可(EUA)とは異なり、この規定では患者の同意が必要で、医薬品が実験的であり、必ずしも政府が承認しているわけではないことを医師と患者に明確に説明することになっている。

しかし、ランダム化臨床試験の実施には極端な抵抗があった。トリプルモノクローナル抗体療法と標準治療を比較する臨床試験がまさに進行中だったのに、臨床試験が最終的な結論に達する前に、エボラウイルスの流行は衰え、臨床試験を終了することになってしまった。

トリプルモノクローナル抗体療法は、別の2つの治療法よりも効果が低いことを知るのに4年もかかったのだ。さらに、他のエボラ治療法が有用か、有害かは、ランダム化臨床試験をしていないので、いまだに不明である。

この経験から学んだことは、緊急時に健全な研究を行なうべきで、ランダム化臨床試験が効果的な治療を迅速に特定し、ほとんどの人に利益をもたらす最も倫理的で信頼できるアプローチであるというコンセンサスが得られたことだった。

これに関連して、最近のクロロキン/ヒドロキシクロロキンの緊急使用許可(EUA)は、政治的圧力の中での決断で、不十分で矛盾する科学的事実の証拠があり、深刻な懸念を生じる可能性が高い。

誰もがこれらの薬に治療効果があることを望んでいる。しかし、現在の有効性データと安全性データはとても低く、問題が深刻化する懸念がある。さらに、治療薬に対する極端な期待のために致死量を摂取してしまうとか、買いだめなどで、本当に必要な患者に薬が回らないなど予期せぬ結果をもたらすかもしれない。

2001年の炭疽菌や2009年のパンデミックなインフルエンザA(H1N1)など、過去に認可された緊急使用許可(EUA)はすべて、クロロキン/ヒドロキシクロロキンと比べ、リスクよりも利益が高い実質的な証拠があった。

たとえば、子供と大人に承認され、安全で有効な医薬品のオセルタミビル(oseltamivir)は、2009年のパンデミックなインフルエンザA(H1N1)では、科学的証拠に基づいた投与ガイダンスで、乳児にも使用できるようになった。

さらに、未承認の医薬品だったペラミビル(peramivir)は、季節性インフルエンザの過去の試験で約2,000人の患者の安全性と有効性のデータがあり、静脈内治療を必要とする患者に承認された。

緊急使用許可(EUA)の固有の権限、役割、および状況を考慮して、緊急使用許可(EUA)の要求と決定をすべきである。その際に、科学的独立性と客観性が厳密に支持されないと、緊急使用許可(EUA)の決定が侵害されるか、または誤って行なわれるリスクがあるだけでなく、特に危害が発生した場合、米国・食品医薬品局(FDA)に対する国民の信頼も損なわれる可能性がある。

米国・食品医薬品局(FDA)と政府全体への信頼は、ワクチン接種を含め、パンデミックを封じ込めるために必要かつ重要である。

不当な圧力で緊急使用許可(EUA)を与えると、他の実証されていない治療法の根拠のない使用を促進する門を開き、特別な利益が米国・食品医薬品局(FDA)の決定に影響を及ぼすと思われる可能性がある。

事実、クロロキン/ヒドロキシクロロキンに緊急使用許可(EUA)を与えたわずか数日後、ファビピラビル8(favipiravir8)(米国で承認されていない日本の抗インフルエンザ薬で、動物の先天的欠損症を起こす)、胎盤由来のナチュラルキラー細胞療法(効果の証明なし)など、リスク/ベネフィット比があまり明確ではない実験的医薬品を強く擁護する動きがみられた。

このような圧力は、適切な意図のもとに行なわれたとしても、緊急使用許可(EUA)の規定や機能を危険にさらす。

緊急使用許可(EUA)は機敏な緊急対応と規制の柔軟性を可能にするが、危機の時は限られたデータに基づいて意思決定を行う必要がある。その場合、米国・食品医薬品局(FDA)は、信頼でき、独立し、事実を科学的に審査する機関として、米国民を守るのに重要な役割を果たすことを保証しなければならない。

《2》どうすべきか? 

非常に危機に瀕している場合、何をどうすべきか?

第1:効果的な治療法

規制機関と研究界は、患者、家族、臨床医のために、どの治療法が効果的なのか迅速に学ばなければならない。

NIH、世界保健機関(WHO)、フランス国立保健医学研究所(INSERM)などが率いるランダム化臨床試験は、ヒドロキシクロロキンを含む多くの治験薬を評価中である。患者登録は急速に進んでいる。薬物の効果が高ければ高いほど、結果はすぐに明らかになる。

しかし、中国はまだ明確な結果を発表していない。最近のレビューでは、中国の科学者はクロロキンまたはヒドロキシクロロキンの10件の研究を含め、少なくとも87件の医薬品研究をしたことが示唆されているが、これまでに報告された研究結果は少ししかなく、矛盾する結果がある。

第2:治療を最適化

集中治療を含め、すでに存在する治療を最適化することが重要である。

エボラ出血熱の蔓延時に学んだように、最良の医療を特定することで死亡率を下げることができる。最良の医療を施している時も、有望な新薬はさらに効果的に機能する。

COVID-19患者のケアに関する新たな知識を共有する取り組みが進行中で(COVID-19 | Project ECHOなどを介して)、最良の医療を特定する重要な研究につながる。

第3:科学公正

そして、最も重要なことは、科学公正と保健規制機関の公正、そしてその結果として生じる国民の信頼、保健規制機関からのアドバイスと政策決定を保護することが重要である。

COVID-19に対するワクチンが利用可能になった時にその信頼が必要になるし、将来の別の国民保健上の緊急事態になった時も必要になる。

《3》利益相反の開示 

第1著者のジェシー・グッドマン(Jesse L. Goodman)は、米国薬局方(US Pharmacopeia)から旅費と会議費を受け取っている。 グラクソ・スミスクライン社(GlaxoSmithKline)・理事会メンバーで、理事としてのサービスおよび旅費と会議の費用に対する報酬(株式を含む)を得ている。インテリア・セラピュ―ティクス社(Intellia Therapeutics)・理事会メンバーで、理事としてのサービス、株式オプション、および旅費の払い戻しを得ている。以前は米国食品医薬品局の主任科学者を務めていた。

もう1人の著者であるルシアナ・ボリオ博士(Luciana Borio – Wikipedia、写真同)はインキュテール社(In-Q-Tel – Wikipedia)の副社長で、以前は米国・国家安全保障理事会で医療および生物防護対策の政策担当ディレクターを務め、それ以前は米国・食品医薬品局の主任科学者代理を務めていた。

●5.【関連情報】

① 2020年4月6日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Hydroxychloroquine-COVID-19 study did not meet publishing society’s “expected standard” – Retraction Watch
② 「パブメド(PubMed)」で「COVID-19」を検索:2020年4月19日現在、5000論文以上あり:COVID-19 – PubMed – NCBI
③ 「撤回論文データベース」で「COVID-19」を検索:2020年4月19日現在、3論文撤回:Retraction Watch Database
④ 「パブピア(PubPeer)」で「COVID-19」を検索:2020年4月19日現在、60論文以上あり:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●6.【白楽の感想】

《1》閉塞感 

社会がコロナ・パニックになっている。この状況下で、患者には最善な医療を施し、他方、COVID-19(新型コロナウイルス)のまっとうな治療法・予防法を、最速で、探り、確立し、実施することが、最優先である。

それなのに、日本の政治家は自己保身と政権・利権で動いているように見える。アベノマスクと一律10万円給付は、まっとうな政策とは思えない。

追記:アベノマスクは2020年4月21日夕方ポストに入っていた。つけてみると、ナント、左右のゴムひもの長さが違うではありませんか。ッタクゥ。

日本の医学者は、感染症を専門とする御用学者がここぞとばかりに権力を拡大しているように見える。悪貨が良貨を駆逐しているためか、どの専門家の意見が正しいのかわからず、混乱するばかりだ。

国民の命の危険をまっとうに考え、議論し、施策する政治家と医療政策者は、たくさんいるんでしょうが、ほとんど見えてこない。

こんな危機的状況ではあるが、研究の基本は、科学公正と透明性である。ハイ。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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