「ズサン」:ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)(イラン)

2021年2月9日掲載 

ワンポイント:2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「8」に挙げられたので記事にした。マグボーリはテヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)・助教授で、2020年9月(40歳?)、ビタミンDを飲めばコロナウイルス(COVID-19)の重症患者を救えるという付和雷同的な「2020年9月のPLoS One」論文を第一著者として出版した。オーストラリアの疫学者・ギデオン・メエロウィッツ=カッツ(Gideon Meyerowitz-Katz)により、患者が少数過ぎる、タイトルと結論を支持するデータがない、などと批判され、論文出版の19日後、懸念表明(expression of concern)が付いた。ネカトなし、撤回論文はなし。国民の損害額(推定)は1千万円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli、ORCID iD:http://orcid.org/0000-0001-8858-6269、写真出典)は、イランのテヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)・助教授で医師ではない。専門は内分泌学である。

2020年9月25日(40歳?)、ビタミンDを飲めばコロナウイルス(COVID-19)の重症患者を救えるという付和雷同的な「2020年9月のPLoS One」論文を第一著者として出版した。

著者は11人で、最後著者のマイケル・ホリック(Michael F. Holick)以外はイランの研究者である。ホリックは米国のボストン大学病院(Boston University Medical Center)・教授でビタミンD研究では著名な人である。

論文出版の4日後、オーストラリアの疫学者・ギデオン・メエロウィッツ=カッツ(Gideon Meyerowitz-Katz)が、患者が少な過ぎる、タイトルと結論を支持するデータがない、など、ツイッターで「2020年9月のPLoS One」論文を批判した。

2020年10月14日(40歳?)、論文出版の19日後、メエロウィッツ=カッツの指摘に対応し、「PLoS One」は懸念表明(expression of concern)を発表した。

2021年2月8日(41歳?)現在、テヘラン医科大学はネカト調査をしていない。従って、マグボーリを処分していない。

この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「8」に挙げられた。

国民の損害額(推定)は1千万円(大雑把)。

テヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)。写真By Nanopharmacy – Own work, Public Domain, 出典

  • 国:イラン
  • 成長国:イラン?
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:テヘラン医科大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。人生2報目の論文を出版した2006年に26歳だったとした
  • 現在の年齢:41 歳?
  • 分野:感染症学
  • 最初の問題論文発表:2020年(40歳?)
  • 今回の問題論文発表:2020年(40歳?)
  • 発覚年:2020年(40歳?)
  • 発覚時地位:テヘラン医科大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はオーストラリアのウーロンゴン大学(University of Wollongong)の疫学者であるギデオン・メエロウィッツ=カッツ(Gideon Meyerowitz-Katz)。「ツイッター」で公表
  • ステップ2(メディア):「ツイッター」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 問題:ズサン
  • 問題論文数:1報懸念表明
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明。出典:Zhila Maghbooli’s LiveDNA Profile

  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。人生2報目の論文を出版した2006年に26歳だったとした
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • 2006年(26歳?):テヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)の著名な内科医・バーゲル・ラーリージャーニー教授(Bagher Larijani)と共著の論文を出版
  • 2018年(38歳?)?:テヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)で研究博士号(PhD)を取得:内分泌学
  • 2018年(38歳?):テヘラン医科大学(Tehran University of Medical Sciences)・助教授
  • 2020年9月25日(40歳?):問題の「2020年9月のPLoS One」論文を出版
  • 2020年10月14日(40歳?):問題の「2020年9月のPLoS One」論文に懸念表明

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
カリフォルニア大学リバーサイド校医科大学院のロジャー・セセヘウルト準教授(Roger Seheult)がビタミンDとコロナウイルス(COVID-19)の関係を悦明:「Vitamin D and COVID 19: The Evidence for Prevention and Treatment of Coronavirus (SARS CoV 2) – YouTube」(英語)1時間00分23秒。
MedCram – Medical Lectures Explained CLEARLYが2020/12/10に公開

【動画2】
あこ(管理栄養士):「【論文解説】これでも軽度?コロナ重症度別の症状&感染予防食/感染から身を守る意外な食べ物とは? – YouTube」(日本語)17分37秒。

主に11分28秒~13分53秒の箇所で、「ビタミンDを飲めばコロナウイルス(COVID-19)の感染を防げる」と紹介

●4.【日本語の解説】

以下は事件の解説ではない。

★2020年5月25日:WEDGE Infinity(ウェッジ):松永和紀 (科学ジャーナリスト):「ビタミンDは、新型コロナ対策に有効か?エビデンスを見極める(後編) 佐々木敏教授(東京大学大学院医学系研究科)インタビュー」

出典 → ココ、(保存版) 

佐々木:Aging Clinical and Experimental Researchに掲載された論文ですね。国民の血中ビタミンD濃度が低い国のほうが新型コロナウイルス感染症による国全体の死亡率が高い傾向にあるという結果です。興味深い指摘です。患者さんを一人ずつ調べた論文ではなく、国を単位として調べた研究で、「生態学的研究」と呼ばれる手法です。疫学の講義では、「仮説の検証」ではなく、「仮説の提唱」に使うようにと、教えられる研究手法です。ですから、この手法を使った研究を根拠として何を食べようとかこうしようと言うのは時期尚早です。この論文も結語は、「研究が必要」と主張していて、「血中ビタミンD濃度を上げるべきだ」とは書かれていません。

松永:生態学的研究については、東大での先生の講義資料http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/lecture/180427SPH.pdfでも、詳しく説明されています。ところが、メディアはこの論文を基に、ビタミンDを取るべきだ、と走ってしまう。

佐々木:一方、こういうのもあります。Diabetes and Metabolic Syndromeに掲載されたイギリスの論文です。このパンデミックの前に別の研究のために採血して保存してあった50万人の血液でビタミンD濃度を測り(最終的に分析に使えたのは35万人弱)、同時に、この中でだれがコロナウイルス感染症にかかったかを大急ぎで調べました。かかっていた449人の血中ビタミンD濃度を、かかっていなかった残りの人の血中ビタミンD濃度と比べたところ、両者に違いはありませんでした。

・・・中略・・・

佐々木:このメタ・アナリシスにはそれ以上に注意すべき点があります。予防効果はビタミンDの血中濃度が元々低かった人たちでだけ認められ、それ以外の人たちでは認められなかったのです。これは栄養素ではしばしば認められる現象で、その栄養素の体内量が少ない場合にだけ有効で、じゅうぶんな量が体内にある人がさらに取っても、さらなる健康利益はないというものです。

続きは、原典をお読みください。

●5.【問題発覚の経緯と内容】

★問題の論文

2020年9月25日(40歳?)、ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)が第一著者(責任著者)の「2020年9月のPLoS One」論文が出版された。

著者は11人で、最後著者のマイケル・ホリック(Michael F. Holick – Wikipedia、写真出典)以外はイランの研究者である。

ホリックは米国のボストン大学病院(Boston University Medical Center)・教授でビタミンD研究では著名な人である。

上記論文は、ビタミンD(写真出典)が重度のコロナウイルス(COVID-19)患者を救うと主張した。なお、右のビタミンDの写真は論文で使用したビタミンDではない。

マグボーリは、235人のコロナウイルス(COVID-19)患者を対象に、ビタミンD十分に摂取したグループとビタミンDを「不」十分に摂取させたグループの2群に分けた。すると、ビタミンD「不」十分摂取群の患者に死亡が多かった。という内容である

だから、ビタミンDはコロナウイルス(COVID-19)重症患者を救えると結論した。

そして、2021年1月12日(41歳?)、マグボーリが主導して、ビタミンDでコロナウイルス(COVID-19)患者を治療する臨床研究をイランで行なうことになった。

以下は2021年1月12日の臨床試験登録の冒頭部分(出典:同)。全文(5ページ)は → https://www.irct.ir/trial/47010/pdf(2021年2月7日付けになっていた。自動更新?)

★ビタミンDはコロナウイルス(COVID-19)の予防になるのか?

白楽ブログはネカトブログなので、「ビタミンDはコロナウイルス(COVID-19)の予防になるか?」という科学的検証をしない。それでも、話の理解のために、白楽の感じたレベルの科学的信憑性を少し書いておこう。

白楽の理解は、「適量のビタミンDは健康によい。結果として、病気抵抗性があがる。だから、不足しているなら、適度な摂取はコロナウイルス(COVID-19)の予防になる。しかし、特にコロナウイルスに効くということはない」、である。参考例の1つ → 2020年12月17日の「BBC News」記事:Coronavirus: Should I start taking vitamin D? – BBC News

★問題の指摘

2020年9月29日(40歳?)、論文出版の4日後、オーストラリアのウーロンゴン大学(University of Wollongong)の疫学者であるギデオン・メエロウィッツ=カッツ(Gideon Meyerowitz-Katz、写真出典)が、ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)が第一著者(責任著者)の「2020年9月のPLoS One」論文の問題点をツイッターで指摘した(Health Nerd (@GidMK)という名前で)。

2020年10月5日(40歳?)、論文出版の10日後、「World Today News」紙が批判的な記事を書いた。

「World Today News」紙の記者が米国のニューメキシコ大学医科大学院のマイケル・ロウィスキ・内分泌学教授(E. Michael Lewiecki、写真出典)にインタビューし、「ビタミンDは健康増進にはなるが、この論文は観察結果と論文の結論に因果関係がない」と警告した旨の記事を掲載した。

ロウィスキ・教授は、さらに、「ビタミンD値の高い人は、健康がより優れているという指標で、COVID-19による合併症のリスクがより低いというだけです」と説明したことも付け加えた。 → 2020年10月5日の著者不記載の「World Today News」記事:Increasing Evidence, Vitamin D is Enough to Reduce the Risk of Death of COVID-19 – Latest Scientific and Practical Pharmacy Information – World Today News

2020年10月14日(40歳?)、論文出版の19日後、結局、「PLOS ONE」はメエロウィッツ=カッツの指摘を全面的に採用し、「2020年9月のPLoS One」論文(2020年9月25日出版)に懸念表明(expression of concern)を発表した。 → Expression of Concern

懸念項目は5点記載されている。簡単に示すと以下のようだ。

  1. 科学的な結論を導くには研究のサンプルサイズが小さすぎる。
  2. 統計分析と結果が論文の結論を裏付けるのに不十分である。
  3. 論文には、タイトルと結論を含め、ビタミンDレベルとCOVID-19感染の因果関係を示す記述があるが、データによる裏付けがない。
  4. COVID-19患者を確認するPCR検査は対象患者の31.06%だけしかしていない。他の対象患者はPCR検査していないが、論文ではすべてCOVID-19患者としている。このことで、論文結果の解釈に疑念が生じる。
  5. この論文では利益相反はないとしている。しかし、著者の1人・マイケル・ホリック(Michael F. Holick)はビタミンD研究関連の諸活動をしており、ビタミンD追跡アプリ、コンサルタント、資金援助、ビタミンD関連の著者などで利益を得る可能性がある。

つまり、「2020年9月のPLoS One」論文にネカトはないが、あちこち「ズサン」な論文だったのだ。

【問題の具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年2月8日現在、パブメド(PubMed)で、ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)の論文を「Zhila Maghbooli [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2006~2021年の16年間の54論文がヒットした。

2021年2月8日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年2月8日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)を「Maghbooli」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

本記事で問題にした「2020年9月のPLoS One」論文はヒットしなかった。

★パブピア(PubPeer)

2021年2月8日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジーラ・マグボーリ(Zhila Maghbooli)の論文のコメントを「Zhila Maghbooli」で検索すると、本記事で問題にした「2020年9月のPLoS One」論文・1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》疑問 

この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「8」に挙げられた。

「撤回監視(Retraction Watch)」が「コーヴィッド 19(COVID-19)関連の撤回論文の最も重要な10項目」の1つとして挙げた。白楽は、「2020年9月のPLoS One」論文が「ズサン」であることは認めるが、「最も重要な10項目」に入れるのは、疑問である。

「2020年9月のPLoS One」論文にデータねつ造・改ざんの指摘はない。それに、この論文が社会・医療界に与えた影響はさほど大きくない。

事件の特徴は、ギデオン・メエロウィッツ=カッツ(Gideon Meyerowitz-Katz)がツイッターで詳細に問題点を指摘したことと、ボストン大学病院(Boston University Medical Center)のマイケル・ホリック教授(Michael F. Holick)の汚い商売に絡む論文だったということだろう。

しかし、その2点で「最も重要な10項目」に入れるのは、疑問である。

それとも、「ビタミンDがコロナウイルス(COVID-19)の予防になる」というもっともらしい説を利用した詐欺まがいの商売、そして付和雷同の便乗論文を腹立たしく思ったのだろうか?

と言っても、「最も重要な10項目」として、10項目を挙げるのはかなり大変なのは理解している。「2020年9月のPLoS One」論文をリストから外し、代わりに何を入れる? と聞かれても、白楽は、代案を提示できない。

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●9.【主要情報源】

① 2020年10月5日の著者不記載の「World Today News」記事:Increasing Evidence, Vitamin D is Enough to Reduce the Risk of Death of COVID-19 – Latest Scientific and Practical Pharmacy Information – World Today News
② 2020年10月26日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Paper suggesting vitamin D might protect against COVID-19 earns an expression of concern – Retraction Watch
③ 2020年12月3日のNancy A. Melville; CME Author: Charles P. Vega, MD著の「medscape」記事:COVID-19: Does Vitamin D Improve Patient Outcomes?
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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