心理学:ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)(米)

2020年年5月9日掲載 

ワンポイント:ミシガン大学(University of Michigan)・教授だが、前任のノースカロライナ大学チャペルヒル校・教授時代の論文でデータねつ造・改ざんしていたことが、2011年(51歳?)、ネカト・ハンターのウリ・サイモンソン教授(Uri Simonsohn)に見つけられた。2012年5月末(52歳?)、ミシガン大学を辞職した。結局、2003~2011年(43~51歳?)の5論文が、2012~2013年(52~53歳?)に撤回された。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna、Larry Sanna、Lawrence J. Sanna、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のミシガン大学(University of Michigan)・教授で、専門は心理学(社会心理学)である。

日本語に翻訳されていないが、著書は『社会問題解決(Social Problem Solving)』(2004年)、『長期にわたる判断(Judgments over Time)』(2006年)など4冊もある(本の表紙出典はアマゾン)。

2011年(51歳?)、ネカト・ハンターのウリ・サイモンソン教授(Uri Simonsohn)がサンナの論文に統計的にあり得ないのデータを見つけ、指摘した。

問題論文はミシガン大学の前に在籍していたノースカロライナ大学チャペルヒル校・教授時代の論文だった。

2011年12月5日(51歳?)、ノースカロライナ大学チャペルヒル校は調査を開始していた。なお、2020年5月8日現在まで、この調査報告書は公表されていない。

2012年5月末(52歳?)、ミシガン大学を辞職した。

サイモンソン教授は、ローレンス・サンナの論文ネカトについての詳細を「2013年10月のPsychol Sci」論文として発表した。 → 論文PDF

撤回監視データベースによると、結局、2003~2011年(43~51歳?)の5論文が、2012~2013年(52~53歳?)に撤回された。

ミシガン大学(University of Michigan)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ペンシルベニア州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1978年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:61 歳?
  • 分野:心理学
  • 最初の不正論文発表:2003年(43歳?)
  • 不正論文発表:2003~2011年(43~51歳?)の5論文
  • 発覚年:2011年(51歳?)
  • 発覚時地位:ミシガン大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカト・ハンターであるペンシルベニア大学のウリ・サイモンソン教授(Uri Simonsohn)
  • ステップ2(メディア):「Nature」、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ノースカロライナ大学チャペルヒル校・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:「撤回監視(Retraction Watch)」記事には8報撤回とあるが、撤回監視データベースでは5報撤回である
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

出典:(4) Lawrence J. Sanna | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1978年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1978年 – 1983年(18 – 23歳?):コネチカット大学(University of Connecticut)で学士号取得:心理学
  • 1985年 – 1988年(25 – 28歳?):ペンシルベニア州立大学(The Pennsylvania State University)で修士号取得:心理学
  • 1988年 – 1991年(28 – 31歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:心理学
  • 1993年(33歳?):ワシントン州立大学(Washington State University)・助教授
  • 1998年(38歳?):同大学・準教授
  • 2000年(40歳?):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・準教授
  • 2006年(46歳?):同大学・正教授
  • 2011年(51歳?):ミシガン大学(University of Michigan)・教授
  • 2011年9月(51歳?):不正論文が発覚
  • 2012年5月末(52歳?):ミシガン大学・辞職
  • 2020年5月8日(60歳?)現在:コンサルタント

●3.【動画】

【動画1】
Simonsohnを「サイモンソン」と発音している。
ネカト解説動画:「Open Data and Detecting Fraudulent Research Example I – YouTube」(英語)7分28秒。
Berkeley Initiative for Transparency in the Social Sciences (BITSS)が2016/06/09に公開

●4.【日本語の解説】

★2014年3月19日:竹澤正哲(たけざわ まさのり・北海道大学):日本社会心理学会報:社会心理学における再現可能性問題の概要

出典 → ココ、(保存版) 

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚の経緯

2011年(51歳?)、ネカト・ハンターであるペンシルベニア大学のウリ・サイモンソン教授(Uri Simonsohn、写真出典)が、ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)の「2011年のJournal of Experimental Social Psychology」論文に統計的にみて異常なデータがあると指摘した。

「2011年のJournal of Experimental Social Psychology」論文の書誌情報を以下に示す。2013年3月に撤回された。 → 撤回公告

この論文の研究成果は、人間は身体の位置が高くなると、道徳倫理観も高くなるというものである。

例えば、昇りのエスカレーターに乗るなどして身体の位置が高くなると、人々はより利他的に行動するという研究結果である(写真出典:非営利目的での再使用が許可された画像)。

研究成果は身体の位置の高さと道徳倫理観が関連していることを示した。この研究は、身体と環境が心に影響を与える心理学の成長研究分野の研究で、具体化された認知の例を示した。

2011年7月(51歳?)、サイモンソン教授は、ローレンス・サンナの論文を読んで、「データは他の論文と比較して非常に強力でした。強力すぎて、困惑しました。すべての結果は非常に有意で、非常に大きな影響がありました」、と述べている。

ローレンス・サンナは実験ボランティアに対して、他の人々に苦痛を感じさせる辛いトソースを食べさせ、階段を上る・または下る・またはレベルを維持する、という3つの姿勢でテストした。

サイモンソン教授は、サンナの論文では 3つの結果が異なる平均値なのに、標準偏差値(下記表の色付枠内の数値:出典)が非常に似ていることに疑問を感じた。

2011年9月(51歳?)、サイモンソン教授は、ローレンス・サンナと彼の2人の共著者に彼の懸念を詳述した8ページのレポートを送信した。そして、ローレンス・サンナから生データを受け取った。

それで、サイモンソン教授は、自分で計算してみた。すると、サンナの論文に記載された標準偏差値が得られる可能性は、統計的にあり得ない、という結果になった(以下の図:出典)。

2011年10月(51歳?)、サイモンソン教授は、ローレンス・サンナと彼の2人の共著者との間で電子メールを交換し、彼の懸念について話し合ったが、最終的には、話し合いは物別れとなった。

ただ、サイモンソン教授が3人の院生(それぞれ、4つの論文の少なくとも1つの共著者)に聞いたところ、3人とも全員がデータの収集や分析に関与していないと答えた。つまり、データの収集や分析の全責任は、ローレンス・サンナにあるということだ。

「ネイチャー」誌がこの問題を、ローレンス・サンナに問い合わせても、ローレンス・サンナは返事をしてこなかった。

★大学の調査と学術誌

ローレンス・サンナが問題論文が発表したとき、サンナはノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)の教授だった。

2011年12月5日(51歳?)、サイモンソン教授はノースカロライナ大学チャペルヒル校に連絡した。すると、大学は既に問題を聞いていて、調査を開始したとの返事がきた。

サイモンソン教授は彼の持っている情報をノースカロライナ大学チャペルヒル校に提供した。

なお、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の調査結果は公開されていない。「ネイチャー」誌が問い合わせると、2012年7月6日、「調査結果に機密の人事情報が含まれていたため」公開できないと返事が来た。

2012年6月28日(52歳?)、ミシガン大学の研究担当副学長であるジュディス・ノワック(Judith Nowack)は、ローレンス・サンナが辞任したことを伝える電子メールをサイモンソン教授に送信した。

学術誌「Journal of Experimental Social Psychology」の編集長でプリンストン大学のジョエル・クーパー教授(Joel Cooper、写真出典)は、ローレンス・サンナから2009-11年の3論文の撤回要請を受けたと述べている。クーパー編集長は、「ミシガン大学やノースカロライナ大学チャペルヒル校からは何の連絡もなく、要請に至った状況については何も知りません。しかし、著者から論文撤回の要請がありましたので、従います」、と述べた。

2013年3月(53歳?)、論文は撤回された。 

出典:RETRACTED: Rising up to higher virtues: Experiencing elevated physical height uplifts prosocial actions – ScienceDirect

★サイモンソン教授の論文

サイモンソン教授は、ローレンス・サンナの論文ネカトについての詳細を「2013年10月のPsychol Sci」論文として発表した。 → 論文PDF

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年5月8日現在、パブメド( PubMed ))で、ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna、Larry Sanna)の論文を「Lawrence Sanna [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、13論文がヒットした。なお、パブメド(PubMed)で心理学分野の論文を探すのは無理がある。

「Sanna LJ[Author] AND Retracted 」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2009 年11月のPsychol Sci. 」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2020年5月8日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでローレンス・サンナ(Lawrence Sanna、Larry Sanna)を「Sanna, Lawrence J」で検索すると、本記事で問題にした「2013年のJournal of Experimental Social Psychology」論文を含む5論文がヒットし、5論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年5月8日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna、Larry Sanna)の論文のコメントを「Lawrence Sanna」で検索すると、本記事で問題にした「2013年のJournal of Experimental Social Psychology」論文を含む10論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》不明 

ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)は、「どの状況で、どうして?」データねつ造・改ざんしたのか?

不明である。

となると、防ぐ方法を考えにくい。

しかし、心理学ではネカトが多い。どうしてなんだろう? それもオランダと米国に多い。どうしてなんだろう? 姓のABC順。

有名なネカト事件を起こした心理学者のスターペルは、ネカトした理由を、「高評価の必要、野心、怠惰、ニヒリズム、権力への欲求、ステータスを失う心配、問題を解決したい欲望、一貫性、出版プレッシャー、傲慢、情緒的孤立、寂しさ、失望、ADD(注意力欠如障害)、解答中毒 」などと答えている。 → 社会心理学:ディーデリク・スターペル(Diederik Stapel) (オランダ) | 研究者倫理

ローレンス・サンナも同じように、「なんとなく、成り行き」で、してしまったのだろうか?

そうだとすると(そうでなくても?)、不正論文数が、8報撤回や5報撤回とあるが、ローレンス・サンナはもっと多くのネカト論文を発表したのではないだろうか?

最古の撤回論文は2003年の論文で、43歳(?)の準教授の時である。43歳(?)の準教授がデータねつ造・改ざんを初めてするだろうか? 院生のころからのネカト常習者ではないのだろか?

社会心理学の論文のデータねつ造・改ざんは、うまくやれば、見つけるのが非常に難しい。今回も、統計の専門家であるサイモンソン教授が、「ウウン? この数値、綺麗すぎる!」と思わなければ発覚しなかった。

《2》事件後の人生

2012年5月末、ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)は52歳(?)の時、ネカトでミシガン大学(University of Michigan)・教授を辞職したのち、研究職につけなかった。しかし、その後、いくつかの地元組織でコンサルタントをしている。

2020年5月8日現在、60歳(?)、食品提供ボランティア組織の「Food Gatherers」のコンサルタントである。写真を見る限り、幸せそうに見える。

写真出典

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2012年7月12日以降のローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群Search Results for “Lawrence Sanna” – Retraction Watch
② ◎2012年7月12日のエド・ヨン(Ed Yong)記者の「Nature」記事:Uncertainty shrouds psychologist’s resignation : Nature News & Comment
③ 2012年7月13日のケリー・ウッドハウス(Kellie Woodhouse)記者の「Ann Arbor News」記事:University of Michigan professor resigns amid questions about his research
④ 2012年7月13日のジェフ・アクスト(Jef Akst)記者の「Scientist」記事:Another Victim of Suspicious Data | The Scientist Magazine®
⑤ 2012年7月16日のウォルター・アイスナー(Walter Eisner)記者とロビン・ヤング(Robin Young)記者の「Orthopedics This Week」記事:Retraction of the Week – Sanna’s “Odd Statistics” | Orthopedics This Week
⑥ 2012年12月号のクリストファー・シア(Christopher Shea)記者の「Atlantic」記事:The Data Vigilante – The Atlantic
Instances of Fraud | Best Practices in Science
⑧ ローレンス・サンナ(Lawrence Sanna)本人のサイト:Lawrence J. Sanna
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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