7-138 サウジの大学ランキング危機

2024年1月13日掲載 

白楽の意図:サウジアラビアの大学は、お金と引き換えに海外の高被引用研究者を自分の大学に所属にしてもらい、世界大学ランキングの上位を維持する工作を数十年続けてきた。スペインのメディアがこれを問題視し、クラリベイト社(Clarivate)が高被引用研究者の選定を厳格化したことで、2023年以降、サウジの大学は大学ランキングから滑り落ちる公算が高い。この状況を解説したミケーレ・カタンツァーロ(Michele Catanzaro)の「2023年11月のScience」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.カタンツァーロの「2023年11月のScience」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン) | 白楽の研究者倫理

アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン)

化学:ラファエル・ルケ(Rafael Luque)(スペイン) | 白楽の研究者倫理

化学:ラファエル・ルケ(Rafael Luque)(スペイン)

★2023年11月27日:白楽のツイッター

出典:https://twitter.com/haklak/status/1689411233932513280

2013年11月、文部科学省は、今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を国策とした(スライド8枚目)。https://00m.in/qC1Dt

丁度10年経った現在、2校しかランクインしていない。https://00m.in/MogiK

施策はズサンで愚策。ネカトのような施策が通った仕組みが問題。

政治家とメディアは、この施策の失敗をもっと掘下げ、明確にし、改善策を次代に活かすべきだ。

朝日新聞社「論座」投稿文「世界大学ランキングのための大学改革」 https://00m.in/L1Nj0

「世界トップ100に10校を」安倍政権が描いた大学成長戦略の現状は | 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20220409/k00/00m/040/249000c

●2.【カタンツァーロの「2023年11月のScience」論文】

  • 論文名:Saudi universities lose highly cited researchers after payment schemes raise ethics concerns
    日本語訳:サウジの大学、支払制度に倫理的懸念が生じ、高被引用研究者を失う
  • 著者:Michele Catanzaro
  • 掲載誌・巻・ページ:Science
  • 発行年月日:2023年11月27日
  • ウェブサイト:https://www.science.org/content/article/saudi-universities-lose-highly-cited-researchers-after-payment-schemes-raise-ethics
  • 著者の紹介:ミケーレ・カタンツァーロ(Michele Catanzaro)。1979年イタリア生まれ。スペインのフリーランス科学ジャーナリスト。物理学の研究博士号所持者。写真と紹介の出典: Chemistry World

●【論文内容】

★サウジアラビアの大学戦略

サウジアラビアの多数の大学は、世界大学ランキングを上げるために、海外の著名な科学者たちの所属を、お金と引き換えで、サウジアラビアの大学にしてもらう契約をしてきた。

最近、この契約が問題視され、サウジアラビアの大学に所属する著名な科学者の数が急速に減った。

2023年11月24日、スペインの研究コンサルティング会社であるシリス・アカデミック社(SIRIS Academic)は、高被引用研究者と契約していたサウジアラビアの大学の数は、2022年に109校だったのが、32校(29%)減って、2023年現在、76校になった、と発表した。
 → 2023年11月24日:概要:SIRIS Academic – A turning point for Saudi Arabian affiliations in the 2023 Highly Cited Researchers list from Clarivate
 → 2023年11月24日:全文39ページ(下の表紙出典同):Report: A turning point for Saudi Arabian affiliations in the 2023 Highly Cited Researchers™ list from Clarivate™

この結果、サウジアラビアの大学は世界大学ランキングの順位が下がると予想される。

比較的少額のコンサルティング契約と引き換えに、教授がサウジの大学を所属先に加えることを、欧州の大学と研究機関が問題視した結果だと思われる。

ただ、従来、欧州の大学と研究機関はこのようなコンサルティング契約を厳しく規制してこなかった。

高被引用研究者の年次リストを発表するクラリベイト社(Clarivate)が監視を厳しくしたことの影響の方が大きい気もする。

スペインのビーゴ大学(University of Vigo)の数学者・ドミンゴ・ドカンポ教授(Domingo Docampo、写真出典)は、「詐欺が発覚した今、非倫理的な契約を止める研究者は増えるだろう」と述べた。

★白楽のお節介:日本の研究者

脇道にそれるが、シリス・アカデミック社の2023年11月24日の報告書に、日本野研究者が登場するかを調べた。

すると、2022年まで日本人の高被引用研究者はサウジアラビアの大学に所属していなかったが、2023年に1人登場した。

法政大学の「xx」氏がサウジアラビアのキング・サウード大学(King Saud University)に第一所属で所属していた。

「xx」は誰でしょう?

高被引用研究者のサイトで「Hosei University」を検索すると、1人だけヒットした。第一所属がサウジアラビアのキング・サウード大学で、法政大学が第二所属である。 → Highly Cited Researchers – Clarivate

余 恪平(ヨ カクヘイ、Keping Yu)だった。余 恪平は、2016年に早稲田大学で研究博士号を取得し、2022年から法政大学・理工学研究科の准教授である。経歴・写真出典 → 【魚拓】余 恪平

法政大学は余 恪平の第一所属がサウジアラビアのキング・サウード大学で、法政大学が第二所属であることを知っているのだろうか?

ただ、不思議なことに、最新の「2023年8月1日のExpert Systems with Applications」論文では、所属は法政大学だけで、キング・サウード大学は入っていない。 → RGBT tracking using randomly projected CNN features

キング・サウード大学との契約を隠しているのか? 破棄したのか?

★慣行

サウジアラビアの大学に話を戻す。

この習慣には長い歴史がある。

12年前の2011年、一部のサウジアラビアの大学は、年に数日間大学を訪問するなどの最低限の学術的行為と引き換えに、お金を払って、世界中のトップ科学者にサウジアラビアの大学を第二所属にしてもらっていた、とサイエンス誌は報じた。 → Saudi Universities Offer Cash in Exchange for Academic Prestige | Science

この提携は、大学の高被引用研究者の数を考慮する上海ランキング(Shanghai Ranking)などの国際大学ランキングで大学の順位を高めるのに役立った。

2014年、この詐欺的所属に気がついて、上海ランキングは研究者の第二次所属を考慮することを止めた。

しかし、問題は解決なかった。

第一所属をサウジアラビアの大学にし、母国の大学を第二所属にしたのだ。

この慣行は今年(2023年5月5日)、スペインの新聞・「エル・パイス」紙が問題だと指摘した。

スペインで実際に研究しているスペインの高被引用研究者の数人が、自分たちの第一所属をサウジアラビアの大学にしていたのだ。 → 2023年5月5日の「Nature」記事:閲覧有料・白楽未読:Saudi universities entice top scientists to switch affiliations — sometimes with cash

シリス・アカデミック社の報告書によると、サウジアラビアの大学を第一所属にしていた210人の高被引用研究者の母国は、中国 (44人)、スペイン (19人)、米国 (16人)、トルコ (14人)だった。

以下はサウジアラビアの大学に絞った2023年上海ランキングである。 → ShanghaiRanking-Univiersities

キング・サウード大学(King Saud University)はサウジアラビアの大学では1位で、世界では101~150位だった。今後、サウジアラビアの大学の順位は落ちるだろう。

★改善

サウジアラビアの大学に所属する高被引用研究者は、外国の大学を第二所属にしている人が異常に多い。

その数は長年増加し続けたが、2023年は昨年から30%減少した。人数でみると、52人がリストから外れ、13人が新たに加わった。

この変化は、外国の研究評議会や大学が自国の研究者に所属を修正するよう圧力をかけた結果である。

例えば、スペイン国立科学研究評議会(Spanish National Council for Scientific Research)は2023年11月、所属を操作した研究者5人を懲戒処分する手続きを始めた。 → 2023 年11 月8日記事:Spanish national research council investigates five scientists for manipulating university rankings | Science | EL PAÍS English

懲戒処分対象の5人は、2016~2022年の7年間、キング・サウード大学(King Saud University)を第一所属にしていたスペインのカタルーニャ水研究所(Catalan Institute for Water Research)のダミア・バルセロ所長(Damià Barceló、写真出典)などである。

アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)は5人に含まれていなかった。

2022年にスペインの大学を第二所属にしていた高被引用研究者11人は、サウジアラビアの大学を第一所属にしていた。

そして、2023年はゼロになった。というのは、スペインの研究者は、スペインの大学を第一所属に戻したからだ。

2023年はまた、ドイツ、イタリア、英国、中国などに拠点を置くサウジ関連研究者の数は減少した。

例えば、ドイツのユーリヒ総合研究機構(Jülich Research Institute)は、「クラリベイト社から是正の必要がある」との通知を受けて、同研究機構に勤務する植物生理学者に所属の是正を指示した。

クラリベイト社が高被引用研究者の選定基準を厳格にしたことも影響している。 → Highly Cited Researchers – Evaluation and selection – Clarivate

クラリベイト社は、高被引用研究者を厳格に選定する一環として、昨年(2022年)は候補者の内、疑惑のある研究者500人を除外したが、今年(2023年)は1000人を除外した。

クラリベイト科学情報研究所(Clarivate’s Institute for Scientific Information)の分析責任者であるデイヴィッド・ペンドルベリー(David Pendlebury、写真出典)は、「多くの選定基準と各種方法を追加して分析した」と、述べている。

異常に多い論文出版数、過剰な自己引用数、共著者からの異常な引用などが、疑惑研究者の信号だとのことだ。

クラリベイト社がこのような不正な研究者を正式に除外したのは初めてである。

2019年、スペインのカタルーニャ水研究所(Catalan Institute for Water Research)の化学者・ミラ・ペトロヴィッチ(Mira Petrović、写真出典)は、現金と引き換えに所属を変更しないかというサウジの大学からの申し出を断った。

ミラ・ペトロヴィッチは、「今では、すべての研究者は、こうした所属操作があった(ある)ことを認識していると思います。不正まがいの所属操作にクラリベイト社が対処すべき状況とタイミングでした」、と指摘した。

サウジ関連の高被引用研究者数の減少は、サウジアラビア人の高被引用研究者20人が初めてリストに加わったのと、すでにリストに載っていたが今年(2023年)、12人がサウジの大学を第一所属に切り替えたので幾分補充された。

12人の中にはスペインのセンメルワイス大学(Semmelweis University)のがん生物学者も含まれていた。

しかし、センメルワイス大学の広報担当者は、この研究者がサウジの大学を第一所属に切り替えたのは「管理上の誤り」で、今後是正されるとしている。

結局、サウジ関連の高被引用研究者は33人が純減し、サウジのいくつかの大学は上海ランキングで順位を落とす可能性が高い、とシリス・アカデミック社は試算している。

例えば、キング・アブドゥルアズィズ大学(King Abdulaziz University)は、高被引用研究者の数が31人から12人に減少したため、上海ランキングの上位200大学から外れる可能性が高い。

シリス・アカデミック社のコンサルタントであるヨーラン・ベルデングリュン(Yoran Beldengrün、保存版)は、「外国の高被引用研究者に使ったサウジアラビアの資金は、むしろ自分の大学の研究と高等教育の実質的な発展のための使うべきだ」と、指摘した。

なお、サイエンス誌記者が、サウジ教育省、キング・サウード大学、キング・アブドゥルアズィズ大学にコメントを要請したが、応じなかった。

キング・サウード大学(King Saud University)
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=nXnF2M5tGO4

●7.【白楽の感想】

《1》どうして取り締まらない? 

サウジの大学は、お金と引き換えに海外の著名な科学者をサウジの大学を第一所属にしてもらうことで、世界大学ランキングの上位を維持する工作を数十年続けてきた。

2011年、サイエンス誌は既に報じていた。 → Saudi Universities Offer Cash in Exchange for Academic Prestige | Science

白楽も米国の会議で、実感した。以下は、「アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン) | 白楽の研究者倫理」から再掲。

ーーーここから

20年位前、白楽は米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science:AAAS)年会に出席し(米国のサンフランシスコで開催?)、サウジアラビアのキング〇〇大学の偉い人が30分くらい発表するセッションに参加したことがある。

スクリーンに、風光明媚なビーチ沿いの美しいキャンパス、超近代的な建物と研究設備を持つキング〇〇大学を映して、院生・ポスドクに多額の奨学金、教授に高額の給料と豪華な宿舎を用意しているので、是非、来てくださいと宣伝していた。

セッション会場には無料ランチ(豪華なサンドイッチ+冷えたソーダ缶、ペットボトル飲料水)が置いてあり、参加者に無料電卓がくばられた。白楽は無料ランチと電卓を目当てに行った気もする。

セッション中、書類が回って来て、連絡先などを記入すると、当時数万円のアップル製品がもらえた。白楽は記入しなかったが、会場にいた若い人が2人記入した。もらったアップル製品を会場で開封し、かなり喜んでいた。彼らがその後、キング〇〇大学に行ったかどうか知りません。

ーーーここまで

どうして今まで、各国・各大学は、「お金と引き換えに海外の著名な科学者をサウジの大学を第一所属にしてもらうこと」を不正と認定し、排除してこなかったのだろう?

所属詐称、つまり、詐欺だと思うけど。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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