ワンポイント:知的財産権が専門の弁護士・法学博士・大学講師が論文盗用
●【概略】
アンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian、写真出典)は、英国・イコンディア社(Icondia)(パブリシティ権、肖像権、意匠権専門の会社)のチーフ・ナレッジ・オフィサー(知識部長)である。
専門は知的財産権(パブリシティ権、肖像権)で、この分野の国際的な権威の1人である。英国と米国の両方の弁護士資格を持っている。
研究ジャーナル「International Journal of Intellectual Property Management」の編集員も勤めた。
とても皮肉なことに、「知的財産権が専門」の「法学」博士で大学講師を務め、知財企業の「知識部長」が、いくつもの論文盗用をしていた。
2013年に盗用が発覚し、論文撤回している。
それなのに、日本の特許庁委託平成24年度産業財産権研究推進事業(平成24~26年度)で、2014年1月14日 – 2014年3月1日に日本の招へい研究者になっている。
2011年10月20日、香港ワークショップ。アンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian)は左から2人目。写真
- 国:英国
- 成長国:英国・米国
- 研究博士号(PhD)取得:英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に、1970年1月1日とする
- 現在の年齢:54 歳?
- 分野:法学
- 最初の不正論文発表:2006年(36歳?)
- 発覚年:2013年(43歳?)
- 発覚時地位:英国・イコンディア社(Icondia)の知識部長
- 発覚:不明
- 調査:①研究雑誌編集部
- 不正:盗用
- 不正論文数:少なくとも4報は撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:不明
●【経歴と経過】
サイトから略歴を借りた(出典:http://www.iip.or.jp/seminar/140227.html)
米国シラー大学国際経営修士。ロヨラ大学法務博士。英国アバディーン大学法学修士。クィーンメリー大学博士(知的財産権)。ルイジアナ弁護士、イングランド・ウェールズ事務弁護士。大学卒業後、ホテル、法律事務所の勤務を経て、主としてIP関係の講師、コンサルタントを務める。最近では、オーストラリア・サザンクロス大学法学シニア講師を勤め、現在Icondia Ltd. 創業メンバ(チーフ ナレッジ オフィサー)(出典:http://www.iip.or.jp/seminar/140227.html)
学生の頃(?)のアンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian) 写真
- 生年月日:不明。仮に、1970年1月1日とする
- xxxx年(xx歳):米国・フロリダ州にあるシラー・インターナショナル大学(Schiller International University)で修士号取得
- xxxx年(xx歳):米国・ニューオリンズにあるロヨラ大学ニューオリンズ校(Loyola University New Orleans)で法務博士(専門職)(Juris Doctorate)を取得
- 2010年(xx歳):英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校(Queen Mary University of London)で研究博士号(PhD)を取得した。博士論文タイトル:“Law and Order in Virtual Worlds: Exploring Avatars, their Ownership and Rights”。博士論文を出版した。
- xxxx年(xx歳):英国・イコンディア社(Icondia)の知識部長
- xxxx年(xx歳):英国・ボーンマス大学(Bournemouth University)・上級講師。専門:ビジネスのための法律。
- 2013年10-12月(43歳?):2010年論文に盗用が見つかり、論文撤回された
- 2014年1月14日 – 2014年3月1日(44歳?):日本の特許庁委託平成24年度産業財産権研究推進事業の招へい研究者
- 2015年2月10日頃(45歳?):英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校に研究博士号(PhD)が取リ消された
30代(?)のアンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian) 写真
●【不正内容】
不正発覚・調査の経緯は不明である。
「このような不正がありましたので論文(そして、博士号)を撤回しました」という結果しかわからない。
以下、盗用例を個別に記述した。
★2013年10-12月に2010年論文を撤回
エイドリアンが2010年に出版した以下の論文に盗用が見つかり、編集者の判断で2013年に論文が撤回された(Retraction Notice)。
- “Could A Small Town in Romania bring Australia to its Cyber-knees? Not if They Accede to the EU Convention on Cybercrime”
Angela Adrian
Journal of International Commercial Law and Technology [2010] Vol. 7 No.4,pp. 328-338
他からもあるが、主に、以下の論文から盗用した。
- Alana Maurushat, “Australia’s succession to the Cybercrime Convention: is the Convention still relevant in combatting crime in the era of Botnets and Obfuscation Crime Tools?” UNSW Law Journal Vol 33(2) 2010 Forum (Australia’s Accession to the Cyber-crime Convention) pp 431
★2014年8月に2006年論文を撤回
エイドリアンが2006年に出版した論文「The Pirate Bay deep-sixed」、Computer Law & Security Review, Volume 22, Issue 5, 2006, Pages 392-401は、以下の論文の盗用とみなされ、2014年8月に撤回された。
- Graeme W. Austin [Santa Clara Computer & High Technology Journal, Vol. 22, p. 577, 2006, Arizona Legal Studies Discussion Paper No. 06-08, Victoria University of Wellington Legal Research Paper No. 3/2013
★2014年8月に2007年論文を撤回
エイドリアンが2007年に出版した論文「I™: Avatars as trade marks.」Computer Law & Security Review, Volume 23, Issue 5, 2007, Pages 436-448も、2014年8月に盗用で撤回された。
★2015年2月10日頃、2010年の博士論文に盗用が発覚し研究博士号が取り消された
2015年2月以前の年月は不明だが、2010年に英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校に提出した博士論文「Law and Order in Virtual Worlds: Exploring Avatars, their Ownership and Rights」での盗用が発覚した。
2015年2月10日頃、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校はエイドリアンの研究博士号(PhD)を取り消した(IP lawyer/plagiarist’s PhD thesis under review – Retraction Watch at Retraction Watch)。
2011年10月21日、マカオでのCo-Reach ワークショップ。アンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian)は右から4人目。写真出典
付記・・・エイドリアンの個人写真の美人度と集合写真のおばさん度の落差が大きい。写真は改ざん、もとい、修正されているなあ。
●【論文数と撤回論文】
グーグル・スカラーhttp://scholar.google.co.jp/schhp?hl=jaで、アンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian)の論文を「”Angela Adrian”」で検索すると、69論文がヒット した。このデータは網羅的ではない。
2015年6月23日現在、グーグル・スカラーでは、2007年の1論文が撤回されている。
- A Adrian – 「I™: Avatars as trade marks.」Computer Law & Security Review, Volume 23, Issue 5, 2007, Pages 436-448 – Elsevier
●【白楽の感想】
《1》人間ですもの
「知的財産権が専門」、「法学博士」、知財企業の「知識部長」、その人が盗用とは、人間、面白いですね。
要するに、「人間の行為に聖域なし。人間は善悪の両方を持っている。監視・批判されなければ悪がでやすく、称賛されれば善がでやすい」という「白楽の第一法則」に当てはまる。
不正研究の防止では、教育や研修が必要だと叫ばれている。例えば、「文部科学省が今月から実施した。研究者や学生に対する倫理教育の徹底教育を大学など研究機関に求めている。」(2015年4月20日、 研究活力と不正防止の両立を:日本経済新聞)。
この場合、「倫理教育の徹底教育」で何を教えると、不正研究を防止できるのと考えているのだろうか?
「知的財産権が専門」の「法学博士」は盗用を悪いと知っているはずだ。でも、盗用をする。多くの院生・研究者も盗用を悪いと知っていて盗用をする。
「教える」ことの内容にもよるが、必要なのは、「教える」ことよりも、「必ず検出」し「2倍罰」にする体制の整備だろう。
《2》日本は甘すぎ
2013年秋、アンジェラ・エイドリアン(写真出典)は盗用の発覚で、論文を撤回している。
それなのに、2014年1月14日に日本の特許庁委託平成24年度産業財産権研究推進事業(平成24~26年度)で、知的財産研究所が日本への「招へい研究者」としている。
知的財産を専門に研究する「知的財産研究所」が、外国の「盗用」者を日本に招へいするなんて、日本はどうなっているのでしょう。招へい前に、エイドリアンの論文が「盗用」で撤回された記事が公表されている(Retraction Notice)。
知らなかったのなら、無能を恥じるべきだし、知っていたのなら、・・・。
招へいはキャンセルすべきだったでしょう。
さらに追い銭的に悪いことは、知財研紀要 2014年 Vol.23に「商標の稀釈化、パブリシティ権、肖像権-日本、オーストラリア、英国、米国における法律の比較分析-」を執筆させている。
この論文の翻訳前の英語版は盗用ではないのでしょね。知的財産研究所は分析しているのでしょうか?
こういう行為は、結果として、不正研究者を擁護していることになる。どうして、日本はこう甘いのでしょう? 責任者を処分し、システムを改善すべきです。
《3》研究習慣病
根源的な問題として、アンジェラ・エイドリアンは、どうして、盗用したのだろうか? 事件の状況がつかめる情報が不足していて、推察でしかない。それに、白楽には、法学ではどのような研究文化で、どのように論文執筆指導を受けるのか日本・英国・米国での実情にも疎い。
とはいえ、アンジェラ・エイドリアンは多くの論文を盗用し、盗用の常習者である。盗用は彼女の研究習慣病と考えられる。つまり、論文執筆の初期から盗用しながら論文を書くという執筆スタイル・研究習慣を身につけてしまった。それを、指導教授が見抜けなかった。それで、そのまま盗用しながらドンドン論文を書いてきた。ただ、最近になって、盗用検出ソフトの発達で、盗用がバレたのだろう。
また、アンジェラ・エイドリアンは、大学卒業後、実社会で働いてから、アカデミックの世界に入ってきた人である。このような経歴の人の性向として、学問の規範が身についていない人が多い。日本でも、そういう経歴の大学教授が論文盗用の不祥事を起こしている。
アンジェラ・エイドリアン(Angela Adrian) 写真
●【主要情報源】
① 「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事群:angela adrian Archives – Retraction Watch at Retraction Watch