アレック・ミルチャンダニ(Alec Mirchandani)(米)

2017年8月25日掲載。

ワンポイント: 2017年7月14日、研究公正局がデータねつ造・改ざんと発表したフロリダ・アトランティック大学の研究助手院生(男性)。ミルチャンダニは1回も学会発表・論文発表をしていない。2016年(24歳?)、指導教員に報告したデータにねつ造・改ざんがあった。指導教員が大学に通報した。ミルチャンダニは退学した。損害額の総額(推定)は7千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アレック・ミルチャンダニ(Alec Mirchandani、顔写真見つからない)は、米国のフロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)のロバート・ヴァーツ(Robert P. Vertes)研究室の院生(男性)で、研究を手伝うことで収入を得る研究助手院生だった。専門は行動神経科学で、医師ではない。

2016年(24歳?)、指導教授がミルチャンダニのデータの異常に気が付き、大学に通報した。ミルチャンダニはその時点で、1回も学会発表・論文発表をしていなかった。

2017年1月(25歳?)、ミルチャンダニは大学を退学した。

2017年7月14日(25歳?)、研究公正局は、ミルチャンダニにねつ造・改ざんがあったと発表した。2年以内に研究するなら1年間監視付きという処分がミルチャンダニに科された。

フロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2010年の大学入学時を18歳とした
  • 現在の年齢:32 歳?
  • 分野:行動神経科学
  • 最初の不正論文発表:なし。というか、学会発表・論文発表がない
  • 発覚年:2016年(24歳?)
  • 発覚時地位:フロリダ・アトランティック大学・研究助手院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は指導教員のロバート・ヴァーツ教授(Robert P. Vertes)で大学へ公益通報
  • ステップ2(メディア): なし
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①フロリダ・アトランティック大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:なし
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は7千万円。内訳 → ①研究者になる途中の院で2年間なので2千万円。⑤調査経費(大学と研究公正局)が5千万円。
  • 結末:退学。2年以内に研究するなら1年間監視付き処分

●2.【経歴と経過】

主にな出典:https://www.linkedin.com/in/alec-mirchandani-b3863755/

  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2010年の大学入学時を18歳とした
  • 2010 – 2014年(18 – 22歳?):ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University-University Park)を卒業。生物学専攻
  • 2015 – 2017年(23 – 25歳?):フロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)の院生
  • 2015年8月 – 2017年1月(23 – 25歳?):同大学で研究助手院生
  • 2010年1月 – 2017年現在(18 – 25歳?):旅行業「Escapes In The Sun」で社長補佐
  • 2016年(24歳?):不正研究が発覚する
  • 2017年1月(25歳?):フロリダ・アトランティック大学を退学
  • 2017年7月14日(25歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2015年8月、アレック・ミルチャンダニ(Alec Mirchandani)はフロリダ・アトランティック大学の大学院に入学し、ロバート・ヴァーツ教授(Robert P. Vertes、写真出典)の研究室で、研究を手伝うことで収入を得る研究助手院生になった。

ミルチャンダニはヴァーツ教授がNIHから研究助成(番号1R15MH099590-01A1)されている研究プロジェクトでT迷路行動試験(T-maze behavioral experiment)でラットを用いた行動科学研究をしていた。

T迷路(T maze)。図の出典

T迷路(T maze) 行動試験とはどんな実験でしょうか?

T字の形状をした3本armの迷路で長いarmの先端(T字の下端)からネズミが分岐点まで移動し、左右のarmのどちらかを選択して侵入する行動を観察します。

通常、どちらかのarmの先端に分岐点のネズミからは見えないように餌が置いてあり、餌のあるarmに入れば正解、ないarmに入ればエラーとなりエラー数を数えます。

チャンスレベル(偶然入る確率)でも50%は正解となるため、試行回数を増やしてチャンスレベルではなく正解していることを確認する必要があります。餌を報酬とするため、ラットあるいはマウスは摂餌制限をしておなかがすいた状態として試験します。(行動薬理学のススメ(抗認知症薬―学習・記憶)
参考:迷路 – 脳科学辞典

2016年夏、ヴァーツ教授がミルチャンダニのネカトに気が付いて、フロリダ・アトランティック大学に通報した。

研究公正局の報告によると、ネカト行為は以下のようだ(【主要情報源】①)。

2016年6月、5匹のうちの3匹のマウスのT迷路行動試験(T-maze behavioral experiment)の記録をねつ造し、あたかも実験を行なったかのように記録した。

2016年6月の16日間の内の12日間分の動物飼育室の記録を改ざんし、実験を行ったかのように見せかけた。

2016年6月の16日間の内の14日間分の実験データ記録を改ざんし、実験を行ったかのように見せかけた。

研究室の実験ノートに過去のデータを組み込み、そのねつ造データを指導教員に報告した。そのため、2016年1月から2016年6月30日までの対照実験データ(マウス5匹分)が不正確になった。

ヴァーツ教授は「撤回監視」記者に次のように述べている(【主要情報源】②)。

なお、ヴァーツ教授は「ラット」と記述し、研究公正局は「マウス」と記述しているので、どちらかが間違えている。

ミルチャンダニは私の研究室のメンバーでした。ある時から、私はミルチャンダニのデータの何かがおかしいと思い始めました。疑念ポイントを絞っていくと、どうやら、ラットの実験データのようでした。そこで、ラット飼育室への入退室記録(スワイプカード情報)を調べると、ミルチャンダニが実験のためにラットを運んできたという時間とミルチャンダニの入退室記録が一致しませんでした。

ミルチャンダニのデータねつ造・改ざんに早く気が付いたので、私たちが発表した研究結果への影響はほとんどありません。ミルチャンダニに割り当てたラットをすべて研究から除外しました。

●6.【論文数と撤回論文】

2017年8月24日現在、パブメド(PubMed)で、アレック・ミルチャンダニ(Alec Mirchandani)の論文を「Alec Mirchandani [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。

出版論文がないので撤回論文もない。

●7.【白楽の感想】

《1》大学院・研究初期

「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。

ミルチャンダニの場合、ヴァーツ教授が初期段階でデータの異常に気が付いて、対処した点は、とても称賛できる。

学会発表も論文発表もない分、損害は少ない。研究費の損害も少ない。研究室の他のメンバーの損害も少ない。パチパチ。

ただ、ミルチャンダニは院生である。この段階で指導教員がネカトを大学に報告し、大学が調査し、研究公正局も出動するのは、ヤリスギである。

ネカトをしてはいけないことを研究室で指導し、その後、様子を見ながらネカトしない人間にミルチャンダニを育てられなかったのだろうか?

と思うが、院生の性格・将来性は指導している教員しかわからない。

ミルチャンダニは院生ではあるが、学部生のころから、旅行業「Escapes In The Sun」で働いていて、社長補佐にもなっていた。本気で研究する気がないし、能力もないと、ヴァーツ教授は感じていたのだろう。

それで、ネカトをしおに研究界から放り出したに違いない。大学と研究公正局を巻き込むのはヤリスギだが、放り出したのは正解なのかもしれない。

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●8.【主要情報源】

① 2017年7月14日、研究公正局の報告:Case Summary: Mirchandani, Alec | ORI – The Office of Research Integrity(保存済)
② 2017年7月14日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Volunteer researcher faked weeks’ worth of data – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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