7-167 ネカト告発で2千万円ゲット(米国)

2025年3月10日掲載 

白楽の意図:米国のアティラ・ファーマ社の最高経営責任者(CEO)だったリーン・カワス(Leen Kawas)は、ネカト論文でNIHの研究助成金を得ていた。2025年1月、虚偽請求法(False Claims Act)違反の解決金として、アティラ・ファーマ社は400万ドル(約4億円)の和解金を政府に支払った。虚偽請求法違反をキイタム訴訟で告発したアンドリュー・マロン(Andrew P. Mallon)は約2千万円を得た。このことを述べた「2025年1月のWhistleblower Network News」論文と「2025年1月のNational Law Review」論文を読んだので、内容を混ぜて紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の関連記事
2.「2025年1月のWhistleblower Network News」論文+「2025年1月のNational Law Review」論文
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の関連記事】

★2021年10月22日:リーン・カワス(Leen Kawas)(米) | 白楽の研究者倫理

出典 → ココ

リーン・カワス(Leen Kawas)(米)

●2.【「2025年1月のWhistleblower Network News」論文+「2025年1月のNational Law Review」論文】

★読んだ論文

今回は以下の2論文を混ぜて解説した。

1論文目

2論文目

●【論文内容】

★虚偽請求法(False Claims Act)で15~30%

米国のワシントン州に本拠があるバイオ医薬品会社のアティラ・ファーマ社(Athira Pharma Inc.)が、補助金申請や助成金申請でNIHと健康福祉省(Department of Health and Human Services)に研究不正行為の申し立てを報告しなかったことで、虚偽請求法(False Claims Act)に違反した。

2025年1月6日、その解決金として、アティラ・ファーマ社は400万ドル(正確には4,068,698ドル)(約4億円)の和解金を政府に支払うことに同意した、と米国・司法省(DOJ)は発表した。 → Office of Public Affairs | Athira Pharma Inc. Agrees to Pay $4M to Settle False Claims Act Allegations Related to Scientific Research Misconduct | United States Department of Justice

虚偽請求法・違反の決着は、告発者がキイタム訴訟(qui tam lawsuit)で告発した結果だった。

告発者は研究不正行為の摘発に重要な役割を果たし、連邦政府は400万ドルを得た。

政府の研究助成金の使い方を監視し、米国納税者のお金の無駄を省くことに貢献した見返りとして、告発者は、虚偽請求法の規定に基づき、政府が回収した金額の15~30%を受け取る権利がある。

★リーン・カワス(Leen Kawas)

バイオ医薬品会社のアティラ・ファーマ社(Athira Pharma Inc.)の最高経営責任者(CEO)だったリーン・カワス(Leen Kawas)は、博士論文と出版論文でデータねつ造・改ざんしていた。

それらネカト論文を記載した複数の研究助成金申請書が採択され、NIHから助成金が授与された。

白楽注:白楽はカワスが受領したグラントの額を調べようと、NIHグラントサイトを「Leen Kawas」で検索した。すると、何もヒットしなかった。ヘンですね。削除された? → RePORT ⟩ Leen Kawas
「Athira Pharma」で検索したら、別の人がヒットした。 → RePORT ⟩ Athira Pharma

疑惑の不正行為は2016年1月1日~2021年6月20日までの5年5か月に及んだ。その間、アティラ・ファーマ社は規則に違反していたことになる。

★不正行為の摘発における告発者の役割

告発者のアンドリュー・マロン(Andrew P. Mallon、写真出典)は、虚偽請求法のキイタム条項(qui tam provisions)に基づいて訴訟を起こした。

虚偽請求法は、政府の資金を詐欺的に不正請求した時、私人が米国政府に代わって訴訟を起こすことができる仕組みである。

裁判が成功した場合、告発者は和解金の15~30%を受け取る資格がある。今回、マロンは和解金の一部として20万3,434ドル(約2千万円)を受け取ることになった。[白楽注:この額は和解金の5 %である。なぜ、15~30%ではないのか、わかりません]

★納税者のお金と研究不正行為の影響

NIHなどの連邦機関は、助成金受領者が正確かつ真実の情報に基づいて研究助成を申請しているという前提で、研究助成金を配布している。

研究データの操作を含むあらゆる形態の不正行為は、研究プロセスを損なうだけでなく、公的資金の無駄遣いにもつながる。

この事件について、司法省民事局長(head of the Justice Department’s Civil Division)のブライアン・ボイントン(Brian M. Boynton)首席副司法次官補(Principal Deputy Assistant Attorney General)は、「研究界と連邦政府との間のパートナーシップは、研究公正という共通の価値観に基づいた信頼の上に構築されている」と述べた。

★なぜ虚偽請求法が重要なのか

虚偽請求法は、詐欺によって失われた納税者の資金を取り戻すための米国政府の最も効果的な手段の 1つになっている。

虚偽請求法はもともと南北戦争中の時、軍需物資の詐欺を摘発するために制定されたものだった。

その後、政府の研究助成金、医療プログラム、その他の連邦資金活動に対する広範な不正行為を網羅するように発展してきた。

●7.【白楽の感想】

《1》この話題の他の論文 

この話題は注目を集め、他にも論文がある。

《2》キイタム金稼ぎ 

虚偽請求法(False Claims Act)のキイタム条項(qui tam provisions)は、国の助成金が無駄に使われるのを防ぐ告発に対し、政府が回収した額の15~30%をネカト告発者に払う制度なので、日本にもぜひ導入して欲しい。一石二鳥の制度だと思う。 

今回、アンドリュー・マロンは、約2千万円をもらう。

マロンは2005年に英国のグラスゴー大学(University of Glasgow)で神経薬理学の研究博士号を取得し、カリスタ・セラピューティクス社(Calista Therapeutics)を創業した。その会社の社長だが、カリスタ・セラピューティクス社は社員3人の弱小会社なので、約2千万円はそれなりのお金だろう。 → Andrew Mallon | LinkedIn

2千万円は白楽には大金だが、1回のネカト告発で34億円を得た話もある。

2019年3月25日、若干34歳のジョセフ・トーマス(Joseph Thomas、米国男性)は、ネカト告発で 34億円ももらったのである。 → 7-123 ネカト告発で34億円ゲット(米) | 白楽の研究者倫理

7-123 ネカト告発で34億円ゲット(米)

そんなにもらえなくても、1件数十万円もらえるなら、ネカトハンターはもっと増えるだろう。税金の無駄使いも少しは防げるし。

日本にもぜひ導入して欲しい。

《3》告発者活動 

日本では、告発者は建前では保護されるけど、現実は攻撃される。ろくな目に合わない。

米国でも、「内部告発者は追放され、解雇され、訴えられ、不正行為で告発され、友人を失い、家族を失う」。 → 7-162 カール・エリオット:不正者を守り告発者を罰する現実 | 白楽の研究者倫理

7-162 カール・エリオット:不正者を守り告発者を罰する現実

でも、告発者ネットワークがある。 → You searched for Research Misconduct – Whistleblower Network News

キイタム訴訟(qui tam lawsuit)のアーカイブがある。 → False Claims-Qui Tam Archives – Whistleblower Network News

そして、7月30日は「告発者感謝の日」だそうだ。 → National Whistleblower Appreciation Day – Wikipedia

7月30日の「告発者感謝の日」を、日本の祝日に!

https://www.nationaldaycalendar.com/national-day/national-whistleblower-day-july-30

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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