マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)(イタリア)

2020年12月26日掲載 

ワンポイント:2020年(60歳?)、グリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)・準教授・医師のフィオラネッリは、5G(最新の携帯電話技術)の電磁波がコロナウイルスを作るというトンデモないねつ造論文である「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文を出版し、スグに撤回された。著者7人は共に悪名高いデタラメ研究者(または架空人物)で、学術誌はトンデモ学術誌だった。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「5」、「1B」の「3」、「4A」の「1」、「4E」の「1」に挙げられた。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-1319-8779、写真出典)は、イタリアのグリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)・準教授・医師で、専門は生理学である。

2020年(60歳?)、フィオラネッリは5G(最新の携帯電話技術)の電磁波がコロナウイルスを作るというトンデモないねつ造論文である「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文を出版した。

この論文は直ぐにネカトハンターのジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)などに問題点が指摘された。ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)も問題点を詳細に指摘した。

共著者7人の論文だが、共著者も悪名高いデタラメ研究者(または架空人物)だったばかりか、インチキ論文を掲載した学術誌「J Biol Regul Homeost Agents」自体もトンデモない無節操学術誌だった。

批判を受け、論文は直ぐに削除された。ルールでは論文に「撤回」と朱印するのだが、学術誌「J Biol Regul Homeost Agents」は論文そのものを削除してしまった。つまり、元々そのような論文を掲載していなかったように処理した。

フィオラネッリは他にも2019年の5論文が撤回されていて、インチキ性の強い研究者と思われる。

グリエルモマルコーニ大学はフィオラネッリのネカト調査を始めたようすはない。従って、処分をしていない。

ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)はフィオラネッリの「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文は2020年の最悪論文だろうと書いている。また、この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1A」の「5」、「1B」の「3」、「4A」の「1」、「4E」の「1」に挙げられた。

国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

グリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)。写真出典

  • 国:イタリア
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:ローマ・ラ・サピエンツァ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1978年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:生理学
  • 最初の不正論文発表:2019年(59歳?)
  • 不正論文発表:2020年(60歳?)
  • 発覚年:2020年(60歳?)
  • 発覚時地位:グリエルモマルコーニ大学・準教授・医師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)やエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)で社交メディアやブログで公表
  • ステップ2(メディア):エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:6報が撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

Massimo Fioranelli (0000-0002-1319-8779) – ORCID

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。1978年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1978年11月2日~1984年4月2日(18~24歳?):ローマ・ラ・サピエンツァ大学(Università degli Studi di Roma La Sapienza)で学士号取得:医学、外科学
  • 1989年12月6日~2005年8月16日(29~45歳?):ファーテベネフラテッリ病院(Ospedale San Giovanni Calibita Fatebenefratelli)・心臓医
  • 2006年1月1日~2019年3月31日(46~59歳?):老人ホーム病院(Casa Di Cura Mater Dei)・心臓医主任
  • 2014年11月2日(54歳?)~現:グリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)・準教授
  • 2020年(60歳?):問題論文の発表と発覚と撤回

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
インタビュー動画:「医学の歴史を変えた医師たち(I Medici che hanno cambiato la storia della medicina) – YouTube」(イタリア語)29分23秒。
MedicinaInformazioneが2017/03/28に公開

【動画2】
「マッシモ・フィオラネッリ」と紹介。
インタビュー動画:「心の中の脳-朝(IL CERVELLO NEL CUORE – UNOMATTINA – YouTube」(イタリア語)10分57秒。
MedicinaInformazioneが2017/03/28に公開

●4.【日本語の解説】

なし

●5.【不正発覚の経緯と内容】

以下は、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の記事に沿って書いた。 → 2020年7月23日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事: Worst paper of 2020? 5G and Coronavirus induction – Science Integrity Digest

★問題論文のトンデモなさ

2020年7月16日(49歳?)、マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)は以下の「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents.」論文を出版した。

この論文は、5G(最新の携帯電話技術)がでる電磁波が皮膚細胞に吸収され、皮膚細胞は新しいヌクレオチドを作り、それが、コロナウイルスを作る、という論文である。

以下の図の出典は原著論文。

ホットな話題「5G」と「コロナウイルス」の2つがタイトルになっているので、読者の注意を惹くが、内容はトンデモナイ論文だった。

皮膚細胞が電磁波をどのように吸収し、どのように新しいヌクレオチドを作るのか、全く示されていない。そもそも、電磁波がヌクレオチドを作るというのはトンデモない生物学理論である。万一、それを認め、新しいヌクレオチドを作るにしても、どうして、コロナウイルスなのか?

結論はセンセーショナルだが、それを証明するデータがこの論文に示されていない。全くナンセンスなトンデモない論文なのだ。

しかも、査読者と論文読者を欺くためか、以下のような難解な数式も挿入されている。

ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がフィオラネッリの「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文は「2020年の最悪論文」だろう、と書いている。

★問題の共著者たち

論文の著者はマッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)を筆頭に「Fioranelli M, Sepehri A, Roccia M G, Jafferany M, Olisova OY, Lomonosov KM, Lotti T.」と7人が並んでいる。

この共著者たちの数人は、悪名高いデタラメ研究者なのだ。ということは、多分、全員がデタラメ研究者、あるいは、実在しない架空研究者だろう。

第二著者のアリレザ・セペーリ(Alireza Sepehri)はイランの天体物理学者で、一時期、マラガ天文学・天体物理学研究所(Research Institute for Astronomy and Astrophysics of Maragha)の研究員だったが、そこを辞めて(解雇されて?)から無所属になり、かなり経つ。

しかし、依然として、マラガ天文学・天体物理学研究所に所属していることを装っている。セペーリのデタラメ研究者ぶりは、別の記事にまとめよう(忘れなければ)。 → Alireza Sepehri (0000-0001-9358-4452) – ORCID | Connecting Research and Researchers

第三著者のマリア・ロッシア(Maria Grazia Roccia、写真出典)はフィオラネッリと同じグリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)の教授で、医学史が専門である。フィオラネッリのデタラメ論文仲間である。

第六著者のロモノソフ(KM Lomonosov)は、エリザベス・ビックによると、「ResearchGate」に名前があるだけの研究者なので、実在の人物かどうか不明だとある。

ロモノソフはまた、ミハイル・ロモノソフ(Mikhail Lomonosov)(つまり同一人物?)が設立したモスクワ州立医科大学(Moscow State Medical University)に所属しているとある。

それで、エリザベス・ビックはロモノソフ(KM Lomonosov)を架空人物だと推定した。

ただ、ロシア人ジャーナリストのアレクセイ・ヴォドヴォゾフ(Aleksey Vodovozov)が、ロモノソフ(KM Lomonosov)は実在の人物だとコメントしている。右の写真の人(写真出典同、右) → Ломоносов Константин Михайлович

最後著者のトレロ・ロッティ(Torello Lotti、写真左、出典)は、フィオラネッリと同じグリエルモマルコーニ大学(Università degli Studi Guglielmo Marconi)の教授で、皮膚科医である。 → Lotti Torello (0000-0003-0840-1936) – ORCID | Connecting Research and Researchers

ロッティ教授はフィオラネッリの師で、フィオラネッリとたくさんの共著論文がある。そして、何回か問題を起こしているトンデモ教授である。ロッティ教授のデタラメ研究者ぶりは、別の記事にまとめよう(忘れなければ)。

★問題の学術誌

全くナンセンスなトンデモない論文を書いて投稿しても、通常というか、基本というか、ほぼ100%、まともな学術誌に論文は掲載されない。編集長や査読者が掲載を認めないからだ。例外は、捕食学術誌である。捕食学術誌は、金さえ払えば、論文を掲載してくれる。

学術誌「J Biol Regul Homeost Agents」(=Journal of Biological Regulators and Homeostatic Agents)はパブメド(PubMed)で索引化されているまともな学術誌で、捕食学術誌ではないとされている。

ところが、「J Biol Regul Homeost Agents」誌はフィオラネッリのトンデモない論文を出版した。

なぜか?

学術誌「J Biol Regul Homeost Agents」はまともな学術誌と思われていたが、実際は、トンデモない学術誌だったのだ。

どうしてパブメド(PubMed)が索引化したのだろう?

学術誌のサイトには、「投稿論文はすべて査読されている」とあり、一見、まともな学術誌である。

しかし、編集委員は見つけにくい。ようやく見つけると、以下のようだ(出典:Editorial Board – Biolife – Scientific Publisher)。

編集長はイタリアのピオ・コンティ教授(Pio Conti)である。編集長を含め、編集委員の名前と国だけが記載され、所属は記載されていない。ハイパーリンクも張ってない。マー、まともな学術誌でもこういう事は結構ある。

エリザベス・ビックによると、編集委員の数人は故人だそうだ。まともな学術誌では、こういう事は「ありえない」。

例えば、編集委員としてリストされているイタリアの「G. Bonadonna」は2015年に81歳で亡くなっている。

また、米国の「James Mier」はネカト者である。

こりゃ、ヒドイ。

1人、日本人「K. Sugimoto」が編集委員になってますね。どこの大学の人でしょう? この人はまともなんでしょうか?

2020年7月16日(とあるので出版当日?)、掲載論文が批判され大騒ぎになったので、学術誌はフィオラネッリの「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文をコッソリ、削除してしまった。削除は、あたかも、元々、論文は存在していなかった、と思わせる痕跡残さずの削除だった。

この「コッソリ」及び「削除」も出版規範委員会(COPE)のルールに違反している。

学術論文の撤回ルールでは撤回論文を「削除」してはならない。論文に「撤回」と朱印しウェブサイトに残すルールだ。ところが、学術誌「J Biol Regul Homeost Agents」は論文そのものを削除してしまった。つまり、元々そのような論文を掲載していなかったように処理した。

「コッソリ」もルール違反で、撤回時に、撤回を公告することになっている。

ただ、削除され、元々、論文は存在していなかった、と思わせる処理だったが、賢い人が事前に手を打っていた。要旨と論文PDFは保存されていた。 → ココ:要旨論文

★他のインチキ論文

本記事では、フィオラネッリの「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文、つまり、5G(最新の携帯電話技術)の電磁波がコロナウイルスを作るというトンデモないねつ造論文に焦点を合わせ、ネカト状況を記事にした。

しかし、パブメドで論文撤回を検索すると、他に以下のフィオラネッリの5論文が撤回されていた。5論文の内、4論文はフィオラネッリが第一著者で、アリレザ・セペーリ(Alireza Sepehri)が第二著者、マリア・ロッシア(Maria Grazia Roccia)が第三著者、そしてトレロ・ロッティ(Torello Lotti)が最後著者である。

どれも2019年出版で、インチキ仲間とともに、イカガワシイ論文を多数出版していた。

こまかい説明を省くが、対象にしている研究テーマはかなり広範で、タイトルだけ見ても、インチキ臭がする。

  1. A Mathematical Model for the Signal of Death and Emergence of Mind Out of Brain in Izhikevich Neuron Model.
    Fioranelli M, Sepehri A, Roccia MG, Rossi C, Lotti J, Barygina V, Vojvodic P, Vojvodic A, Vlaskovic-Jovicevic T, Vojvodic J, Dimitrijevic S, Peric-Hajzler Z, Matovic D, Sijan G, Wollina U, Tirant M, Thuong NV, Lotti T.
    Open Access Maced J Med Sci. 2019 Sep 11;7(18):3121-3126. doi: 10.3889/oamjms.2019.774. eCollection 2019 Sep 30.
  2. DNA Waves and Their Applications in Biology.
    Fioranelli M, Sepehri A, Roccia MG, Rossi C, Lotti J, Vojvodic P, Barygina V, Vojvodic A, Vlaskovic-Jovicevic T, Peric-Hajzler Z, Matovic D, Vojvodic J, Dimitrijevic S, Sijan G, Wollina U, Tirant M, Thuong NV, Lotti T.
    Open Access Maced J Med Sci. 2019 Sep 11;7(18):3096-3100. doi: 10.3889/oamjms.2019.767. eCollection 2019 Sep 30.
  3. Recovery of Brain in Chick Embryos by Growing Second Heart and Brain.
    Fioranelli M, Sepehri A, Roccia MG, Linda C, Rossi C, Dawodo A, Vojvodic P, Lotti J, Barygina V, Vojvodic A, Wollina U, Tirant M, Thuong NV, Lotti T.
    Open Access Maced J Med Sci. 2019 Aug 30;7(18):3085-3089. doi: 10.3889/oamjms.2019.777. eCollection 2019 Sep 30.
  4. A Black Hole at the Center of Earth Plays the Role of the Biggest System of Telecommunication for Connecting DNAs, Dark DNAs and Molecules of Water on 4+N- Dimensional Manifold.
    Fioranelli M, Sepehri A, Roccia MG, Linda C, Rossi C, Vojvodic P, Lotti J, Barygina V, Vojvodic A, Wollina U, Tirant M, Thuong NV, Lotti T.
    Open Access Maced J Med Sci. 2019 Aug 30;7(18):3073-3080. doi: 10.3889/oamjms.2019.776. eCollection 2019 Sep 30.
  5. New System Delivering Microwaves Energy for Inducing Subcutaneous Fat Reduction: In – Vivo Histological and Ultrastructural Evidence.
    Zerbinati N, d’Este E, Cornaglia AI, Riva F, Farina A, Calligaro A, Gallo G,Perrotta ER, Protasoni M, Bonan P, Vojvodic A, Fioranelli M, Thuong NV, Lotti T, Tirant M, Vojvodic P.
    Open Access Maced J Med Sci. 2019 Aug 30;7(18):2991-2997. doi: 10.3889/oamjms.2019.778. eCollection 2019 Sep 30.

【ねつ造の具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年12月25日現在、パブメド( PubMed )で、マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)の論文を「Massimo Fioranelli [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2015~2021年の7年間の60論文がヒットした。

「Fioranelli M」で検索すると、1990~2021年の32年間の112論文がヒットした。

112論文中、「Lotti T.」との共著論文は66報あった。「Roccia MG」との共著論文は88報あった

2020年12月25日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents.」論文を含め6論文が撤回されていた。全部、「Lotti T.」との共著論文だった。「Roccia MG」との共著撤回論文は5報だった。

★撤回監視データベース

2020年12月25日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)を「Fioranelli」で検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents.」論文を含め 0論文が訂正、0論文が懸念表明、3論文が撤回されていた。

2019年に出版された2論文と2020年に出版された1論文が、2020年7~9月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年12月25日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)の論文のコメントを「Massimo Fioranelli」で検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文が入っていない25論文にコメントがあった。

「2020年7月のJ Biol Regul Homeost Agents」論文が入っていないのは論文が削除され、かつ、論文固有の番号(ID)であるDOI番号を変えられたためだと思われる。

●7.【白楽の感想】

《1》デタラメ研究者 

ネカト事件を調べていると、善良な研究者が「たまたま」「うっかり」ネカトしてしまったとか、「間がさして」ネカトしてしまった、という理由を主張する人たちが相当いる。実際には、この場合、ネカトでクロと判定されるので、「善良な研究者」とは言えない。「間がさして」人を殺しても、殺人者を「善良」とは言わない。

善良な研究者が「たまたま」「うっかり」間違えてしまうことはある。このケースはかなりたくさんあると思う。この場合、ネカトはシロ、つまり「間違い」と判定される。

しかし、実際のネカト事件のほぼ全部は、「たまたま」「うっかり」も「間がさして」でも、動機として「得しよう」「ズルしよう」と、悪いと知りつつ意図的にネカトをしたのである。ほぼ全部、確信犯である。だから、研究者に対して「ネカトは悪いことなので、止めましょう」的な研修はほとんど役に立たない。悪いと知っていてネカトをするのだから、その人にネカトは悪いと教えても抑制力はない

そして、今回のマッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli、写真出典)の事件のように、デタラメ論文を平然と発表する研究者が、少数ではあるが居る。

フィオラネッリのデタラメ論文はデータねつ造ではあるが、他の多くの論文で見られるねつ造・改ざんとすこし性格が異なる。

フィオラネッリのデタラメ論文は、なんというか、学術界には受け入れられないが、自分の独特の学説を展開するスタイルなのだ。データはないし、結論はこじつけである。科学研究の基本を逸脱している。本人も自分の論文の結論を信じているとは思えない。イヤ、信じているのかな? ワカリマセン。

しかし、世間一般も研究者も、デタラメ論文を信用してしまう可能性がある。

そして、学術界がデタラメ論文を許容すると学術界の沽券・信用にかかわる。

フィオラネッリは大学の準教授で医師という社会的信用度の高い地位にいる。このようなデタラメ研究者を排除しないと、人々に害をもたらす。この害がじわじわと社会に浸透していく。当然、学術界の信用は落ちる。

勿論、言論の自由はある。学問の自由もある。しかし、科学研究・学術界には規範がある。人は自由だが、学術規範に合わない研究者は学術界から排除されるべきだ。

ところが、このようなデタラメ研究者を排除する確固たるシステムが世界にはない。研究者仲間のうわさ話や悪い評判を共有する弱いシステムしかない。このレベルだから十分な排除機能を望めない。

何とかした方がいい。

《2》需要と供給

デタラメ研究者やインチキ科学者がどうして誕生するのだろうか?

答は単純だ。

学術界や世間やマスメディアが求めるからだ。企業もインチキ臭いことを堂々と言ってくれる研究者は宣伝に使いやすいので歓迎だ。

今回のマッシモ・フィオラネッリ(Massimo Fioranelli)も、マスメディアにモテモテである。

イタリアだけでなく、日本でも、誰と名指ししないけど、デタラメ研究者やインチキ科学者がマスメディアにモテモテである。断っておくが、もちろん、まともな研究者もマスメディアにたくさん登場している(と期待したい)。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 2020年7月23日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest記事: Worst paper of 2020? 5G and Coronavirus induction – Science Integrity Digest
② 2020年8月7日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journal that published paper linking 5G to COVID-19 blames “substantial manipulation of the peer review” – Retraction Watch
③ 2020年9月30日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“This unfortunate situation”: Journal retracts bizarre paper about a black hole at the center of Earth – Retraction Watch
④ 2020年10月12日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Sperm teleportation between Massimo Fioranelli and Alireza Sepehri – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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