ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)(米)

2024年6月27日掲載 

ワンポイント:2024年5月23日(29歳)、研究公正局は、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・テクニシャンだったグエンの1件のNIHへの研究進捗報告書、1件のプレゼンテーション、1件のポスター、6件の研究記録、1本の投稿予定論文中の2個の図、をねつ造・改ざんしていたと発表した。2024年5月14日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。なお、グエンはベトナム系米国人で、科学コミュニケーターとしてTikTokアカウント「lab_shenanigans」で50万人以上のフォロワーを持つ有名なインフルエンサーである。記事執筆時点では、出版論文はゼロ、当然ながら、撤回論文もゼロ。国民の損害額(推定)は7千万円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ダリオン・グエン(Darrion Nguyen、ORCID iD:、写真出典)は、ベトナム系米国人で、米国のテキサス大学オースティン校 (The University of Texas at Austin)で学士号(生化学、演劇・ダンス学)を取得し、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のテクニシャンになった。研究室の専門は神経科学(HADD症候群)である。

グエンは、TikTokアカウント「 lab_shenanigans」で50万人以上のフォロワーを持つ有名なインフルエンサーである。 → Lab Shenanigans | Official Website of Darrion Nguyen(ラボ・シェナニガンスは、「実験室の悪ふざけ」という意味)

2020年9月(25歳)、ネカト発覚前にベイラー医科大学を退職し、科学コミュニケーターとして独立した。

ネカト発覚の経緯は不明だが、内部資料のネカトも指摘されているので、研究室のボスのシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao)が見つけ通報したと思われる。

発覚時期は、退職1年後の2021年秋(27歳)と推定される。

グエンはベイラー医科大学のネカト調査に協力的だった。

ベイラー医科大学が調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告した。

2024年5月23日(29歳)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)・テクニシャンだったグエンが、1件のNIHへの研究進捗報告書、1件のプレゼンテーション、1件のポスター、6件の研究記録、1本の投稿予定論文中の2個の図、をねつ造・改ざんしていたと発表した。

2024年5月14日(29歳)から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。

ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1994年10月20日
  • 現在の年齢:29歳
  • 分野:神経科学(HADD症候群)
  • 不正文書発表:2020年3月~2021年7月(25~26歳)の1年5か月間
  • ネカト行為時の地位:ベイラー医科大学・テクニシャン
  • 発覚年:2021年(27歳)
  • 発覚時地位:自営の科学コミュニケーター
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は研究室のボスのシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ベイラー医科大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正文書数:研究公正局によると、1件のNIHへの研究進捗報告書、1件のプレゼンテーション、1件のポスター、6件の研究記録、1本の投稿予定論文中の2個の図、をねつ造・改ざん。2024年6月26日現在、出版論文がないので、撤回論文はない
  • 時期:研究界でのキャリアの初期
  • 職:事件前にテクニシャンを退職していた(Ⅹ)。事件後に発覚時の地位(科学コミュニケーター)を続けた
  • 処分:NIHから3年間の監督期間(Supervision Period)処分
  • 対処問題:なし
  • 特徴:有名なインフルエンサーの過去(テクニシャン時代)の事件
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は7千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:①ウィキペディア英語版:Darrion Nguyen – Wikipedia、②Darrion Nguyen | LinkedIn

  • 生年月日:1994年10月20日
  • 2013~2017年(18~22歳):米国のテキサス大学オースティン校 (The University of Texas at Austin)で学士号(生化学、演劇・ダンス学)を取得
  • 2017年(22歳):ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao)の研究室でテクニシャン
  • 2019年1月(24歳):ラボ・シェナニガンス社(Lab Shenanigans LLC)設立、lab_shenanigansのアカウントで科学コミュニケーター活動を始める
  • 2020年9月(25歳):ベイラー医科大学・退職。科学コミュニケーターとして独立
  • 2021年秋(27歳)?:不正が発覚(推定)
  • 2024年5月23日(29歳):研究公正局がネカトと発表

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「Can improv help you reach your goals? | Darrion Nguyen | TEDxUTAustin – YouTube」(英語)17分35秒。
TEDx Talks(チャンネル登録者数 4100万人)が2023/08/26に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)はベトナム系米国人で、米国のテキサス大学オースティン校 (The University of Texas at Austin)で学士号(生化学、演劇・ダンス学)を取得した。

学部卒業後、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao、赵孝端、写真出典)の研究室で、テクニシャンとして働いた。研究博士号(PhD)を持っていない。

ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)でテクニシャンとして働いていた2019年(24歳)、グエンは「Lab Shenanigans」(ラボ・シェナニガンス、、「実験室の悪ふざけ」という意味)というアカウントでInstagramとTikTokに教育科学の動画を公開し始めた。

グエンはTikTokアカウント「 lab_shenanigans」で50万人以上のフォロワーを持つ有名人になった。 → Lab Shenanigans | Official Website of Darrion Nguyen

有名人なので、ウェブ上にたくさんの写真がある。以下は「Darrion Nguyen – Google Search」の一部(保存した月日と異なる)。

動画は特定の生化学のトピックを擬人化およびドラマ化したもので、とても人気があった。

コロナ・パンデミックの時、コロナワクチンについて国民に説明し、フォロワーが拡大した。

2020年9月(25歳)、グエンはベイラー医科大学を辞職し、「楽しくて消化しやすい科学コンテンツを作る」夢を抱いて科学コミュニケーターとして独立した。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2020年3月~2021年7月(25~26歳)の1年5か月間の研究室での内部資料でもネカトが指摘されている。

それで、研究室のボスであるシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao)が見つけ通報したと思われる。

発覚時期は、2021年7月12日の研究進捗報告書のネカトが指摘されているので、それ以降の2021年秋(27歳)と推定した。

ベイラー医科大学のネカト調査が始まると、グエンは自分で名乗り出て、不正を認めた。

グエンは「私は自分の過ちに責任を持ち、過ちを認めることの重要性を認識しています」と「撤回監視(Retraction Watch)」に述べている。

★獲得研究費

ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)はテクニシャンで、NIHから研究費を獲得していない。 → RePORT ⟩ Darrion Nguyen

ボスのシャオ=トゥアン・チャオ助教授(Hsiao-Tuan Chao)は、2008~2022年の15年間に7件、計2,048,720ドル(約2億円)の研究費を獲得していた。→ RePORT ⟩ Hsiao-Tuan Chao

以下に最新の4件を示す(出典は上記)

★研究公正局

2024年5月23日(29歳)、研究公正局はグエンが1件のNIHへの研究進捗報告書、1件のプレゼンテーション、1件のポスター、6件の研究記録、1本の投稿予定論文中の2個の図、をねつ造・改ざんしていたと発表した。 → 2024年5月23日:Case Summary: Nguyen, Darrion | ORI – The Office of Research Integrity

2024年5月14日から3年間の監督期間(Supervision Period)処分を科した。3年間の監督期間(Supervision Period)処分は普通の処分である。

1件のNIHへの研究進捗報告書は以下の通り。2021年7月12日の研究進捗報告書

  • DP5 OD026428-04, “Illuminating GABAergic Signaling in Neurodevelopmental Disorders,” submitted to OD, NIH, on July 12, 2021 (hereafter referred to as “DP5 OD026428-04”).

1件のプレゼンテーション(2020年9月)

  • Elucidating the role of EBF3 haploinsufficiency in HADD syndrome pathogenesis. Jan and Dan Duncan Neurological Research Institute Seminar (NRI) Series, January 6, 2020 (hereafter referred to as “NRI Seminar 2020”).

1件のポスター(2020年3月24日)

  • Elucidating the role of EBF3 haploinsufficiency in 10q26 deletion and HADD syndrome pathogenesis. Poster presentation, Baylor College of Medicine – Texas Children’s Hospital Pediatric Research Symposium, March 24, 2020 (hereafter referred to as “Poster 2020”)

6件の研究記録

  • Research Record “2019-5-1_Cerebellar PC Dens_P0.xlsx” (hereafter referred to as “RR1 2019”)
  • Research Record “2019-6-27_Cerebellar PC Dens_P0.xlsx” (hereafter referred to as “RR2 2019”)
  • Research Record “2019-5-1_P0 Cerebellum Quants.pzfx” (hereafter referred to as “RR3 2019”)
  • Research Record “2019-5-21_DN-Cohort5 (Analyzed).xlsx” (hereafter referred to as “RR4 2019”)
  • Research Record “2019-8-28_Partition-Cohorts 1, 2, 3, 4, 5, 6.pzfx” (hereafter referred to as “RR5 2019”)
  • Research Record “2019-12-11_Dystonia.xlsx” (hereafter referred to as “RR6 2019”)

1本の投稿予定論文中の2個の図

  • “Fig1- GeneratingNullLines.v5.tif” (hereafter referred to as “PM Figure 1”) and “Fig3 -Behavior.v6.png” (hereafter referred to as “PM Figure 3”) in a prospective manuscript with working title “Ebf3 haploinsufficiency perturbs cerebellar development and complex behaviors” (hereafter referred to as the “manuscript”)

グエンは、不正行為を認めたり否定したりする必要のない任意和解契約を締結した。

「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、グエンは、「私は精神的に苦しい職場環境の中で、多くのデータを得ようと近道をしました。テクニシャンの仕事を続けるためにボスの期待に応えなければというプレッシャー、研究室の要求をこなすための苦労が原因でした」と述べている。

【ねつ造・改ざんの具体例】

ネカトの文書はどれもインターネットでアクセスできないので、ねつ造・改ざんの具体例は不明である。

2021年7月にNIHに提出された2021年7月12日の研究進捗報告書「Illuminating GABAergic Signaling in Neurodevelopmental Disorders」に関するものでは、使用されたマウスの数、それらの相互作用、マウスの脳測定値と症状の重症度、のデータにねつ造・改ざんがあった、とある。

白楽は、具体的内容(マウスの数など)をつかめなかった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2024年6月26日現在、パブメド(PubMed)で、ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)の論文を「Darrion Nguyen [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。

テクニシャンなので、出版論文がないのは不思議ではない。

★撤回監視データベース

2024年6月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでダリオン・グエン(Darrion Nguyen)を「Darrion Nguyen」で検索すると、0論文が撤回されていた。

出版論文がないので撤回論文はない。

★パブピア(PubPeer)

2024年6月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)の論文のコメントを「Darrion Nguyen」で検索すると、0論文にコメントがあった。

出版論文がないのでコメントはできない。

●7.【白楽の感想】

《1》研究倫理教育 

ダリオン・グエン(Darrion Nguyen)はテクニシャンである。久しぶりにテクニシャンのネカト事件を取り上げた。

かつて、米国ではテクニシャンの研究倫理教育が不十分だという批判があった。

ネカト行為が発覚し、研究公正局からクロ認定されると、米国連邦官報に一生実名が記載されたままになる。このように、消えない前科が公表されたままになるなど、ネカト行為の処罰が厳しい面があることが知らされていない。

院生は研究倫理教育が義務化されているが、学部生には義務化されていない。例え、学部生に研究倫理教育をしても、テクニシャンに採用された段階で、研究倫理教育をすべきだという批判があった。

その後、改善されているのだろうか?

日本も初等・中等教育からネカト教育をすべきである。小学生に最初にレポート提出の課題を出すとき、ねつ造・改ざんしないこと、他人の文章を流用するときは引用だと明記すること、をレポートの基本スタイルとして、徹底的に指導し、身につけさせるべきである。

少なくとも、高校生や学部生には教育すべきだ。高卒・学部卒で研究分野に進まなくても、企業での検査偽装、食品偽装、などなど、すべての業界でデータねつ造・改ざんや虚偽行為、文書盗用は厳重に禁止される。その基本ルールをシッカリ身に付けさせた方がいい。

ダリオン・グエン(Darrion Nguyen):https://web.archive.org/web/20240530014005/https://wimitla.com/tiktok/darrionnguyen

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Darrion Nguyen – Wikipedia
② 研究公正局の報告:(1)2024年5月23日:Case Summary: Nguyen, Darrion | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2024年5月30日の連邦官報:2024-11829.pdf。(3)2024年5月30日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2024年6月13日:NOT-OD-24-140: Findings of Research Misconduct
③ 2024年5月23日のドーン・アトライド(Dawn Attride)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘Lab shenanigans’: TikTok influencer faked data, feds say – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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