社会心理学:イェンス・フェルスター(Jens Förster)(オランダ)

ワンポイント:著名な心理学者のねつ造・改ざん大事件

【追記】
・2017年12月13日。2017年7月にルール大学ボーフム・辞職。2017年12月12日の撤回監視記事: Psychologist under fire leaves university to start private practice – Retraction Watch at Retraction Watch

【概略】
forster-j-a1イェンス・フェルスター(Jens Förster、写真出典)は、オランダのアムステルダム大学(University of Amsterdam)・教授で、国際的に著名な社会心理学者で、歌手でもある。

2013年(47歳)、ねつ造・改ざん疑惑が生じた。
2015年6月2日(49歳)、アムステル大学・研究公正委員会は、フェルスターに研究ネカトがあったと発表した。

フェルスターはデータねつ造を否定している。

オランダでは同じ社会心理学で、2011年にディーデリク・スターペル(Diederik Stapel)のデータねつ造が発覚し大きな事件になった。フェルスターは、スターペルよりも有名人である。

atfnオランダのアムステルダム大学(University of Amsterdam) 写真出典

  • 国:オランダ
  • 成長国:ドイツ
  • 研究博士号(PhD)取得:ドイツのトリーア大学(Universität Trier)
  • 男女:男性
  • 生年月日:1965年。仮に1966年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:58 (+1)歳
  • 分野:社会心理学
  • 最初の不正論文発表:2008年(42歳)
  • 発覚年:2013年(47歳)
  • 発覚時地位:オランダのアムステルダム大学・教授
  • 発覚:
  • 調査:①アムステルダム大学・調査委員会。②オランダの国家研究公正委員会(LOWI: National Board for Research Integrity)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:少なくとも11報は撤回の方向
  • 時期:研究キャリアの初期から(?)
  • 結末:辞職・移籍

【動画】
イェンス・フェルスター(Jens Förster)が心理学についてインタビューを受けている。「ZEIT Akademie PSYCHOLOGIE – Probevideo – YouTube」(ドイツ語かオランダ語)3分16秒。
ZEIT Akademieが2012/10/17 に公開

日本語の文章があったので引用する。日本語での言及は幾つもあって、イェンス・フェルスターの学説は日本人に大人気である。

★片桐のブログ

2012年10月13日の記事「上下運動」から修正引用する。

ドイツ人の社会心理学者(兼歌手)のJens Försterは、2004年の論文「体の動きは製品に対する消費者の評価にどのように影響を与えるか」でこの実験をしました。
ある商品を左右に動かしながら見せるのと上下に動かしながら見せた場合、上下に動かした方が、商品に対しての印象がよかったそうです。
体の動作も同じで、首を上下に振る=Yesな気持ち、首を左右に振る=Noな気持ち、になりやすいんだそうです。モノを売っている皆さんは、上下に商品を移動させながらお客さんに見せるといいのではないでしょうか(上下運動)。

★金髪女性はバカ? 偏見は自信喪失に直結

2004年7月20日の記事「懐疑派ブログ: 金髪女性はバカ?偏見は自信喪失に直結」から修正引用する。

偏見は自信喪失に直結と、「金髪は馬鹿?」関連実験(CNN.co.jp)

ベルリンーードイツ北部の都市ブレーメンにある私立の国際大学が「金髪女性は本当に馬鹿なのか?」に関連するテストを金髪女性を含めて実施し、「偏見が人間の心理に影響し、自信を喪失させ、能力を低下させてしまう」好例が得られたと発表した。同大の社会心理学者イェンス・フェルスター氏が発表した。

同大の社会心理学者イェンス・フェルスター氏が指導したテストでは、さまざまな髪の色を持つ約80人の女性が、思考力が迅速かつ正確に働くかどうかを調べる知能テストを受け、結果を比較対照した。

しかし、半数の40人にはテスト直前、「なぜ金髪女性はスーパー内でヨーグルトのふたあけようとするのか?なぜなら、ふたに『ここで開けて(Open Here)』と書いてあるから」などとの金髪女性に関する冗談を読ませた。

この結果、冗談を読んだ複数の金髪女性がほかの人に比べ成績が悪かったことが判明した。フォルスター氏は「金髪女性に対するステレオタイプ的な偏見を突き付けると、金髪の人間は、自分は間違いを犯さないよう、慎重に挑もうとの心理が働き、テストをこなすスピードが顕著に減速した」と説明している。

テストの内容は、迅速性を求められるものであるため、ゆっくり処理した場合、良い点数は得られない。しかし、これらの金髪女性はゆっくりだったが的確に処理しており、回答率から見ると、ほかの人に比べ全く悪くない結果だったという。

★週刊EXILE

2011年10月29日の記事「ERIEXブログ 心理テスト 週刊EXILE」から修正引用する。

心理学者のイェンス・フェルスターがこんな実験をしています。
「標準的な絵」と「独創的な絵」の2枚を用意します。「標準的な絵」は、黄緑色の背景に、濃い緑色の12コの十字架が描かれています。「独創的な絵」は、黄緑色の背景に、濃い緑色の11コの十字架と、1コだけ黄色の十字架が描かれています。

独創的と言っても、その程度のことで、2枚のちがいは、十字架が「全部同じ色で描かれている」か「1個だけちがう色で描かれているか」だけのことです。

そして、どちらか一方の絵の前に座って、創造力のテストを受けてもらいました。その結果、「標準的な絵」よりも「独創的な絵」を見たほうが、創造力のテストで好成績を出すことができました。

つまり、「独創的」な絵画をながめるだけで、見ているほうも創造性が高められるのです。一枚の絵を眺めているだけでいいのですから、とてもお手軽です。

★気づかれずに相手を動かす心の誘導術

2014年5月9日、フェルスターの研究成果に不正なデータ操作があると発表された(Fresh Misconduct Charges Hit Dutch Social Psychology)。この研究ネカトは、日本には十分伝わなかったようだ。8か月後、不正と知らずに、フェルスターの研究成果に言及した著書も出版された。ただ、著書に引用した部分はデータねつ造と結論されているわけではありません。

2015年1月20日出版、内藤誼人「気づかれずに相手を動かす心の誘導術」にフェルスターの研究成果に言及がある。以下はその部分の引用。本-1

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【不正発覚の経緯と内容】

2013年初頭(?)、フェルスターの以下の2009-2011年の3論文(あるいはそのうちの1論文)がデータねつ造だと公益通報された。アムステルダム大学(University of Amsterdam)は研究公正委員会(committee for scientific integrity)を設置し、調査を始めた。

  1. Förster, J. (2009). Relations Between Perceptual and Conceptual Scope: How Global Versus Local Processing Fits a Focus on Similarity Versus Dissimilarity.
    Journal of Experimental Psychology: General, 138, 88-111.
  2. Förster, J. (2011). Local and Global Cross-Modal Influences Between Vision and Hearing, Tasting, Smelling, or Touching.
    Journal of Experimental Psychology: General, 140, 364-389.
  3. Förster, J. & Denzler, M. (2012). Sense Creative! The Impact of Global and Local Vision, Hearing, Touching, Tasting and Smelling on Creative and Analytic Thought.
    Social Psychological and Personality Science, 3, 108-117

2013年7月、アムステルダム大学(University of Amsterdam)・研究公正委員会(committee for scientific integrity)は、フェルスターのデータはねつ造・改ざんだという公益通報を、証拠が不十分という理由で却下した。

2013年10月(?)、上記の結論に反するが、オランダ国家研究公正委員会(LOWI: National Board for Research Integrity)は、フェルスターのデータの不正操作があったと考えざろう得ないと発表した。

なお、オランダ国家研究公正委員会(LOWI)は2003年にオランダ王立芸術科学アカデミー(Dutch Royal Society、Royal Netherlands Academy of Arts and Sciences)に設立された機関で、アカデミーとは独立に、研究公正規範に違反する(violations of norms on research integrity)オランダの大学や研究所の事件を担当している(Overview — KNAW)。

2014年3月28日、アムステルダム大学・研究公正委員会は、国家研究公正委員会(LOWI)の結論を受け入れた。

2014年5月9日、米国の「サイエンス」誌が、オランダ国家研究公正委員会(LOWI)がフェルスターの研究成果に不正なデータ操作があるとした、と発表した(Fresh Misconduct Charges Hit Dutch Social Psychology)。

2015年4月(49歳):フェルスターには、ドイツのアレキサンダー・フォン・フンボルト財団によりフンボルト教授職の授与が決定していた。フンボルト教授職には5百万ユーロ(約5億円)の研究費が支給される素晴らしい地位である。しかし、フェルスターは、2015年5月に辞退した。

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2015年6月2日、アムステルダム大学・研究公正委員会は、フェルスターに研究ネカトがあったと発表した。(Articles Jens Förster investigated – University of Amsterdam

この発表では、先に不正と公益通報された3論文を含め15報の論文を精査した。結論は以下の通りである。

15論文の研究公正を、「ヴェラシティ(veracity:正直、誠実、正確、精密、真実、真相)」が欠けている度合いで次の3つのカテゴリーに分類した。

(1)8報(2009-2012年)はヴェラシティ(veracity)欠如が大きい。初期に問題視された3論文はすべてここに該当した。
(2)3報(2008-2010年)はヴェラシティ(veracity)欠如がそこそこある。
(3)4報(2009-2012年)はヴェラシティ(veracity)欠如がない。

カテゴリー(1)と(2)の計11論文を出版したジャーナル編集部に、調査報告書を送付し、論文撤回を要請する。

また、フェルスターが論文指導した院生の博士論文も調査する。

2015年6月3日、「Science Insider」誌は、アムステルダム大学・研究公正委員会の調査報告書「Evaluating the Scientifc Veracity of Publications by dr. Jens Förster」を入手し、公表した。報告書は2015年5月15日付けで、英文109ページからなっている( → PDF)。

調査委員は3人である。
・委員長 Carel F.W. Peeters(心理学:VU University Medical Center)
・委員Chris A.J. Klaassen(数学統計学:University of Amsterdam)
・委員Mark A. van de Wiel(計算学:Vrije Universiteit / VU medical center)
統計や計算の専門家が2人もいる。

なお、フェルスターは自分のサイトでデータねつ造を否定している(【主要情報源】④)。

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【論文数と撤回論文】

2015年8月26日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、イェンス・フェルスター(Jens Förster)の論文を「Jens Förster [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004年から2014年までの11年間の21論文がヒットした。

フェルスターの分野は心理学なので、パブメドでは一部しかカバーしていないと思われる。

2015年8月26日現在、パブメドでは撤回論文はない。

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【白楽の感想】

《1》心理学分野に研究ネカトが多発

心理学分野の研究ネカト者は多い。どうしてなんだろう? それもオランダと米国に多い。どうしてなんだろう?

【主要情報源】
① 「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事群:jens forster Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
② ウィキペディア・ドイツ語版:Jens Förster – Wikipedia
③ 2015年6月2日、フランク・ファン・コルフシューテン(Frank van Kolfschooten)の「Science」記事:Report further incriminates social psychologist Jens Förster | Science/AAAS | News
④ イェンス・フェルスター(Jens Förster)自身のウェブサイト。事件に対する自説を展開している: Social Cognition Lab at the University of Amsterdam
★ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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