2020年2月12日掲載
ワンポイント:2020年1月14日(41歳?)、研究公正局は、マサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)・ポスドクだったタタロウがねつ造・改ざんしたと発表した。2019年12月30日から3年間の締め出し処分を科した。タタロウはトルコに育ち、ドイツのハイデルベルク大学で研究博士号(PhD)を取得した。2017年6月(38歳?)、マサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)のボスのパトリック・エメリー教授(Patrick Emery)がネカトを見つけて通報したと思われる。ネカト発覚後、トルコに帰国し、研究職を続けている。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu、ORCID iD:、写真出典)は、トルコに育ち、ドイツのハイデルベルク大学で研究博士号(PhD)を取得し、2010年12月、米国のマサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)・ポスドクになった。専門は生物時計学である。
2020年1月14日(41歳?)、研究公正局が、タタロウの「2015年11月のCell」論文と2015年5月に申請した研究費申請書でネカトがあったと発表した。
発覚時期は、2015年11月(36歳?)以降と推定される。2017年6月(38歳?)にマサチューセッツ大学医科大学院・ポスドクを辞めた(解雇された?)ので、本記事では、2017年6月(38歳?)発覚とした。研究室のボスのパトリック・エメリー教授(Patrick Emery)が見つけて通報したと思われる。
研究公正局は2019年12月30日(40歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は通常の処分である。
マサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:トルコ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ドイツのハイデルベルク大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:45 歳?
- 分野:生物時計学
- 最初の不正論文発表:xxxx年(xx歳)
- 不正論文発表:2015年(36歳?)
- 発覚年:2017年(38歳?)(推定)
- 発覚時地位:マサチューセッツ大学医科大学院・ポスドク
- ステップ1(発覚):第一次追及者はボスのパトリック・エメリー教授(Patrick Emery)(推定)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①マサチューセッツ大学医科大学院・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2件の研究費申請書、1報の出版論文(撤回)
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後にトルコに帰国し研究職を続けた(◒)
- 処分: NIHから 3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学に入学した時を18歳とした
- 1997年8月 – 2002年8月(18 – 23歳?):トルコのボアズィチ大学(Boğaziçi University)で学士号を取得:心理学
- 2002年8月 – 2006年8月(23 – 27歳?):米国のバージニア大学(University of Virginia)で修士号を取得:生物学
- 2006年12月 – 2011年2月(27 – 32歳?):ドイツのハイデルベルク大学(Universität Heidelberg Center for Biochemistry (BZH))で研究博士号(PhD)を取得:生化学
- 2011年3月 – 2017年6月(32 – 38歳?):マサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)・ポスドク
- 2015年(36歳?):後で問題視される「2015年のCell」論文を発表
- 2017年6月(38歳?)(推定):ネカトが発覚
- 2017年6月 – 2017年11月(38 – 38歳?):サンフランシスコのカリコ・ライフサイエンシズ社(Calico Life Sciences)・研究員
- 2017年9月(38歳?):「2015年のCell」論文が撤回
- 2017年12月(38歳?)(推定):トルコのイスティニエ大学・遺伝病診断センター(İstinye Üniversitesi Genetik Hastalıklar Tanı Merkezi’nde)・教員
- 2020年1月14日(41歳?):研究公正局がネカトと発表
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
2019年7月6日のニュース
オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)がトルコのイスティニエ大学・遺伝病診断センター(İstinye Üniversitesi Genetik Hastalıklar Tanı Merkezi’nde)・教員として、乳がんと膵臓がんの治療法の話をしている研究室の動画(トルコ語?)4分38秒。
Türk bilim insanları harekete geçti! Tamamlandığında meme ve pankreas kanserine çare olacak – Sağlık-Yaşam haberleri
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ネカト
オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)はトルコで生まれ、ドイツのハイデルベルク大学で研究博士号(PhD)を取得後、米国のマサチューセッツ大学医科大学院(University of Massachusetts Medical School)・ポスドクになった。ボスはパトリック・エメリー教授(Patrick Emery、写真出典)だった。
「2015年11月のCell」論文と2015年5月に申請した研究費申請書のネカトが指摘されている。
発覚時期は、「2015年11月のCell」論文を出版し、2017年9月にその論文が撤回される前である。2017年6月(38歳?)にマサチューセッツ大学医科大学院・ポスドクを辞めた(解雇された?)ので、本記事では、2017年6月(38歳?)発覚とした。
棒グラフのねつ造・改ざんなので、ネカト発見者は研究室内の人である。研究室のボスのパトリック・エメリー教授がネカトを見つけて通報したと思われる。
2020年1月14日(41歳?)、研究公正局はタタロウが2件の研究費申請書、1報の発表論文でねつ造・改ざんをしたと発表した。2019年12月30日から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は通常の処分である。
2件の研究費申請書は以下の通り。2件ともパトリック・エメリー教授が代表者である。
- R01 GM079182-05A1, “Synchronization of Drosophila Circadian Rhythms by Temperature Cycles,” submitted to NIGMS, NIH, on July 18, 2014. → Grantome: Search
- R35 GM118087-01, “Molecular and neural mechanisms generating and synchronizing circadian rhythms,” submitted to NIGMS, NIH, on May 19, 2015. → Grantome: Search
1報の発表論文は以下の「2015年11月のCell」論文で、2017年9月に撤回された。
- Calcium and SOL Protease Mediate Temperature Resetting of Circadian Clocks.
Tataroglu O, Zhao X, Busza A, Ling J, O’Neill JS, Emery P.
Cell. 2015 Nov 19;163(5):1214-1224. doi: 10.1016/j.cell.2015.10.031. Retraction in: Cell. 2017 Sep 21;171(1):256.
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2020年1月14日(37歳?)、研究公正局は、研究費申請書・論文のネカト部分を指摘した。
★「2015年11月のCell」論文
「2015年11月のCell」論文の書誌情報を以下に再掲する。2017年9月に撤回された。
- Calcium and SOL Protease Mediate Temperature Resetting of Circadian Clocks.
Tataroglu O, Zhao X, Busza A, Ling J, O’Neill JS, Emery P.
Cell. 2015 Nov 19;163(5):1214-1224. doi: 10.1016/j.cell.2015.10.031. Retraction in: Cell. 2017 Sep 21;171(1):256.
研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見ていこう。
図1G、2F、3C、4Cでの熱パルス(HP)処理の有無によるショウジョウバエの時計活動の位相シフトを表す棒グラフにねつ造・改ざんがあった。棒グラフのねつ造・改ざんは外部の研究者が論文を読んでもネカトかどうかわからない。
以下に図1G、2F、3C、4Cを順番に並べるが、どれも同じタイプのデータである(図の出典は原著)。ねつ造・改ざんされたのはどの部分? そして、どれだけ? ウ~ン、棒グラフを見てもわからない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年2月11日現在、パブメド(PubMed)で、オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)の論文を「Ozgur Tataroglu [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2014~2017年の4年間の10論文がヒットした。
「Tataroglu O[Author]」で検索すると、2014~2018年の5年間の13論文がヒットした。
2020年2月11日現在、「Tataroglu O[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2015年のCell」論文・1論文が2017年9月に撤回されていた。
★撤回論文データベース
2020年2月11日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでオズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)を「Tataroglu, Ozgur」で検索すると、本記事で問題にした「2015年のCell」論文・1論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年2月11日現在、「パブピア(PubPeer)」では、オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)の論文のコメントを「Ozgur Tataroglu」で検索すると、本記事で問題にした「2015年のCell」論文・1論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》仕事が遅すぎ
オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu)のネカトが発覚した時期は、「2015年11月のCell」論文を出版し、その論文が2017年9月に撤回される前である。2017年6月(38歳?)にマサチューセッツ大学医科大学院・ポスドクを辞めた(解雇された?)ので、本記事では、2017年6月(38歳?)発覚とした。
そして、論文撤回時点の2017年6月には、ネカトは確定していたわけだ。
ところが、研究公正局がクロと判定したのは、2020年1月14日である。ネカトが発覚し、論文撤回されてから2年半後、毎度のように指摘しているが、研究公正局は仕事が遅すぎだ。
《2》ネカト帰国者への処罰ルール
ネカトが発覚し、オズグル・タタロウ(Ozgur Tataroglu、写真出典)はマサチューセッツ大学医科大学院・ポスドクを解雇された(推定)。
2017年12月(38歳?)(推定)、それで、トルコに帰国し、イスティニエ大学・遺伝病診断センター(İstinye Üniversitesi Genetik Hastalıklar Tanı Merkezi’nde)の教員になった。
研究公正局は2019年12月30日(40歳?)から3年間の締め出し処分を科したが、米国外に移住した研究者に対しては何のペナルティにもなっていない。この無意味な処罰はおかしい、と白楽は長年指摘している。
研究公正局でクロ判定されて、日本に帰国し、日本で研究職に就いている日本人は何人もいる。彼らに対しても何のペナルティにもなっていない。 → 研究ネカト者が研究を続けた | 研究者倫理
ただ、どういう根拠なのか不明だが、1人の大学教員が、日本でも処罰された。 → タカオ・タカハシ、高橋孝夫(Takao Takahashi)(米) | 研究者倫理
外国でネカト行為をし日本に帰国した研究者への統一した処罰ルールが日本にはない。それで、不公平な処罰・無処罰がなされた。おかしい。文部科学省は統一ルールを作るべし。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2020年1月14日:Case Summary: Tataroglu, Ozgur | ORI – The Office of Research Integrity(2022年12月にリンク切れる)。(2)2020年1月21日の連邦官報:2019-24689.pdf 。(3)2020年1月21日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct
② 2020年1月14日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former UMass post-doc faked data, says federal watchdog – Retraction Watch
③ Ozgur Tataroglu-Scientific resume、(保存版)
④ 2015年11月19日記事:UMMS neurobiologists identify a molecular pathway by which temperature resets circadian clocks
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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