2026年1月20日(火)掲載
【長文注意】。シュプリンガー・ネイチャー社が2020年に創刊した学術誌「Discover」シリーズは、粗悪論文の温床であるMDPIのビジネスモデルを露骨に取り入れたが、出版過程が全く不透明で、責任の所在が不明である。「悪いところだけ真似して急成長している」と批判したストレインチームの「2025年6月のStrain on Scientific Publishing」論文を読んだので、紹介しよう。
と用意していたら、同社の学術誌「Scientific Reports」の粗悪さを指摘したショルト・デイヴィッド(Sholto David)の「2026年1月のFor Better Science」論文に遭遇した。エーイ、一緒に面倒見よう。研究者の皆さんは、両学術誌に、投稿しない、査読しない、編集長を引き受けないようにとのことだ。
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.ストレインチームの「2025年6月のStrain on Scientific Publishing」論文
3.デイヴィッドの「2026年1月のFor Better Science」論文
7.白楽の感想
ーーーーーーー
【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●1.【日本語の予備解説】
★2023年12月13日:7-135 超多量の論文出版で大儲けのMDPI社 | 白楽の研究者倫理
出典 → ココ
★2025年4月10日:7-168 MDPI社の学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」のスコーパス索引付け保留 | 白楽の研究者倫理
出典 → ココ
MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)は、バーゼル(スイス)に本部を置くオープンアクセス専門の出版社である。北京、武漢、天津、バルセロナ、ベオグラード、マンチェスター、クルジュ=ナポカ、ブカレスト、クラクフ、東京、トロントに支社を持つ[2]。
年間の出版論文総数は2020年には16万報を超え、世界最大のオープンアクセス出版社となった[3]。取り扱う分野は医学、自然科学、工学、社会科学など多岐にわたり、2020年末時点で300以上の査読済みオープンアクセスジャーナルを出版している[4]。
MDPIが発行するジャーナルのうち、189誌がWeb of Scienceのデータベースに掲載されており、73誌にインパクトファクターが付与されている[5][6]。MDPIが発行する全てのジャーナルはオープンアクセスであり、クリエイティブ・コモンズのCC BY(表示)のライセンスの下、改変や二次利用が可能である[7]。
続きは、原典をお読みください。
なお、MDPIは1996年に設立された。
シュプリンガー・ネイチャー(Springer Nature)は、ドイツとイギリスに本拠を置く学術出版の世界企業である。
2019年には17億2000万ユーロの収益を上げた[1]。
続きは、原典をお読みください。
なお、シュプリンガー・ネイチャーは2015年に設立された。
●2.【ストレインチームの「2025年6月のStrain on Scientific Publishing」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Springer Nature Discovers MDPI
日本語訳:シュプリンガー・ネイチャーがMDPIを発見 - 著者:Strain team
- 掲載誌・巻・ページ:Strain on Scientific Publishing
- 発行年月日:2025年6月10日
- ウェブサイト:https://the-strain-on-scientific-publishing.github.io/website/posts/discover_nature/
- 引用方法:Paolo Crosetto, Mark Austin Hanson, Daniel Brockington, Pablo Gómez Barreiro. Springer Nature Discovers MDPI. 2025. HAL Id: 05113253, url: https://hal.science/hal-05113253
- 著者:ストレインチーム(Strain team)は、マーク・ハンソン、パブロ・ゴメス・バレイロ、パオロ・クロセット、ダン・ブロッキントン(Mark A Hanson, Pablo Gómez Barreiro, Paolo Crosetto and Dan Brockington)の4人:The Strain on Scientific Publishing
●【論文内容】
論文名「Springer Nature Discovers MDPI」の「Discovers」は、シュプリンガー・ネイチャーの学術誌「Discover」と英語の動詞「discover(発見する)」の二重意味(洒落)ですね。どうでもいいんですけど。
白楽もここで、何か気の利いた洒落をと考えたんですが、・・・。思いつきません。
それに、最初の絵柄、登場人物わかりますよね。一世を風靡した、あの人です。
ーーー論文の本文は以下から開始
★はじめに
学術出版社「Multi-Disciplinary Publishing Institute(MDPI)」の学術誌のタイトルは単語1つで、内容は曖昧である(例えば、「Foods」「Plants」)。
2020年、シュプリンガー・ネイチャーは「Discover」シリーズという学術誌を創刊した(日本語説明)。ところが、「勝てないなら仲間になろう」という精神のもと、その学術誌のタイトルにMDPIとほぼ同じ名前を付けた(例えば、「Discover Food」「Discover Plants」)。
信じられない方は、下記のミニゲームをご自身で試してみてください。プレイするには、下の画像をクリックしてください。
なぜ? どうやって? シュプリンガー・ネイチャーがMDPIをまねたのか?
これは一体、誰の利益になるのか? もちろん、著者ではありません。
★MDPIのビジネスモデル
学術出版社は「儲け第1」なのにそれを伏せて、研究コミュニティの味方だと自称している。
論文発表の場を提供し、その手間に対し”わずか” 数千ドル(数十万円)の手数料しか請求していないと述べている。
スゴク美味しいビジネスだ。
研究者は自分の研究を宣伝でき、出版社はGoogleなどに匹敵する高い利益を得ることができる。ウィンウィンなのだ!
しかし、私たちストレインチーム(strain team)は懐疑的である。
AI作成の論文の急増などで、論文出版数は前例のないほど増加している。
私たちの「2024年11月のQuantitative Science Studies」論文は、営利目的のゴールドオープンアクセス出版社(Gold Open Access for-profit publishers)がどのようにして論文数を異常に増加させてきたかを明らかにした。 → 2024年11月1日論文:The strain on scientific publishing | Quantitative Science Studies | MIT Press
この異常事態に最も顕著に寄与した出版社はMDPIだった。そう、多くの批判の的となっているMDPIだった(批判例は、ココをご覧ください → here, here, here, here, here…)。
MDPIは特異な出版社で、研究者にゲストとして「特集号」の編集者にならないかという勧誘スパムメールを執拗に送り、批判されている。
この方法で編集者になった研究者に問題の人物が多い。
結局、MDPIの学術誌全体で、組織的な引用ゲームが始まり、異常に速い受理日数(turn around times、原稿受領から、査読を経て、原稿受理まで37日)、自己引用の横行、インパクトファクターの水増しを招いた。当然のように、論文内容も粗悪になった。
同じビジネスモデルを履行したヒンダウィ出版社(Hindawi Publishing Corporation)は、大量の論文を撤回する事件を起こし、ヒンダウィ(Hindawi)のブランドは終った。 → 2023年12月6日記事:Wiley to stop using “Hindawi” name amid $18 million revenue decline – Retraction Watch
企業:学術業(academic business):ヒンダウィ出版社(Hindawi Publishing Corporation)(エジプト) | 白楽の研究者倫理
企業:学術業(academic business):ヒンダウィ出版社(Hindawi Publishing Corporation)(エジプト)
事態が注目を浴び、その結果、多くの組織・団体は、ゲスト編集者の特集号を抑制する措置を講じた。中には、論文掲載料(publication charges)の支払いを拒否する措置もした(こちら、こちら、こちら)。
健全な世界なら、他の出版社もMDPIに対する批判・懸念に目を向け、事態の収拾に向かうはずだった。
ところが、読者の皆様、そうなんです。私たちは健全な世界に住んでいません。
大手出版社(エルゼビア、フロンティアーズなど)は、ゲスト編集者の特集号という疑惑の多い(魅力の多い?)ビジネスモデルに積極的に加担しているのだ。
★シュプリンガー・ネイチャーがMDPIをまねた
右は有名な「ミスター・ビーン」のご登場です(図出典:本論文)。
シュプリンガー・ネイチャー社はMDPIのビジネスモデルを意図的かつ体系的に真似た学術誌「Discover」シリーズを立ち上げた。
このことを知り、私たちストレインチーム(Strain team)は衝撃を受け、落胆した(いやいや、衝撃を受けたというより、ただ落胆しただけです)。
「Discover」シリーズの学術誌は、あらゆる科学論文を受け入れると公言している(下線は白楽)。
「学術誌「Discover」は…あらゆる分野の研究に出版の場を提供します。…私たちの使命は、すべての研究成果が査読で検証され、信頼できる出版社に掲載されることを保証することです」。そして、私たちはそれを迅速に行ないます。
「学術誌「Discover」は、投稿と査読のスピード、サービス、研究公正に重点を置いています」。つまり、「私たちが『研究』とみなせる成果である限り、送っていただいた論文原稿はすべて迅速に掲載いたします。有用(useful)な成果である必要はありません。数千ドル(数十万円)をお支払いいただくだけです」。
上記の宣伝文句、どこかで見たという印象、ありません?
そうです。
MDPIが出版エコシステムでの自らの役割について語った文章の内容と同じだ。「論文の重要性は読者が判断する」という建前で、何でも迅速に出版すると語った。 → MDPI Journals: 2015-2018 | Dan Brockington
しかし、事態は悪化している。
「Discover」シリーズの学術誌は、文字通りMDPIの学術誌のタイトルをコピーし、価格を安くして研究者を引き寄せているだけなのだ。
本論文の最後尾に、長くて退屈な付録として、Discover誌の全リスト、対応するMDPI誌、2025年のAPC(論文掲載料)の額をリストした。
Discover誌66誌のうち、25誌は既存のMDPI誌とタイトルが同じ(Viruses – Viruses)、11誌は1文字違い(Food – Foods)、さらに22誌は多少似ているものの区別はできる(Computing – Computers)。つまり、66誌のうち58誌がコピー誌だった。
以下は、その一部「Applied Sciences」セクションだけを示す。

そして、Discover誌はMDPIと同様に、現在、研究者に「特集号」のゲスト編集者を募集する迷惑メールを送っている。私たちもその寛大な招待状を何度も受け取った。
★良い点と悪い点
出版社は市場のニーズを満たすと主張している。
この主張は魅力的に聞こえるが、その背後は暗く深い闇だ。
特集号で掲載論文数を増やした結果、質の悪い論文が大量に出版された。 → Avalanche of published academic articles could erode trust in science
重要なことだが、MDPIの唯一の強みはその透明性だった。MDPIのサイトには、不採択率(rejection rates)、受理日数(turn around times、原稿受領から、査読を経て、原稿受理までの日数)などを示している。つまり、論文出版過程を容易に知ることができる。
しかし、Discoverシリーズは全く不透明で、責任の所在が不明だ。論文出版過程は隠蔽され、学術出版の信頼が損なわれている。
シュプリンガー・ネイチャーは、これまでも、質よりも量に強い関心を示してきた。
同社は2011年に学術誌「Scientific Reports」を創刊した。
創刊5年後の2016年、「Scientific Reports」は「PLOS One」を追い抜き、史上最大のオープンアクセス・メガ学術誌になった。
ここで特筆すべき点は、PLOS Oneは編集の厳格さを維持する方針だということだ。掲載論文数が減少した理由の1つは質の向上を目指した結果、採択率が低下したためだ。 → PLOS ONE has faced a decline in submissions – why? New editor speaks – Retraction Watch
さらにPLOS Oneは、当時、月間約5,000件の投稿を処理するために3,000人の編集委員を採用し、査読前の論文トリアージ処理という新しい方法を導入し、編集の質を維持しながら膨大な量の投稿を処理していた。 → Fifteen Years of PLOS ONE – EveryONE
ところが、Scientific Reportsは同様の体制をとっていない。 → BishopBlog: An open letter regarding Scientific Reports
そして、最悪なのは、この現体制でシュプリンガー・ネイチャーの「Discover」がうまく稼働していることだ。
シュプリンガー・ネイチャーは「Discover」の繁栄を謳歌している。
研究者たちは、“少額”の料金で信頼できるオープンアクセス出版物を提供してくれる「Discover」の学術誌に目を向ける。
「Discover」シリーズは2020年の10誌から2025年6月には66誌と5年間で約7倍に増えた。
また、2020年には合計2308本の論文を出版したが、2024年には5352本と4年間で約2倍も出版するようになった。
さらに、2025年は1~5月の5か月間で4739本も出版したので、2025年は2024年の2倍の論文を出版する可能性が高い[白楽注:論文は2025年6月10日出版なので、2025年1年間のデータは持っていない]。
Discover誌とMDPI誌は似てるが、良い点と悪い点が混在している。
成長という点では、新たに発行されたDiscover誌は、2018~19年頃のMDPIと同じように爆発的に成長している。
Discover誌は2023年から2024年に、全体として324%成長した(Discover Foodは635%、Discover Envi-ronmentは530%、Discover Sustainabilityは1017%。付録「長くて退屈なデータ」に詳細を示した)。
Discover誌のインパクトファクター・インフレーション(IFI:Impact Factor Inflation)は、MDPI誌と同じ値を誇っている(2024年の平均インパクトファクター・インフレーション(IFI):Discover = 5.6、MDPI = 5.8、PLOS = 3.0、BioMed Central = 3.8)。
それでも、 Discoverシリーズはまだ特集号に過度に依存していない。
ただ、これはすぐ変わるかもしれない。というのは、研究者に「コレクション(collections)」(ゲスト編集者・特集号に付けたDiscoverシリーズの名称)の編集を依頼するメールが急増している。
また、特集号の数も既に増加している。
全体として、Discover誌には1255の特集号があった。学術誌1誌あたり平均約19件だった(応用科学:160件、持続可能性:113件。付録「長くて退屈なデータ」に詳細を示した)。
特集号あたり約5本の論文を掲載しているので、2025年と2026年初頭で、ゲスト編集者・特集号で約6千本以上の論文が掲載される。
私たちは、特集号が学術誌成長の原動力となる理由について調査し、2024年の論文として発表した。 → The strain on scientific publishing | Quantitative Science Studies | MIT Press
シュプリンガー・ネイチャーのゲスト編集者・特集号の戦略は、MDPIが特集号の増加で成長した戦略と同じである。
シュプリンガー・ネイチャーがDiscoverブランドで多数の新しい学術誌を創刊し、積極的に特集号を発行しているのは憂慮すべきことだ。注: Discoverブランドの学術誌66誌のうち36誌は2024年以降に創刊された。
Discoverの受理日数(turn around times、原稿受領から、査読を経て、原稿受理までの日数)は、科学出版業界全体とほぼ一致している(2024年の平均:投稿から受理まで131日)。
これは、スピードと正確性のトレードオフにおいて強引な選択をしている他の営利OA出版社(2022年の平均:MDPI 37日、Frontiers 72日)とは大きく異なる。
しかし、私たちは以前、特別号は通常の論文に比べて納期が短い傾向があることを示した。
Discoverの成長の大部分は、この特別号の推進と並行してわずか1年間に起こった。
それで、研究者の皆様には注意深く対応することをお勧めします。
★対策として何ができる?
このようなMDPIや「Discover」のズサンな論文出版に対して私たちはどのように対策をすべきだろうか?
まずは、できることをみんなで一緒にすることだ。
第1に、まず、営利出版社に原稿を送る前によく考える。
生態学と進化生物学の分野では、「DAFNEE」が非営利の学術誌をリストしている。そこにリストされた学術誌に投稿する。 → DAFNEE, a Database of Academia Friendly jourNals in Ecology and Evolution
「Peer Community in」は、生命科学分野を含む幅広い分野の論文を無料で査読・出版している。そこに投稿する。 → Peer Community In – free peer review & validation of preprints of articles。
[白楽お節介:日本語の説明 → 佐藤 翔:プレプリントを査読し「推薦」する:Peer Community in(PCI) | JPCOARウェブマガジン]
無料出版することで、節約できたAPC(論文投稿手数料)を研究そのものに使いましょう。
第2に、MDPIや「Discover」などの出版社からの依頼をすべて無視する。
- 査読依頼には応じない。
- 特集号の編集依頼にも応じない。これらの学術誌の編集者にならない。
つまり、彼らのビジネスモデルに協力しない。
第3に、上司に報告し、所属機関の研究担当責任者から主要な資金提供者(大学や国家研究評議会など)に連絡してもらうよう依頼する。[白楽注:日本では現実的ではない]
それぞれの組織の対応は異なるが、資金提供者が対処すると状況が変わることは歴史が示している。
第4に、営利出版業界のばかばかしさを受け入れ、「Springer Nature か MDPI」のミニゲームで遊んで、 Bluesky #ResearchIntegrityでチャットする。
★結論
同じ手口に騙されない。粗悪な学術誌で時間とお金を無駄にするのをやめましょう。・・・ストレインチーム(Strain team)
★付録:長くて退屈なデータ

●3.【デイヴィッドの「2026年1月のFor Better Science」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Scientific Reports 2025: A Year in Review
日本語訳:Scientific Reports 2025:1年間のレビュー - 著者:Sholto David
- 掲載誌・巻・ページ:For Better Science
- 発行年月日:2026年1月6日
- ウェブサイト:https://forbetterscience.com/2026/01/06/scientific-reports-2025-a-year-in-review/
- 著者:
ショルト・デイヴィッド(Sholto David、写真出典)は、2019 年に英国のニューカッスル大学(Newcastle University)で研究博士号(細胞分子生物学)を取得した。現在、英国ウェールズのバイオテクノロジー企業に勤務している。世界最強クラスのネカトハンターである。2025年12月、ネカトハンター活動で4億円を得た。 → 7-185 英国人ネカトハンターのショルト・デイヴィッドが米国の研究不正を告発し4億円獲得 | 白楽の研究者倫理
●【論文内容】
前の章の「●2.【ストレインチームの「2025年6月のStrain on Scientific Publishing」論文】」で、シュプリンガー・ネイチャー社の「Discover」シリーズは粗悪学術誌だとこき下ろされた。
そして、ショルト・デイヴィッド(Sholto David)の論文は、シュプリンガー・ネイチャー社の「Scientific Reports」も相当ひどい学術誌だと指摘している。
「Scientific Reports」は、高額な掲載料と引き換えに、事実上あらゆる論文を出版している。
シュプリンガー・ネイチャー社は悪徳出版社なの?
ーーー論文の本文は以下から開始
★学術誌「Scientific Reports」の粗悪論文対応の粗悪さ
2024年10月16日、ネカトハンターのドロシー・ビショップ(Dorothy Bishop、写真出典)はシュプリンガー・ネイチャー社の研究倫理担当ディレクターであるクリス・グラフ(Chris Graf)宛の公開書簡を公開した。その公開書簡にショルト・デイヴィッドは署名した。 → BishopBlog: An open letter regarding Scientific Reports
公開書簡のポイントは、シュプリンガー・ネイチャー社の巨大な学術誌「Scientific Reports」に出版された多数の論文に、学術詐欺や低品質論文などの重大な欠陥があると指摘し、改善のための3つの提案をしたことだ。
8日後の2024年10月24日、クリス・グラフ(Chris Graf、写真出典)は、この公開書簡に対し、説明責任を欠いた、一部自慢げな回答をした。 → 2024年10月24日記事: Open letter from fraud sleuths raises concerns over research integrity at Scientific Reports | News | Chemistry World
「 Scientific Reportsには、ジャーナルの誠実な運営に尽力する社内チームがあります。彼らはジャーナルと掲載される研究を非常に大切に思っている優秀なチームです。編集委員会メンバーや論文に関する懸念を含め、提起されたあらゆる問題を調査することに尽力しています[…]
不正投稿は出版業界全体にとっての課題です。科学的記録の真実性を確保することは、 Scientific ReportsとSpringer Natureの全員にとって最優先事項であり、研究誠実性チームはこの目標に専心し、この分野への投資と成長を続けています。事前チェック担当のフルタイム従業員と専任の研究誠実性チームを約200人増員しました。彼らは検出技術への継続的な投資に支えられ、投稿コンテンツを精査し、出版前または出版後に生じる可能性のあるあらゆる懸念に対処しています。
この公開書簡から1年4か月が経過したが、学術誌「Scientific Reports」 は論文出版数を急増している。
以下の図に示すように、2024年の32,181本の論文を出版したが、2025年には47,363本と、約50%の増加でした。

デイヴィッドは、率直に言って、クリス・グラフが言う「優秀な」社内チームが研究倫理上の重大な欠陥を改善したとは到底信じられない、と述べている。
★学術誌「Scientific Reports」の不正加工の例示
「Scientific Reports」論文はどうなっているのか、2025年に出版された論文の中身を、デイヴィッドが精査した。
以下、多数の論文の不正加工を説明ぬきで、1例(日本の論文)+10例示す(実際はもっとずっと多い)。図を見れば不正加工箇所はわかると思う。
ーーー[白楽のお節介]ーーーここから
デイヴィッドの論文には記載されていないが、最初に日本からの論文をあげよう。
2025年ではなく2024年の論文がみつかった。
京都府立医科大学の吉田達士・講師(写真出典)が連絡著者の「Scientific Reports」論文である。デイヴィッドの論文に記載されていないので番号を「0」にした。
0.Scientific Reports (2024) doi: 10.1038/s41598-024-55286-0 日本の吉田達士・講師(連絡著者)らの論文

ーーー[白楽のお節介]ーーーここまで
以下の10例は、デイヴィッドの論文に記載されている。
1.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-96666-4 中国からの論文

2.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-96274-2 中国からの論文

3.Scientific Reports doi: 10.1038/s41598-025-10353-y 中国からの論文

4.Scientific Reports (2025) doi:10.1038/s41598-024-82463-y エジプトからの論文

5.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-86347-7 サウジアラビアからの論文

6.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-87921-9 米国からの論文

7.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-86064-1 米国からの論文

8.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-90888-2 米国・NIHからの論文。第一著者はリンタロ・カトウ(Rintaro Kato、写真出典)で日系米国人のようです。

9.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-91824-0 フランスからの論文
10.Scientific Reports (2025) doi: 10.1038/s41598-025-21960-0 韓国からの論文
★学術誌「Scientific Reports」に指摘すると・・・
前項で11論文で示したように、「Scientific Reports」論文には重複画像がたくさんある。
しかし、それ以外にも、データとして示された図の内容が潰れて判読不能な図、意味不明な論旨など粗悪な論文が多数掲載されている。
デイヴィッドは、これまで、 2025年に掲載のScientific Reports論文に研究不正疑惑があるとPubPeerに100件以上コメントした。そして、まだ投稿していない研究不正疑惑は数百件もある。
デイヴィッドは、シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正チームにメールで問い合わせた。
シュプリンガー・ネイチャー社の 「Executive – Journal Support」という役職名のジェイクマール・ロハール(Jaykumar Lohar、写真出典)から次の返事が来た。
「こんにちは! お元気でお過ごしでしょうか? メールの内容について詳しく教えていただけますか? 」
デイヴィッドは、「でも、一体何を詳しく説明しろと言っているんだ? 送った短いメールにはPubPeerへのリンクが貼ってある。学術誌の研究公正担当者にPubPeerとは何かを説明する必要があるのか?」と、怒っている。
また、別の論文についてシュプリンガー・ネイチャー社にメールを送った。
すると、シュプリンガー・ネイチャー社の ヴィディヤ・ジャダブ副編集者(Assistant Editor)(Vidhya Jadhav、写真出典)から次の返事が来た。
「ご連絡いただき、掲載論文へのリンクとPubPeerでのコメントを共有していただき、ありがとうございます。具体的にどのような問題について言及されているのか、詳しく教えていただけますか? また、この論文との関係(共著者、査読者、あるいは独立した読者など)を明記いただければ幸いです。そうすることで、ご懸念の背景をより深く理解し、適切な対応をとることができます。」
しかし、PubPeerへのリンクを示してある。学術誌の研究公正担当者なので、不正加工疑惑の画像を見れば、問題点は理解できるだろう。その記述を読んだとして、それ以上のことをどう説明すればいいのか?
と、デイヴィッドは、シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正レベルにあきれている。
★デイヴィッドの「2026年1月のFor Better Science」論文へのコメント
デイヴィッドの「2026年1月のFor Better Science」論文のコメント欄にいくつかコメントがあり、デイヴィッドが答えている。
以下、2つ抽出した。
【コメント1.2026年1月6日 Aneurus】
ネカトハンターや研究公正を重視する人は、出版社に対してもっと毅然とした態度を取るべきだ。現在の出版社は科学の進歩ではなく、自らの利益を守ることを主目的にしている。その利益は年間280億ドル(約2兆8千億円)に上り、30%のマージンを得ている。出版社が原稿を厳格に精査していると主張しているのは、すべて見せかけだ。
デイヴィッドの返事:シュプリンガー・ネイチャー社では、約40人でScientific Reportsを制作しているという事実に、私は困惑した。すべての論文がサイトに掲載される前に、無意味な点・おかしな点がないかチェックするのに十分な人数を雇用している。1日のうちに20分ほど時間を割けば、簡単に済す仕事だ。彼らがそれをやっていないという事実が、多くを物語っています。
【コメント2.2026年1月7日 MJW】
少し(ほんの少しですが)反論させてください。私のScientific Reportsの経験から言うと、彼らは少なくとも研究不正に関する通報に対応し、実際に対処してくれました。私は不正加工があると複数の論文を通報しましたが、すべて最初の通報から2~3か月以内に撤回されました。一方、エルゼビア、ワイリー、ACS、SN の学術誌では、ほとんど返信がありませんでした(自動返信メッセージ以外で)。論文が撤回されたこともありません(今のところ?)。論文1本あたり2,700ドル(約27万円)のAPC(出版手数料)を徴収するジャーナルとしては大したことではないとは思いますが、それでもScientific Reportsは「平均以上」でした。
デイヴィッドの返事:あなたの言う通りかもしれません。Scientific Reportsは不正を見つけるられますが、それは他人から具体的に指摘された時だけです。なぜ自分たちで見つけようとしないのか? 彼らは(意図的に)許容される限界を探ろうとしているように見えます・・・。
●7.【白楽の感想】
《1》どーする?
2025年12月1日の論文「evolving landscape of scientific publishing practices and implications for public health research | European Journal of Public Health | Oxford Academic」と他の論文によると、学術論文の世界は以下にようだ。
- 2024年、4万誌以上の学術誌が発行されていて、400万件以上の論文が出版されている。
- 研究者数は増えないのに、論文数は数割増えている。
- 5日に1本のペースで論文を発表した研究者が約1,300人もいた。
- 研究者は研究遂行・原稿執筆と査読の労力を学術誌に無償で提供し、論文掲載料を払っている。
出版社は原稿をウェブ上にアップするだけで、論文1本につき数十万円の掲載料が得られる。それで、内容が粗悪だろうがデタラメだろうが、出版社は掲載論文数をドンドン増やし、べらぼーに儲ける、という話だ。「これじゃ 学術界に、いいわきゃないよ」(植木等)。
研究者は論文を出版してもらえて嬉しい。論文掲載料は研究費(主に国民の税金)から払うので、研究者の懐は痛まない。「わかっちゃいるけど やめられない」(植木等)。
ストレインチーム(Strain team)の論文では、「★対策として何ができる?」に書いたように、ストレインチーム(Strain team)は研究者個人に対処して欲しい4項目をあげているが、白楽が思うに、こんな提案で、事態は解決しない。なにを考えているのだ? といいたい。
そもそも、大多数の研究者はストレインチーム(Strain team)の提案を実行しない。
学術論文システムの現在の問題を、研究者個人に解決してもらう提案は、基本的におかしい。研究者個人が解決できるレベルではない。
いろいろなデータがあるが、世界で出版される全論文の3分の1程度が粗悪論文で、学術論文の汚染は深刻だ。
学術界の世界的な査察機関(現在存在しない)がメスを入れ、この論文出版界を根底から改造しないと、学術界は壊れていくだろう。
既に侵食された学術記録体系はもう修理不能のように思える。
視点を変える。
白楽は20世紀型の科学技術発展を今後望めないと思う。
2 0世紀型発展モデルを放棄して、新しいタイプの知的システムの構築に向かう方が賢明だと思う。例えば、数兆円規模の営利業界である学術出版を廃止し、塗り替えるべきだろう。 → 7-188 学術論文の営利出版を廃止:フリブール宣言 | 白楽の研究者倫理(現在準備中)
《2》論文撤回
2025年12月8日、シュプリンガー・ネイチャーが約40件の論文を撤回・削除したと「Transmitter」が報じた。 → Springer Nature retracts, removes nearly 40 publications | The Transmitter: Neuroscience News and Perspectives
「Discover」シリーズの学術誌かどうか白楽はチェックしていない。
ーーーーーーー
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
ーーーーーーー