アニル・ポティ (Anil Potti) (米)


【概略】
141016 potti[1]アニル・ポティ(Anil Potti、1972年、インド生まれ育ち)は米・デューク大学(Duke University)の医師・医学研究者で、2006年以降、遺伝子の活動パターン(DNAマイクロアレイ法)からヒト肺がん患者の進行状態を予測できる論文をいくつか発表した。発見は画期的で、デューク大学のヒーローだった。その発見に基づいてデューク大学では臨床試験を開始した。

しかし、他の研究者はポティの研究結果を追試できなかった。研究者は学術ジャーナル「The Lancet Oncology」編集部へ訴え、「The Lancet Oncology」も対処し、検証が始まり、2010年、論文データのねつ造・改ざんが発覚した。ポティは解雇された。写真:anil potti retractions | Retraction Watch

なお、デューク大学(http://duke.edu/)は、ノースカロライナ州ダーラムにある私立大学で、医学研究科は全米8位、バイオ工学では全米4位の世界屈指の超一流大学である。医学センターのロバート・レフコウィッツ教授・医師(Robert Joseph Lefkowitz、1943年4月15日 – )は、Gタンパク質共役受容体で2012年のノーベル化学賞を受賞している。

ポティ事件は、名門・デューク大学がポティを強く擁護し調査を阻むというスタンスだった。その壁を突き破ったのは、同分野の研究者たちの批判、「Cancer Letter」編集長・ポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)の問題追及の能力・エネルギー、学術ジャーナルの適切な対応など研究者サイドの力だった。研究者サイドが不正研究を追求し、解明したという科学システムの勝利だが、このようなケースは珍しい。

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 男女:男性
  • 生年月日:1972年5月10日
  • 現在の年齢:45歳
  • 分野:がん学
  • 最初の不正論文発表:2006年(34歳)
  • 発覚年:2009年(37歳)
  • 発覚時地位:米・デューク大学・準教授・医師・生物医学研究者
  • 発覚:同分野の研究者からの批判
  • 対処期間:発覚から辞職まで10か月と迅速
  • 不正:データねつ造。別に経歴詐称もあり
  • 不正論文数:27論文。それに伴い3臨床試験が停止
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:デューク大学が解雇。臨床研究で実害をこうむった患者がデューク大学を訴えている

主要情報源:
① ウィキペディア Anil Potti – Wikipedia, the free encyclopedia
② Jocelyn Kaiserの2012年3月23日の記事:Panel Calls for Closer Oversight of Biomarker Tests | Science/AAAS | News
③ Tullia Rushtonの2010年8月31日の記事:Cancer researcher’s resume reveals inconsistencies | UWire
④ 2011年9月10日の記事:Misconduct in science: An array of errors | The Economist 
⑤◎ 「Cancer Letter」編集長・ポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)の 「Cancer Letter」の一連の記事:The Cancer Letter Publications
⑥◎ 2012年3月5日放映のテレビ番組 “60 Minutes”:Deception at Duke: Fraud in cancer care? – CBS News
追加:2015年1月9日のポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)の「Cancer Letter」の記事:41-01 Duke Officials Silenced Med Student Who Reported Trouble in Anil Potti’s Lab – The Cancer Letter Publications
追加:2015年1月9日のC.K.Gunsalusの「Cancer Letter」記事: 41-03 Misconduct Expert Dissects Duke Scandal – The Cancer Letter Publications

【研究】
生物は、1つの遺伝子が1つのタンパク質を合成する。かつては、活性化された遺伝子の1つ1つ、あるいは少数を分析する方法しかなかった。

1995年、スタンフォード大学のパトリック・ブラウン(Patrick O. Brown)が、活性化された遺伝子を一網打尽に見つける方法「DNAマイクロアレイ」法を開発した。
(Schena M, Shalon D, Davis RW, Brown PO (1995). “Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray”. Science 270 (5235): 467-470. doi:10.1126/science.270.5235.467. PMID 7569999.)

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DNAマイクロアレイ 写真出典

DNAマイクロアレイ法を簡単に説明すると、

ヒトの遺伝子数は3万-4万といわれているが、これらのすべての遺伝子断片が1枚のガラス基板上に固定されており、このプローブと呼ばれる遺伝子断片と、ターゲットと呼ばれるヒトの細胞から抽出したメッセンジャーRNA(mRNA)を逆転写酵素で相補的DNA(cDNA)に変換したものとをハイブリダイゼーションすることによって、ヒト細胞内で発現している遺伝子情報を網羅的に検出することが可能である。(DNAマイクロアレイ – Wikipedia

DNAマイクロアレイの詳しい説明:利用実施例 // NIMS分子・物質合成プラットフォーム

【動画】DNAマイクロアレイの大衆向け説明。内容はやさしい。「HOW TO サイエンス (3)遺伝子の働きを調べる方法~DNAマイクロアレイ解析技術~」(2009年制作)、(日本語)29分、jstsciencechannelが2014/01/24 に公開

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ポティと彼の指導者であるジョセフ・ネビンス(Joseph Nevins)は、がん患者のどの遺伝子が活性化しているかというパターンを調べれば、その患者のがん細胞を攻撃する薬を予測し、投与できると考えた。

2006年、そのアイデアが、世界で初めて成功し、超一流研究ジャーナルの「New England Journal of Medicine」誌や「ネイチャー・メディシン」誌にその研究結果を発表した。毎年数千人の命を救うと、大変大きな脚光を浴びた(First-ever genomic test predicts which lung cancer patients need chemotherapy to live)。

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写真:左から、指導者のジョセフ・ネビンス(Joseph Nevins, Ph.D)、アニル・ポティ (Anil Potti, M.D.,)、デビット・ハーポール(David Harpole, M.D.):First-ever genomic test predicts which lung cancer patients need chemotherapy to live

別のジャーナルにも次々と研究成果を発表した。それらの知見に基づきデューク大学は、乳がん患者、肺がん患者を対象として3つの臨床試験を開始した。

【経歴】

  • 1972年5月10日:インドで生まれる
  • 1995年(23歳):インドのヴェールールにあるクリスチャン医科大学(Christian Medical College & Hospital)を卒業。医師。
  • 1999年(27歳):米国・ノースダコタ大学・医学研究科内科学での研修医を終了した
  • 2003年(30歳):米国・デューク大学・就職
  • 2006年(33歳):米国・デューク大学の血液学および腫瘍学のトレーニングを終えた
  • 2010年(38歳):不正研究が発覚する
  • 2010年(38歳)11月:デューク大学・準教授を辞職
  • 2014年(41歳)現在:米国のいくつかの州の医師免許を持っているので、医師として米国で勤務(推定)

【不正発覚の経緯】

2015年1月11日追加
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2015年1月9日の「Cancer Letter」の記事(主要情報源⑦)によると、デューク大学の医学研究科3年生のブラッドフォード・ペレツ(Bradford Perez 写真出典:主要情報源⑦)が、2008年の3月下旬と4月にポティのデータねつ造をデューク大学に公益通報していた。
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2006年(33歳) ポティの論文発表後。テキサス州ヒューストンのMDアンダーソン癌センターの生物統計学者、キース・バッガリー(Keith Baggerly)とケビン・クームズ(Kevin Coombes)は、MDアンダーソン癌センターの患者がデューク大学のような診断を求めるので、対応しようとした。ポティの2006年の論文を追試しようとしたが、うまくいかない。精査すると、論文中の記述にいくつかの間違い(不正?)を発見した。ポティに問い合わせると、いい加減な返事が返ってきた。

2009年9月(37歳) 生物統計学者、キース・バッガリーとケビン・クームズは、ポティの2006年の論文の明白な間違い(不正?)を公表した。

NIH・国立がん研究所(NCI) の生物統計学者・リサ・マクシェイン(Lisa McShane)もポティの追試ができず、疑念を感じていた。国立がん研究所(NCI)が、デューク大学に苦言を呈した。

2009年10月 デューク大学は国立がん研究所(NCI)の苦言に対応し、臨床試験を中断し、調査委員会を設けてポティの件を調査した。

調査委員会はいい加減な調査をし、「問題なし」と結論した。

2010年2月 デューク大学は臨床試験を再開した。

2010年7月16日(38歳) 、「Cancer Letter」編集長・ポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)「Prominent Duke Scientist Claimed Prizes He Didn’t Win, Including Rhodes Scholarship」、Vol. 36 No. 27、2010が、ポティの経歴詐称(参照:次々節)を暴露した。

2010年7月23日 「Cancer Letter」編集長・ポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)が状況を解説している。(DOWNLOAD

1年前に国立がん研究所(NCI)が注意した時にデューク大学はポティをクビにしておけばよかったのにと思う。デューク大学はポティをスター研究者と扱い、かばった。わずか5分グーグルで検索し、数回電話で確認すれば、ポティの経歴詐称は見つかったのにそれもしなかった。私は何度もポティとデューク大学に問い合わせたのに、ポティも大学も返事をしなかった。
デューク大学は、昨年、ポティ疑念に対する調査委員会を設けたが、委員名を公表しないし、会議も秘密で行ない、「ポティに問題なし」と結論した。
先週の私の暴露で、大学はあわててポティを休職にし、臨床試験を停止している。

ポティのねつ造データに基づいて進行中の臨床試験は、患者の健康をそこねかねないと、33人の第一線の生物統計学者がNIH所長のハロルド・バーマス(Harold Varmus)に緊急対処を申し入れた。同じ手紙をアメリカがん学会医療チーフであるオーティス・ブロウリー(Otis Brawley)にも送った。ブロウリーはすぐに、ポティへの729,000ドルの研究費を停止した。

2010年7月30日  NIH所長のハロルド・バーマス(Harold Varmus)が調査を要請した(DOWNLOAD)。

今度こそ、多くの人がポティの論文に疑念を呈し、再調査し、研究論文の不正を明確にした。

キース・バッガリーとケビン・クームズは、ポティの論文は不正研究だと3年間も叫んできたのに、見向きもされなかったが、皮肉なことにポティの経歴詐称でようやく不正研究と認識されたと、皮肉っている。

2010年8月27日 デューク大学副学長のマイケル・ショーエンフェルド(Michael Schoenfeld)はポティの学歴詐称を認め、ポティを休職にした。

20101029日 ポティの指導者・ジョセフ・ネビンスがポティの主要な論文を撤回した。Download PDF 

201011月(38歳) ポティは、デューク大学・準教授を辞職した。デューク大学は臨床試験を中止した。

201192日 デューク大学はポティの論文40報3分の2を撤回すると発表した。 

2012年2月12日 ポティの指導者・ジョセフ・ネビンス(Joseph Nevins, Ph.D)が「不正操作したデータが明白」と、CBSテレビの番組「60 Minutes」で述べている(Deception at Duke: Fraud in cancer care? – CBS News)。

★ポティの事件で特筆すべきことは、NIHの研究費を使用しているのもかかわらず、米国・研究公正局が調査に入っていないことだ。研究界が不正を暴き、不正研究者を追放した。珍しいケースだ。

【追記】
2015年11月8日、米国・研究公正局がクロとの調査結果を発表した(Federal Register | Findings of Research Misconduct)。研究公正局は調査していたんですね。

【撤回論文】

10論文が撤回されている。

  1. Potti, Anil; Dressman, Holly K.; Bild, Andrea; Riedel, Richard F.; Chan, Gina; Sayer, Robyn; Cragun, Janiel; Cottrill, Hope; Kelley, Michael J. (2006). “Genomic signatures to guide the use of chemotherapeutics”. Nature Medicine 12 (11): 1294-1300. doi:10.1038/nm1491. PMID 17057710. (Retracted)
  2. Bonnefoi, Herve; Potti, Anil; Delorenzi, Mauro; Mauriac, Louis; Campone, Mario; Tubiana-Hulin, Michele; Petit, Thierry; Rouanet, Philippe; Jassem, Jacek (2007). “RETRACTED: Validation of gene signatures that predict the response of breast cancer to neoadjuvant chemotherapy: A substudy of the EORTC 10994/BIG 00-01 clinical trial”. The Lancet Oncology 8 (12): 1071-78. doi:10.1016/S1470-2045(07)70345-5. PMID 18024211. (Retracted)
  3. Potti, Anil; Mukherjee, Sayan; Petersen, Rebecca; Dressman, Holly K.; Bild, Andrea; Koontz, Jason; Kratzke, Robert; Watson, Mark A.; Kelley, Michael (2006). “A Genomic Strategy to Refine Prognosis in Early-Stage Non-Small-Cell Lung Cancer”. New England Journal of Medicine 355 (6): 570-80. doi:10.1056/NEJMoa060467. PMID 16899777. (Retracted)
  4. Potti, Anil; Bild, A.; Dressman, HK; Lewis, D.A.; Nevins, J.R.; Ortel, TL (2006). “Gene-expression patterns predict phenotypes of immune-mediated thrombosis”. Blood 107 (4): 1391-96. doi:10.1182/blood-2005-07-2669. PMC 1895419. PMID 16263789. (Retracted)
  5. Garman, K.S.; Acharya, C.R.; Edelman, E.; Grade, M.; Gaedcke, J.; Sud, S.; Barry, W.; Diehl, A.M.; Provenzale, D. (2008). “A genomic approach to colon cancer risk stratification yields biologic insights into therapeutic opportunities”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105 (49): 19432-37. doi:10.1073/pnas.0806674105. PMC 2592987. PMID 19050079.
  6. Salter, Kelly H.; Acharya, Chaitanya R.; Walters, Kelli S.; Redman, Richard; Anguiano, Ariel; Garman, Katherine S.; Anders, Carey K.; Mukherjee, Sayan; Dressman, Holly K. (2008). Ouchi, Toru, ed. “An Integrated Approach to the Prediction of Chemotherapeutic Response in Patients with Breast Cancer”. PLoS ONE 3 (4): e1908. doi:10.1371/journal.pone.0001908. PMC 2270912. PMID 18382681. (Retracted)
  7. Hsu, D.S.; Balakumaran, B.S.; Acharya, C.R.; Vlahovic, V.; Walters, K.S.; Garman, K.; Anders, C.; Riedel, R.F.; Lancaster, J. (2007). “Pharmacogenomic Strategies Provide a Rational Approach to the Treatment of Cisplatin-Resistant Patients with Advanced Cancer”. Journal of Clinical Oncology 25 (28): 4350-7. doi:10.1200/JCO.2007.11.0593. PMID 17906199. (Retracted)
  8. Acharya, C.R.; Hsu, D.S.; Anders, C.K.; Anguiano, A.; Salter, K.H.; Redman, R.C.; Tuchman, S.A.; Moylan, C.A.; Mukherjee, S. (2008). “Gene expression signatures, clinicopathological features, and individualized therapy in breast cancer”. Journal of American Medical Association 299 (13): 1574-87. doi:10.1001/jama.299.13.1574. PMID 18387932. (Retracted)
  9. Dressman, H.K.; Berchuck, A.; Chan, G.; Zhai, J.; Bild, A.; Sayer, R.; Craygun, J.; Clarke, J.; Whitaker, R.S. (2007). “An integrated genomic-based approach to individualized treatment of patients with advanced-stage ovarian cancer”. Journal of Clinical Oncology 25 (5): 517-25. doi:10.1200/JCO.2006.06.3743. PMID 17290060.
  10. Stevenson, M.; Mostertz, W.; Acharya, C.; Kim, W.; Walters, K.; Barry, W.; Higgins, K.; Tuchman, S.A.; Crawford, J. (2009). “Characterizing the Clinical Relevance of an Embryonic Stem Cell Phenotype in Lung Adenocarcinoma”. Clinical Cancer Research 15 (24): 7553-7561. doi:10.1158/1078-0432.CCR-09-1939. PMID 19996213.

【経歴詐称】

Tullia Rushton記者の2010年8月31日の記事によると、経歴詐称もしていた(Cancer researcher’s resume reveals inconsistencies | UWire)。 原典は、「Cancer Letter」編集長・ポール・ゴールドバーグ(Paul Goldberg)の2010年7月16日記事「Prominent Duke Scientist Claimed Prizes He Didn’t Win, Including Rhodes Scholarship」、Vol. 36 No. 27、2010である。

  • 1995年か1996年にローズ奨学生(Rhodes Scholar、世界最古の国際的フェローシップ制度)だったとあるが、ローズトラスト(Rhodes Trust)に問わせると、そういう名前の奨学生はいないとのことだった。
  • 1998年にAmerican Society of Clinical Oncologyから助成金をもらったとあるが、記録はなかった。
  • 1999年にAmerican Society of Hematologyから助成金をもらったとあるが、記録はなかった。ただ、その頃の記録に不備があり正確ではないとのことだった。
  • 2001年にCure for Lymphoma and Lymphoma Research Foundationから助成金をもらったとあるが、その事実はない。
  • オーストラリアで研究奨学生だった時はQueensland Research InstituteのDr. Gordon McLarenが彼の指導者だったとあるが、オーストラリアにQueensland Research Instituteという大学・研究機関は実在していない。似た名前のQueensland Institute for Medical Researchはあるが、在籍者名簿にポティの名前はなかった。

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写真:Cancer researcher’s resume reveals inconsistencies | UWire

【事件の深堀】

記事の裏に潜む「語られない事実」は思いつかない。単純な事件に思える。

【白楽の感想】

《1》 人さまざま
下位の国(インド)で生まれ育ち、上位の国(米国)に行く。インドで医師になったから、インドでは裕福な家庭で育ったのだろう。しかし、米国では人種差別されたに違いない。

友人の言葉を思い出す。「優秀な米国白人は週70時間も実験室にこもるような生物医学研究者にならない。医師免許を取って、弁護士資格も取り、30歳前後で、大きな医薬品会社のオフィスで高給を取る」。平日の夜間も休日も実験室にいるのは、〇×人くらいだよ」。

そういう研究奴隷社会で、なんとしても、上層部にあがりたかったのだろう。インドの行動価値観を十分理解していないが、旅行でインドを訪れた白楽は、「平然と人をだます」インド人に何度も遭遇した。その平然さはアッパレなほどだった。そのまま、米国・研究界に持ち込んだら、即アウトであろう。

一方、バイオ政治学を米国で指導してくれた上司もインド人だった。彼は、インド生まれ、英国の大学(ケンブリッジ?)をでて、米国の大学教授になった人だ。この人は、米国の白人研究者の平均よりは、ズット紳士的、知的で、高い行動規範を実践している人だ。今も尊敬している。つまり、人さまざまというところだ。

《2》 調査の時間とコスト

NIH・国立がん研究所(NCI) の生物統計学者・リサ・マクシェイン(Lisa McShane)はポティ事件で300~400時間費やしたと述べている。1日5時間費やしたとして、60~80日である。1か月20日として、3~4か月費やしている。膨大な時間だ。(2011年9月10日の記事:Misconduct in science: An array of errors | The Economist

MDアンダーソン癌センターの生物統計学者・キース・バッガリーとケビン・クームズは、2,000時間も費やしたとある。同じ計算で、1年8か月費やしている。膨大な時間だ。

論文の査読者は、そんな時間を費やさない。そもそも、簡単に見つかる不正はない上、不正研究と疑って査読しないから査読者が不正を見つけることはマレだ。

また、本腰を入れない大学調査委員も、そんな時間を費やさない。入念に仕組まれた不正研究、できるだけ証拠が消された不正研究、高度な専門知識、曖昧な科学領域だから、不正研究の全貌はなかなかつかめない。

しかし、3~4か月や1年8か月、生命科学者がこんなに長期間、他人の不正を調査していては、生命科学のキャリアが崩壊する。とはいえ調査に生命科学の高度な専門的知識・勘・経験は必須だ。

日本は不正研究の調査で給料をもらえる専門職がない。だから、事態は一層曖昧なままの状況になるだろう。大学に関連の研究室と日本に研究公正局を作った方が良いと思うけど。

そういえば、白楽はこのサイトの執筆に膨大な時間を使って調査している。ヒマつぶしだから、マー、時間がかかるのはかまわないけど、現役の生命科学者ではそれなりの覚悟がない人には、オススメしない。