ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)(米)

2021年11月27日掲載 

ワンポイント:キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)のアルツハイマー病治療薬であるシムフィラム(simufilam)のネカト事件。2021年8月23日、米国の食品医薬品局(FDA)は、ラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)が市民請願(Citizen Petition)でキャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)の臨床試験のデータねつ造疑惑を指摘したと発表した。株価は大暴落し、約3600億円を失った。その後、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)らがワンの論文の疑惑データを確認し、さらに別のネカトも指摘した。2021年11月26日現在、撤回論文はない。但し、パブピアで2000~2021年(41~62歳?)のワンの31論文にコメントがある。ネカト調査に関しては大学、食品医薬品局(FDA)、研究公正局は沈黙しているが、10日前、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)とNIHが調査を始めたと新聞報道があった。国民の損害額(推定)は3600億円(大雑把)。

【追記】
・2024年3月11日:‘Damning’ FDA inspection report undermines positive trial results of possible Alzheimer’s drug | Science | AAAS
・2023年11月12日:Investigation finds ‘egregious misconduct’ by CUNY scientist – Science Integrity Digest
・2023年10月14日:Scientists Investigating Alzheimer’s Drug Faulted in Leaked Report – The New York Times
・2023年10月12日:Co-developer of Cassava’s potential Alzheimer’s drug cited for ‘egregious misconduct’ | Science | AAAS
・2023年7月28日:Journal Investigation Appears To Find No Data for Paper Published The Very Same Year
・2023年7月27日:Concerns Regarding Newly Obtained Raw Data From Cassava-Linked Paper
・2022年7月7日:A New Alzheimer’s Drug Called Simufilam Could Transform Treatment or Doom Its Maker, Cassava Sciences
・2022年4月18日:Scientists Question Data Behind an Experimental Alzheimer’s Drug – The New York Times
・2021年12月15日:Cassava fraud and Alzheimer’s capitalism – For Better Science

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang、ORCID iD:0000-0001-5005-7564、写真出典)は、中国で生まれ育ち米国のニューヨーク市立大学医科大学院(City College of New York、CUNY School of Medicine)・準教授になった。医師免許はない。専門は神経薬理学である。キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)の科学諮問委員会(Scientific Advisory Board)の委員を務めている。

リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のキャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)・神経科学担当上級副社長(Sr. VP, Neuroscience)で、アルツハイマー病プログラムの主任科学者。研究博士号(PhD)を所持している。医師免許は持っていない。

本事件は、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)の事件として扱われているが、主犯はワンで共犯がバーンズと想定されている。それで、本記事では、ワンを中心に、また、キャッサバ・サイエンシズ社に焦点をあてて記述した。

2021年8月23日、米国の食品医薬品局(FDA)は、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)のアルツハイマー病の臨床試験のデータにねつ造の証拠があることを、ラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)が市民請願(Citizen Petition)で示したと、発表した。

キャッサバ・サイエンシズ社の株価は大暴落し、約3600億円失った。

その後、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)らが疑惑データを確認しさらに別のネカトも指摘した。

2021年11月26日現在、撤回論文はない。但し、パブピアでワンの2000~2021年(41~62歳?)の31論文にコメントがある。

ネカト調査に関しては大学、食品医薬品局(FDA)、研究公正局は沈黙しているが、10日前の2021年11月17日、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)とNIHが調査を始めたと新聞報道があった。

つまり、2021年11月26日現在、ネカト調査中である。

キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)。Cassava Sciences, Inc., 7801 N. Capital of Texas Highway, Suite 260. Austin, TX 78731。グーグルマップで白楽が作成。写真出典

【ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)】

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ペンシルベニア医科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1981年に学士号取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:65 歳?
  • 分野:神経薬理学
  • 不正論文発表:2000~2021年(41~62歳?)の22年間
  • 発覚年:2021年(62歳?)
  • 発覚時地位:ニューヨーク市立大学医科大学院・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)で、米国の食品医薬品局(FDA)に市民請願(Citizen Petition)した。エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)も追及
  • ステップ2(メディア):エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)。②NIH。つまり、研究公正局と思われる。③ニューヨーク市立大学・調査委員会? ④食品医薬品局(FDA)?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査しているかどうか不明
  • 大学の透明性:調査しているかどうか不明(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文は0報だが、パブピアで2000~2021年(41~62歳?)の31論文にコメントがある。
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は株価の損失として3600億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

【ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)】
出典:Hoau-Yan Wang | The City College of New York

  • 生年月日:不明。仮に1959年1月1日生まれとする。1981年に学士号取得した時を22歳とした
  • 1981年(22歳?):中国の中国医科大学(China Medical College)で学士号取得
  • 1985年(26歳?):米国のセントジョンズ大学(St. John’s University)で修士号取得:化学
  • 1988年(29歳?):米国のペンシルベニア医科大学(Medical College of Pennsylvania)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1988年(29歳?):同大学・ポスドク?
  • 2002年(43歳?)頃?:米国のニューヨーク市立大学医科大学院(City College of New York、CUNY School of Medicine)・準教授
  • 2021年(62歳?):不正研究が発覚

●3.【動画】

【動画1】
Hoau-Yan Wangを「ホァウヤン・ワン」と呼んでいる。
株価動向の動画:「Caution: Trading Near All Time Highs – 3 Strong Buy Rating Stocks – YouTube」(英語)12分55秒。
Millionaires Investment Secretsが2021/08/25に公開

●4.【日本語の解説】

★2021年8月25日:Yahoo!ファイナンス:野沢卓美(MINKABU PRESS編集部):「キャッサバが大幅安 弁護士が臨床試験中止をFDAに要請=米国株個別」

出典 → ココ (保存版

バイオ医薬品のキャッサバ・サイエンシズ が大幅安。トーマス弁護士がFDAに、同社のアルツハイマー治験薬「simufilam」の過去の研究の質に関する懸念を理由に、同治験薬の臨床試験を中止するよう要請した。同弁護士が所属する法律事務所は、消費者や投資家に代わって同社に対して集団訴訟を起こすと述べている。トーマス弁護士は、政府機関の内部告発プログラムの設定を支援した元SECの執行弁護士。キャッサバは声明で「科学的な誠実性に関してなされた主張は虚偽で誤解を招くものだ」と反発している。

★2021年11月5日:株探:野沢卓美(MINKABU PRESS編集部):「キャッサバが急伸 データ改ざんの証拠なしとの報告を受け取る=米国株個別」

出典 → ココ (保存版

キャッサバ・サイエンシズ<SAVA>が急伸。同社はアルツハイマー治験薬「シムフィラム」の開発を手掛けているが、2012年の7月に科学雑誌「ニューロサイエンス」に掲載された、同社の科学者と学術協力者によって共同執筆された論文が基礎となっている。それに対してデータ改ざんがあったのではとの指摘が出ていたが、ニューロサイエンス誌の検証で、そのような証拠はなかったとの報告を受けたと発表した。

同社のバルビエCEOは「われわれはアルツハイマー病の患者を対象としたシムフィラムの第3フェーズの臨床試験の実施に引き続き注力している」と述べた。

★2021年11月18日:株探:野沢卓美(MINKABU PRESS編集部):「キャッサバが大幅安 SECが調査と伝わる=米国株個別」

出典 → ココ (保存版

バイオ医薬品のキャッサバ・サイエンシズ<SAVA>が大幅安。同社が、アルツハイマー治験薬のデータを不正に操作したとして、米証券取引委員会(SEC)が調査していると伝わった。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が関係者の話として伝えた。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)

キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)は米国のテキサス州オースティンに本社がある1998年設立のバイオ医薬品企業で、旧名称はペイン・セラピューティックス(Pain Therapeutics, Inc.)だった。Yahoo!ファイナンスに以下の説明がある。旧名称を使用している。従業員数の記載はない。

ペイン・セラピューティックスは米国のバイオ医薬品企業。薬剤候補は経口カプセル剤の鎮痛剤「レモクシー(REMOXY)」。「レモクシー」はオキシコドンを含むゼラチン・カプセル剤で、1日に2回の服用で長時間作用する。同社は、ファイザーの子会社であるキング・ファーマシューティカルズと新薬開発を提携する。本社はテキサス州オースティン。(ペイン・セラピューティックス【SAVA】:企業情報/株価 – Yahoo!ファイナンス

★シムフィラム(simufilam)

アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease)の人の脳でタンパク質のフィラミンが(filamin)アクチン細胞骨格に結合し、異常な形の繊維を形成する。これがアルツハイマー病の原因という説がある。

キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)は、フィラミンに結合し、異常な形の繊維を形成させない化合物シムフィラム(simufilam)(PTI-125)を開発した。

シムフィラム(simufilam)は、分子量260という低分子量の(4-benzyl-8-methyl-1,4,8-triazaspiro[4.5]decan-3-one)で、構造(出典)も簡単である。

2021年2月、アルツハイマー病の患者を対象に行なった臨床試験で、経口治療薬のシムフィラムを飲んで6か月経つと認知・行動が改善されたとの中間データを発表した。
 → 2021年2月2日、キャッサバ・サイエンシズ社のプレスリリース:Cassava Sciences’ Simufilam Improves Cognition and Behavior in Alzheimer’s Disease in Interim Analysis of Open-label Study | Cassava Sciences, Inc.
 → 2021年2月15日記事:Simufilam for Alzheimer’s Improves Cognition, Behavior After 6 Months
 → 臨床試験データ:Simufilam (PTI-125), 100 mg, for Mild-to-moderate Alzheimer’s Disease Patients – Full Text View – ClinicalTrials.gov

★NIHグラント

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)はキャッサバ・サイエンシズ社としてNIHからのグラントを受給している。Grantome: Search

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)はニューヨーク市立大学(City College of New York)としても受給している。

★ねつ造疑惑:市民請願(Citizen Petition)

2021年8月23日、米国の食品医薬品局(FDA)は、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)のアルツハイマー病の臨床試験のデータにねつ造の証拠があることを、ラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)が市民請願(Citizen Petition)で示したと、発表した。
 → Regulations.gov
 → 市民請願(Citizen Petition)の内容:fda-2021-p-0930-0004_content-cassava.pdf

内容は、データねつ造の証拠があるので、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)のアルツハイマー病におけるシムフィラム(simufilam)に関する臨床研究の再分析、そして、調査が十分に完了するまで、進行中の臨床試験を一時停止すベき請願したのだ。

なお、市民請願(Citizen Petition)はアステラス製薬のサイトに次の説明がある。

市民請願(Citizen Petition)とは
FDAに対して規則の発効、変更、または取り消しやその他のアクションを公式に要請する、法に基づいた手段です。FDAは年間約200件の市民請願を受領しています。(ニュース | アステラス製薬保存版

ウィキペディア英語版には「FDA citizen petition – Wikipedia」とある。「利害関係者」から受ける食品医薬品局(FDA)独自の請願スタイルで、150日以内に請願に対応する義務がある。

以下は2021年8月18日付けのラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)の市民請願(Citizen Petition)の冒頭部分(出典:同)。全文は3頁 → https://downloads.regulations.gov/FDA-2021-P-0930-0001/attachment_1.pdf

市民請願は次の指摘をしている。

シムフィラム(simufilam)がアルツハイマー病の治療に有効だという根拠は、ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)とリンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)の基礎研究に準拠している。この研究でNIHの助成金を得ている。

しかし、治療に有効だという証拠であるフィラミンとアルツハイマー病を結びつける2人の研究結果を確認した研究者は他にはない。さらに、他の研究室では、シムフィラムがフィラミンに結合することを確認できていない。

治療に有効だとする2人の論文では、ウエスタンブロットを多用しているが、詳細に分析すると、画像の異常がいくつも見つかっていて、データねつ造と思われる。

キャッサバ・サイエンシズ社は、このように、研究結果と臨床試験結果をねつ造・改ざんし、査読付きの学術誌をだました。

そのネカト研究結果を使ってNIHと食品医薬品局(FDA)をだまして、助成金を得、かつ臨床試験を承認させた。

NIH助成が得られたことを宣伝して投資家を惑わした。研究実施内容を開示しないで臨床試験を行ない、脆弱なアルツハイマー病患者にその治療薬に関する重要な情報を伝えなかった。

市民請願(Citizen Petition)は、他にも問題点を指摘しているが、多くはデータねつ造を示唆している。

★ねつ造疑惑で株価暴落

2021年8月23日、前述したように、米国の食品医薬品局(FDA)は、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)のアルツハイマー病の臨床試験のデータにねつ造の証拠があるとラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)が示したと、発表した。

2021年8月25日、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)は、「ねつ造の指摘は虚偽で誤解を招く」と反論する声明を発表した。
 → 声明:Cassava Sciences Responds to Allegations | Cassava Sciences, Inc.

しかしながら、この騒動で、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)の株価は半額以下に大暴落し、3週間後の9月15日には7割も下落してしまった(株価チャートの出典:キャッサバ・サイエンシズ(Cassava Sciences, Inc.)【SAVA】の)。

2021年8月30日の記事では、4日間で株価が50%下落し26億ドル失ったとある。下落が7割なら36憶ドル(約3600億円)の損失になる → Cassava Sciences (SAVA) Stock Loses 50% in Four Days on Alzheimer’s Drug Issues – Bloomberg

★ねつ造疑惑論文

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)のねつ造疑惑論文を以下に挙げる。以下に示す「2005年のNeuroscience」論文、「2008年2月のPLoS One」論文、「2010年3月のBiol Psychiatry」論文の3論文である。

★2021年7月26日のAAICポスター発表

この節の主な出典:2021年8月30日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」記事:Cassava Sciences: Of Posters and Spaghetti Plots – Science Integrity Digest

上記に挙げたねつ造疑惑3論文以外に、以下に示す2021年7月26日のAAICポスター発表に異常なデータがあったと、ビックが指摘し。

ポスターは、64人のアルツハイマー病患者にシムフィラム(simufilam)を経口投与して、アルツハイマー病の治療効果を血液中のリン酸化タウ蛋白(p-tau、P-tau181)量を測定することで観察した。
 → 2017年9月5日記事:アルツハイマー病の血液診断法の開発―血液中の極微量のリン酸化タウ蛋白の高感度・精密定量システムを世界で初めて開発― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

2021年8月28日、ルーシェン・ペン(Luosheng Peng)が、以下に示すようにポスターの図4では、プラセボ、50 mg、100 mgにそれぞれ20、15、17のドットがある。1つのドットは1人の患者とすると、計52人で、患者64人の結果と言いながら、12人のデータを示していない。

図5は、表現を変えただけなのに、対応する線の数はそれぞれ18、15、18で、図4の20、15、17と合わないし、計51人で、患者13人のデータがない、とツイッターで指摘した。

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)はルーシェン・ペン(Luosheng Peng)のこの指摘を確認し、さらに、掘り下げて、ポスターデータの異常さを指摘した。

2021年9月8日、「lawrenceshaw82」という人が、ビックの指摘に対応し、分析し、血漿P-tau181データをめぐる論争は、何の問題もないと結論付けた・そこのは、意図的なデータ操作の兆候はないとしている。
 → 2021年9月8日の「lawrenceshaw82」の記事:SavaDx Poster and Plasma Ptau-181 Data – Alzheimers and Investing

「lawrenceshaw82」はキャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)の人間と思われるが、なぜ、発表したホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)が答えないのか、白楽は、とても不思議に思った。

それで、「lawrenceshaw82」の記事は斜めにしか読んでいない。白楽は、多分、この記事の正当性を評価できない(隠蔽があるかもしれないし)。問題はこのポスターだけじゃないし。

★ねつ造疑惑論文

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)の2人の論文にねつ造データがあると指摘してきた。

事件にどう絡んでいるのか不明だが、リンゼイ・バーンズはキャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences)のレミ・バルビエ社長(Remi Barbier)の妻だと指摘されている。
 → 2021年9月3日記事:Hey Value Type | SAVA Message Board Posts

★ 米国証券取引委員会とNIHと調査

2021年11月17日、本記事の10日前、ウォールストリートジャーナルは、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)とNIHは、キャッサバ・サイエンシズ社がアルツハイマー病の治療薬・シムフィラムのデータねつ造・改ざん疑惑を調査していると報じた。 → 2021年11月17日の「ウォールストリートジャーナル」記事(有料記事なので白楽は未読):SEC Investigating Cassava Sciences, Developer of Experimental Alzheimer’s Drug – WSJ

10日前の報道である。ネカトは調査中で、結果はまだ発表されていない。

米国証券取引委員会がネカト調査をするなんて、白楽には初耳だ。

【ねつ造・改ざんの具体例】

記事が長くなってきたので、他にも疑惑データが指摘されているが、具体例を少しだけ示す。

★「2005年のNeuroscience」論文と「2010年3月のBiol Psychiatry」論文

「2005年のNeuroscience」論文と「2010年3月のBiol Psychiatry」論文の書誌情報を以下に示す。2021年11月26日現在、撤回されていない。

両方の論文の図がの一部が同じなのだ(図の出典:https://forbetterscience.files.wordpress.com/2021/08/fda-2021-p-0930-0004_content-cassava.pdf)

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は「2010年3月のBiol Psychiatry」論文の図1Aに切り貼りがあると指摘している。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/CD34FCE900CAA9CC35B5E4190DCBE5

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年11月26日現在、パブメド(PubMed)で、ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)の論文を「Hoau-Yan Wang [Author]」で検索した。1993~2021年の29年間の49論文がヒットした。

2021年11月26日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年11月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)を「Hoau-Yan Wang」「Wang, Hoau-Yan」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年11月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)の論文のコメントを「Hoau-Yan Wang」で検索すると、2000~2021年(41~62歳?)の31論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》臨床試験 

アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease)の治療薬として臨床試験するような薬剤でデータねつ造をするのは、かなり危険である。

効果がないのに効果があるとしたら、とても危険である。

効果があるのに効果がないというデータねつ造も可能性としてはありうるが、現実にはマズない。

治療薬の臨床試験は慎重にかつ厳密に行なっていただきたい。とはいえ、開発できれば数十億円、数百億円のビジネスになる。つい、カネに目がくらんで・・・、イケマセン。

《2》ヘン

今回の事件はキャッサバ・サイエンシズ社事件なのだが、当事者のホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)とリンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)は表に出てこない。

自分のデータにねつ造と指摘されているのに、論文著者が対応しないのは、ヘンだ。

ワンの所属するニューヨーク市立大学医科大学院(CUNY School of Medicine)も何ら表に出てこない。ヘンだ。ニューヨーク市立大学医科大学院はネカト調査中なのだろうか?

NIHグラントを受給しているので、いずれ研究公正局のネカト案件として処理されるのだろうか?

食品医薬品局(FDA)の市民請願(Citizen Petition)で口火が切られたので、食品医薬品局(FDA)のネカト案件になるのかもしれない。

と思っていたら、10日前の2021年11月17日の「ウォールストリートジャーナル」記事はNIH(と米国証券取引委員会)が調査していると報道した。どうやら、研究公正局のネカト案件のようだ。

《3》スゴイ

今回の事件はラバトン・スチャロウ法律事務所(Labaton Sucharow)が市民請願(Citizen Petition)でキャッサバ・サイエンシズ社の臨床試験が問題だと示した。

日本の厚生労働省には市民請願(Citizen Petition)システムはない。しかし、もしあっても、日本の法律事務所が臨床試験の問題を指摘できるだろうか? 

米国の法律事務所の実力はスゴイ、ということなのか? その市民請願(Citizen Petition)で約3600億円の損失がでた。この規模もスゴイ。

上図の出典:2021年8月28日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Facts and Fiction of Cassava Sciences – For Better Science

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 2021年8月26日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Biotech’s data supporting Alzheimer’s trials under scrutiny – Retraction Watch
② 2021年8月27日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」記事:Cassava Sciences: Of stocks and blots – Science Integrity Digest
③ 2021年8月30日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」記事:Cassava Sciences: Of Posters and Spaghetti Plots – Science Integrity Digest
④ 2021年8月27日のヘザーマッケンジー(Heather McKenzie)の「BioSpace」記事:UPDATED: Cassava Sciences Responds to Allegations that Data is Manipulated and “Defies Logic” | BioSpace
⑤ 2021年8月28日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Facts and Fiction of Cassava Sciences – For Better Science
⑥ 2021年10月15日のデュラン・ロクワタナ(Dulan Lokuwithana)の「Seeking Alpha」記事:NIH aware of allegations on Cassava Sciences; won’t confirm or deny probe – Bloomberg | Seeking Alpha
⑦ 2021年11月22日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journal mulls expression of concern for Cassava Sciences paper – Retraction Watch
⑧  2021年11月24日のジャクリン・イェーガー(Jaclyn Jaeger)記者の「Compliance Week」記事:Cassava Sciences facing widening probe over short seller claims | Article | Compliance Week

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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