ケネス・ウォーカー(Kenneth Walker)(米)


2016年6月11日掲載。

ワンポイント:研究公正局にキャシー・パーティン所長が就任し、4か月の沈黙を破って、2016年5月、最初に報告した詳細不明のねつ造・改ざん事件

【概略】
Lost_or_Unknown_svgケネス・ウォーカー(Kenneth A. Walker)は、オーストラリアで研究博士号(PhD)を取得し、2011年に米国・ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)・ポスドクになった若い白人男性である。専門は発生生物学(腎臓の形態形成)で、医師ではない。

2016年5月6日、研究公正局は、ウォーカーが、2論文、1原稿、2研究費申請書で、ねつ造・改ざんをしたと発表した。3年間の締め出し処分を科した。

この事件の詳細は不明です。

CHP米国・ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)・小児病院(Children’s Hospital of UPMC)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:オーストラリア
  • 研究博士号(PhD)取得:オーストラリアのモナシュ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2011年にポスドクになった時を28歳とした
  • 現在の年齢:34 歳?
  • 分野:発生生物学
  • 最初の不正論文発表:2013年(30歳?)
  • 発覚年:2015年?(32歳?)
  • 発覚時地位:ピッツバーグ大学・ポスドク
  • 発覚:第一次追及者(不明、研究室内部?)の公益通報?
  • 調査:①ピッツバーグ大学・調査委員会。②研究公正局。~2016年5月6日
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2論文、1原稿、2研究費申請書。撤回論文なし
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職(解雇?)。3年間の締め出し処分

【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2011年にポスドクになった時を28歳とした
  • 20xx年(xx歳):xx大学卒業
  • 2010年?(27歳?):オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)で研究博士号(PhD)取得。発生生物学
  • bates2011年(28歳?):米国・ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)・小児科のカールトン・ベイツ(Carlton M. Bates、写真出典)研究室のポスドク
  • 2016年5月6日(33歳?):研究公正局がウォーカーの研究ネカトを発表した
  • 2016年(33歳?):ピッツバーグ大学・ポスドクを辞職(解雇?)

【不正発覚の経緯と内容】

ケネス・ウォーカー(Kenneth Walker)は、オーストラリアのモナシュ大学で研究博士号(PhD)を取得し、2011年(28歳?)、米国・ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)・小児科のカールトン・ベイツ(Carlton M. Bates)研究室のポスドクに着任した。

研究ネカトの状況や、その発覚の経緯の詳細は不明である。

2016年5月6日(33歳?)、研究公正局は、ウォーカーが2論文、1原稿、2研究費申請書で、ねつ造・改ざんしたと発表した(【主要情報源】①)。

2つの論文:

  • “Deletion of fibroblast growth factor receptor 2 from the peri-wolffian duct stroma leads to ureteric induction abnormalities and vesicoureteral reflux.” PLoS One 8(2):e56062, 2013 (hereafter referred to as “PLoS 2013”) → Figure 2E
  • “Fgfr2 is integral for bladder mesenchyme patterning and function.” Am J Physiol Renal Physiol. 308(8):F888-98, 2015 Apr 15 (hereafter referred to as “AJPRP 2015”) → Figures 1E, 4C, 7G, 7J, 8F, 12A

1つの原稿:

  • Unpublished manuscript submitted to PLoS One (hereafter referred to as the “Manuscript”) → Figures 1C, 4C

2つの研究費申請書:

  • R01 DK104374-01A1 → Figure 14E and text on pages 41, 42, 45
  • R01 DK109682-01 → Figures 10G and 11 and text on pages 43 and 45

★「2013年のPLoS」論文

研究ネカトと指摘された「2013年のPLoS」論文を閲覧してみよう。

ねつ造・改ざんは図2Eだとある。下図の右側の棒グラフ。

pone_0056062_g002

図2Eの棒グラフのどこがどのようにねつ造・改ざんされたのか、白楽にはわかりません。パブピアにコメントはない

研究公正局が研究ネカトと判定したもう1つの論文、つまり、「2015年のAm J Physiol Renal Physiol.」論文についても、パブピアにコメントはない

【論文数と撤回論文】

2016年6月10日現在、パブメド(PubMed)で、ケネス・ウォーカー(Kenneth A. Walker)の論文を「Kenneth A. Walker [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2016年の8年間の8論文がヒットした。

2016年6月10日現在、撤回論文はない。今後、撤回されるのだろう。

2001年にピッツバーグ大学のポスドクに着任したが、論文は2013年に1報(これがネカト)、2015年に2報(内1報がネカト)、2016年に1報と、ポスドクとしてはかなり少ない。

【白楽の感想】

《1》パーティン新体制の最初の研究ネカト者

研究公正局はこの事件を 2016年5月6日に発表した。

Partin_August-2010-150x150研究公正局は2014年3月以来、約2年間空席だった所長職に、2015年12月末、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin、写真出典)を迎えた。

それから4か月間、パーティン所長は、研究ネカト者を発表しなかった。その間、何があったのかわからないが、機構改革をしていたに違いない。

新体制発足後の最初の研究ネカト者として、ケネス・ウォーカーのねつ造・改ざん事件を発表した。事件報告書を見る限り、新体制に伴う変化はないように思える。

それにしても、新体制の最初の事件発表なのに、インパクトがなさすぎる。パーティン所長、大丈夫でしょうか?

《2》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造・改ざんをしたのか? どう発覚したのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

この事件は地方紙「Pittsburgh Post-Gazette」が新聞記事を掲載した(【主要情報源】③)。しかし、事件を何も掘り下げていない。研究公正局の発表を繰り返しているだけである。研究ネカト問題の改善に役立つ知見はほとんど得られない。

また、ケネス・ウォーカー(Kenneth A. Walker)自身(多分)が、ウェブ上の自分の痕跡を積極的に削除した(ように思える)。それで、ますます、情報が得にくい。

《3》事件が見えにくいもう1つの原因

オーストラリア出身のウォーカーが米国・ピッツバーグ大学のポスドクの時にねつ造・改ざんをした。一見、単純な事件として記載されている。

「どうしてねつ造・改ざんをしたのか?」を考えると、事件はそれだけではないだろう。

パブメド検索で、ウォーカーは全部で8論文出版しているが、8論文中の3論文がピッツバーグ大学での研究結果である。他の5論文はオーストラリア時代の論文である。

ピッツバーグ大学も研究公正局も、米国での3論文しか研究ネカト調査をしない。オーストラリア時代の論文は管轄外だからだ。

そして、オーストラリア時代の5論文はオーストラリアの大学が調査しないから、調査する当局(オーソリティ)がない。

つまり、オーストラリア時代の5論文はねつ造・改ざんかどうか、公式には調査されない。

白楽が推察するに、5論文もねつ造・改ざんだっただろう。研究ネカトはある意味、その人の「研究のやり方」だからだ。ウォーカーはオーストラリアの院生時代の最初から研究ネカトする「研究のやり方」を身につけたのだろう。

もし白楽説が正しいなら、研究ネカトシステムの改善は、オーストラリアの大学院教育を改善することがポイントとなる。

しかし、もし、オーストラリアの院生時代はシロで米国・ポスドクで初めて研究ネカトしたなら、オーストラリアから米国・ポスドクになった時に問題点・改善点があるはずだ。

いつも感じるのだが、米国の大学(研究機関)在籍中の論文しか調査しない米国・研究公正局のやり方では、根本的な改善を望めない。

どの国、どの大学(研究機関)に在籍していようと、研究者の研究キャリア形成の初期から研究ネカト行為実行までを調べないと、改善ポイントをつかめないだろう。

【主要情報源】
① 2016年5月6日、研究公正局の報告:Case Summary: Walker, Kenneth | ORI – The Office of Research IntegrityNOT-OD-16-090: Findings of Research Misconduct
② 2016 年5月8日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Pitt postdoc admits to faking data – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2016 年5月10日のジル・ダリー(Jill Daly)の「Pittsburgh Post-Gazette」記事:Former Pitt researcher accused of falsifying data | Pittsburgh Post-Gazette保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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