マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)(米)

2021年4月16日掲載 

ワンポイント:ラタイジャックはポーランドに生まれ育ち、ポーランドの大学・研究機関と兼任で、米国のルイビル大学(University of Louisville)・教授になった。2020年(65歳)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)らがラタイジャックの論文の重複画像と文章の自己盗用を指摘した。「パブピア(PubPeer)」では2001~2018年の18年間(46~63歳)の28論文が問題だと指摘されているが、撤回論文はゼロである。ルイビル大学がネカト調査をしているかどうか不明で、ラタイジャック及び室員は無処分である。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「11」に挙げられたので記事にした。国民の損害額(推定)は今のところ1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak、マリウシュ・ラタジザック、ORCID iD:?、写真出典)は、ポーランドに生まれ育ち、ポーランドの大学・研究機関と兼任で、米国のルイビル大学(University of Louisville)・教授になった。医師免許所持者で、専門は幹細胞学である。

2006年(51歳)、マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)は成体マウスの骨髄に幹細胞があることを発見し、VSELsと名付けた。この発見は大発見だが、その後、誰一人、再現できていない。

しかし、VSELsの発見もあり、ラタイジャックはNIHから2001~2020年の21年間に32件、計950万ドル(約9億5千万円)のグラントを受給したスター科学者である。

2020年(65歳)、そして、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)らがラタイジャックの論文に重複画像と文章の自己盗用があると指摘した。

2021年4月15日(66歳)現在、「パブピア(PubPeer)」では2001~2018年の18年間(46~63歳)の28論文が問題だと指摘されているが、撤回論文はゼロである。

ルイビル大学がネカト調査をしているかどうか不明で、ラタイジャック及び室員は無処分である。

この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「11」に挙げられたので記事にした。

ルイビル大学(University of Louisville)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:ポーランド
  • 医師免許(MD)取得:ポメラニアン医科大学
  • 研究博士号(PhD)取得:ポーランド科学アカデミーの実験臨床医学センター
  • 男女:男性
  • 生年月日:1955年2月8日
  • 現在の年齢:66 歳
  • 分野:幹細胞学
  • 不正論文発表:2001~2018年の18年間(46~63歳)
  • 発覚年:2020年(65歳)
  • 発覚時地位:ルイビル大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)
  • ステップ2(メディア):「Science Integrity Digest」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ルイビル大学は調査中?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ルイビル大学は調査中?
  • 大学の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん、盗用
  • 不正論文数:2001~2018年の18年間(46~63歳)の28論文。撤回論文なし
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Mariusz Z. Ratajczak MD, PhD, DSci, dhc

  • 1955年2月8日:ポーランドのシュチェチン(Szczecin)で生まれる
  • 1975-1981年(20-26歳):シュチェチンのポメラニアン医科大学(Pomeranian Medical University in Szczecin)で医師免許取得
  • 1986年(31歳):ポーランド科学アカデミーの実験臨床医学センター(Center for Clinical & Experimental Medicine of Polish Academy of Sciences)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1990-2001年(35-46歳):米国のペンシルベニア大学・研究員(?)
  • 1994-1999年(39-44歳):ポーランドのポメラニアン医科大学の細胞病理学部長
  • 1999-2005年(44-50歳):ポーランドのクラクフの大学小児病院の移植センター長
  • 2001年(46歳)-現在:米国のルイビル大学(University of Louisville) ・教授
  • 2006-2014年(51-59歳):ポーランドのポメラニアン医科大学・生理学部長
  • 2006年(51歳):後に問題視される幹細胞VSELsの発見を「2006年5月のLeukemia」論文に発表
  • 2013年(58歳):「2006年5月のLeukemia」論文は再現不能と指摘された
  • 2020年(65歳):重複画像と文章の自己盗用が発覚

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「マリウシュ・ラタイジャック」と自己紹介。
ラタイジャックの紹介動画:「Prof. Mariusz Z. Ratajczak – Nagroda FNP 2006 – YouTube」(ポーランド語)3分44秒。
Fundacja na rzecz Nauki Polskiejが2011/03/02に公開

●4.【日本語の解説】

以下は事件の解説ではない。

★2012年2月24・25日:大阪の日本造血細胞移植学会で特別講演を行なった。

出典 → ココ、(保存版

 

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★VSELsの大発見

小保方晴子のSTAP細胞発見の論文は2014年1月の論文である。同じ多能性細胞だが、マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak、写真出典)の発見は、その8年前の2006年だった。

2006年(51歳)、マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)は成体マウスの骨髄に幹細胞があることを発見し、「2006年5月のLeukemia」論文として発表した。

VSELsと名付けられたこの幹細胞は、未分化細胞で、心臓、骨、脳、膵臓細胞など、さまざまな種類の特殊な細胞に分化する可能性があった。

VSELsは「Very Small Embryonic Like (VSEL) Stem Cells」である。

VSELsは、理論的にはあらゆる種類の病気の治療方法の開発に有用なので注目を浴びた。たとえば、心臓病、火傷の皮膚、糖尿病、神経変性疾患の患者は、自分の骨髄細胞を採取し、そのVSELsを特定に細胞に分化させ、病変部に戻すことで病気を治せることになる。

成人から骨髄細胞を採取するこの技術は、ヒトの胚細胞の使用に反対する人々にとって特に魅力的だった。 そして、ネオステム社(NeoStem)が2011年にラタイジャックの特許を基に研究を始めたとき、バチカンのローマ教皇庁は、珍しいことに、ニューヨークを拠点とするこの会社に100万ドル(約1億円)を投資した。

以下の写真は、バチカンのトマシュ・トラフニー神父(Father Tomasz Trafny)(左)とネオステム社の最高経営責任者・ロビン・スミス(Robin Smith)(右)が、2010年、パートナーシップの発表をした時の写真である。出典:ジェニファーグレイロック(Jennifer Graylock/AP)。 → 2011年11月1日記事:Vatican To Host Stem Cell Research Conference : NPR

Vatican To Host Stem Cell Research Conference : NPR

ネオステム社(NeoStem)は、その後、カラドリウス・バイオサイエンス社(Caladrius Biosciences)と改名し、2012年、VSELsで骨を修復するプロジェクトに対して、NIHから120万ドル(約1億2千万円)の助成金を受領した。 → 2012年11月20日記事:NeoStem, Inc. (NBS) Receives Two-Year $1.2 Million NIH Grant For First Clinical Study Of VSEL Technology In Humans | Seeking Alpha

ラタイジャックはVSELsの発見で、たくさんの賞を受賞した。

★グラント

ラタイジャックはNIHから2001~2020年の21年間に32件、計950万ドル(約9億5千万円)のグラントを受給している(RePORT ⟩ RePORTER)。

2020年の2件を以下に示す(出典上記)。リストをクリックするとリストは大きくなります。

★再現不能

ラタイジャックのVSELsは大発見である。しかし、他の研究者はラタイジャックのVSELsを再現できなかった。

2013年(49歳?)、スタンフォード大学のアーヴィング・ワイスマン教授(Irving Weissman、写真出典)は、ラタジザックの発見を再現しようと懸命に努力したが、以下の「2013年のStem Cell Reports」論文で、「マウスの骨髄と血液にVSELsを検出できませんでした」と述べ、成体マウスのVSELsの存在は疑わしいと結論した。

論文の第一著者は日本人の宮西正憲 (Masanori Miyanishi)です。現在は神戸・理研の研究リーダー(上級研究員)です。日本人の共著者が他に3人もいます。日本人はワイスマン教授が好き、ワイスマン教授は日本人が好き、ということなんですね。

★重複画像と自己盗用

ワイスマン教授を含む他の研究者がラタイジャックのVSELsを再現できなかっただけでなく、ラタイジャックの論文には重複画像と文章の自己盗用があった。

2020年(65歳)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)がラタイジャックの約20の論文に重複画像と自己盗用を見つけ、「パブピア(PubPeer)」に投稿し、また、自分のブログで指摘した。

「パブピア(PubPeer)」では2001~2018年の18年間(46~63歳)の28論文に問題があると指摘されている。

【重複画像と自己盗用の具体例】

パブピア(PubPeer)」では28論文に問題があると指摘されているが、28論文の問題点を全部ここに示すのは多すぎる。

2論文を選んで具体的に示す。

★「2017年8月のOncotarget.」論文

「2017年8月のOncotarget.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年8月11日、訂正された。

2020年1月7日、ヘテロデラ・アベナエ(Heterodera Avenae)は、図3のCとFが同じ画像だと指摘した

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/2D05E5F7809AA157FC2C7E6009B402

2020年8月11日、著者たちは何も言わずに、図が間違えたとして別の図と置き換えた → 訂正公告:Correction: Withaferin A (WFA) inhibits tumor growth and metastasis by targeting ovarian cancer stem cells – PubMed

白楽が思うに、ねつ造画像が指摘されると「間違えた」と訂正する方式、なんか、釈然としない。

★「2007年のDev Dyn.」論文

「2007年のDev Dyn.」論文の書誌情報を以下に示す。

2020年11月18日、のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が文章の自己盗用を指摘した。

以下のパブピアの盗用比較図の出典:https://pubpeer.com/publications/186E87C4BF61C6493C18B7A969ADF5

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年4月15日現在、パブメド( PubMed )で、マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)の論文を「Mariusz Ratajczak [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の310論文がヒットした。

「Ratajczak MZ」で検索すると、1984~2021年の37年間の495論文がヒットした。

2021年4月15日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年4月15日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)を「Mariusz Ratajczak」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年4月15日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)の論文のコメントを「”Mariusz Z. Ratajczak” OR “M. Z. Ratajczak” OR “MZ Ratajczak” OR “Mariusz Z Z Ratajczak”」で検索すると、2001~2018年の18年間の28論文にコメントがあった。この検索用語はエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が作成した。

●7.【白楽の感想】

《1》研究費獲得額の多い人 

研究費獲得額の多い人にネカト者が多いか? 研究費獲得額とネカト発生率の関係を調べた論文がないので、わからない。

しかし、研究費獲得額が多い人がネカトをすると、国民の損害額は大きくなる。

https://szczecin.wyborcza.pl/szczecin/1,34939,9682394,Komorki_macierzyste_bez_kontroli__To_trzeba_zmienic.html?disableRedirects=true

マリウシュ・ラタイジャック(Mariusz Ratajczak)は、2006年(51歳)、VSELsを発見したが、その後、誰一人、この発見を再現できていない。

このような再現できない研究成果は、再現できないと分かった時点で、学術界は何か対処した方がいい。

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア・ポーランド語版:Mariusz Ratajczak – Wikipedia, wolna encyklopedia
② 2013年7月28日のデイヴィット・ファーガソン(David Ferguson)記者の「Raw Story」記事:Vatican-backed ‘VSEL’ alternative to stem cells found to be a fraud – Raw Story – Celebrating 16 Years of Independent Journalism
③ 2020年11月18日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Troubles with VSELs – Science Integrity Digest
④ 2020年12月xx日のポール・ノフラー教授(Professor Paul Knoepfler,)の「Niche」記事:STAP cell deja vu? 28 VSEL papers flagged by Bik | The Niche

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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