7-139 豪・研究公正委員会(ARIC)の改革

2024年2月3日掲載 

白楽の意図:オーストラリアでは、研究公正システムの議論が活発化している。オーストラリア政府は、オーストラリア研究公正委員会の評価を、コンサルティング会社のKPMG社に依頼した。その、「2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価」報告書(104ページ)の拾い読みと、「オーストラリア科学アカデミーの「2023年12月のニュース」」を、紹介しよう。研究公正局・設置へ向けての地ならしなのか?

【追記】
・2024年3月4日記事:KPMG社の類似報告書はChatGPTで作成したようだ:KPMG government report on research integrity makes up reference involving Retraction Watch founders – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価
3.オーストラリア科学アカデミーの「2023年12月のニュース」
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★2022年5月1日掲載:7-100 オーストラリアに研究公正局を作れ | 白楽の研究者倫理

7-100 オーストラリアに研究公正局を作れ

●2.【2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価】

★読んだ論文

●【論文内容】

★はじめに

コンサルティング会社のKPMG社は、オーストラリア研究公正委員会(ARIC:Australian Research Integrity Committee)の評価を2023年8月に104ページ(109ページ)の報告書としてまとめた。

以下、オーストラリア研究公正委員会などの名称から、初出後は、「オーストラリア」を省略して記載した。

KPMG社は、2022年11月、国家保健医療研究評議会(NHMRC:National Health and Medical Research Council)およびオーストラリア研究評議会(ARC:Australian Research Council)の要請に基づいて、調査を始めた。

報告書の全文を紹介するのは白楽ブログの趣旨ではない。104ページの報告書を詳細に読み解いていない。以下はポイントだけを抽出した。

★システム

オーストラリアの研究公正の基本は、2018年に制定した「責任ある研究行為に関するオーストラリア規範( Australian Code for the Responsible Conduct of Research)」である。名称が長いので、以下「規範」と呼ぶ。
 → Australian Code for the Responsible Conduct of Research 2018 | Australian Research Council

「規範」では責任ある研究を実施するための国家的な枠組みを示している。

大学・研究所と研究者個人は「規範」に定められた以下に示す8原則を遵守する責任がある。いわば、自主的規制システムである。

8原則(eight principles)は、誠実、厳格、透明、公平、敬意、認識、説明責任、そして促進(honesty, rigour, transparency, fairness, respect, recognition, accountability, and promotion)である。以下、英語のママ示す。

大学・研究所と研究者はこの8原則および「規範」に従うことが期待されている。従わないと違反(breach)となり、違反(breach)が重大な場合、研究不正(research misconduct)となる。

大学・研究所は、研究不正の申し立て(告発)に対処して、ネカト調査する責任があり、「規範」および「研究行動規範違反の2018年調査ガイドライン(Guide to Managing and Investigating Potential Breaches of the Australian Code for the Responsible Conduct of Research, 2018) (36ページ)」に沿って調査する。

個々の研究者および大学・研究所は、国家保健医療研究評議会(NHMRC)およびオーストラリア研究評議会(ARC)の資金を受領する条件の1つとして、「規範」の遵守が必須である。

「規範」に記載されているように、所属研究者に対する研究不正行為の申し立てがあれば、大学・研究所は、決められた調査手順に従って調査する。

★オーストラリア研究公正委員会(ARIC)

研究公正委員会(ARIC)は、大学・研究所が「規範」違反の調査・管理をどのようにしてきたかを評価するために、2011年にオーストラリア政府によって設立された。

研究公正委員会(ARIC)は、大学・研究所の調査とは別途・独立に審査し、審査結果を国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)にアドバイスとともに報告する。

国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)は、研究不正行為の調査結果を判断する時、研究公正委員会(ARIC)からの審査結果とアドバイスを考慮する。

★目的

KPMG社の評価は、研究公正委員会(ARIC)の有効性を、委員、枠組み、組織の管理に関して評価し、推奨事項を作成することである。

★主要質問とサブ質問

主要質問は2つ。1つ目に4つのサブ質問がある。2つ目は1つのサブ質問がある。

主要質問1:研究公正委員会(ARIC)は、目的を達成する上でどの程度効果的か?

1.1 研究公正委員会(ARIC)は、審査の実施と管理においてどの程度効果的か?
1.2  研究公正委員会(ARIC)の審査結果は、国家保健医療研究評議会(NHMRC) と 研究評議会(ARC)が大学・研究所の「規範」違反の判定する時、どの程度効果的か?
1.3  研究公正委員会(ARIC)の審査は、国家保健医療研究評議会(NHMRC)、研究評議会(ARC)、大学・研究所、その他の利害関係者にどの程度適切か?
1.4  研究公正委員会(ARIC)の存在と役割は関係者にどの程度知られ、理解されているか?

主要質問2:オーストラリアの広範な研究公正システムに対する研究公正委員会(ARIC)の貢献はどの程度目的に適合しているか?

2.1  研究公正委員会(ARIC)の機能を改善または変更する機会が、もしあるなら、それは何か?

以下、英文のママ貼り付けた。

★調査・回答

【主要質問1:研究公正委員会(ARIC)は、目的を達成する上でどの程度効果的か?】に対して

質問にたいして調査結果を述べ、その後、推奨事項を述べている。

白楽ブログでは、調査結果の内容を全部省略し、推奨事項・計15点の内、最初の7点と最後の1点だけ示す。

推奨事項(計15点)

1 事務局は、申請者が ARIC の方針と審査プロセスを理解できるよう、具体例やケーススタディを含む詳細な情報を提供する。

2  必要な情報とその理由を明確にすることで、申請者と大学・研究所の両方の管理上の負担を軽減する。 このアプローチにより、申請者と回答者の両方が必要とする情報が合理化される。

3  国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)は、レビューを実施する過程と、レビュー全体を通して関係者間のコミュニケーションを図る過程、を評価する必要がある。

4  研究公正委員会(ARIC)の業務量に応じて委員数を増やすことを検討する。

5 研究公正委員会(ARIC)の委員の入れ替えまたは拡大において、募集時に以下の基準を考慮する。

a.研究公正管理に関する知識
b.   法律(特に行政法)
c.   キャリアステージ

6 国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)は、専門家や利害関係者グループと協議して、委員を体系的にリクルートする方法を開発する。

7 研究公正委員会(ARIC)の委員のスキルと経験を詳細に示した分類の公開を検討する

8~14、白楽が省略

15 研究公正委員会(ARIC)と協議して、国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)は、研究公正委員会(ARIC)に関する知識の向上をはかる。また、研究公正プロセスに関与する関係者が確実に研究公正委員会(ARIC)の情報を利用できるよう、国家保健医療研究評議会(NHMRC)および研究評議会(ARC)は、各大学・研究所に働きかける。

【主要質問2:オーストラリアの広範な研究公正システムに対する研究公正委員会(ARIC)の貢献はどの程度目的に適合しているか?】に対して

白楽が省略

★結論

研究公正委員会(ARIC)は、確立された範囲内で効果的に運営され、オーストラリアの研究公正において重要な役割を果たしている。

本報告書では、現在のフレームワーク内で、研究公正委員会(ARIC)の機能と運用を強化するための推奨事項 (上記の推奨事項 1 ~ 15) を特定した。

研究公正委員会(ARIC)の有効性とオーストラリアの研究公正状況に対する研究公正委員会(ARIC)の積極的な貢献は、上記の推奨事項の実施でさらに強化されるだろう。

しかし、重要な評価の質問 2 に応じて提起されたより広範な問題に対処するには、研究公正委員会(ARIC)に義務付けられた役割と運用枠組みを大幅に再評価する必要がある。

―――白楽のおせっかい―――――

★豪・研究公正委員会(ARIC)の改革

「2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価」報告書に書いてないが、評価を受けて研究公正委員会(ARIC)は改善されている。

KPMG社が評価の依頼を受けたのは2022年11月だが。それ以前に保存された研究公正委員会(ARIC)のサイトは見つからなかった。

2023年8月に報告書が発表される2か月前の2023年6月6日に保存されたサイトが見つかった。その時点では、以下の7人が委員だった。出典:Australian Research Integrity Committee | 2023年6月6日版

• Ms Patricia Kelly PSM (Chair)
• Emeritus Professor Alan Lawson (Deputy Chair)
• Ms Julie Hamblin
• Mr Michael Chilcott
• Emeritus Professor John Finlay-Jones
• Professor Margaret Otlowski
• Emeritus Professor Janice Reid AC

2023年8月に報告書が発表された3か月後の2023年11月4日も同じ7人の委員だった。出典:Australian Research Integrity Committee | 2023年11月4日版

それが、2024年1月23日(発表5か月後)では3人増えて、以下の10人である。KPMG社の評価を受けて改革した後の体制と思われる。出典:Australian Research Integrity Committee | Australian Research Council

• Ms Patricia Kelly PSM (Chair)
• Emeritus Professor Alan Lawson (Deputy Chair)
• Emeritus Professor Michael Brooks
• Mr Michael Chilcott
• Professor Gerald Holtmann
• Dr Jane Jacobs
• Professor Margaret Otlowski
• Emeritus Professor Robyn Owens
• Emeritus Professor Alan Pettigrew
• Emeritus Professor Janice Reid AC

他も改善しただろう。

●3.【オーストラリア科学アカデミーの「2023年12月のニュース」】

★読んだ論文

同じ内容の論文は以下にも掲載された。

●【論文内容】

★イアン・チャブ教授(Ian Chubb)

オーストラリア科学アカデミー(Australian Academy of Science)は、「研究公正委員会(ARIC)の評価」報告書の発表を受けて、オーストラリアの研究ガバナンスを強化するためにさらなる行動が必要だと述べた。

注:オーストラリア研究公正委員会(ARIC:Australian Research Integrity Committee)は、大学・研究所の研究公正違反の管理および調査を監査する大学・研究所として、2011年、オーストラリア政府によって設立された国家組織である。 → Australian Research Integrity Committee | Australian Research Council

KPMG社による「研究公正委員会(ARIC)の評価」は、国家保健医療研究評議会(NHMRC)とオーストラリア研究評議会(ARC)という国内の2つの研究助成機関からの委託を受けて今週初めに発表された。

「研究公正委員会(ARIC)の評価」報告書の公表を受けて、オーストラリア科学アカデミーの科学政策担当部長のイアン・チャブ教授(Ian Chubb、写真出典)は、プロセスは重要であり、良い変化は歓迎されると述べた。

「「評価」の推奨事項が採用されれば、研究公正委員会(ARIC)はより効率的になるでしょう。 時間が解決してくれる」、とチャブ教授は語った。

さらに、「しかし、掌握範囲が非常に狭いので、研究界に対する脅威に対処できない場合が想定され、私たちが対処しなければならない問題の本質が見落とされている。従って、この「評価」は、規模の大小を問わず、大学・研究所の研究不正行為の申し立てに対処する能力を向上するものではない」と述べた。

オーストラリア科学アカデミーは、「評価」の11点目の推奨事項に次のように述べていることに注目している。

「研究公正委員会(ARIC)の評価」報告書では、「規範」の遵守を確保することの重要性と、コストや違反・逸脱の程度など、相殺される優先事項とバランスを取って、大学・研究所は研究不正に対処する必要がある。

チャブ教授は、この11点目の推奨事項を文字通り読み、「規範」の遵守は任意だと示唆していると述べた。

「このKPMG社による「評価」では、研究不正への対処は、国家の規則に沿い、鑑査の仕組み備える国の統一システムが国際的な最善のシステムだと述べている。しかし、私たちにはそのようなシステムを持っていない。私たちが持っているシステムは、公式には国家保健医療研究評議会(NHMRC)とオーストラリア研究評議会(ARC)、それにいくつかの民間財団、から資金提供を受けている大学・研究所に限定されています」。

「しかし、そのような大学・研究所に限って研究不正が起こるというものではありません。公的な研究資金を受け取っているすべての大学・研究所は、「規範」に従い、研究不正に対処すべきです」、とチャブ教授は述べた。

オーストラリア科学アカデミーは、今月初めに発表された研究公正に関する新しい声明で、「研究不正から研究界を守るオーストラリアの現在の制度は、対象範囲、説明責任、透明性などのいくつかの点で不備がある」と述べた。

また、別の文書では、研究公正委員会(ARIC)の欠陥は権限が狭いということだと指摘した。

オーストラリア科学アカデミーは、研究不正ガバナンスを強化する改善策について、この分野、研究助成機関、そして政府との連携を継続し、研究不正問題についてより深く対話できることを願っている、とのことだ。

●7.【白楽の感想】

《1》日本語の紹介 

「2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価」の日本語の紹介がない。

このような公的報告書がでると、通常、日本政府の関係組織が解説する。今回はそれが見当たらない。

日本政府は海外の研究公正の動向を十分把握できていないのかナ?

《2》難解 

国の調査報告書はわかり難い。書いてあることは「ごもっとも」なのだが、何かを本気で改善しようとして調査を依頼したのか、対応していますというアリバイ作りの形だけの調査を依頼したのか、裏の事情がつかめない。

国家保健医療研究評議会(NHMRC)およびオーストラリア研究評議会(ARC)は、現在のオーストラリアの研究公正状況をマズいと思っている。それで、オーストラリア研究公正委員会を変えようとしたのだということは分かる。

それなら、国家保健医療研究評議会(NHMRC)およびオーストラリア研究評議会(ARC)が、現在のオーストラリアの研究公正状況のどこが問題なのか、フランクに話したらよいと思う。

既にどこかでフランクに話している? 白楽が知らないだけ?

米国の研究公正局と似たような国家機関をオーストラリアに創設する地固めをしていると、白楽は理解したけど、チガウ?

《3》改革 

「2023年8月:KPMG社のオーストラリア研究公正委員会の評価」を受けて、目に見える変化は、対応する委員数が増えたことだ。

オーストラリア研究公正委員会(ARIC:Australian Research Integrity Committee)の委員は7人だったのが、10人に増えた。4割も増えた。

委員がどのような人物でどのような活動をしているか、白楽は把握していないが、肩書をみると、10人の委員の内、5人が名誉教授である。

推察だが、高齢だろう。他の委員も同じように高齢だとすると、能力的に研究不正の調査・処理には向かないと思う。

また、10人の委員の内、2人が教授である。

推察だが、委員は専業ではない。他の委員も同じように兼業で、本務が別にあるとすると、時間的に研究不正の調査・処理には向かないと思う。

KPMG社はそういう指摘をしていない。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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