7-94 研究公正局のネカト調査集計:2021年

2022年3月21日掲載

白楽の意図:米国の研究公正局(ORI)は2021年にネカト者の事例を3件発表しただけで、クロ件数は例年の3割程度だった。しかし、93件のネカト処理をしていて、仕事ぶりは、例年と変わらない、と弁解したかったのだろうと思える研究公正局(ORI)の「2022年2月のORI Blog」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。

研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読むべし。

●1.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:研究公正局(ORI) Case Closures
    日本語訳:研究公正局の解決済み事例
  • 著者:Office of Research Integrity (研究公正局(ORI))
  • 掲載誌・巻・ページ: ORI Blog
  • 発行年月日:2022年2月14日
  • 指定引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://ori.hhs.gov/blog/ori-case-closures、(保存版
  • PDF:

★著者

著者名不記載

●2.【日本語の予備解説】

★2020年5月15日改訂:1‐5‐2 米国・研究公正局(ORI、Office of Research Integrity) | 白楽の研究者倫理

研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)は、生命科学系の研究ネカトに対処する米国の中枢的な政府機関である。権威・実績・スキル・知識・情報などほぼすべてにおいて、世界で最も優れた研究ネカト対処組織である。
約3年間空席だった3要職に、エリザベス・ハンドリー(Elisabeth Handley)が4代目局長、アレクサンドル・ランコ(Alexander Runko)が調査監査部長、そして、2020年4月2日にカレン・ウェナー(Karen Wehner)が公正教育部長に就任し、新体制が整った。それで、3人を中心に本記事を改訂した。

●3.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

以下、「予備」調査(inquiry)と「本」調査(investigation)を混同しないように、「」をつけた。

ーーー論文の本文は以下から開始

2021年(CY21:「CY」は暦年)に、研究公正局(ORI)は93件のネカトを処理した。

93件は、研究不正行為あり3件、調査却下26件(DTP:declined to pursue)、研究不正行為なし12件(不正行為なし)、「本」調査中止52件(アクセッション)である。

次の表は過去15年間の研究公正局(ORI)のネカト処理数である。本ブログの図表をクリックすると図表は2段階で大きくなる(多分)。

表に示したように、研究公正局(ORI)は、不正行為あり(Misconduct)、調査却下(DTP)、不正行為なし(No Misc.)、「本」調査中止(Accessions)など、4つのタイプでネカト対処を終りにしている。

不正行為あり(Misconduct)、調査却下(DTP)、不正行為なし(No Misc.)の3タイプは、一般に、ネカト被疑者の所属する大学・研究機関がネカトの「本」調査をし、調査報告書を研究公正局(ORI)に送付する。研究公正局(ORI)は、その調査報告書を審査した結果である。

  1. 不正行為あり(Misconduct)とは、健康福祉省(HHS)・国民健康庁(PHS)の資金提供を受けた研究で、被疑者がネカト行為を犯したと、証拠に基づいて、研究公正局(ORI)が判定した事例である。

    健康福祉省(HHS)は被疑者にネカト行為でクロとの判定結果を伝え、行政処分を科す。この規則は、連邦規則「Research Misconduct, 42CFR§93.407」に記載されている。

  2. 調査却下(DTP)とは、大学・研究機関が被疑者のネカト「本」調査をし、その結果、ネカト行為があったと判定し、行政処分を科す場合を含むが、研究公正局(ORI)はその調査報告書の審査で、研究公正局(ORI)としては、ネカト行為があったとの判定を正当化できないと判断した場合である。

    この場合、①ネカト行為があったとする証拠が不十分、②大学・研究機関が認定した申立てが研究公正局(ORI)の管轄外の場合(例えば、国民健康庁(PHS)の資金提供を受けていない研究)、③ネカト行為が軽微など、さまざまな要因に基づいてこの決定をする。

    研究公正局(ORI)の調査却下(DTP)は、被疑者の行為を免責するものではない。また、大学・研究機関がネカト調査をし、結論を出す権限を損なうものではない。

  3. 不正行為なし(No Misc.)とは、大学・研究機関がネカト「本」調査をし、ネカト行為がなかったと判定し、その後、研究公正局(ORI)が、その調査報告書を審査し、大学・研究機関の判定に同意した事例である。
  4. 「本」調査中止(Accessions)とは、大学・研究機関が申立て処理の手続き過程、または「予備」調査(inquiry)段階で終了した事例である。

    大学・研究機関は、申立ての審査または「予備」調査の後、「本」調査(investigation)をする十分な疑義証拠がないと判断した事例で、研究公正局(ORI)が大学・研究機関の判定に同意した事例である。

    「本」調査中止(Accessions)には、「本」調査に進むことが正当だと大学・研究機関が結論した申立ても含まれが、研究公正局(ORI)は、連邦規則「Research Misconduct, 42 CFR Part93」に従って判断している。

★表の集計

白楽が表の数値を集計した。

 15年間の総件数件数/年割合(%)
不正行為あり(Misconduct)16811.213.4
調査却下(DTP)22915.318.3
不正行為なし(No Misc.)16010.612.7
「本」調査中止(Accessions)69746.555,6
125483.6100

 

 

ここ15年間(2006~2021年)、年平均83.6件のネカト処理があり、37件(44%)が本調査され、年平均 11.2件(13.4%)が不正行為あり(Misconduct)となった。

●4.【関連情報】

●5.【白楽の感想】

《1》弁解 

研究公正局はこのような業務内容を、毎年は、公表していない。

そして、研究公正局が2021年に「クロ(不正行為あり(Misconduct))」と判定した件数は3件だった。

このクロ数は例年だと10件ほどある。それが2021年はたったの3件(例年の約3割)だったので、白楽は、研究公正局はまた、内部抗争をしているな、と感じていた。多くの人は同じように思ったに違いない。

だから、このような数値を公表して、研究公正局はチャンと機能していますと伝えたかったのだろう。

この数値は毎年公表して欲しいですね。

《2》解釈

表からネカト状況を読み取ると、ここ15年間(2006~2021年)、ネカト処理件数は43~124件と幅はあるが、増加傾向はないし、減少傾向もない。

また、不正行為あり(Misconduct)件数も、2021年を除けば、7~14件と幅はあるものの、増加傾向はないし、減少傾向もない。

つまり、処理件数と不正行為あり(Misconduct)件数がほぼ一定なので、米国の生命科学系が実施した研究公正抑制策は、ネカト「事件」数に対しては、顕著な効果はなかった。

なお、白楽のブログで何度も記述するが、ネカト「行為」数とネカト「事件」数は別なので、ネカト「行為」数は減少しているのかもしれない。ネカト「行為」数は測定方法がないので、正確な数値はなく、憶測でしか判断できない。

《3》件数がヘン?

今回の表で、白楽がよくわからない点がある。

ロバート・バウフヴィッツ(Robert Bauchwitz)の「2016年6月のSci Eng Ethics」論文を解説した「7-67 ネカト予備調査記録の欠落 | 白楽の研究者倫理」では、以下のようだ。

米国の大学は、1994~2011年の間、3,561件のネカト申し立てを受けた。そのうち、12.6%(449件)だけが本調査され、残りの87.4%は最初の申し立て段階(予備調査)で却下されていた(データは、研究公正局(ORI)の年次報告書から取得)。(表 1)。

この表1と今回の表(以下)の数値が合わない。

今回の表の「不正行為あり(Misconduct)」の件数を、年(今回:前回)で並べると、2006(14 :15)、2007(10: 10)、2008(11: 13)、2009(11: 11)、2010(9: 9)、2011(13: 13)、となる。

2006年と2008年が異なる。どうなっているんだろう?

不正行為なし(No Misc.)の件数も数値が合わない。

まさか、研究公正局がデータ改ざんしているとは思えないが、「7-67 ネカト予備調査記録の欠落 | 白楽の研究者倫理」のロバート・バウフヴィッツ(Robert Bauchwitz)論文と数値が合わない。

どうなっているのだろう?

ヘンだヘンだと思って、フト、白楽が把握している研究公正局が発表した「不正行為あり(Misconduct)」の件数を太字で加えた。 → 「生命科学のネカト・クログレイ事件一覧(世界) | 白楽の研究者倫理」の「生命科学」(米国)の表に「西暦ORI」で検索すると数値がでる。

すると、2006(14 :15:7)、2007(10: 10:13)、2008(11: 13:8)、2009(11: 11:15)、2010(9: 9:9)、2011(13: 13:10)となり、かなり合わない。

ヘンだ。

なお、今回の表のCY06、CY07の「CY」は暦年(カレンダーイヤー)なので、1月1日~12月31日までである。白楽の表もそのように分類している。

この違いの原因が、白楽はつかめていません。

《4》申立て件数もヘン?

今回の表では、大学・研究機関は毎年、何件のネカト申立て(allegation(s))を受けているのかの件数が記載されていない。従って、申立ての内、何件を「予備」調査(inquiry)したのかの数値はない。

一方、バウフヴィッツ論文の表では、1994~2011年に112~267件/年の申立てがあった。その申立ての約90%は「予備」調査で却下されて「本」調査に進んでいないとある。

米国の大学・研究機関は生命科学系(健康福祉省(HHS)絡みの研究)の研究者にネカト申立てがあれば、研究公正局(正確には少し違うが、ややこしいので)に伝え、その結末も研究公正局に伝える規則になっている。

今回の論文では、「予備」調査で却下されて「本」調査に進んでいない件数は、「本」調査中止(Accessions)の件数に含まれるように書いてあるが、「本」調査中止(Accessions)の割合は処理件数の55.6%である。バウフヴィッツ論文の約90%と大きく異なる。

なんか、ヘンである。

なお、ついでに書いておくが、日本では以下の通りなので、「予備」調査で蹴られた申立て者は、「予備調査に係る資料等」の開示請求をできるので、したほうがいい(下線は白楽)。

④ 本調査を行わないことを決定した場合、その旨を理由とともに告発者に通知するものとする。この場合、調査機関は予備調査に係る資料等を保存し、その事案に係る配分機関等及び告発者の求めに応じ開示するものとする。(「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定)」の14~15ページ)

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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