7-168 MDPI社の学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」のスコーパス索引付け保留

2025年4月10日掲載 

白楽の意図:この論文は、2024年ネカト世界ランキングの「撤回監視」の「第9位」なので紹介する。エリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「2024年1月のRetraction Watch」論文で、スコーパス(Scopus)はMDPI社の「サステナビリティ(Sustainability)」誌の索引付けを保留すると報道した。3日後、保留ではなく継続と報道した。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.キンケイドの「2024年1月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★2023年12月13日掲載:7-135 超多量の論文出版で大儲けのMDPI社| 白楽の研究者倫理

7-135 超多量の論文出版で大儲けのMDPI社

●2.【キンケイドの「2024年1月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

論文1

  • 論文名:Exclusive: MDPI journal undergoing reevaluation at Scopus, indexing on hold
    日本語訳:独占:MDPI社の学術誌がスコーパスで再評価中、索引付けは保留
  • 著者:Ellie Kincaid
  • 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
  • 発行年月日:2024年1月2日
  • ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2024/01/02/exclusive-MDPI-journal-undergoing-reevaluation-at-scopus-indexing-on-hold/
  • 著者の紹介:エリー・キンケイド(Ellie Kincaid、写真出典
  • 学歴:2014年に米国のセントルイスのワシントン大学(Washington University in St. Louis)で学士号(英語学)、2016年にニューヨーク大学(New York University)で修士号(科学、健康、環境レポート)。経歴の出典
  • 分野:科学ジャーナリズム
  • 論文出版時の所属・地位:2022年5月~、撤回監視(Retraction Watch)・編集員

論文2(論文1の補遺)

●【論文内容】

★学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」

エルゼビア社(Elsevier)のデータベースであるスコーパス(Scopus)は、約3万件の学術誌を索引付けしているが、MDPI社の学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」(画像出典)の索引付けを一時停止し、再評価している。

その前年の2023年、スコーパス(Scopus)はMDPI社の学術誌を再評価し、数学分野の学術誌「Axioms」を除外した。

2023年3月、クラリベイト社(Clarivate)は、MDPI社の学術誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」ともう1誌を「Web of Science」の索引付けから除外した。それで、この2誌はインパクト・ファクターを受け取れなくなった。→ 2023年3月28日記事:Fast-growing open-access journals stripped of coveted impact factors | Science | AAAS

大学や研究助成機関はスコーパス(Scopus)を使って、優良学術誌のリストである「ホワイトリスト」を作り、そのリストに掲載された学術誌に論文を出版することを研究者に勧めている。

それで、索引付けから除外された学術誌は、論文投稿数が急速に減り、収入も大きく減る。

2022年、ノルウェーは、優良学術誌のリストから「サステナビリティ(Sustainability)」を削除した。 → 2022年5月22日記事:Stryker et av verdens største fra listen over godkjente tidsskrifter

フィンランドはノルウェーに追随した。 → 2022年9月30日記事:Sustainability to level 0 in 2023 | Publication Forum

その決定の発表の中で、フィンランド出版フォーラムは次のように書いている。 

「サステナビリティ(Sustainability)」は質の高い論文も出版している。しかし、そのカバーする分野の広さ、出版量の多さ、出版プロセスの速さのため、論文の質を維持できなくなり、信頼性に懸念が生じている。品質が大きくばらつくのは、MDPI社の他の学術誌の何千もの特別号に共通する問題です。

スコーパス(Scopus)に登録された「サステナビリティ(Sustainability)」の論文数は、論文が索引登録された最初の年である2009年に78報、それ以来、ほぼ毎年増加してきた。そして、ナント、2022年には17,000報を超える論文を掲載した。出版量が急激に増大した。一時停止前の2023年は約13,500報だった。

MDPI社の編集長(マネージング・エディター)のエレナ・リー(Elaine Li、写真出典)によると、スコーパス(Scopus)のコンテンツ選択諮問委員会(Content Selection and Advisory Board:CSAB)が学術誌を再評価していることを、2023年10月30日に知った。

エレナ・リーは「再評価のため、学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」に掲載された論文の索引付けが一時停止されていることを確認しました。索引付けが保留された論文は再評価が終了し、索引付けが継続すると決まれば、論文は4週間以内に索引付けされます」、と述べている。

エレナ・リーは、また、MDPI社の他のいくつかの学術誌は、すでに再評価されているとも述べた。

「撤回監視」がエルゼビア社に詳細を尋ねると、エルゼビア社は、「学術誌の評価に関する情報は機密です」と回答してきた。

★その後の話

エリー・キンケイド(Ellie Kincaid)が上記の「撤回監視(Retraction Watch)」論文1を2024年1月2日に発表したあと、MDPI社のステファン・トチェフCEO(Stefan Tochev、写真出典)は、「2024年1月の時点で、MDPI社には269学術誌がスコーパス(Scopus)に索引付けされている。これらの学術誌のうち54誌は2023年に追加されました」と「撤回監視」に語った。

そして、論文1の発表3日後、エリー・キンケイド(Ellie Kincaid)は論文2を発表した。

スコーパス(Scopus)は、2023年10月末にMDPI社の学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」の索引付けを一時停止し、再評価していたが、2024年1月4日に再評価を終了し、索引付けを継続すると、ステファン・トチェフCEOが述べたと、論文2が記載した。

再評価中に索引付けされなかった論文は、今後4週間以内にスコーパス(Scopus)に追加される。

なお、学術誌の評価の詳細は機密だそうだ。

【動画1】
動画:「Sustainability Passes Scopus Re-evaluation Process – YouTube」(英語)2分4秒。
YuvaTeckが2024/01/13 に公開

●7.【白楽の感想】

《1》どこが重要? 

この論文は、スコーパス(Scopus)が、MDPI社の学術誌「サステナビリティ(Sustainability)」の索引付けを保留したという2024年1月2日の論文と、その2日後にスコーパス(Scopus)が索引付けの継続を発表したという翌日の2024年1月5日の論文である。

スコーパス(Scopus)は、約3万件の学術誌を索引付けしていて、増減はそれなりにある。

それなのに、1つの学術誌の索引付けの保留・継続を、2024年ネカト世界ランキングの「撤回監視」の「第9位」にランクする重要性が、白楽にはわからない。

自虐的に言うと、白楽がバカで重要性に気が付いていないだけ?

《2》ドタバタ 

2024年1月2日の論文で索引付けが保留と発表し、その2日後に否定的な情報を得、翌日の2024年1月5日の論文で保留ではなく継続と発表した。

マー、白楽もこのようなドタバタをするけど、過去は消せないので、訂正するしかない。

でも、「撤回監視(Retraction Watch)」のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者、今回は取材が足りないか、慎重さが足りなかったですね。単に運が足りなかっただけかもしれませんが。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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