2014年5月28日掲載、2020年5月15日更新、2023年3月25日更新
ワンポイント:研究公正局(ORI: Office of Research Integrity)は、生物医学領域(広義)のネカトに対処する米国の中枢的な政府機関である。権威・実績・スキル・知識・情報などほぼすべてにおいて、世界で最も優れた研究ネカト対処組織である。明日の2023年3月26日、1年9か月空席だった5代目局長にシーラ・ギャリティ(Sheila Garrity)が就任する。それで、新しい局長を中心に本記事を改訂した。
【追記】
・2023年7月25日記事:Meet Sheila Garrity, the New Director of the HHS Office of Research Integrity – NIH Extramural Nexus
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.はじめに
2.研究公正局の要点
3.日本語の解説
4.活動
5.組織構成、職員、職務
6.科学者捜査官の人生
7.歴代の局長
8.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【はじめに】
研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)は、生物医学領域(広義)の研究ネカトに対処する米国の政府機関である。権威・実績・スキル・知識・情報などほぼすべてにおいて、世界で最も優れた研究ネカト対処組織である。
2023年2月10日、1年8か月空席だった5代目局長にシーラ・ギャリティ(Sheila Garrity)が決まり、明日、2023年3月26日に就任する。
他の2要職は、
- 2019年8月4日にアレクサンドル・ランコ(Alexander Runko)が調査監査部長に就任している。
- 2020年4月2日にカレン・ウェナー(Karen Wehner)が公正教育部長に就任している。
●2.【研究公正局の要点】
- 機関名:研究公正局(Office of Research Integrity)。略して「ORI」(オーアールアイと読む)。
- 設立:1992年。現在、約32年経過した。前身の科学公正局(Office of Scientific Integrity:OSI)は1989年3月設立。
- 法的根拠:2005年制定の連邦規則42巻93条(42 C.F.R. Part 93)「公衆衛生庁の研究不正規則(Public Health Service Policies on Research Misconduct)」
- 言語:英語
- 対象:生物医学領域(広義)の研究ネカト。健康福祉省(HHS)・公衆衛生庁(Public Health Service (PHS))管轄下の研究ネカトを対象とするが、食品医薬品局(FDA)管轄下の事件は扱わない。
具体的には、NIH所内の研究員、NIH所外でNIH研究助成金の申請者と受給者、健康福祉省(HHS)・監察総監室(Office of Inspector General)研究助成金の申請者と受給者である。結果として、役職としては、研究者、ポスドク、院生、テクニシャンなどが対象になる。米国外の研究者もNIH研究助成金の申請・受給していれば対象者になる - 位置:米国連邦政府の政府機関。健康福祉省(保健福祉省:HHS)の長官オフィスの健康次官補オフィス(Office of the Assistant Secretary for Health: OASH)の1部局
- 年間予算:2016年は860万ドル(約8億6千万円)(2005年は700万ドル(約7億円))。人件費、調査費(パソコン、旅費など)、教育・研修費、法的対応費、施設賃貸料(あるいは維持費)。→ 2016年8月24日の「Science」記事:New leader of NIH’s research watchdog faces staff revolt | Science | AAAS
- 年間摘発件数:10~13件。主にねつ造・改ざん。盗用はまれ
- 年間摘発研究費:約75億円(2020年度)
- 事件リスト(処分中のみ):Case Summaries | ORI – The Office of Research Integrity
- 処分中の研究者リスト:PHS Administrative Action Report
(参考1、食品医薬品局:新薬開発や承認等で有罪判決の研究者リスト:FDA Debarment List (Drug Product Applications) | FDA)
(参考2、食品医薬品局:臨床試験の実施資格を取消・制限者リスト: Clinical Investigators – Disqualification Proceedings) - 本部所在地:Office of Research Integrity, 1101 Wootton Parkway, Suite 750, Rockville, Maryland 20852, USA
- 連絡先: AskORI@hhs.gov
- サイト:http://ori.hhs.gov/
- ブログ:http://ori.hhs.gov/blog
- ツイッタ―:https://twitter.com/HHS_ORI
本部:The Tower Building – 1101 Wootton Parkway。この建物のワンフロア―。写真出典
●3.【日本語の解説】
★ ウィキペディア:修正引用
研究公正局(けんきゅうこうせいきょく、Office of Research Integrity、ORI)とは、研究の公正性、すなわち科学における不正行為が行われていないかどうかなどを監視する、米国の政府系機関である。
前身はアメリカ国立衛生研究所(NIH)(白楽注:国立衛生研究所は誤訳、「国立生物医学研究機構」が適切)内に設置されたOSI(Office of Scientific Integrity 科学公正局)およびアメリカ合衆国保健福祉省(HHS)のAssistant Secretary for Healthの下に設置されたOSIR(Office of Scientific Integrity Review)の二つであり、1992年5月に統合されたものである。(出典:米国研究公正局 – Wikipedia)
★文部科学省の「研究活動の不正行為に関する特別委員会」の資料(2006年8月8日)。文部科学省の科学技術・学術政策局政策課が作成。
- 連邦政府規律(Federal Policy on Research Misconduct)の制定のほか、保健福祉省の公衆衛生庁(PHS)に研究公正局(ORI)を設置するなど、生命科学分野を中心に、研究活動の不正行為に対して、立法を含む多様な取り組み。
- 連邦政府が資金援助した研究には、研究機関は不正の予防と調査の責務を有し、連邦政府機関が監査権限を有するという仕組み。
(保健福祉省)
- 保健福祉省では、公衆衛生庁(PHS)に研究公正局(ORI)を設置。PHSが助成している研究活動における公正さを監視・指導。研究の不正行為に関するPHS規律(Public Health Service Policies on Research Misconduct)を2005年に改定。
- 研究の不正行為に関するPHS規律では、規律の適用範囲、不正行為の定義、PHSから研究資金を受けている研究機関及びORIの責務など詳細に規定。
- ORIは、上記の規律に基づき、不正が申し立てられた場合の手続等に関し、次の対応方針を改訂。
1)Model Policy for Responding to Allegations of Scientific Misconduct
2)Model Procedures for Responding to Allegations of Scientific Misconduct - 当該Model Policyにおいて、PHSから研究資金を受けている研究機関に示している方針の内容
1)疑いのある事例の受付
2)告発すべきかどうかを決める照会調査
3)公式調査
4)確認調査結果のORIへの報告を義務付け
●4.【活動】
★研究ネカトの調査と公表
第一次追及者の公益通報を研究公正局が直接受けた場合、被疑者の所属する各大学・研究機関に研究ネカト疑念を通知する。
各大学・研究機関が所属研究者の研究ネカトを調査するが、研究公正局はその助力・支援をする。各大学・研究機関からの調査報告書を受け、研究公正局もそれなりに調査する。
小規模な大学・研究機関ではネカト調査人材がいない場合、要請があれば、研究公正局が事件を調査する。また、大規模大学・研究機関でも広範で重大な研究ネカトでは研究公正局が事件を調査する。
研究公正局がクロと判定すると、実名・所属・職位・ネカト内容を公表し、通常は3年間の締め出し処分(debarment)を科す。この締め出し処分は、健康福祉省(HHS)の研究費申請、研究費審査、関連職務を禁止する処分だが、実質上、ネカト者を研究界から排除する処置である。
ネカト者の公表(締め出し処分が過ぎると削除される)。 → Case Summaries
★ニュースレターの発行
1993年以来、年4回ニュースレターを発行していた。2018年秋号を最後に、その後、発行していない。
記事には、研究ネカト問題の議論や解説もある。研究ネカトの調査の結果、「クロ」と判明した場合、研究者の実名・所属・職位・研究ネカト内容も記載する。 → Newsletter
★締め出し処分中
研究ネカトの調査の結果、「クロ」と判明し、締め出し処分中の研究者一覧。 → PHS Administrative Action Report
★研究規範の講演会
1990年と1993年に開催。1997年以降は2012年まで毎年開催していたが、2013年-2015年は開催しなかった。2016年から再開したが、2020年以降は開催していない。 → Conferences
★研究ネカト告発(申し立て)に対する対処方法
研究ネカト告発に対する対処方法を丁寧に解説している。 → Handling Misconduct
★研究ネカトの科学的調査方法
研究ネカトの科学的調査方法を丁寧に解説している。 → Forensic Tools
★信頼研究行為の教育・促進の教材:研究ネカト防止のインタラクティブ・ビデオ
- ①「実験室(The Lab)」(英語、スペイン語、中国語)メインが3分25秒、その後、選択、選択、・・・。科学技術振興機構(JST)が日本語字幕を作成した → ココ(とてもおススメです)
- ②「研究病院(The Research Clinic)」(英語)。日本語字幕版はない
★信頼研究行為の教育・促進の教材資料
- 総合的 → General Resources
- ヒト材料 → Human Subject Research
- 文献調査/オーサーシップ → Publication/Authorship
- 研究ネカト → Research Misconduct
- 実験動物 → Animal Resources
- 良き師(指導者) → Mentorship
- データ取り扱い → Data Management
- 共同研究 → Collaborative Science
- 利益相反 → Conflicts of Interest and Commitment
- 査読 → Peer Review
- 事件事例集 → RCR Casebook
- 研究規範教育コース例 → RCR Objectives
★「研究公正性の研究」に研究費支援
「研究公正性の研究」(Research on Research Integrity:RRI)に対して、2001年から2018年まで、全米(米国外も可)の大学・研究所に研究費を支援していた。助成金受給者と採択課題 → Awards Data
★アシュアランス・プログラム(Assurance Program(確約プログラム)
NIH研究費を申請・受給している全米の大学・研究所(約4,500機関)は、研究公正局に、「研究ネカト対策をちゃんとしています」という「確約」をしなければならない。 → ココ
中身は2つある。①研究ネカトの告発に対処するシステムがまともなこと。②研究ネカトの年次報告書の提出(ANNUAL REPORT ON POSSIBLE RESEARCH MISCONDUCT、保存版)。
★研究公正官(Research Integrity Officer)
2005年制定の連邦規則42巻93条(42 C.F.R. Part 93)「公衆衛生庁の研究不正規則(Public Health Service Policies on Research Misconduct)」で、NIH研究費を申請・受給する大学・研究所には最低1人の研究公正官(Research Integrity Officer)の設置(兼任可)を義務付けた。 → 研究公正官ハンドブック(ORI Handbook for Institutional Research Integrity Officers) 、研究公正官の責務(Research Integrity Officer Responsibilities)
●5.【組織構成、職員、職務】
局長室と2つの部からなる。さらに、研究監督法律チーム部/総合法律顧問部もあるが、一応、対象外とする。
局長を含め総勢26人である。研究博士(Ph.D.)8人、医師免許(MD)2人、公衆衛生学博士(Dr.P.H.)1人、公衆衛生学修士(MPH)2人、技術経営修士(MOT)1人、行政学修士1人、獣医学士1人。学位はのべ人数で、2つ以上の学位を所持している人は複数いる。局員の31%が研究博士(Ph.D.)である(2016年6月21日当時は46%だった)。
★ 局長室(Office of The Director)
● 局長:シーラ・ギャリティ(Sheila Garrity、写真出典)
2023年2月10日、1年8か月空席だった5代目局長に決まり、2023年3月26日に就任する。在職期間は1 年6 か月 19 日 。
経歴:出典、①:Sheila Garrity | LinkedIn、②Meet the Directors | ORI – The Office of Research Integrity (現在は旧版だが、直ぐ更新されるだろう)
現在の年齢:66 歳?
学歴は、
- ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生科学大学院(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health) で公衆衛生学修士号(MPH)を取得
- メリーランド大学フランシス・キング・ケアリー法科大学院(University of Maryland Francis King Carey School of Law)で法務博士号(Juris Doctor)を取得
- xx 経営学大学院で経営学修士号(MBA)を取得
前職は、ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)の研究公正官(RIO)だった。その前職はジョンズ・ホプキンス大学医科大学院(Johns Hopkins University School of Medicine)に約20年在職し、研究公正部門長および 研究公正官(RIO)だった。
ギャリティは、2016年に研究公正官協会(Association for Research Integrity Officers (ARIO))を設立し、初代会長に就任した。現在は副会長だが、研究公正局長に就任すれば、研究公正官協会・副会長は辞任するだろう。
[白楽の感想:公衆衛生学修士号(MPH)、法務博士号(Juris Doctor)、経営学修士号(MBA)を持っていて、2つの大学の研究公正官(RIO)だった。研究公正官協会の設立と初代会長だった。この経歴なので、研究公正局長に適任と思える]
● スタッフ(2023年3月25日未更新):8人。内訳は局長1人、副局長1人、プログラム・スタッフ(つまり、事務員)5人、主題専門家1人。
局長1人で公衆衛生学修士号(MPH)・法務博士号(Juris Doctor)・経営学修士号(MBA)、副局長1人が公衆衛生学博士(Dr.P.H.)を持つが、他のスタッフに研究博士(Ph.D.)、法務博士(J.D.)、医師免許(MD)、公衆衛生学修士(MPH)などはいない。
● 業務 → Office of the Director
★ 調査監査部(Division of Investigative Oversight)(2023年3月25日更新では無修正)
● 部長:アレクサンドル・ランコ(Alexander Runko、Alex Runko、研究博士、写真出典)
【追記】:2024年10月6日、NIHプログラム・オフィサーに転出。代役はNing Du。 → Dr. Alexander Runko Selected to be NIH Program Officer – Congratulations Alex! | ORI – The Office of Research Integrity
経歴:出典、①Meet the Directors | ORI – The Office of Research Integrity
現在の年齢:49 歳?
最終学歴は、マサチューセッツ大学・メモリアルメディカルセンター(University of Massachusetts Memorial Medical Center) で生化学と分子薬理学の研究博士号(PhD)取得した。専門は神経発生、発生学、発生生物学、遺伝学。
職歴は、NIHの国立神経障害と脳卒中の国立研究所(NINDS) でポスドク。NIHの国立心肺血液研究所 (NHLBI)でプログラム管理者をした。
2010年に研究公正局に健康科学者管理官(Health Scientist Adminstrators)として入局し、2019年8月4日に調査監査部長に就任した。在職期間は約14 年9 か月 14 日 。
生命科学者のエリック・ランコ(Erik A Runko)は双子の兄弟である。
● スタッフ:12人
- 部長1人(研究博士):上記
- 科学者捜査官(Scientist-Investigators=健康科学者管理官Health Scientist Adminstrators)は5人(研究博士4人、1人は獣医学士(BVSc)でもある、医師免許(MD)1人)
- プログラム・スタッフ(つまり、事務員)4人
- 主題専門家2人(1人は医師免許+研究博士):科学者捜査官と同等の業務
● 業務
山崎茂明の2011年の記述を修正引用すると以下のようである。
調査監査部は、不正行為の調査を実際に行う部であり、生命科学領域の研究内容を調査できる専門研究者から形成されている。
公衆衛生庁(PHS: Public Health Services)は健康福祉省(DHHS)に属し、生命科学研究を対象にして、毎年アメリカの2000以上の研究機関にたいし、3万件以上の研究助成を提供しており、助成額は300億ドルに及んでいる。
調査監査部は、この公衆衛生庁によって助成された研究プロジェクトに関係する不正行為の告発に対応し、研究の公正さを監視する責任がある。(出典:山崎茂明:「研究公正局の新たな展開」、あいみっく、32、13-16、2011)
具体的には以下のようだ。参照:Division of Investigative Oversight
- NIH研究費の申請者/受給者の研究機関が行なった研究ネカトの調査、また、NIH研究員の研究ネカトの調査・評価・監視。
- NIH研究費の申請者/受給者の研究機関が行なった研究ネカトの調査報告書、また、NIH研究員の研究ネカトの調査報告書、監察総監室(Office of Inspector General)の研究ネカトの調査報告書、これらの調査報告書を審理し、研究ネカトを発見した場合は、研究ネカト者に対する行政処分案を作り、研究公正局・局長に提案する。
- 研究公正局の総合法律顧問部(Office of the General Counsel:OGC)が研究ネカト事件を健康福祉省(HHS)・上訴委員会(Appeals Board)の行政法判事(Administrative Law Judge)提示するのだが、事前に研究公正局の総合法律顧問部を支援する。
- 研究ネカトと告発された(申し立てられた)研究者個人に対し、要求に応じて、健康福祉省(HHS)の政策および手続きについての情報を提供する。
- 研究ネカトの疑念や調査依頼をする個人・組織、つまり、研究ネカトを公益通報する個人・組織への助言と技術援助のプログラムを実行し、確立する。
- 公益通報者への報復の苦情に対処する規則遵守法(コンプライアンス・プログラム)を確立する。
- 研究ネカト事件の監視に加えて、公正教育部(Division of Education & Integrity)の活動にも寄与し、次の部分を管理する。①迅速な対応技術援助プログラム。②公衆衛生庁(PHS)管理掲示板。③規則遵守法(コンプライアンス・プログラム)。④報復苦情の応答。
★ 公正教育部(Division of Education & Integrity)(2023年3月25日更新では無修正)
● 部長:カレン・ウェナー(Karen Wehner、研究博士、写真出典)。
経歴:出典、①Meet the Directors | ORI – The Office of Research Integrity
現在の年齢:49 歳?
最終学歴は、 イェール大学( Yale University) で遺伝学の研究博士号(P hD)取得した。専門はリボソームの構築、調節、活性。
職歴は、スタンフォード大学医科大学院(Stanford University School of Medicine)でポスドク。前職は、ジョンズホプキンス大学医科大学院(ohns Hopkins University School of Medicine)の研究公正部・副部長だった。
2020年4月2日に研究公正局に公正教育部長として入局した。在職期間は約4 年6 か月 13 日 。
● スタッフ:6人
- 部長1人(研究博士):上記
- アシュアランス・プログラム・マネージャー(Assurance Program、確約プログラム)1人
- 健康科学者管理官(Health Scientist Adminstrators)は3人(1人は研究博士+公衆衛生学修士(MPH)、1人は技術経営修士(MOT)、1人は研究博士+公衆衛生学修士(MPH)+健康教育士(CHES)+公衆衛生師(CPH))
- コミュニケーション1人
● 業務
山崎茂明の2011年の記述によると以下のようである。
公正教育部は、不正告発への対処手順、対処方針、規則などを発展させる責任があり、多くのガイドやモデル案を作成している。
不正行為の定義、不正行為調査の手順、不正行為を告発した申立人の保護、訴えられた被告発人の権利保護、必要な報告事項、控訴のための手順、不正行為への行政的な処罰、情報の公開など、幅広い内容を含んでいる。
この部は、責任ある科学研究の重要性を普及させるために、大学、学会、専門団体などと協力し、会議やワークショップを企画している。不正行為を防止するための有効な方法は、厳しい行政措置や処罰にあるのではなく、むしろ教育活動にあると考えている。
多くの資料をホームページ上で公開し、著作権を設定せずに、自由な情報利用を推奨している。(出典:山崎茂明:「研究公正局の新たな展開」、あいみっく、32、13-16、2011)
具体的には以下のようだ。参照:Division of Education and Integrity
- 公衆衛生庁(PHS)の各局(OPDIVs)にコンサルタントし、公衆衛生庁内・庁外の研究者に信頼研究行為の指導、研究公正性の促進、研究ネカトの防止、研究ネカトの告発に大学・研究機関が適切に対処すること、の活動と計画の発展と実施。
- 研究公正の政策・手続き・規則の普及のおぜん立て。
- 健康福祉省(HHS)の研究公正性政策・手続きの政策分析・評価・研究をする。また、研究ネカト、研究公正性、研究ネカト防止に関する知識の拠点を構築する。
- 大学・研究機関のアシュアランス・プログラム(Assurance Program、確約プログラム)の評価・承認の管理。NIHの所内・所外の政策および手続きの承認の管理。
- 以下の活動
Assurance Program:http://ori.hhs.gov/assurance-program
Annual Report on Possible Research Misconduct
Review of institutional policies
RCR Resource Development Program
ORI Conference and Workshop Program
Research on Research Integrity Program
ORI Intramural Research Program
ORI web site
ORI Newsletter
ORI Annual Report
ORI listservs
★ 研究監督法律チーム部/総合法律顧問部(Research Oversight Legal Team / Office of the General Counsel)(2023年3月25日更新では無修正)
2016年6月21日当時、組織はあったが、スタッフの情報が削除されていた。2020年5月14日現在、組織はある。 → Office of the General Counsel – Research Oversight Legal Team | ORI – The Office of Research Integrity
2014年の情報を以下の残す(2020年5月14日現在、正しいかどうか不明)。
● 部長:クリスチャン・マーラー(Christian C. Mahler, 法務博士(J.D.))。
●スタッフ:5人
- 部長1人
- 弁護士(Attorneys)4人(法務博士J.D.4人、研究博士2人)
● 業務
山崎茂明の2011年の記述によると以下のようである。
研究監督法律チーム/総合顧問部は、法学博士号取得者や弁護士資格を持った法律家から組織されている。研究公正局が行う調査活動に付随する法的問題への助言や解決を示し、法的な整備を行う役割であり、調査活動を支えている。(出典:山崎茂明:「研究公正局の新たな展開」、あいみっく、32、13-16、2011)
●6.【科学者捜査官の人生】(2023年3月25日更新では無修正)
3人の科学者捜査官(健康科学者管理官)の人生が、2014年5月28日付けのScience Careers誌の記事「Susan Gaidos :Guardians of Science | Science Careers」に描かれている。
調査監督部の元・部長:スーザン・ガーフィンケル、科学者捜査官のクリステン・グレース(Kristen Grace 研究博士、医師免許:写真出典:同記事)とシャラ・ケイバック(Shara Kabak、研究博士)である。
収入は2014年の公募に、年収$106,263 ~ $138,136(約1,063~1,381万円)とあった。少し低額だろうか?
●7.【歴代の局長】
《1》クリス・パスカル・初代局長
在任期間:1996年~2009年(13年間)
白楽は、1996~2009年の14年間、初代局長を務めたクリス・パスカル(Chris B. Pascal)と在任中に少し話したことがある。冗談を言う、なかなか面白い人だったが、2016年3月24日、66歳で亡くなられた(CHRIS PASCAL Obituary)。合掌。
《2》デビッド・ライト・2代目局長
在任期間:2012年2月~2014年2月(2年間)
クリス・パスカル局長(Chris B. Pascal)の後に就任したデビッド・ライト局長(David Wright)は、2年間勤めて、2014年2月、辞職した。政府官僚機構の無能さに頭にきての辞職だという(2014年3月13日、ジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)の「Science」記事:Top U.S. Scientific Misconduct Official Quits in Frustration With Bureaucracy)。
米国の政府官僚の無能さと聞いておかしかった。世界はどこでも、優秀な人もいるが、無能な人もいる、ということだろう。
《3》キャシー・パーティン・3代目局長
在任期間:2015年12月末~2017年12月4日(2年間)
2015年12月末、約2年間、空席が続いた局長に、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin、写真出典)が就任した。
しかし、パーティン局長は、長年勤めている部長との軋轢が強かった。 → 2017年11月20日のジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)の「Science」記事:Director of HHS scientific fraud office is out after stormy 2-year tenure | Science | AAAS
2人しかいない部長の1人・ゼー・ハマット・公正教育部長が1年後の2016年12月xx日に、続いて、スーザン・ガーフィンケル・調査監査部長が2017年10月17日に辞職した。そしてついに、就任2年後の2017年12月4日、キャシー・パーティン局長が解雇された。
《4》エリザベス・ハンドリー・4代目局長
在任期間:2020年3月3日~2021年6月7日(1年3か月)
2019年8月26日、1年9か月間、空席が続いた局長に、エリザベス・ハンドリー(Elisabeth Handley、写真出典)が暫定局長 に、そして、2020年3月3日に暫定局長から正式に局長(4代目)になった。
ハンドリーの前職は健康福祉省(HHS)のメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS:Centers for Medicare and Medicaid Services)(職員約4,100人)の人事部長(Office of Human Capital)だった。
ハンドリー局長は、生命科学の研究経験なし。医師でもないし、研究博士号(Ph.D.)も取得していない。大学教授の経験もない。お役人畑の人である。このような人が局長になるのは珍しい。白楽が思うに、人柄、コネが強い? 不適格な人選という気がした。
2021年6月7日、1年3か月後、4代目のエリザベス・ハンドリー局長(Elisabeth Handley)が退任した(昇進) → 2021年6月7日記事:①ORI Director’s Update | ORI 、②US federal watchdog loses director to another government role – Retraction Watch
1年3か月で移籍してしまうなんて、無責任! 研究公正局の「公正」違反である。
●8.【白楽の感想】
《1》遅すぎる
研究ネカトの告発で著名なポール・ブルックス(Paul Brookes)は、2014年3月14日発行の「Science Careers」で、研究公正局の問題点を指摘している。
研究公正局は1件の調査に3~4年かかる。これでは遅すぎる。研究公正局に予算と人員を増やし、もっと迅速に処理すべきだ。(出典:Elisabeth Pain著、Paul Brookes: Surviving as an Outed Whistleblower | Science Careers、保存版)。
しかし、研究公正局の調査監査部(Division of Investigative Oversight)にはスタッフが12人もいる。一方、民間の研究ネカト告発サイトの「パブピア(PubPeer)」や「撤回監視(リトラクション・ウオッチ:Retraction Watch)」は数人のスタッフで運営している。それなのにネカト事件を迅速に処理している。
民間でできることがどうして政府でできないのだろうか?
同じビジネスモデルを導入するなり、ボランティア・チームを組織して協力してもらうなど、もっと工夫が必要ではないだろうか?
《2》研究公正官(Research Integrity Officer)
米国ではNIH研究費を申請する大学では研究公正官の任命は必須である。各大学・研究機関に1人の研究公正官(Research Integrity Officer)を置かせ、そのまとめ役を研究公正局がするスタイルは上手だと思う。
研究公正官は教授などが兼任できるけど、その大学教員へのネカト告発に対処することになる。
全米の約4,500大学・研究所に各1人はいるので、4,500人はいる。
フランスでは、研究公正の促進とネカト行為の対処に、各大学に研究公正官 (research integrity officer) を任命することが、2015年に法律で決められたらしい。
日本では研究公正官のケの字も聞かない。
2012年に文部科学省が各大学の「リサーチ・アドミニストレーター(URA)」を導入する頃、白楽は研究公正官 (research integrity officer) も考慮するように言った(非公式な席で)。で、無視された。脇道になるが、リサーチ・アドミニストレーター(URA)はあまり機能していないらしい。
日本の大学に研究公正官がいないのも研究不正大国の一因だろう。日本にも研究公正官制度を導入するといい。その際、理工医薬農系学部に科学文化学研究室(教員3人体制)を設置し、そこの教授に担当させる。このことで日本の研究規範は格段と上昇するだろう。
《3》問題山積
日本には研究者のネカトの統計データがほとんどない。だから、何をどうしていいのかわからない。
研究ネカト「事件」は増えているのは新聞記事での事件報道数が増えているのでわかる。しかし、研究ネカト「行為」は増えているのか、減っているか? 誰もわからない。データがない。調査・研究もしていない。
また、「研究ネカト者は再犯率が高いのか、低いのか?」わからない。高いなら、研究者をやめてもらうことが重要だが、データがない。調査・研究もしていない。
「研究ネカト者が教育者・研究者であることが学生・同僚教員に与える悪影響の度合いが高いのか、低いのか?」もわからない。再犯率が低くても、悪影響の度合いが高ければ、研究者をやめてもらうことが重要だが、データがない。調査・研究もしていない。
さらにマズイことに、日本はネカト事件を隠蔽・匿名するケースが多い。隠蔽・匿名にされると、研究ネカト者は容易に他大学・研究機関に移籍でき、新しい大学・研究機関では、過去の事件歴がわからない。
そして、とてもマズイことに、「大学のネカト対応怠慢・不作為」行為と「大学のネカト調査不正」行為が蔓延している(推測)。このことは深刻なのだが、データがない。調査・研究もしていない。
メディア報道の基本は5W1Hである。マスメディアでの報道は実名にすべきだと思う。百歩譲って、匿名なら、特定の機関が実名記録を保存すべきだ。これは機密事項にしてもいいが、研究倫理研究者の研究、研究者の採用や昇格時に大学・研究所からの問い合わせ、に情報提供する機能を持たせ、ネカト防止の研究と実務に使う。
なお、米国でも「研究ネカトは増えているか、減っているか?」、誰もわからないと、研究公正局の2代目局長・デイヴィッド・ライト(David Wright)は言っていた。(出典:2014年4月4日のジョスリン・カイザー(Jocelyn Kaiser)の記事:Former U.S. Research Fraud Chief Speaks Out on Resignation, ‘Frustrations’ | Science/AAAS | News)
質問(カイザー記者):研究ネカトは増えていますか? 研究ネカトが増えているから、論文撤回が増えているのですか?
答(デイヴィッド・ライト):誰れも知らないと思う。1つの見方として、研究ネカトの実際の行為数は増えていないけど、検出技術とオンライン出版が増えたことで、研究ネカトを検出することが容易になったという意見はある。
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●9.【主要情報源】
① 山崎茂明(2011):「研究公正局の新たな展開」、あいみっく、32、13-16。保存版
●10.【コメント】