宇宙科学:ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)(豪)

2023年10月30日掲載

ワンポイント:シュミットはシドニー大学(University of Sydney)・講師で、「2019年の原稿」を米国のミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)に送り、共著者になってくれるよう依頼した。「2019年の原稿」を見たトス教授は画像の改ざんに気がつき、シドニー大学に告発した。シドニー大学はネカト調査し、2023年1月のネカト調査報告書をまとめ、シュミットをネカト者とした。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt、ORCID iD:?、写真出典)は、オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)・講師で、専門は宇宙科学(物理学)である。

2019年x月x日(53歳?)、シュミットは上司のアイバー・ケアンズ教授(Iver Cairns)と共著の論文原稿をまとめていた。その「2019年の原稿」を米国のミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)に送り、共著者になってくれるよう依頼した。

「2019年の原稿」を見たトス教授は「2019年の原稿」の中で使われていた画像の改ざんに気がつき、シドニー大学に告発した。

シドニー大学はネカト調査し、2023年1月のネカト調査報告書をまとめ、シュミットをネカト者とした。

シドニー大学(University of Sydney)。白楽が撮影。

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:ドイツ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ゲッティンゲン大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。1993年にゲッティンゲン大学で研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:58歳?
  • 分野:宇宙科学(物理学)
  • 不正論文発表:2019年(53歳?)
  • ネカト行為時の地位:シドニー大学・講師
  • 発覚年:2019年(53歳?)
  • 発覚時地位:シドニー大学・講師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は米国のミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)で、シドニー大学に告発
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①シドニー大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。「撤回監視(Retraction Watch)」が入手し公表:https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/03/230215-Letter-to-Prof-Toth-Dr-vanderHolst-Prof-Manchester-re-Investigation-outcome-1-1-1.pdf
  • 大学の透明性:隠匿(Ⅹ)
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:原稿段階の1本
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Joachim Schmidt | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。1993年にゲッティンゲン大学で研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 1985~1993年(19~27歳?):ドイツのゲッティンゲン大学(University of Goettingen)で研究博士号(PhD)を取得:物理学
  • 1991年1月~1994年10月(25~28歳?):ドイツのマックスプランク・ソーラーシステム研究所(Max Planck Institute for Solar System Research)・ポスドク
  • 1998年1月~2003年12月(32~37歳?):英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン 工学・理工学・薬学研究院(Imperial College of Science Technology & Medicine)・研究員
  • 2007年4月~2010年10月(41~44歳?):米国のNASAゴダード宇宙飛行センター(NASA Goddard Space Flight Center)・客員研究員
  • 2010年11月~2021年3月(44~55歳?):シドニー大学(University of Sydney)・講師
  • 2019年(53歳?):直ぐ問題視される「2019年の原稿」を作成
  • 2019年(53歳?):不正が発覚
  • 2020年(54歳?)?:シドニー大学がネカト調査開始
  • 2021年3月(55歳?):シドニー大学・講師を辞職
  • 2023年1月xx日(57歳?):シドニー大学からネカト犯と結論された
  • 2023年10月29日(57歳?)現在:所属・滞在国不明

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚の経緯

2019年x月x日(53歳?)、シドニー大学のシュミットとアイバー・ケアンズ教授(Iver Cairns、写真出典)は、宇宙における天候の影響についての論文の原稿をまとめていた。

  • 論文原稿のタイトル:Explaining a Type II Burst
    著者:Iver Cairns, and Joachim Schmidt

その「2019年の原稿」では、米国のミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth、写真左出典)のモデルを使用していた。

それで、ケアンズ教授はトス教授に「2019年の原稿」を送り、共著者にならないかと打診した。

送られてきた「2019年の原稿」の図を見て、トス教授は驚いた。

図が改ざんされていたのである。

それで、2019年末(53歳?)、トス教授はシュミットとケアンズ教授を被疑者にネカト調査するようシドニー大学(University of Sydney)に告発した。

白楽注:実際に告発した人は、トス教授とDr Bart van der HolstとProfessor Ward Manchesterの3人だが、簡略化のため、本記事ではトス教授だけを示した。

なお、ケアンズ教授は、以下に示すように、オーストラリアでは著名な研究者である。

2020年11月20日、シドニー大学はオーストラリア宇宙賞(Australian Space Awards)の年間最優秀学術機関に選ばれ、ケアンズ教授とベン・ソーンバー準教授(Ben Thornber、本事件とは無関係)がその賞を受賞した。 → 2020年11月20日記事:University wins coveted space award – The University of Sydney

★調査

シドニー大学のエマ・ジョンストン学長(Emma Johnston、写真出典)は、トス教授の告発を受け、ネカト調査委員会を立ち上げた。

オーストラリアのマッコーリー大学(MacQuarie University)の物理学者リチャード・デ・グリス教授(Richard de Grijs)とサウスクイーンズランド大学(University of South Queensland)の天体物理学者ロブ・ウィッテンマイヤー教授(Rob Wittenmyer)がネカト調査を行なった。

調査チームは、シュミットが過去5年間に出版したすべての論文のすべての画像を調査した。

2020年12月11日(54歳?)、予備調査(preliminary assessment)の結果を発表し、「違反は軽微で本調査(full investigation)は必要ない」とした。

しかし、経緯は不明だが、結局、本調査(full investigation)をしたようだ。

2023年1月xx日(57歳?)、調査チームは、ネカト調査報告書をまとめ、シュミットが未発表の原稿でデータを改ざんしたと結論した。また、ケアンズ教授はシュミットの改ざんを知らなかったとした。

つまり、ケアンズ教授は改ざんに関与していないので、ケアンズ教授は無罪だと結論した。

トス教授はこの結論に不満で、ケアンズ教授にも責任がある。無罪とするのは無責任だと批判している。

「撤回監視(Retraction Watch)」が報告書へのコメントを求めたが、ケアンズ教授、そして、調査チームのリチャード・デ・グリス教授とロブ・ウィッテンマイヤー教授も機密保持を理由に、コメントを拒否した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が入手した2023年1月xx日付のネカト調査報告書(スミ塗り版)の冒頭部分(出典:同)。全文(44ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/03/Schmidt-Cairns-Investigation-report_redacted-1.pdf

2023年2月15日(57歳?)、エマ・ジョンストン学長(Emma Johnston)はミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)に書簡を送付し、シュミットがデータを改ざんしたと伝えた。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が入手したエマ・ジョンストン学長の2023年2月15日付の書簡(ミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)宛)の冒頭部分(出典:同)。全文(4ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/03/230215-Letter-to-Prof-Toth-Dr-vanderHolst-Prof-Manchester-re-Investigation-outcome-1-1-1.pdf

★その後

シュミットは2010年11月~2021年3月、シドニー大学(University of Sydney)・講師だった。

上記したように、2019年に論文原稿にネカトがあると告発され、2023年1月xx日(57歳?)にシドニー大学からネカト犯と結論された。

2021年3月(55歳?)にシドニー大学を去っているタイミングから推察して、ネカト事件でクロとされたために解雇されたと思える。

ただ、シドニー大学は「シュミットを解雇していません。有期契約が満了したので、大学を去っただけです」と述べている。

ネカト事件でクロになり、大学は再雇用契約をしなかったと思われる。この場合、実質的に解雇と同じだと思うけど、シドニー大学は「契約が満了」と述べている。

シドニー大学は、実態を認めない官僚的な回答を、どうしてするのだろう?

【改ざんの具体例】

「2019年の原稿」は論文としては、未発表である。

2023年1月xx日付のネカト調査報告書(スミ塗り版)に改ざん画像が示されている。 → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/03/Schmidt-Cairns-Investigation-report_redacted-1.pdf

「2019年の原稿」の画像は以下である。

以下は、元画像を加工した過程。

この加工でデータの中身を変えていないと思うが、白楽は、この分野の知識がない。

白楽は、この加工が不正なのかどうか、明確には、わからない。「わからない」けど、シュミットは、画像を「少し綺麗にする」加工をした、と白楽は理解した。

この加工は、不正な改ざんということらしい。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★スコーパス(Scopus)

2023年10月29日現在、スコーパス(Scopus)で、ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)の論文を「Joachim Schmidt」「University of Sydney」で検索した。1989~2017年の29年間の29論文がヒットした。

★撤回監視データベース

2023年10月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)を「Joachim Schmidt」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年10月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)の論文のコメントを「”Joachim Schmidt”」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》日本では不正ではない 

日本はヘンなのだが、ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)のネカトは、日本では不正にならない。

以下は「ジャニナ・ジャン(Janina Jiang)(米) | 白楽の研究者倫理」から修正引用。

日本は、未発表の論文原稿でのネカトを研究不正とみなしていない。

文部科学省のガイドラインには修正すべき点がいくつもあるが、この異常もその1つで、発表・未発表を問わずネカトは研究不正とみなすべきです。

《2》邪推 

邪推です。

シュミット事件では、調査チームが、シュミットはクロだが、ケアンズ教授は改ざんに関与していないと結論した。

ガボール・トス教授(Gabor Toth)は、ケアンズ教授をシロと結論した調査報告書に不満を表明している。

また、「撤回監視(Retraction Watch)」が報告書へのコメントを求めたが、ケアンズ教授、そして、調査チームのリチャード・デ・グリス教授とロブ・ウィッテンマイヤー教授も機密保持契約を理由に、コメントを拒否した。

ココにも機密保持契約が登場して、上層部・権力者の都合が優先した。事実の公表は軽視され、隠蔽のにおいが強くなる。

シュミット事件は、ヒョットすると、「大学のネカト調査不正」事件かもしれない。

しかし、「大学のネカト調査不正」があったところで、その「調査不正」を調査できる状況がないのだから、疑惑は闇の中だ。

いつも、思うのだが、ネカト調査で問題点を明らかにし、対策を立て、大学は前進する。これが重要である。

しかし、大学は、ネカト調査の過程および結論で、意図的に事実と証拠を闇に葬り、曲解する。調査は何かを明らかにするためであって、何かを隠蔽するためではないのだが、しかし、必ずと言っていいほど、大学は隠蔽する。

どうにかならないものだろうか?

《3》機密文書の公開 

白楽ブログの読者はご存知だと思うが、外国のネカト事件では「機密文書」がしばしば公開されている。

シュミット事件でも、2つの「機密文書」が公開された。

1つ目は、2023年1月xx日付のネカト調査報告書(スミ塗り版)で、冒頭に「機密報告書(CONFIDENTIAL REPORT)」とあり、1ページ目には斜めに大きく「CONFIDENTIAL」と上書きしてある。

「機密文書」の公開だが、シドニー大学は公開されることを予想して、かなり多くのスミ塗りした。例えば28ページと29ページは右図に示すように全面的にスミ塗りしてある。他のページもスミ塗りが多く、文書全体を過剰に隠蔽している。

2つ目は、シドニー大学のエマ・ジョンストン学長の2023年2月15日付の書簡(ミシガン大学のガボール・トス教授(Gabor Toth)宛)である。

冒頭部分に「プライベートで機密(PRIVATE & CONFIDENTIAL)」と赤字で書いてある。

書簡を締めくくる最後にも「機密保持(Confidentiality)」の項目があり、「機密に保つようお願いします」と書いてある。

1つ目も2つ目もガボール・トス教授が情報をリークしたと思うが、シドニー大学で「機密」と言っても、他大学のトス教授は「機密」を守る義務はない。

そもそも、大学は「機密」と「機密」とことあるごとに隠蔽する。自分たちの失態を指摘されたくないために、隠蔽する。

しかし、隠蔽すれば、ネカト問題の解決は遠のく。ネカト防止をしたいなら、隠蔽すべきではない。

今後の対策として、隠蔽防止法を制定する、隠蔽した責任者を処罰(例えば、解雇)する、など、透明化を強く推進すべきだろう。

《4》著名・有名 

ヨアヒム・シュミット(Joachim Schmidt)が単独犯であると認めるとしよう。

すると、シュミット事件は、有名ではない研究者のネカト事件である。

メディアは有名な研究者のネカト事件を報道する。それで、世間は、有名な研究者はネカトをするが、有名ではない研究者はネカトをしないと誤解する。

現実は、有名ではない研究者の方がネカトをする頻度が高いと、白楽は推定している(データはない)。

その推定の上に立つと、有名ではない研究者のネカト事件を深く調べ、対策を立てる方が、全体的なネカト防止に役立つ。

しかし、有名ではない研究者のネカト事件を報じても、世間も研究者も喜ばない。メディアは儲からないので、報道する気が起こらない。メディア記者も調査する気が起こらない。

面白くない平凡なネカト事件を丁寧に調べ、問題点に迫り、対策をたてることは、かなり重要だと思うけど、なかなか、進まない。

https://www.linkedin.com/in/joachim-schmidt-63370730/?originalSubdomain=au

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●9.【主要情報源】

① 2023年3月26日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: Australia space scientist made up data, probe finds – Retraction Watch
② 2023年2月論文。Gabor Toth, Bartholomeus van der Holst, Ward Beecher Manchester IV. Can One Predict Coronal Mass Ejection Arrival Times with Thirty-Minute Accuracy? ESS Open Archive . February 27, 2023
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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