2018年10月22日掲載
ワンポイント:スアレズはフアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)・学長で、10年以上にもわたって多数の文章を盗用していたことが、被盗用者のバルセロナ大学のミゲル・アパリチオ教授の指摘で、2016年、52歳の時に発覚した。学長を辞任したが教授は辞職していない。政治家に不正な修士号を与えたシフエンテス事件やカサード事件にも関与した。国民の損害額は100億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
フェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez Bilbao、写真出典)は、スペインのフアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)・学長で、専門は歴史学(法制史)だった。
2016年11月16日(52歳)、バルセロナ大学のミゲル・アパリチオ教授がスアレズの盗用を指摘したことで、盗用が発覚した。
スアレズは盗用を否定した。
2016年12月15日(52歳)、スペインの全国学長会議(CRUE)の理事会が盗用と断定した。
スアレズはフアン・カルロス国王大学・学長を辞任したが、教授を辞職していない。
また、スアレズは政治家に不正に修士号を与えたシフエンテス事件やカサード事件にも関与した。
なお、フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)は、マドリード州が1996年に設立した公立大学である。2017年の学生数は45,458人とマドリード首都圏の大きな大学である。
フアン・カルロス国王大学(King Juan Carlos University:Universidad Rey Juan Carlos)。写真出典
- 国:スペイン
- 成長国:スペイン
- 研究博士号(PhD)取得:?
- 男女:男性
- 生年月日:生年月日:1964年。仮に1964年1月1日生まれとする。有名な歴史学者ルイス・スアレズ・フェルナンデス(Luis Suárez Fernández)の息子である
- 現在の年齢:60歳?
- 分野:歴史学
- 最初の不正論文発表:2008年(44歳)
- 発覚年:2018年(54歳)
- 発覚時地位:フアン・カルロス国王大学・学長
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者のバルセロナ大学・教授のミゲル・アパリチオ(Miguel Angel Aparicio)で、スペインのデジタル新聞「eldiario.es」に通報
- ステップ2(メディア):スペインのデジタル新聞「eldiario.es」、フランスの「AFP」、スペインの「EFE」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①全国学長会議(CRUE:Spanish national commission of university rectors)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。
- 不正:盗用
- 不正論文数:数報
- 盗用ページ率:100%
- 盗用文字率:100%
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を大きく降格(▽)。
- 処分:学長を辞任したが教授を辞職していない。
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は100億円(大雑把)。内訳 ↓
- ⑩損害額(大雑把)の場合:盗博をした政治家・学長は、その国と政界・大学の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させた。普通の国の現職大統領・首相は1000億円、閣僚または学長は100億円、知事または議員は10億円(大雑把)。本事件は学長なので損害額は100億円(大雑把)
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1964年。仮に1964年1月1日生まれとする。有名な歴史学者ルイス・スアレズ・フェルナンデス(Luis Suárez Fernández)の息子である
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得(推定)
- 2008年7月(44歳):フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)・教授:法律と歴史学
- 2013年(49歳):同・学長
- 2016年11月(52歳):盗用が発覚
- 2017年(53歳):学長を辞任したが教授を辞職していない
●3.【動画】
【動画1】
LA SEXTA TV | El rector de la Universidad Rey Juan Carlos habría tenido hasta a cinco personas plagiando por él(スペイン語)1分20秒。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚
2016年11月16日(52歳)、スペインのバルセロナ大学・教授で有名な法学者・ミゲル・アパリチオ(Miguel Angel Aparicio、写真出典)が、スアレズが彼の著書『スペインの憲法主義における司法権の地位(1808-1936)(The Status of Judicial Power in Spanish Constitutionalism (1808-1936))』から大幅に盗用したと非難した。
アパリチオ教授は、「スアレズはプロローグを除いて私の文章を100%盗用しました」と、スペインのデジタル新聞「eldiario.es」に語った。
「スアレズは段落全部を盗用しています。ところどころ単語の順序をわずかに変更したため、コンピュータプログラムでは盗用率が70%と出ますが、実際は完全な盗用です」とアパリチオ教授は付け加えた。
アパリチオ教授は、スアレズに対してスペインの知的財産権法違反で、訴訟を起こすと述べている。
→ LA SEXTA TV | El rector de la URJC se justifica por sus presuntos plagios: “Son disfunciones porque soy humano”
→ 2016年12月8日記事:Miguel Ángel Aparicio: “No se puede permitir que un personaje así se mantenga en el cargo” | Radio Madrid | Cadena SER
2006年(42歳)、スアレズは、フアン・カルロス国王大学の副学長だった時、アパリチオ教授の文章を逐語盗用と引用なしで言い換えた著書を出版した。この盗用は、2016年11月まで誰も気が付かなかった。その間、スアレズは2013年7月に学長になった。
2016年11月25日(52歳)、スアレズは、盗用の指摘に対して反撃した。「盗用と指摘されているが、私たちの学術出版物には経済的利益がありません。私たちの研究チームは膨大な資料を扱って研究しているのです。私は人間で、人間は完全ではありません。人間だから間違いを起こしてしまったのです。間違いであって、意図的な盗用ではありません」と答えている。「私に対する攻撃はフアン・カルロス国王大学に対する攻撃です」と付け加えた。
スアレズは、2017年の春に予定の次期学長選まで、学長を辞任するつもりはないと繰り返し語った。
一方、フアン・カルロス国王大学の学生たちは、オンラインの嘆願プラットフォーム「Change.org」で、スアレズ学長の即時辞任を求める請願に58,000以上の署名を集めた。
「学生・院生が盗用すれば単位ははく奪されます。盗用は、教授と学生・院生が多くの時間と労力を費やした勤勉で正確な研究作業を侮辱しています。知の殿堂である大学で、学術上または職業上の不正行為をした人物がそのトップにとどまることを許容できません」と、辞任要求請願書は締めくくっている。
★さらなる盗用
2016年12月8日(52歳)、パリの社会科学高等研究院(EHESS)の名誉院長・バーナード・ヴィンセント(Bernard Vicent、写真出典)の文章も、スアレズは盗用していたことが明らかになった。
ヴィンセントは、「私はかなり驚きました。これは異常です。スアレズは、30ページの論文のうちの27ページを盗用していたんです」と憤慨した。
他にも盗用が指摘され、結局、スアレズ学長は、歴史学者や院生の多数の論文を10年以上も盗用していたのである。
★発覚後
2016年12月(52歳)、ミゲル・アパリチオなど5人の被盗用学者はスアレズ学長の解任とスペイン教育省と全国学長会議(CRUE:Spanish national commission of university rectors)介入を要求した。
2016年12月15日(52歳)、スペインの国公私立の全76大学大の学長で構成される全国学長会議(CRUE)の理事会は、審議の後、スアレズの文章を盗用と結論し、スアレズの辞職を要求した。
フェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez)はフアン・カルロス国王大学・学長を辞任した。しかし、教授を辞職していない。
皮肉なことに、盗用発覚の1か月前の2016年11月、スアレズ学長は、「フアン・カルロス国王大学に盗用検出ソフト「Unplag」を導入したので、学生が提出したレポートの盗用を監視できるようになりました。新しい盗用検出ソフトの導入は、学術と学業の公正基準に役立つでしょう」、と40,000人の在学生に電子メールで通知したばかりだった。
●【盗用の具体例】
スアレズ学長の盗用例を10枚以上、グーグル画像で見ることができる。
以下に盗用例を具体的に示す。
→ 2016 年11月19日の「eldiario.es」記事:El rector de la Universidad Rey Juan Carlos plagió también la tesis doctoral de una alumna en 2008
左がスアレズ学長の盗用文章で右が被盗用文章である。赤字は同じ単語群である。
別の文章でも大規模な盗用が見つかっている。
→ El rector de la Rey Juan Carlos también plagió a un presidente de la Real Academia de la Historia
左右が逆で、左が被盗用文章で右がスアレズ学長の盗用文章である。赤字は同じ単語群である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》学長のネカト
学長のネカトはかなり困りものである。ネカト疑惑が生じると、基本的には研究者の所属する大学が調査機関となるが、そのトップがネカトをした場合、大学の調査は機能しなくなる。
日本も東北大学、岡山大学など、学長のネカトで紛糾した(している)。
最近だと、ネカトではなくパワハラをした吉武秀哉・教授の処分で山形大学の小山清人・学長がおかしいと、学長の対応が紛糾している。
このような場合、学長を越える権威、例えば、日本学術会議や文部科学省が乗り出すべきだが、乗り出してこない。それで、長いこと紛糾している。
一方、米国は生命科学系なら研究公正局が乗り出すので、学長のネカトでも紛糾しない。というか、米国で学長のネカトで紛糾した例をあまり知らない。
デビッド・ボルティモアは、そういえば、ロックフェラー大学・学長だった。そして、データねつ造事件でロックフェラー大学・学長を辞任している。しかし、ネカト調査の主体はロックフェラー大学ではなく、研究公正局やシークレット・サービスだった。
基本的に大学がネカトを調査するのは構造的な問題がありすぎる。
提案:「警察庁にネカト取締部を設置し、学術ポリスとして、日本全体のネカトを捜査せよ」
《2》盗用以外の悪事
フェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez)はフアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)の学長として、マドリード州・知事のクリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)の修士号取得に便宜を図ったとも指摘されている。
→ 法学:「経歴詐称」:クリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)(スペイン) | 研究倫理(ネカト)
シフエンテスはマドリード州議会・議員だった2012年(47歳)、フアン・カルロス国王大学(King Juan Carlos University)で法学の修士号を取得した。そして、2015年(50歳)、マドリード州・知事に就任した。ところが、2018年2月(53歳)、上記の法学・修士号取得は虚偽だったことが発覚した。
左:フェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez)。右:クリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)。写真出典
スアレズはまた、国会議員のパブロ・カサード(Pablo Casado)の修士号取得にもシフエンテスと同様な便宜を図ったと指摘されている。
→ 法学:「修士号」:パブロ・カサード(Pablo Casado)(スペイン)
そして、保健・消費・社会福祉大臣のカルメン・モントン(Carmen Montón)の修士号取得でも便宜を図ったと指摘されている。
→ 盗修:法学:カルメン・モントン(Carmen Montón)(スペイン)
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア・スペイン語版:Fernando Suárez Bilbao – Wikipedia, la enciclopedia libre
② 2016年12月16日の「BBC News」記事:Spanish university head accused of copy-paste plagiarism – BBC News、(保存版)
③ 2016年12月16日の「AFP」記事:Anti-plagiarism university head quits after being accused of ‘plagiarism’ – The Local、(保存版)
④ 2016年12月(?)の「Change.org」記事:Dismissal/resignation of Fernando Suárez Bilbao, rector of the Rey Juan Carlos University (Madrid), accused of PLAGIARISM · Change.org、(保存版)
⑤ 2016年12月16日の「EFE」記事: Spanish college head beleaguered by decades-spanning plagiarism scandal | Also In The news | English edition | Agencia EFE、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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